2022年2月20日日曜日

2017年08月の短歌など

 この月は返歌球、という企画をやった。返歌球は、返歌によって歌をつなげて、ひとつの連作のようにしようとした。翌日の同じ時間(24時間)までを返歌の募集の時間にして、そこから一首選ぶ。選ばれた歌の作者は、次の返歌を24時間待って、歌を選ぶ。「選」をしながら「返歌」をつなげる遊びで、作・読・選・評、の作読選をゲーム化しよう、という試みだった。

返歌球

返歌球の全首

作品的には、打越の概念のない返歌の連続なので、色彩やイメージが繰り返される感じはありましたね。連句じゃないのだから、全然悪いことでないし、この反復はいいものです。


では、この月の短歌など。

世の中が正しすぎるとこわいので不正になったらまた寄りますね

星団(クラスタ)の黄昏にまだきみがいてほんとにぜんぜん変わらないなあ

ポルティコ(柱廊)がいつまでも続くいつまでも君のうしろを追いかけたかり

「本名は」

本名はアダムスキーといいますがオカルトにまるで興味ないです

本名はシュレーディンガーなのですがぼくはいつでもここにいるから

本名がドップラーなんで救急車に乗らないように健康第一

本名がカウパーですがそういうのは一切、いや、そういう者です


ほとほとと、ほとに伸びたるおっとっとここから先は大人の時間

こちょこちょと二人楽しく眠りせば胡蝶のわたし、こっちよわたし

偏った思想を持った飼い主のそばに寄り添う犬のいたこと

信じれない! 翻訳調の驚きにら抜き言葉が使えるなんて!

渋滞の終わったときの前の車を追いかけて虎になりそうな加速

すごいあのキノコ雲、いや間違えた入道雲だ、まだ平和だった

夭逝の歌人ときどき現れて清涼なものを遺してゆけり

もういいかい産業奨励会館の骨組みだけを見たい気持ちよ

女とは半身が土地、地下鉄の地下のカラーも女がつくる

静ちゃんが「クリリンのぶん」と言う時に審査員大竹まことの真顔

雨の街の夜よ、光ってしまうからオトコは真っ黒になって帰る

ごはんですよとごはんばかりの青春は哲学だったし痔が痛かった

きみとぼくは時々道を外れつつ諌めあってた、いまはばらばら

キツいズボンあきらめてこれにする時の赦すと緩さの「ゆる」の同根

星と星を線で絵にして誕生日と結びつけたる呪術の話

生き物は生まれつづけて死につづけいくさに巻き込まれたらなみだ

時々は自分がけものであることを思い出すため食うビーフジャーキー

揉むような手つき、たしかに揉みやすい形に進化している手だな

マゴノテのその申し訳程度なる指の造形さびしかりマゴ

蜘蛛の糸杜子春の本を抱えたる少女、満員電車に乗れず

短歌つくってるけど君は詩人だし彼は芸人、あいつは迷子

優秀な働きアリと無能なる働きアリに並ぶ定食

甲子園文芸における高校生らしさをファールスタンドへ打て

自殺には意味はあらねどこの人の歌すべて自殺する人の歌

買ってない短歌研究に出してない短歌が乗ってないのを読まず

不条理の数十二万、ひとつずつたった一人の母彫りつづく

「世界」

未来からやってきたけどこの世界の未来のことは知るよしもない

「おっさん」

タレントの美少年いつか美おっさんになっているけど受け入れている

「無痛」

飛んでゆく痛いの痛いの降ってくる痛いの痛いの傘で防ごう

「鳩」

ものすごく飢えたる鳩よハトったってドバトが象徴する平和はなぁ

「恋人」

日中の夏に男女かしらねども影を重ねて黒い恋人

「黒」

もう少し派手な色でもよかったと思う眼鏡を選ぶときなど

「路線」

大都市の動脈に血栓できて静脈にすぐ乗り換えて帰る

「脈」

横になる人間という山脈のもう何回も遭難をした

「高速」

高速で事故った時の走馬灯がちょっと速すぎるよ待ってくれ

「夏草」

草が切る頰も少しも痛くない今締めている首を思えば

「大人」

大人の階段の踊り場に柵がないなんて危ないじゃないか落ちるじゃないか

「踊り」

法を得た喜びで舞う菩薩らの一万年の苦行も軽し

「新人」

最初はみんな初めてだから師匠とはわたくしに死を見せくれる人

「祭り」

時々は進まなくなるお神輿の神のきまぐれとうリアリズム

「短歌」

短歌ではなくて私に詩を書いて、だって短歌は難しいから

「脱出」

果たしたる脱出ののち胡瓜には味噌を掻きたき伊太利亜にわれ

「胡瓜」

錬金的救済を描くジュゼッペの野菜の顔の鼻はやキュウリ

「錬金」

どうしても金にならないことを知り神とはかがやかしかる絶望

「絶望」

ミサイルが発射するとき絶望は、独房の窓を光が舐める

「独房」

南極に旅立つ君を見送りき、場所ではなくて生が独房


ヘイケツ! って結構大きい声で言うそのネタの使い込んだ光沢

作者ではなくて作中主体たる<私>が驚いている短歌

一首屹立さう言ひながら依りかかり凭れかかつて連作ぞ美(は)し

人に言えば伝染ってしまう悲しみのシーンを抱いて祈りを注ぐ

片乳の妻の残りを舐めるときぼくはほんとにいやらしい舌

ウユニ湖に最初の雪が落ちる音を聞きとるように真面目な寝顔

北半球は北が寒いとカルロスが書き込む手帳がかなり読みたい

寒風を水に溶かして固めたる薄荷飴舐めて今夜さみしい

黙ったままじゃ分からないって言うけれどにちゃにちゃの飴なんだよ今は

水田に月を配って、この道はその先でキスをもらったところ


俳句

本当に負けてもよいか原爆忌

亡き人の召喚刹那盆踊り


自由律パピプペポ川柳

自分の感受性くらい賞取れば安心パピプペポ

パピプペポは不謹慎だからバビブベボ