トリカブトの白き花咲く散歩道観光化して民族は生く
霊場はあまたの過去をうちしずめみずうみの水澄みて風ゆく
急上昇する夜鷹ひとつ刻まれてこのまま時よ、止まれ/進め
温泉街の売店の古きガラス戸に先代の作が飾られてあり
おそらくは天気と海の話ならむ訛りを聞けり、海は群青
砂浜に車を止めて海見つつコップ酒のみ昼寝せし町
ロードサイドにさっきも見たるラーメン屋の次見れば入ると決めてから見ず
ミニチュアの建築物に降り積もる雪、故宮にもスフィンクスにも
アリーナの横のあたりでヒーローは戦っており、迷いを捨てて
バス停の裏の溝渠を飛び越えて女は家に男を連れて来
東京についに来たれば車窓から街の緑とノザキの書体
傘のしたに野良猫が足にすり寄ってズボンも猫も濡れているなり
平日の駅へと続く商店街の開店直前のままの日常
廃村が世界遺産になるまでの昼でも昏(くら)き板敷を踏む
若き父と二人でウドン啜りいしドライブインに遠きバイパス
誰もいぬ温水プールに飛び込んで本当に疲れるまでひた泳ぐ
坂の途中に老夫婦ひとつ生きており女の方が少し元気に
工場のすえた匂いの下宿にてガチャリとテープはB面に行く
コンビニをテレビの世界と思う頃ぼんやり見おりポール看板
東京に憧れながらこの土地でそれなりにくすぶって彼女は
支払いは姉が済ませて血の赤き肉を食いおり、姉弟(きょうだい)は濃し
シュルレアリスム展を観たがる子を乗せて県越えて父は車を飛ばす
連峰の景色を愛しおそらくはここで死ぬことなけむふるさと
寮生が近道にする農道の彼らばかりが見し彼岸花
友人は見舞いの頃には饒舌ではやくカレーが食いたいと云いき
柿のない季節に来たり、古本のガイドブックで巡る寺刹の
山腹にみかんの色がかがやいてそのかみ友誼をやすく受けいし
人口の減りゆく国のおのずから夜の明かりのあたたかく見ゆ
みずうみは黄色に光り幸福の顔は見ずとも疑わずなり
明るくてさびしい駅に会いにゆき蓋取れやすきCDを返す
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