2018年12月30日日曜日

50首連作「山谷物語」2009年

「山谷(さんごく)物語」


あめ晴れて霧の向こうに見えている畳(たた)なづき折り重なる起伏

真新しき装束の白、杖は持たずたぶん若さをなお恃(たの)みいる

本当に白蛇のごとくなる道の蛇行、しだいに傾斜はきつく

地蔵菩薩が並びたる道、子供らが施しし化粧の朱(あか)も寂びれて

人馬斃(たお)れて甘き匂いのする池を馬酒池(まさかのいけ)と呼びし村過ぐ

前も後ろも人なき道は声を出す救いを求める言葉ひとつを

杉木立の天上に礫(れき)がこだまする 鳥と思えば鳥の声なし

開けては絶景かなと愛でてのちそのまま通過すべき痩せ尾根

下り路は歩幅に合わぬ階段がだくだく続く、黙々つらい

下りきった坂のたわみのバス停は懐かしいように壊れかけて

窪地の底は変な真昼の明るさで色のつぶれた景色に入る

約束のようにベンチに腰掛けて目を閉じてすぐに叱られる「おい!」

明らかに不機嫌な猿男(ましらおとこ)立つ、吾(あ)が嬉しいと思うも知りて

その男、姿はまさに猿(ましら)にて脇(わき)掻きながら我を見ている

起こす身の疲労は深し、気難しい猿男(ましらおとこ)はもう先を行く

一本の道を離れて休耕地の畦(あぜ)をぬるぬる行く、天高し

秋であれば曼珠沙華悪(あく)を遠ざけて灯るであろう畦の曲線

猿男(ましらおとこ)は何処(どこ)へ導く、現実に抗(あらが)うまでの信なき我を

法面(のりめん)をむむむと登りきって見える舗装道路に人心地せり

コンクリート橋も渡って幾何学的な公園に、ここから一人で歩け

整備された青草が風に揺れている波状に立てば杭(くい)のごとしも

噴水の広場まで来て噴水に背を向けて座る 波立つ予感

向こうから深く見たことがあるような女が七歳(ななつ)の子を連れて来る

あらゆる未来にからだを耳にするまでもあらず「嫌な予感」が聞こゆ

女は二度と会わぬはずなる、我の前に「気をつけ」をする子は覚えなく

少年の長袖は左袖だけが風に遊んでうきうきと舞う

何も言わぬ二人に俺は笑いかけ「名前は?」「J!」と大声の子は

つまり俺は片腕の俺の子を生んで育てた女に 何が真実?

疑えば七年前も俺の子も生んだ女も 隻腕(せきわん)は事実

少年はどこまで知りて直立の最初の一瞥から目を合わせぬ

公園の時計塔から半透明の明るい音が降る、降りしきる

おそらくはがっかりさせる反応の第一として狼狽の煙草

そして俺が金銭について考えて出方を待っているのが第二

しかしそれでも覚悟を決めて成長を喜んでみる第三の道

「お金ではないの」と少し微笑んで音がするほど安堵に沈む

秒読みのつかの間でなお夢想する自分が可笑しくてゆがむ顔

話の最後に認知を言うと決めたとき女が口をひらく「あなたに」

「お願いが一つあるのだけれど、Jに左の腕をください」

やはり金かと剥がれるほどに落胆する俺を見ることなく出せる——斧

もうすでに予習は済んでいるように、子が腕を持つ、女は構(かま)う

斧を振り上げ女は声を絞りつつ我が肩を打つ、朱(あか)の噴水

子はかつて我が物なりし腕片を噴水で洗う、腕が手を振る

女も斧を水に濯いで子の仕事を見守っている 家族の世界

右の手が押さえる箇所に迷いながら親心すこし湧きたる眩暈(めまい)

済みたれば母子は我を去ってゆく、点々と我の血を垂らしつつ

丘を越えて二人が見えなくなりし後(のち)呟いている感謝の痛み

流れ出(いで)し我の太陽、頭上から緞帳(どんちょう)のような帳(とばり)が落ちる

永い時間の槽(そう)から水が抜けてゆき「く」の字に跳ねて泥掴(つか)みおり

左手が泥を握っていたりする、腕なら生えてくることもあるか

装束は汚れて糞掃衣(ふんぞうえ)のごとし、起ち上がりあのバス停に戻る

2018年12月24日月曜日

2017年01月の自選と雑感。

先日、ついツイッターで川柳を読んで、感想を書いてしまって、「生きとったんかワレ」扱いになってしまったテルヤです(笑)。

最近はあくまで個人視点のタイムラインながら、短歌よりも川柳が元気がよいような印象があります。

さて来年。来年は何をやろうかなと思ったりしながら、今年の残りをうろうろしています。とはいえ、あれだ、まず、こうやって過去分を整理しないとだな。

  うろうろとわれの理屈も着ぶくれて寒くないけどからかわれたい  沙流堂

自選。

夜の列車は体内の光り漏らしつつ血走る馬よりも速く冷たし

人生は遠路にあればぺこぺことよろしくお願いしながら進め

自分自身を愛せることが出来るまで出られぬ檻のわれに、きみの手

豊かさは苦しいなあと見上げれば楽だがひもじいカラスかあかあ

感情が行動になる途中にて歌生れば歌で済むことのあり

三本腕の聖カジミエルの教会の無神論博物館なりし頃

外国人犯罪のニュース流れいて観葉植物身じろぎもせず

新成人が五十万をきる未来、ゾンビを撃つゲームは禁止され

鉄作品アーティストは肩身がせまく戦争で鉄が不足するころ

今日の麩とわかめの味噌汁いつもより海が近いと思うが言わず

生きることが何の象徴たりうるか平日くたくた休日ぐだぐだ

丁寧にスマホを拭いてなんというわれのあぶらに包まれて生

ばっくりとヘラで赤福食べるとき子供心に生(あ)るる背徳

歌人の夫、俳人の妻がオリンピックパラリンピックを別々に観る

殉教を弱さと強さに仕分けするヒヨコでいえばいずれオスだが

雑木林野原公園ゴミ捨て場ソーラーパネル、で雑木林

飴玉を昼食として少し寝るわが人生はこれでよし子さん

けっきょくは一つになれないぼくたちを暗示してピコ太郎のけぞる

ウスゲって読んでいいのかハクモウと気をつかいつつ読んでいたけど

心臓が次で止まるとなるときにあの後悔はなくならずあれ

当事者にあらざれば災害詠のどううたっても歌のよしあし

厚い紙うすい紙からレコードを取り出すまえに手を洗いたり

一色になる直前のマーブルの自分でなくなるおびえうつくし

アイルランドに似ている海に近き町きみの野辺送りに間に合いぬ

残り時間となってはじめて未来とは輝く不在を指していたのか

巡礼路ひとが歩いて道になり道は祈りの流れたる川

吉祥寺を歩いた変な思い出だフォークダンスのこゆびつなぎで

自分だけの言語できみは生きてゆくだんだん世界が合わなくなって

ネクタイがビシッと巻けて今日はもういい日にしないと申し訳ない

CR北斗の拳の「お前はもう死んでいる」との声が離れず

四振の妖刀並びあやかしに優劣あらばいささかたのし

この蔵に灯(ひ)を入れるまで闇がいて跋扈しおるもいま壺の影

会うたびにきみは疑問を持っていて「質問1」から始まる時間

カニバリズム、カニをバリバリするような想像をしたきみの顔だが

愛を説く教えが公認されるまでの三百年の殉(したが)いを思う

葛飾応為はレンブラントの明暗を思わせてたぶん勝気なるひと

2018年12月23日日曜日

2017年01月の101首。

夜の列車は体内の光り漏らしつつ血走る馬よりも速く冷たし

14日24日をきみもまた「よっか」と読むか、だけど好きだよ

新しき年の始めに思うどちすべてがずっと新しいまま

広島弁が売り切れていると空目して思う、言語の売却費など

ジャズピアニストその祖父が造りし建物が少年刑務所として在りて

人生は遠路にあればぺこぺことよろしくお願いしながら進め

ミサイルに愛国と名付けるときの誇らしさには罪ひとつない

自分自身を愛せることが出来るまで出られぬ檻のわれに、きみの手

馬鹿に付ける薬はあるか本当にあるかも知れぬと思う、馬鹿だから

豊かさは苦しいなあと見上げれば楽だがひもじいカラスかあかあ

親バカとバカ親はわりと似てはいてだが子にすればかなしく親で

くらやみを怖がる鳥にわれはもや神のごとくにスイッチを入れ

らしさなど気にせぬ現代人はせず接待テレビで明るきヤング

感情が行動になる途中にて歌生れば歌で済むことのあり

三本腕の聖カジミエルの教会の無神論博物館なりし頃

外国人犯罪のニュース流れいて観葉植物身じろぎもせず

子ども時代すくなくあればあのように子どものようにわめいて泣くか

咳をしてそのまま緑の吐瀉をしたヒロキの思い出それが思い出

プログラムアルゴリズムにおぼろげに神々しさが構築される

ガラパゴス詩人は残り少なくてニュアンスが伝えられない未来

民主主義は嫉妬をうまく殺せない孤高の者を孤立させては

休日になんの救済、大江戸線は江戸に着くほど地下を潜って

持ち寄った手の中で泣くグリーフをお互いみせてまたしまうなり

夢というこの目の前の水すらも飲めぬまぼろしにてきみと居る

ディレッタントゆえの誠実さは措いてレンタルショップの暖簾くぐらず

何になるか分からないから寝られないブループリントのきみのブルー

この国は誰かがモザイクをかけて誰かが陰謀論を憎みつ

新成人が五十万をきる未来、ゾンビを撃つゲームは禁止され

#よい一年でありますように
新しい職場は足がスースーしよい一年でありますように

あといくつうたうだろうかありふれて例えば白線の内側のうた

鉄作品アーティストは肩身がせまく戦争で鉄が不足するころ

人間が、いなコンピュータが人間を持つ時代、検索中のきみよ

原因の見出せぬなやみあることを絵画を描くきみに見ており

今日の麩とわかめの味噌汁いつもより海が近いと思うが言わず

生きることが何の象徴たりうるか平日くたくた休日ぐだぐだ

路地裏のネコ対カラスどちらともがんばれ負けたら傷が深まる

丁寧にスマホを拭いてなんというわれのあぶらに包まれて生

ばっくりとヘラで赤福食べるとき子供心に生(あ)るる背徳

歌人の夫、俳人の妻がオリンピックパラリンピックを別々に観る

ツイキャスを覗くときキャス主もまたきみの入室を覗くしくみなの?

殉教を弱さと強さに仕分けするヒヨコでいえばいずれオスだが

雑木林野原公園ゴミ捨て場ソーラーパネル、で雑木林

ロシア人は驚くだろうソーセージのDHAが遺伝子に見え

飴玉を昼食として少し寝るわが人生はこれでよし子さん

けっきょくは一つになれないぼくたちを暗示してピコ太郎のけぞる

誰が短歌がキューブラーロスが言うようなプロセスでぼくが作ると言うか

不気味の谷フェチの男が探しいる初期型アンドロイド似のきみ

ウスゲって読んでいいのかハクモウと気をつかいつつ読んでいたけど

江戸時代の混浴に似て人を押して電車に入って無罪の時代

ディスプレイの幽人と夜の花ひらく一杯一杯そして一杯

終わらせる日を思いいて街に流る、来来来世に誰をみかける

人工知能「聖(ひじり)」が語る神託(オラクル)の旧バージョンを彼は選びき

金銀はひかりのなまえ、あかがねの男はいつか一つを選ぶ

心臓が次で止まるとなるときにあの後悔はなくならずあれ

当事者にあらざれば災害詠のどううたっても歌のよしあし

子を生むとよろこんでバカになるものを摂理と思う、醤油のかおり

厚い紙うすい紙からレコードを取り出すまえに手を洗いたり

人工知能「定家」がつくる連作の受賞理由は「時代の感性」

サムテイラーのサキソフォーンもむせび泣き政男のマンドリンにもむせぶ

不在なる世界のために残しておくものがあといくつ⋯⋯笑顔くらいか

一色になる直前のマーブルの自分でなくなるおびえうつくし

アイルランドに似ている海に近き町きみの野辺送りに間に合いぬ

残り時間となってはじめて未来とは輝く不在を指していたのか

常に一手足りないままの勝負にて二手欲しくなる、頭を下げる

ひょっとして見逃しツイートあるかもとエゴサして、並ぶ自分とボット

巡礼路ひとが歩いて道になり道は祈りの流れたる川

吉祥寺を歩いた変な思い出だフォークダンスのこゆびつなぎで

人類も褒めて伸ばそう、伸びぬなら? コンビニの前でタバコをくわえ

自分だけの言語できみは生きてゆくだんだん世界が合わなくなって

塚本の彼の夢枕に立ちてその表情は読み取りがたし

セックス(愛する事)が罪だなんてとシャルロットゲンズブールがフィルムで泣きぬ

後頭にただよふ蜂を箒にて払ひそれでも刺される夢だ

ネクタイがビシッと巻けて今日はもういい日にしないと申し訳ない

CR北斗の拳の「お前はもう死んでいる」との声が離れず

四振の妖刀並びあやかしに優劣あらばいささかたのし

才能という欠陥を褒められて欠陥だから少し苦しい

からからの鳥はいつかは会うために飛びつづけくちばしは割れても

シュルレアリスム作家の展示に挟まれて常識はかく遥かなる嶺(みね)

この優しさ言葉にせねば非在して真実すれすれまで来て離れ

どきどきと僕のトマトがあたたまり「やめなよ」という僕の声聞く

きみのヴァル/ネラビリティの/せいである/切るぼくの悪/切れるきみ、悪/

かわいくて政治リツイが痛いきみ、そうやってわれは避けられいるか

レトロとは不便のことで、ぼくたちはゆっくりゆっくりレトロな愛で

ホモソーシャルな飲み会にいてどこまでか乗り切れてたかヘテロのわれは

キャバクラでは建前は剥がれないんだとおっしゃる、なるほど(知ったことかよ

朝鳥だ、家の外には幾十の錆びたるドアの開閉しきり

おそらくはそんなにうまくはいってないだろうけど強がりに付き合う

7つしか正解のない二枚の絵、サンジャヤのごとき深き疑い

界隈にあらわる妖怪「これいいな」お初の方はお見知り置きを

「芸術は飾りではなく武器なのだ」っておれの机の壁に貼るなよ

妻の名を祈りの言葉にしていると2件目で聞く、よし受けて立つ

何回の奇跡できみは人類の積み重ねたる見地を捨てる

今はもう動かぬ時計おじいさん亡きあと一応修理に出しぬ

一瞬のちエピタフになるかもしれぬタイムラインはもう止まざりき

この蔵に灯(ひ)を入れるまで闇がいて跋扈しおるもいま壺の影

会うたびにきみは疑問を持っていて「質問1」から始まる時間

カニバリズム、カニをバリバリするような想像をしたきみの顔だが

極めるということは特化することで特化とはつまりdeformである

愛を説く教えが公認されるまでの三百年の殉(したが)いを思う

葛飾応為はレンブラントの明暗を思わせてたぶん勝気なるひと

森の中で木を隠すべく火の中でマッチを擦って見ゆるまぼろし

2018年12月17日月曜日

添削という思想。


添削についての文をちらちら見た。添削とは言うまでもなく書道の朱を入れる行為で、つまり「歌道」に属する行為だ。

テルヤも一時期「お節介添削マン」などと名乗り、辻斬りみたいな添削をしたりした。
その場合の添削は2つあって、
「作者が表現したい意図をより伝わりやすくする添削」
と、
「その歌を現代短歌としてより面白くする添削」
だ。

前者は技術的なもので、後者は表現思想的なものと言える。

ただ、これらははっきり二分出来るわけでなく、優等生的な短歌になることで、現代短歌としての前衛味は当然失われる。

「道」でない添削は、ミュージシャン同士の「カバー」に似てくる。矢野顕子のように、誰の曲でも自分のものにしてしまうアーティストもいれば、奥田民生のように、誰に歌わせても奥田民生の真似になってしまうアーティストもいる。

テルヤはある時、なんの気なしに添削めいたことをしてしまい、作者にとても不快感を示されたので、それから添削はしないように心がけている。

うまい、下手であることも表現に含まれる時代に、添削をするのは、「道」の外にいる限り、大変だろう。

2018年12月13日木曜日

一人百韻「道なかば」の巻

 「道なかば」の巻

中秋を過ぎてたしかに道なかば 
   みそ汁の茄子は舌にほどけつ 
同僚は上司の愚痴に距離をとり 
   「ちょっと煙草に行ってきます」 
ベランダの別棟の向こう俺がいる 
   飼い犬の上、トンビの真下 
トラクターの藁に隠れて逃避行 
   触れたままなる手はそのままの 
緑青色の瓶の中身はニ、三錠 
   数式がついに思い出せない 
元カノの結婚式で飲み過ぎて 
   歯を見せたままの笑顔で帰る 
一回戦敗退チームの助っ人が 
   絵に描いたようなガムの風船 
CGの分子構造図を指せば 
   一斉に見る瞳の青し 
段ボールの海に溺れる人形を 
   思い出として君に渡しき 
始発まで本当のことを言わぬまま 
   物事に順あると諭しつ 
かじかんだ子供の足を掌(て)に包み 
   親孝行の数を数える 
湿原に降り続く雨は夜半を過ぎ 
   亜寒帯にも春は来るなり 
つい立てのケヤキはニスに包まれて 
   柔らかく割る羊羹の闇 
知能犯が完全犯罪成し終えて 
   ソーニャの如き少女に出会う 
「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」 
   「字余りの生の続く間は」 
チェ・ゲバラのTシャツで寝る内弁慶 
   水止められて立ち上がる昼 
蟹工船も途中で飽きるていたらく 
   そりゃあ昭和も遠くなるべさ 
ゆうきまさみが同人臭を無くすごと 
   ボクヲ離レテユクヲ見テ井ル 
一艘の小さき孤独、希望丸 
   リヴァイアサンに既に呑まれて 
ビアホールでサラリーマンが大笑い 
   守りたるものあれば美し 
街中の神社の猫は子を連れて    
   楽園までのドロローサ行く 
ホコ天のセンターラインほの白く 
   15ポンドに替えてもガター 
珠磨く、革命いまだ起こらざれば 
   机に隠したるブロマイド 
睡蓮の池の濁りの僕にして 
   鮮血を拭きし寝室を訪う 
花よりもガレの花瓶はうるさくて 
   笑い疲れたあとの口づけ 
軍人の夜のカレーは金曜日 
   潮の匂いのする繁華街 
手も振らず島を出てから5年経ち 
   同郷に舐めるように見られつ 
名産をいつもの調子で皮肉れば 
   湯舟でぶくぶく悔いているなり 
1点差の明暗厳し油蝉 
   見物人も声をひそめて 
鬼退治の鬼の素顔は匿すべし 
   ノアの言葉を聞きし息子も 
洪水の雨恐ろしく少し楽し 
   長靴の中の水もL型 
温暖な君は両手に傘を持つも 
   少女ならずば一つは要らぬ 
恋か愛かハッキリしない恋愛の 
   入り江の先に灯台が立つ 
神さまと二人っきりの夜を終え 
   また河馬として今日の双六 
水浴びのビニールプールは人の庭 
   お前が笑っていればいいのだ 
デパートの炭酸水はミドリなり 
   窓辺の席にハッピーバード 
小物好きの男、大物なりがたし 
   横顔が龍馬似なのはわかる 
幕末に生まれてもたぶん一庶民 
   UFOで時を超えても庶民 
メロドラマ脳内再生装置で涙 
   有楽町の次でサヨナラ 
トランプの扇から何を抜こうとも 
   600光年先の赤き火 
欲望は繋がりあって星座なす 
   死海に映る正円の月 
おーいおーい、このまま眠ってはダメだ! 
   ウガンブスクネ、ンダスゲマイネ 
モルワイデは北も南も垂れ下がり 
   りんごの皮を埋めている姉 
無条件と思い込みいし愛終わり 
   ヴァンダル族の略奪哀し 
カツ丼を食いつつ自白の心涌きぬ 
   斥力として友を遠ざけ 
太陽に吼えろ! 吠えいるチャリダッシュ 
   人のみぞ人を救う世界の 
優しさの才能の差に凹みつつ 
   本積み上げて眠る明け方 
「頑張れ」と言われて嬉し病み上がり 
   再生中の海鼠動かず 
洗濯機が脱水中に暴れ出し 
   ヒビ響きいる日々を生きいる 
花束に勝るとも劣る笑顔だが 
   道なかばむしろ無きゆえの舞い

三十首「春のぬかるみ」

  春のぬかるみ


父も子も知らぬ樹上の鳴き声がひかりのように降る行楽地

ネオンテトラの群泳よぎる、青々と同じ形のしあわせがゆく

タイサンボクがひとつめくれて落花するかつて五十でおおかたは死にき

つまづいて運動不足を知るように人生も、春風はむしろつよし

観るあいだずっとひとつの石燈籠が映さる、倒れて浴びる脚光

花びらが自転車の鈴に貼り付いて俺と一緒に行くか? 夏まで

ハイビジョンが美しく映すどろどろのホッキョクグマの飢餓の彷徨

暴風の近未来 窓を眺めつつ子が期待する春のぬかるみ

首の背でつまみ上げたる猫にしておとなしく少し頼ってもいる

三人の、ボールを当てて彼は死に彼は生き返るゲームはげしき

風が吹いて祭りの太鼓消えて真夜、軒のわかめが濃く匂うなり

電気機器の裏側で絡む配線のこんがらがったままぞ日常

二進数に変換できぬものなんてないような水着動画の笑顔

東京をまるごとバックアップせよいつ君が壊れてもいいように

見下ろせば芭蕉の緑、漂泊の俳人も遺したからむ午後か

転ばぬ先の杖を倒して行き先を決める、遠くに夏雲の気配

労働にあけくれるべく労働者は働いている、神話の外で

寫眞機のいまだ為し得ぬ業(わざ)として掠め取るバルビゾンの夕暮れ

しんしんと倉庫が雪に沈む夜、壁のデスマスクがまた死せり

べろんべろん、君の頭を舐めながら犬は主人の味を愛しむ

俺よりも幸福を深く知っている横腹を軽く撫でて波打つ

古典落語「青菜」の酒は柳蔭(やなぎかげ)杯を仰げばつられて顎が

青いトラックに角材が載りその上に青いビニールシートの上にみず光る

山は斜(しゃ)に海は弧(こ)に 人間はまっすぐ歩かない

水たまりに映る白雲、ずっと俺は空を見ていたつもりであった

ふてぶてしい男はたぶんふてぶてしく死ぬと思えば恐ろしくもなる

君の言葉に応える矢先店内に世俗カンタータが流れたり

一歩ずつ天へと昇る階段も途中まで、横断歩道橋

月の道は独りで行ける、人間の目というは開くことがむずかし

幼きが月の汚れに気がつけばうさぎの嘘を話す夜かも

2018年11月17日土曜日

2018年09月うたの日の自選。

自選。

「肺」
きょうもよく吸っては吐いていたことよ良くないことも考えながら

「肺」
お父さんは会社で残業ばかりなり人工心肺みたいに孤独

「ヒーロー」
もうきみのヒーローでない平日のホームセンターでしずかな会釈

「自由詠」
シソの葉はすべてバッタに食べられてシソ味のオンブバッタのその後

「美」
休日をなんにもせずに終えんとす、あ、メガネのレンズは美しくした

「町」
閑かなる町立郷土資料館のガラスケースに蜂の形骸

「葡萄色」
ワイン飲んで葡萄色なる二人なのにきみは芋焼酎まで頼む

「服」
問い詰めたら不服な猫になったので捕まえようとしたのに逃げた

「倍」
明るくて空も青くて手を振ればさよならの悲しみはバイバイ

2018年09月うたの日の自作品21首。

「口紅」
狙撃手が弾丸を吟味するやうに彼女の紅を選ぶ女は

「ちびまる子ちゃん」
平成が終わらんとする日曜の夕方もこまっしゃくれた昭和

「食」
食べながらぼくがどうして悲しいか話す伝わらないかもしれぬ

「くしゃみ」
おそらくは二万年前の大苦沙弥時代の先祖返りのくしゃみ

「肺」
きょうもよく吸っては吐いていたことよ良くないことも考えながら

「肺」
お父さんは会社で残業ばかりなり人工心肺みたいに孤独

「豚」
人間は肥えると豚に似てくるね互いに笑いあったらぶひひ

「乙女」
名も持たぬ乙女などにはなるものかそういう怒った目をした乙女

「ヒーロー」
もうきみのヒーローでない平日のホームセンターでしずかな会釈

「自由詠」
シソの葉はすべてバッタに食べられてシソ味のオンブバッタのその後

「自由業」
じいうげふにあらざればわがせいくわつは規則正しい舊假名のごと

「乗」
一対の生き物ずらりこの列車、逆方舟(はこぶね)に乗ったみたいだ

「美」
休日をなんにもせずに終えんとす、あ、メガネのレンズは美しくした

「煮」
煮沸して洗い流せば清潔で再利用可能なまで死滅

「町」
閑かなる町立郷土資料館のガラスケースに蜂の形骸

「葡萄色」
ワイン飲んで葡萄色なる二人なのにきみは芋焼酎まで頼む

「敬」
気がつけば敬老される側にいて昔話を出られぬおのれ

「罰」
外は雨、傘まで早い者勝ちで濡れるほかない、だが罰でない

「服」
問い詰めたら不服な猫になったので捕まえようとしたのに逃げた

「西」
死と生が地続きの朝、僕だけの思いは西方なる君にまで

「倍」
明るくて空も青くて手を振ればさよならの悲しみはバイバイ

2018年11月4日日曜日

2018年08月うたの日の自選。

自選。

「炎」
CDを炎の中に投げ入れる、思い出まんまな燃え方だった

「耐」
ひょっとして「耐え難きを」たえちゃんと「忍びがたきを」しのぶちゃんなの!?

「和」
ロマン派やシュトルムウントドランクを語りし友も和のはげあたま

「抜け殻」
あなたとはさよならだけど足指まできれいな抜け殻を置いてくね

「やばい」
早送りのシャーレの栄枯盛衰を笑って見てるおれらもやばい

「石鹸」
ぐりぬりとこの空の色を桃色の石鹸でえがくかっこいい君

「峰」
峰打ちじゃ、安心せいという声に安心しつつ落ちる武士われ

「ユウガオ」
ジョギングは恋だって習慣にする、この白いのはユウガオかしら

「癌」
対立ではなくて延長なのだろう空っぽの夜に星が少ない

「包丁」
明けぬ夜はないなんて話薄く切るその研がれないままの包丁

「反」
老いた叔父が小さき犬の散歩する反対勢力のごとし、跳ぶ犬

「皿」
スクランブルエッグを載せて白き朝、皿さらさらによりを戻さず

「帰」
あの明かりはきっと文明、帰れるぞ、電気まみれの消費社会に

「来」
僕の中の君の中のぼくのなかのきみを撮影して戻り来ないドローン

「殴」
元カノの俺より幸せそうな顔を見るようなみぞおちへのブロー

「夕刊」
なんとなく夕刊だった、日曜に爪切る時に広げる紙は

「だから」
まだそんな欲がわたしに噛みつくかだから紐、だから檻、だから餌

「など」
ドナドナの歌詞には6番まであって子牛は見事助け出される

2018年10月20日土曜日

2018年08月うたの日の自作品31首。

「快」
気前よくニコニコ承(う)けて快男児、無茶振りすれば笑って流す

「炎」
CDを炎の中に投げ入れる、思い出まんまな燃え方だった

「耐」
ひょっとして「耐え難きを」たえちゃんと「忍びがたきを」しのぶちゃんなの!?

「レーズン」
手を貸せるタイミングなのにレーズンの断面に触れた指がべたべた

「夕立」
去ったあとまだ乾いてもいないのに、夕立のようなそんな思い出

「山」
山道を間違えたかも「正々堂々」いつか「玉砕」のニュアンス帯びて

「端」
人類の最先端をかぶりつきキーンとこめかみを手で押さう

「クワガタ」
おじいちゃんとクワガタがいるイナカよりワイファイのあるじぶんちがいい

「和」
ロマン派やシュトルムウントドランクを語りし友も和のはげあたま

「自由詠」
元カレの着信音がポポポポポー、ドン・キホーテで思い出す罠

「抜け殻」
あなたとはさよならだけど足指まできれいな抜け殻を置いてくね

「やばい」
早送りのシャーレの栄枯盛衰を笑って見てるおれらもやばい

「自由詠」
寝そべって長編を読む夏休み二日目になんの筋肉痛か

「石鹸」
ぐりぬりとこの空の色を桃色の石鹸でえがくかっこいい君

「峰」
峰打ちじゃ、安心せいという声に安心しつつ落ちる武士われ

「緑」
お盆とは緑のまつり、大地からしたたる野菜を死者と食べあう

「1600色のクレヨンで描きたい絵」
1600分の一本はこれにするあのとき空に消えたアロワナ

「ユウガオ」
ジョギングは恋だって習慣にする、この白いのはユウガオかしら

「癌」
対立ではなくて延長なのだろう空っぽの夜に星が少ない

「包丁」
明けぬ夜はないなんて話薄く切るその研がれないままの包丁

「反」
老いた叔父が小さき犬の散歩する反対勢力のごとし、跳ぶ犬

「皿」
スクランブルエッグを載せて白き朝、皿さらさらによりを戻さず

「帰」
あの明かりはきっと文明、帰れるぞ、電気まみれの消費社会に

「来」
僕の中の君の中のぼくのなかのきみを撮影して戻り来ないドローン

「殴」
元カノの俺より幸せそうな顔を見るようなみぞおちへのブロー

「夕刊」
なんとなく夕刊だった、日曜に爪切る時に広げる紙は

「微」
メルセデスのどでかいエンブレムのような微笑だな、いや、僻みのせいか

「だから」
まだそんな欲がわたしに噛みつくかだから紐、だから檻、だから餌

「など」
ドナドナの歌詞には6番まであって子牛は見事助け出される

「カマキリ」
立ち上がり威嚇するわがシルエット、少年の目よもっと輝け

「沼」
たこ坊主はここに沈んでいるでしょう沼から沼へ渡り歩って

2018年10月13日土曜日

2016年12月の自選。

自選。

京橋で君と別れて片町線さびしき、今は違う名前か

気を抜けばクリスマスソング流れたる受付できみが気を抜いている

クラスタの涯まできみを連れてゆくつもりが行けど行けど中心

ポジフィルムと同じ情報量であるネガフィルムで今日のあなたは

まっすぐの飛行機雲もだんだんとほどかれてゆく文明もかく

悪意でもみどりに芽吹くことがあるこの雨でそれが元気にふたば

笑いあり涙ありの物語にて新参なのでぎこちないです

会うときはいつも飛行機が飛んでいてそういう土地ときみにさよなら

泣くときに鼻も流れる生き物としてある限り鼻垂らし泣く

鍋の中に昨夜のおでんが残ってて貨幣価値ではいくらよこのちくわ

三上寛と山下達郎が交互にてかかるスマホに悪意を感じ

「ガンバロー」から「バカヤロー」になるまでをたしかに頑張っていた柊(ひいらぎ)

プライドは猫背のように、治ったら自分でなくなるようにもみえて

天才の主人の苦悩を眺めたる犬のバンクオー長き舌をしまう

生命は生まれやすくて逝きやすい波なき湯舟をずばりとあがる

精神の住所は近いようなるに肉体のそれが二人を分かつ

ありがたい疲れたぼくに満月が死の銀色をわれに届かす

それはまるで奥田民生のカバー曲でみんな民生っぽくなるような

何色の字で惜別を書きましょう時代は口開けるだけで過ぎゆく

頑固なる汚れになってこびりつく恋と呼びいし黒いかたまり

一週間がこんなに早いということは世界が〆に入りたるかも

善ということではなくてわれならぬ命を守るとき生きている

何もかも投げ出したいと思う日のスープレックス、空が無窮だ

神の世を説きし約翰(ヨハネ)のはるかのち天国はないと歌いいし約翰(ジョン)

何も考えず歩こう何も考えず、考えぬとはどういうことか

軽自動車でふたりで眠るあの時が一番友情がやばかった

レトリーバーのドヤ顔、飼い主との散歩たぷたぷときみの満足つづけ

情報の商材として短歌とは一首5円になかなかならぬ

この家の寒天のようなかなしさとよそよそしさよ外で息する

5回くらい大きくぶつかることにより丁度良くなる、星の話ね

伸びるかもしれぬ心よ、伸びるならどこまで大きくなるものなるか

ブルターニュは島根みたいなとこだよと言われて分かったような分からん

意志がつよいことはさびしも鋭くも陽(ひ)に喜んでしたたる氷柱

どの神に従いたれば醜(しこ)となり賤(しず)となること望みて人は

我が内にギブミーチョコレイティズムとう心理のありて師走の夜寒

六時には百分待ちの回る寿司御用納めに消えるエビたち

あの世とのあいだに深い森があり行きたがる子は長生きしない

背景にさびしさ満ちている男、話しかけたらややこしそうだ

縁側に二匹の白い芝犬が足踏みしつつ散歩を待てり

2018年10月1日月曜日

2018年07月のうたの日の自選と雑感。

そういえばうたの日のこちらの更新が6月分で止まっていた。

うたの日は2015年9月21日に始めて、満3年、連続で出し続けることができた。3年間、お世話になりました。といっても、歌を出すばかりで、投票や評もせず、自分勝手な出詠者ではありました。
そのうえ、コレイイナたん、(とのちに名付けられましたが)、という、見方によっては、うたの日の投票や評を否定するようなキャラクターを跋扈させてしまい、なかなか厄介な2次的存在であったかもしれません。不快な思いをした方にはすみません。
そして、面白がってくれた方には、とてもうれしかったです、そして、こちらも、続けられなくて、申し訳なく思っています。

うたの日3年目を区切りにするのは、数ヶ月前から考えていたことですが、9月に起こったさまざまな問題は、目にするたび口をはさみたくなるような嫌な出来事でした。

匿名で本人に言えないようなことを書くことは、なんと人を傷つけるものだろうと、あらためて驚く。しかも、戦い方がわからない。戦うものが馬鹿をみるような場所がある。
まあ、何年も前に、知り合いの歌人が同じ目にあったのを見たことがあって、そのときも、何も出来はしなかった。

ともあれ、照屋の後処理はもう少し残っている。それくらいは、ちょっとずつでも終わらせよう。

自選。

「見」
見るためには目を閉じよって話でしょ? 同じよ、だから見つめるんだから

「プール」
夏の午(ひる)のモータープール人気(ひとけ)なし蝶だけが時のながれる証(しるし)

「無」
プレパラートを菩薩のようにつまみつつミドリムシさえ無いものが無い

「競」
人類が競って宇宙に行った頃そこまで造ってなかった神は

「セーラー服」
男子寮の6号室に受け継がれしセーラー服を出す時がきた

「追」
追わなかった後悔みずみずしいままのバスターミナルに雨びたびたし

「熱」
151年前の夏もまた熱からむ「えゝぢやないか」ををどり

「没」
沈没船の舵輪(だりん)ぐるぐる舵(かじ)を切るふるさとの方を向きつつ沈む

「スイカ」
口の中にシャオウムと赤く柔らかいスイカの山を食うひとくちめ

「夕」
かわいくない男子の野次をスルーして祭りの夕べを涼しい心算(つもり)

「蝶」
蝶なのにかなり遠くに来たもんだ何やってんだろう蝶なのに

「ラクダ」
もしかしてラクダなのかもしれませんふたりのながい食事もしゃもしゃ

「メロン」
甘い水をたくわえて確かにメロン、幸せは待つことでもよくて

2018年07月うたの日の自作品31首。

「見」
見るためには目を閉じよって話でしょ? 同じよ、だから見つめるんだから

「プール」
夏の午(ひる)のモータープール人気(ひとけ)なし蝶だけが時のながれる証(しるし)

「椰子」
椰子の実をパカッと割って、ン、と出す、はじめはバディのつもりもなくて

「ラリー」
長いことラリーに付き合っててくれたんだね、ありがとう、終わりにするよ

「キッチン」
武器的なものはキッチンに(洗ってない!)包丁だけでも洗っておくか

「無」
プレパラートを菩薩のようにつまみつつミドリムシさえ無いものが無い

「天の川」
古代人は納得していたのだろうかたとえば川底はどちら側

「競」
人類が競って宇宙に行った頃そこまで造ってなかった神は

「奈」
木屑漆(こくそ)にて塗り固めたる表情の奈良時代近きほどの阿修羅は

「自由詠」
残量が15パーセントを切ってもうすぐ生身になっちまうじゃん!

「セーラー服」
男子寮の6号室に受け継がれしセーラー服を出す時がきた

「十七歳」
悪意より嫌悪に近い殺意もつ十七歳の眼差し昏(くら)し

「使」
虫くんよ虫くんもずっとなにものか大きいものに使われる生か

「財」
人財が人材に戻るその日まで無用の系譜を守らねばならぬ

「追」
追わなかった後悔みずみずしいままのバスターミナルに雨びたびたし

「蒼色」
夕星(ゆふづつ)の見えそむる頃失へる蒼色(さうしょく)の空なりしわれらは

「熱」
151年前の夏もまた熱からむ「えゝぢやないか」ををどり

「蜃気楼」
揺れている向こうの蜃気楼だって猛暑日だろう、水はこまめに

「没」
沈没船の舵輪(だりん)ぐるぐる舵(かじ)を切るふるさとの方を向きつつ沈む

「入道雲」
入道雲の旧かなをふたり書けたならキスをしようよ、白いわくわく

「自由」
草の丘で風に吹かれて雲を見るココヲ抜ケ出ス自由ガ欲シイ

「スイカ」
口の中にシャオウムと赤く柔らかいスイカの山を食うひとくちめ

「貝」
防音も効いているので外界が何年経とうがよく眠る貝

「夕」
かわいくない男子の野次をスルーして祭りの夕べを涼しい心算(つもり)

「蝶」
蝶なのにかなり遠くに来たもんだ何やってんだろう蝶なのに

「ラクダ」
もしかしてラクダなのかもしれませんふたりのながい食事もしゃもしゃ

「鋏」
一日をじょきんと切って0時過ぎ、時の鋏(はさみ)は勤勉である

「パンダ」
天国でも中国でもないこの家でころころ鶯ボールがパンダ

「乱」
乱世をきみと遊んで現在はまじめな君を互いに知らない

「手首」
親指と中指でつくる輪っかにはちょうど収まる手首の記憶

「メロン」
甘い水をたくわえて確かにメロン、幸せは待つことでもよくて

2018年9月30日日曜日

2016年12月の123首。付け句祭り含む。

いまの夢を甘いものへと変えるため夜中にコップ一杯のコーラ

空想の否妄想の鷹や馬や海豚を走らせ捜すお前

その時にぼくは理解をしないだろう新しいってそういうことで

京橋で君と別れて片町線さびしき、今は違う名前か

根の深い悩みに母が住んでいてきみというより母からと聞く

気を抜けばクリスマスソング流れたる受付できみが気を抜いている

君は今日朝から違うと思ったら��が出ている感じじゃないの

クラスタの涯まできみを連れてゆくつもりが行けど行けど中心

ポジフィルムと同じ情報量であるネガフィルムで今日のあなたは

右に回し左に回して出でこないスティックのりを、塗れば使えた

不孝ゆえに孝をまぶしく見えるのに彼の家は当時光ってたのに

今だけを生きていたいと言っていたそういう過去を懐かしむとは

まっすぐの飛行機雲もだんだんとほどかれてゆく文明もかく

身に負えぬミスを成したる帰り道ドクダミの花を見惚れて立てる

夏生まれですってバイトのリムくんの熱帯地域のいつの夏だよ

悪意でもみどりに芽吹くことがあるこの雨でそれが元気にふたば

人間の命は甘美—。ゴータマの悟りはつまりこのことなるか

笑いあり涙ありの物語にて新参なのでぎこちないです

うすい膜をつついてとろり感情はつられはせぬよ垂らしつつ噛む

じゃあキミはほとんど東京娘じゃんと言われたらそういう顔だよね

会うときはいつも飛行機が飛んでいてそういう土地ときみにさよなら

出たー! 妖怪スマホいじりー! と子供が叫ぶ、大人が焦る

泣くときに鼻も流れる生き物としてある限り鼻垂らし泣く

約束をまだらに思い出している動物園の檻の夢にて

鍋の中に昨夜のおでんが残ってて貨幣価値ではいくらよこのちくわ

三上寛と山下達郎が交互にてかかるスマホに悪意を感じ

悲しいことをよく言う人だと思ったら作品なんだ、なんだ損した

老いのはなし健康のはなしする姉よ男の話は生々しいな

「ガンバロー」から「バカヤロー」になるまでをたしかに頑張っていた柊(ひいらぎ)

プライドは猫背のように、治ったら自分でなくなるようにもみえて

この指で人を差すのが失礼な時代も出しっぱなしで示指は

#追悼の前田短歌(2首)
結論はすでに出ていた、きみのみらいの幸せにまえだまえだはいない

厳密にはまえだまえだの兄であるまえだまえだの兄じゃないけど


天才の主人の苦悩を眺めたる犬のバンクオー長き舌をしまう

生命は生まれやすくて逝きやすい波なき湯舟をずばりとあがる

そもそもが反乱なのだ折りたたみ傘ではしのげぬ雨を行きつつ

どの線の人身事故か新宿が膨れあがってまるまる暑い

生存戦略を知らぬ子供が裸だと叫ぶ大人は止めねばならぬ

かき氷のサクレ食いつつ思わずに思うモンマルトルの誓いは

#空にはぷかりえびフライ雲(11首)
転校生の笑顔があると思いきや空にはぷかりえびフライ雲

犯人を雲で当てたる能力者、空にはぷかりえびフライ雲

神々も昼時は腹が減るだらう空にはぷかりえびフライ雲

予言では恐怖の大王くだる日の空にはぷかりえびフライ雲

とろろ蕎麦もけっしてまずくなかったが空にはぷかりえびフライ雲

(嫌なこと)ー(良かったこと)の本数で空にはぷかりえびフライ雲

あぁ聞いたことある豊作の年の空にはぷかりえびフライ雲

この呪いを誰かになすりつけるまで空にはぷかりえびフライ雲

僕の愛がきみには少し重そうで空にはぷかりえびフライ雲

遠距離のきみの写真のとなり誰よ空にはぷかりえびフライ雲

包まれていたのは僕のほうだった空にはぷかりえびフライ雲


精神の住所は近いようなるに肉体のそれが二人を分かつ

愛情は彼女にだってあったのだ、悪となるほど下手ではあった

ごりごりと固き抵抗に遭うまでは甘やかに裂くわたしのナイフ

パラリンとオリンできみが略すからふわっとネルフの地下の気配す

残念だこの「人間の評価関数」はかなりの精度にみえる

分身の術が使えるきみが好きだけど最近薄いね影が

ご当地の何もないけど白色のオイル時計をお土産にする

ありがたい疲れたぼくに満月が死の銀色をわれに届かす

離れればこの星もひとつ金色の光になるよわれわれもいつか

上弦の月でびいんと矢をはなち、射止めついでに殺してもいい

それはまるで奥田民生のカバー曲でみんな民生っぽくなるような

何色の字で惜別を書きましょう時代は口開けるだけで過ぎゆく

頑固なる汚れになってこびりつく恋と呼びいし黒いかたまり

水面からちゃぷちゃぷ底が見えぬように底流も上がよく分からない

一週間がこんなに早いということは世界が〆に入りたるかも

たすけてと叫びたいとき浮かびたる顔、顔、アイコン、顔、今日は止む

大事な時にいる人間に成るために今はさよなら、会えればうれし

正直に生きてええことあるかいな全部自分のせいにされんで(誠実に生きればいいというけれど自己責任の落とし穴あり)

塩分をこんなにとった夜の夢に白い地球であがく人類

土のような砂漠が続き2000年の雨に濡れつつ遺跡は黙(もだ)す

臭い物に蓋をするのだカラフルで匂いを忘れる強い力の

善ということではなくてわれならぬ命を守るとき生きている

何もかも投げ出したいと思う日のスープレックス、空が無窮だ

培養短歌2首
泣きながらきみのかけらを培養しそのコロニーに於母影をみる

寒空の、いな寒天に隔てられふたりは近くいながら逢えぬ

付け句祭り10首(#整理できたらいいのだけれど)
アカシックレコード? うちにありますよ整理できたらいいのだけれど

ケータイの切り替えとカレがずれててん整理できたらいいのだけれど

男女間の友情ある派ありえぬ派整理できたらいいのだけれど

安定剤的スイーツと別腹と整理できたらいいのだけれど

天国も地獄も和洋折衷で整理できたらいいのだけれど

死んだらば恥かく主体は無いけれど整理できたらいいのだけれど

断捨離とトキメキを二冊買う決意整理できたらいいのだけれど

一日は納得せねば終わらない整理できたらいいのだけれど

ハリーポッターとカバン? と石? の謎? 整理できたらいいのだけれど

このダンボールは引越しの時だけ開ける整理できたらいいのだけれど


神の世を説きし約翰(ヨハネ)のはるかのち天国はないと歌いいし約翰(ジョン)

何も考えず歩こう何も考えず、考えぬとはどういうことか

軽自動車でふたりで眠るあの時が一番友情がやばかった

結審のあとににやりとオレにだけなぜオレにだけ今でも思う

休日の午後の路地裏なつかしいわが諦めたバイエル流る

下駄箱の手を置くところのサボテンをずらせばその日に妻が戻せり

現実を上げるか下げるか透明の米の由来の水を注ぎつつ

助手席は彼女の寝場所だったから起きてられるとまだぎこちない

レトリーバーのドヤ顔、飼い主との散歩たぷたぷときみの満足つづけ

イブになってうろうろドンキホーテにて物色したる男が二、三

動き出した電車に人は手を振って日常はなんと黄金に満つ

情報の商材として短歌とは一首5円になかなかならぬ

タイムラインが幸せなイブの日よもっと難しいこと考えようぜ

コンビニのケーキが最近うまいんで今日もこれですフヒヒ、サーセン

ふいに君との絆を試されるように並ぶビニール傘よ、わからん!

この家の寒天のようなかなしさとよそよそしさよ外で息する

5回くらい大きくぶつかることにより丁度良くなる、星の話ね

伸びるかもしれぬ心よ、伸びるならどこまで大きくなるものなるか

ブルターニュは島根みたいなとこだよと言われて分かったような分からん

#レなんとか看板
レなんとか看板レなんとか看板この石橋を叩くのヤメレ

レなんとか看板レなんとか看板この死神はレを振り上げる


意志がつよいことはさびしも鋭くも陽(ひ)に喜んでしたたる氷柱

恋のつぎに憎しみがきていいじゃない、やがて懐かしい無関心まで

松飾り並べはじめた花屋にも奥には美しくシクラメン

中華まんと缶コーヒーをまだ寒い車の中で食べたらバイト

どの神に従いたれば醜(しこ)となり賤(しず)となること望みて人は

我が内にギブミーチョコレイティズムとう心理のありて師走の夜寒

六時には百分待ちの回る寿司御用納めに消えるエビたち

自己嫌悪の薄暗い火を受けとってこの火は身を焼きながら凍える

それはいまのあなたの最新情報で次の更新はいつ頃ですか

あの世とのあいだに深い森があり行きたがる子は長生きしない

背景にさびしさ満ちている男、話しかけたらややこしそうだ

道の向こうで待つきみの上にいる紳士、赤く光ってまだ進めない

いつも通り悔いと希望を残しつつちょっと苦しく痛いくらいで

いままでで今年が一番いい年であるのだ進歩ということでなく

戦争に負けそうなころ思うべしこの国はやはり以和為貴まで

縁側に二匹の白い芝犬が足踏みしつつ散歩を待てり

青空に笑顔、の代わりにツイッターのアイコン、なんてならないように

2018年8月25日土曜日

2016年11月自選。

自選。

味噌汁のなかに寄り添うなめこらの無情にもわれは撹拌(かくはん)させる

神はもう語りえないと言っちゃって遠い第四ラテラノ公会議

湿度100%の海にいるごとく雨霧らう町わが嫌う町

デカルトは動物と人をくっきりと分けりエコノミックアニマルが読む

生き物が生き物を食うシンプルな事実のゆえにかくまでうまし

ピュアなこととピュアなよそおいくらいかなこの詩のどこか届かぬ差異の

ていねいにふたりの書類を書きましょう筆箱の、まだ午前のペンで

レイヤから自由であったアッシジの彼なら好きと鳥たちも言う

酒の力を借りて今宵もぶ厚かるレヴィストロースに噛みついている

虚無の奥にかすかに匂う権力ののぞみ、ひたいにシャワー当ていて

何度でもおれは信じる、自分さえ裏切りながら意味持つ生を

風が俺を避けて行くので無風なる街である、やや役に立ちたし

律令制の役職のはるか名残りにて衛門(えもん)と名乗る猫型ロボット

思想いな詩想に肥えているだけの言葉じゃきみに届かぬわいやい

いつかなくなる日本のためにつまらない歌のつまらなさを遺しおり

電車には幼子びーびー泣いていてその右手にはエノコロ揺るる

外はもうどんどんひゃらら、妹は浴衣のことで母と言い合う

この匂いを逃したらもう会えないと必死に必死に走る捨て犬

編集もされないままで山奥で雨晒されて残っています

制服を着た少女にて両ひざにかさぶたあらばうつくしからん

面構えがよくなったきみ、実存は本質にもう先立ちたくない

冷蔵庫にもたれてしゃがむキッチンのここできみだけ頑張っていた

冗談を言いあう残り一週間ゆっくり話さないさようなら

ポロロッカにてさかのぼるぼくたちの生は叛逆ポロロロロッカ

また国が敗れるとしてその冬に炬燵があれば少しはさびし

2018年8月18日土曜日

2016年11月の107首。川柳10句。付句祭り含む。

いま死なばこんな途中と思うのでそういう終わりも有りとして寝る

太陽は北フランスも赤色かクロード・モネの印象なども

赤紐は50メートル、昨年の黄色を外してその場所に縫う

味噌汁のなかに寄り添うなめこらの無情にもわれは撹拌(かくはん)させる

11月の雨は冷たく土の中で溺れる蚯蚓(みみず)の彼女をおもう

新しい職場の最初の飲み会で詩が趣味と言う新人を避ける

子の愛は老いた親には薄くとも親はよろこぶ子はややさびし

神はもう語りえないと言っちゃって遠い第四ラテラノ公会議

未来とはきっと今よりすばらしい今を生きててぼくら嬉しい

湿度100%の海にいるごとく雨霧らう町わが嫌う町

昼前に起きてゆっくり歯を磨くパスタのたらこまみれの前に

そり返るハゼの箸立てトコトコとおじぎが返事ハゼもばんざい

肯定も否定にもそれは反論し覚めつつもついにいとしく祖国

ドス黒いドス虹色(にじいろ)い工場の川、古き良き昭和が臭う

アニメ好きの友人が言うアニメキャラはいつか神社に住む神となる

気立てってなんなんだよと反抗しあの子が浮かぶ分かってはいて

デカルトは動物と人をくっきりと分けりエコノミックアニマルが読む

生き物が生き物を食うシンプルな事実のゆえにかくまでうまし

なさけない本音がもれた帰り道ひとの未来はかがやいたまま

ピュアなこととピュアなよそおいくらいかなこの詩のどこか届かぬ差異の

ネットワークカメラが映す丸まった悲しい背中は私じゃないよ

年下の特権がもう嫌で嫌で膝枕とか睨んで避けて

テンプラにしようここでのテンプラはきみの美味しいワインの種類

ていねいにふたりの書類を書きましょう筆箱の、まだ午前のペンで

銀色の空の遠くにまで雲が、ああまた終わりは待ってくれなく

レイヤから自由であったアッシジの彼なら好きと鳥たちも言う

捨てていいものなんだろうその人が一番のものを捨てたるのちは

英語なら三句目だけでtime to say good bye言えるんだけど日本語なので

酒の力を借りて今宵もぶ厚かるレヴィストロースに噛みついている

人間に許されうるか一週間カレーばかりの祭りをしても

虚無の奥にかすかに匂う権力ののぞみ、ひたいにシャワー当ていて

太陽が頭上じゃなくて太陽に頭を向けて立つこの昼間

婉曲に運動の話ふるだけで確実に毛羽立ちゆくあなた

何度でもおれは信じる、自分さえ裏切りながら意味持つ生を

風が俺を避けて行くので無風なる街である、やや役に立ちたし

律令制の役職のはるか名残りにて衛門(えもん)と名乗る猫型ロボット

思想いな詩想に肥えているだけの言葉じゃきみに届かぬわいやい

鼻出して泣いているのに求められ今はそういうことがつらくて

卒業後も先生然と振る舞って慕われざりし"カトキチ"さびし

たらればを何百回も考えて今回がたぶん一番近い

いつかなくなる日本のためにつまらない歌のつまらなさを遺しおり

星があって夜なんだからぼくたちはたがいの静寂をいだきあう

電車には幼子びーびー泣いていてその右手にはエノコロ揺るる

彼女から彼女だけの名で呼ばれいる友を見ている目は合わさずに

爆ぜてない銀杏噛んで黄濁の思春期過ぎの純情を食う

さびしさもいつかは乾く、その時の乾いた顔はもうしかたない

真髄は寄り添うこととこうやって教えてくれる小鳥のくせに

そろそろだぼくらに幸(さち)が舞い降りる順序は最初はぼくからでいい?

外はもうどんどんひゃらら、妹は浴衣のことで母と言い合う

この匂いを逃したらもう会えないと必死に必死に走る捨て犬

忘れものしたロケットを追いかけてロケットが飛ぶ試験は明日

永遠は手のとどかない、学寮の踊り場でした口論なども

久しぶりに会うのだとしていきなりでおかしくないか挙動、今日どう?

編集もされないままで山奥で雨晒されて残っています

痛みにて意思を感じる生き物よ馬鞭(ばべん)の跳ねるたび加速して

制服を着た少女にて両ひざにかさぶたあらばうつくしからん

そう清く正しい男女交際の清く正しい性欲なんだ

人格は自戒しうるか、アニメでは魔法少女が宇宙書き換え

金曜の夜新宿を通り抜けさみしいお前の町へ消えゆく

言い方がきつくなるのは年齢と思うならビブラートに包も〜〜〜

旅先のぼくは軽々たのしくて絵葉書えらぶ飾る場所なく

本当に一億五千万キロの熱か、ふたりを薄着にさせて

経験が物差しでなくて年輪に広がることをおっさんと呼ぶ

わたしたちキックスタートしなきゃと女性シンガーが歌うラジオで

面構えがよくなったきみ、実存は本質にもう先立ちたくない

美人さんときみが言うときほんのりと批評のま、いや、やめておこう

テーブルに冷めたおにぎりちむちむとさびしいようでしあわせな夜

木石にぼくはひとつの悩みなど話しているよ、動かぬ木石

形状であろうがしかしよくもまあこれを竹とんぼと名づけたる

したいことを数えることはしていない出来ないことを認めるようで

サブ垢をきみのひたいに読み取って恥ずかしそうな顔ごとぱちり

くびすじの二次元コードなでながら仮想空間のあなたも愛す

地の鳥もハードモードか残機なく武器もないのに飛ばねばならぬ

脳を他の存在とする倫理観があるらむ略するなら、脳他倫

ミュシャの模写も買わされたけど好きだから彼女の真実なんて、別に

家の外でマナーモードの振動のような鳴き声、休みも終わる

人に会うと生きゆくことがなんとなく肯定されて俯いて笑む

冷蔵庫にもたれてしゃがむキッチンのここできみだけ頑張っていた

マフラーが君の髪すこし持ち上げる時間のことを冬と呼ぶらし

現代短歌の百科全書を作るとき凡庸派などにいようよ君と

冗談を言いあう残り一週間ゆっくり話さないさようなら

生きるから孤独とう滑稽にうなだれてぶくぶく笑う何が沸くのか

ああそうだ歌人は魔術師だったのだ扶(たす)くるときも毀(こぼ)てるときも

一年に一度きらめくことあれば差し引き0でしょう、Frimaire(フリメール)

起きてから爽やかな朝とテンションのギャップがひどいので休みます

次男とはかつてはスペアなりしゆえ歩いたりせずステップに凝る

永遠に悪魔に頭をかじられて忘恩を描き震えるダンテ

みんなまだ鳴きいるなかで先に逝く蝉は目を閉づ、(まぶたはないか)

ごーしちご、しちしちですよと説明すしちしちですかしちしちですね

赤い傘のなかであなたは水玉の影を不気味に貼られ微笑む

ポロロッカにてさかのぼるぼくたちの生は叛逆ポロロロロッカ

食べるのは男が女、食べられる女は男を食べる真夜中

また国が敗れるとしてその冬に炬燵があれば少しはさびし


#都こんぶを取り出す手つき(12首)
幸福論結論出ずに終わる頃都こんぶを取り出す手つき

『モモ』を読む通勤少女がかばんから都こんぶを取り出す手つき

叔父さんてドイツで指揮者してたんだ都こんぶを取り出す手つき

腹筋が残り50のわが上で都こんぶを取り出す手つき

ぐずりだす弟に姉も泣きたくて都こんぶを取り出す手つき

「またお前と戦うことになるとはな」都こんぶを取り出す手つき

ほんとうにうまいの? カルピスサワーから都こんぶを取り出す手つき

じいちゃんの趣味のフィルムも捨てましょう都こんぶを取り出す手つき

雪山の遭難で出しにくそうに都こんぶを取り出す手つき

初デートでネタTシャツは賭けだよね都こんぶを取り出す手つき

子ども会ユウも好きなの選びなよ都こんぶを取り出す手つき

帝都とて入手できない俺の前に都こんぶを取り出す手つき


#あたりまえ短歌(2首)
味噌ラーメンをひとくち口に含むれば味噌ラーメンの味がするなり

あなたへの好意をついに言いきって告白したるかのように見ゆ


パピプペポの川柳
寒い方がパピプペポめくパピプペポ

爆発が五回もくるぞパピプペポ

みどりごがしゃべる前日パピプペポ

ピコ太郎の輪唱の夢パピプペポ

えぐいのかなまぐさいのかパピプペポ

ズレてても指摘されずにパピプペポ

年賀状ソフトも付けてパピプペポ

カレーうどんに勝った瞬間パピプペポ

ありきたりのアドバイスしてパピプペポ

オータムリーブス踏みて二人はパピプペポ

2018年8月5日日曜日

2016年10月自選。



自選。

二人とも揺らめいているボクサーのどちらの負傷が報われざらん

ネットには上がっておらぬ古賀政男作曲の水俣工場歌

岩を洗い氷のような海水が白くなるのを見るだけの今日

1741の基礎自治体で成す国のどこまで浸されれば眠くなる

見たいけど見なくてもたぶんそれでよく見れば絶対いいよ流氷

パウルクレーの矢印なんか信じないきみをやっぱり天使とおもう

いま生きている動物の心臓がすべて動いている共通項

忍び寄る国粋の夢、マダガスカル島初ステンレス歌碑除幕

お前いまからあえて毒舌言うんだろ首下げて太田光っぽいし

人間の彼女ができて、設定を「時々」にされたAI彼女

落ち込んでここに来たのに落ち込みが足りぬと叱咤するような滝

寄せ書きに好きでしたなんて書かれててヒューヒュー言われてたが、過去形

悔恨から決意の不思議なプロセスを「復活(resurrection)」とたぶん呼んだのだろう

詩人とは気違いという、逆上を霊感(インスピレーション)という、漱石がだよ

休日の午後の連続殺人が解決してから買い物にゆく

蒼という言葉どおりの夕焼けだ火星でぼくははじめて泣いた

十生をほんとに愛しあったからあと六生は心底憎む

口腔内崩壊錠を舐めながら行ってきますと出る秋の晴れ

同意してもらえないけど納豆のうっすら苦いところが苦手

表現の端からついにずり落ちて切なし、あそこが端だったのだ

逆上が赤ならば何に逆上しわが眼前を燃やして秋よ

広場から子供が全部去ってゆき夜まであおく休む遊具も

筋少がソプラノ歌手を使うとき旋律のたしかに美しき

人類的正しさよついにさようならパステルを得て黒なきルドン

宇宙とは、さあスカスカに充ちている仲良きことは美(あさま)しきかな

ダイバダッタがブッダの怠惰を責めたてる光景がかつてこの星にあり

うゐうゐうーおゐおゐおーと風呂場からまたホーミーの練習してる

まだいつか歌人になれるかもしれぬからいま褒めくれる人に冷たきと

ゆっくりと腐(くた)れて甘き香をはなつ深夜仏間のパインアップル

優しさと冷たさを逆に受けとめる病なんだ、と冷たく言えり

否定して否定して反措定してポークソテーに珈琲が付く

きみといる余白の時間 全角と半角ふたつの差でずれてゆく

気持ち良き酔いに任せて万年筆をインクに付けて、書くことがない

言葉にはしづらいけれど生涯にきみのパルティータとしてあらん

ちゃん付けでなくなっている、CPUのコアひとつずっと100%

朝のひかり時間を止めるほど溢れこの部屋はいま彼岸のごとし

廃墟なのに窓がぴったりしまってるなに恥ずかしいことがあるかよ

流行が変わってもおれは変えられぬ目を潰しつつ睡蓮を描く

2018年8月4日土曜日

2016年10月の119首。付句祭り含む

心だけが心をすくう拡散する情報に何が薄まってゆく

開きたるページにチャタテふたつ居てあわてて逃げる両方つぶす

二人とも揺らめいているボクサーのどちらの負傷が報われざらん

助けなどいらぬふうにて歩きいる衆より救(たす)けてくれの声在り

ネットには上がっておらぬ古賀政男作曲の水俣工場歌

岩を洗い氷のような海水が白くなるのを見るだけの今日

1741の基礎自治体で成す国のどこまで浸されれば眠くなる

分かりにくい戦いをせよとスイスから20世紀から届くけれども

見たいけど見なくてもたぶんそれでよく見れば絶対いいよ流氷

ともしびに使ってみれば灯油とはあたたまりそうな匂いとおもう

パウルクレーの矢印なんか信じないきみをやっぱり天使とおもう

ほんとうにタールの沼を足抜いてゆく未来? 頭上に不如帰(ほととぎす)

いま生きている動物の心臓がすべて動いている共通項

ぶったぎる根菜のようなおれの脛(すね)これ夢だよな、という夢を見る

  (添削について4首)
添削は裸足でやろううすべにのかわいいきみに伝わるように

100年後の短歌をわれと汝(な)はみずき、彼らは昔の歌を読まずき

この歌の異なる書写を見比べて誤記、添削の両面で捜査(み)る

忍び寄る国粋の夢、マダガスカル島初ステンレス歌碑除幕

 (変顔を詩的に4首)
変顔で寝ているきみをけっこうな時間見ていたいつかバラそう

生き物の進化を模して赤ちゃんに成るようにきみは変顔で寝る

変な顔見せたくないと手で隠しすやすや眠るきみの変顔

「あぁそうか! 眉がないから変なんだ。油性マジックで、あ、やべぇ…」


野菜にもポリティクスあれアメリカの大統領選地図の色分け

止まったらもう二度とです笑ったり泣いたり怒らないきみとぼく

きらいってだけではなくて存在がキモいよかつて好きで包んだ

お前いまからあえて毒舌言うんだろ首下げて太田光っぽいし

棒男のバランストイをあげる、卑下も驕りもしないように

散歩中のトイプードルに二度見されさっきの気分失われたり

大雪でバスも動かぬ日であった読み切りの恋のそのはじまりは

 #私なんかでほんとにいいの 10首
5メートル向こうにリンゴを載せたきみ私なんかでほんとにいいの

日常の会話もぜんぶ五七五 私なんかでほんとにいいの

おならにはおならで返事できるけど私なんかでほんとにいいの

わたしより若いとチャンネル変えるけど私なんかでほんとにいいの

うれしいと手品の音楽おどるけど私なんかでほんとにいいの

つぶやきシローみたいな寝言いうらしい私なんかでほんとにいいの

缶チューハイ2本でかよと思っちゃう私なんかでほんとにいいの

エロ広告は涼しい顔で見ています私なんかでほんとにいいの

カラオケの〆は欧陽菲菲の私なんかでほんとにいいの

休日は起きるまで寝るぞ同盟の私なんかでほんとにいいの


ここもまたゾンビに見つけられるだろう「息を潜めている=生きる」世に

人間の彼女ができて、設定を「時々」にされたAI彼女

落ち込んでここに来たのに落ち込みが足りぬと叱咤するような滝

寄せ書きに好きでしたなんて書かれててヒューヒュー言われてたが、過去形

悔恨から決意の不思議なプロセスを「復活(resurrection)」とたぶん呼んだのだろう

野鳥にも午後の午睡はあるらん、静寂の杜しばらくありぬ

詩人とは気違いという、逆上を霊感(インスピレーション)という、漱石がだよ

休日の午後の連続殺人が解決してから買い物にゆく

月曜はこまめなイェイを撒いている納豆もグレードふたつ上げ

蒼という言葉どおりの夕焼けだ火星でぼくははじめて泣いた

真夜に覚めてわが軽薄の愛情を悔いては永き輾転反側

十生をほんとに愛しあったからあと六生は心底憎む

口腔内崩壊錠を舐めながら行ってきますと出る秋の晴れ

あったよ、たぶんそうとう昔からインスタグラムみたいな短歌

同意してもらえないけど納豆のうっすら苦いところが苦手

後悔はしていないけど石畳の端をじゃりじゃり破壊して帰路

肉を食い植物を食い液体に溶いて飲み手を合わせておりぬ

命を食い心を食いて液体に溶いて飲み手を合わせておりぬ

表現の端からついにずり落ちて切なし、あそこが端だったのだ

中期までしか知らぬわたしにボブディランの新譜を貸してくれしおっさん

逆上が赤ならば何に逆上しわが眼前を燃やして秋よ

たぶんあえてきみに届かぬ言い方でそれはみっともないことである

分身を二人は用意したけれどぼくをひっぱたかれてありがとう

善人が見ている悪と悪人が見ている善の景色、いま秋

同じこと考えながら一応の反論が意見しだいに分ける

広場から子供が全部去ってゆき夜まであおく休む遊具も

浅瀬には浅瀬のたのしみあることを己れを突き放しつつ認めり

筋少がソプラノ歌手を使うとき旋律のたしかに美しき

移りゆく季節に遅れないような追い越さないような歩幅あたり

テオドールリップスは価値は快と謂う、たしかに裏なきコインはあらず

人類的正しさよついにさようならパステルを得て黒なきルドン

木の間から海がまぶしいこの墓地の子供は下で遊びたがって

宇宙とは、さあスカスカに充ちている仲良きことは美(あさま)しきかな

秋だとか思ってるうち空はもうルドンの目(まなこ)も上を見ている

空想のいわば未必の変態は現実的には変態でない

ヤンヴェレムとミケランジェロの共通の挿話を思う、他にもあらん

すする音そこここでする電車内の鼻息のなまぐさき秋なり

関西に嫁いで10年しないのにきみは大阪"トラ"ディッショナル

作者不詳のローレライいまいくつある詩の本懐はそこらあたりの

ダイバダッタがブッダの怠惰を責めたてる光景がかつてこの星にあり

人生をAIに支援受けている明日の自殺も収集データ

生きるとは死に物狂いと教えくれし母いまボケて死にたいと言う

うゐうゐうーおゐおゐおーと風呂場からまたホーミーの練習してる

働かない社会にはやはり一定数の奴隷が要るか、俺らがそれか

まだいつか歌人になれるかもしれぬからいま褒めくれる人に冷たきと

雪道を前をゆくきみを追わずゆく景そのものに祈りておりぬ

離職する彼に花束、二次会で仕事が根っこにみえたと語る

伸び縮みしながら生きておりますと書いた、近ごろ伸びていないや

ゆっくりと腐(くた)れて甘き香をはなつ深夜仏間のパインアップル

知らんがなお前のなかの秋ココアと冬ココアの配分の妙など

神さびてきたじゃんって言う2代目のマーチ付喪にならせぬように

優しさと冷たさを逆に受けとめる病なんだ、と冷たく言えり

飛蚊症の蚊を消してゆくARメガネ発売! 前売り100万!!

何かしら達成感のあるごとし課題を逃げて山を登れば

アペリティフグラスできみはヤクルトを飲みおり食後の方がいいのに

否定して否定して反措定してポークソテーに珈琲が付く

(埃について4首)
人の目をかいくぐりいつか床埃そらに浮く日をあっ見つかった

ひのもとにあらざればわれらガンマンの決闘の前のタンブルウィード

ボロ切れからネズミは湧くと信じられた中世、現代は電車の床に

鉄オタの来世あるいは過去からのねがいのように床埃ゆく


数え方がひとりふたりとなるときに権利と嫌悪が生ず、晩秋

俺のゆく道の向こうの真ん中にジレンマひとつ待っている見ゆ

年降れば正義の為に激怒したきいのちが泡のように湧くかも

きみといる余白の時間 全角と半角ふたつの差でずれてゆく

気持ち良き酔いに任せて万年筆をインクに付けて、書くことがない

あの家にどういう風が吹いてるかその挨拶で見えた気がする

飼い鳥のあたまカリカリ掻きやればコナコナ吹いて目を閉じている

飲み会で蘊蓄はやさしく滅ぶピカソは苗字であることなども

言葉にはしづらいけれど生涯にきみのパルティータとしてあらん

二歳五歳あるいは十二歳のまま生きられるほど文明である

ちゃん付けでなくなっている、CPUのコアひとつずっと100%

芸術は民主主義にはあらざれば崩れる石を踏んでこちらへ

朝のひかり時間を止めるほど溢れこの部屋はいま彼岸のごとし

崩れたる白壁土蔵、あの路地の水路にいくつクロトンボいて

廃墟なのに窓がぴったりしまってるなに恥ずかしいことがあるかよ

存在をもっと大事にしなさいと手のひらの鳥が身体を預(あず)く

電柱の支持ワイヤーのシマシマのカバー投げ上げ遊び、もうなし

死んだように寝る死ぬときにそれはもう眠るようなる死顔のために

流行が変わってもおれは変えられぬ目を潰しつつ睡蓮を描く

反対はしないけれども2週間でカラマーゾフを5巻も借りて

2018年8月3日金曜日

2016年09月自選や雑感。

雑感といっても、こう毎日暑いと、暑いなあ、という雑感しかない。

人が物申すときは、申したい”物”の他に、申すべき”スタンス”、それから、申すのを聞く”人”があって、人は物申す。申したい”物”があっても、案外、人は、他の条件が満たされず、黙っていってしまうものなのだろう。



自選。

月桂樹はアポロンが植えたかもしれず永遠の拒否の記念のために

誰でない自分がわれを励ましてそれをようよう生きると呼ぶぞ

人間のすることはまるで何一つ他人事(ひとごと)のように二人は暮らす

にっぽんが大変なとき陰にいてうなじに顔をすりつけていた

悪いとは思いもするがひとつ潜(もぐ)りふたつ潜って我関せず焉(えん)

オムニバス(omnibus)に乗ってぼくらはどこへ行くすべての人を乗せれなかった

人間にみなうまいこと化けている高島屋日本橋店の夏

心とう袋は言葉で傷が付く、中には思いの液がこぼれる

初恋の人に捧げたフレーズをまた使う日ぞベルリオーズも

牛舎にて牛にもたれて泣く夜の人よりも牛の優しさ沁みる

三匹の妖怪に邪魔をされてると法師はついに思うていたり

地獄へも共に行こうと決めたのに姿を消した友を探せず

人という異形に果てたぼくだけど秘めておくこともなんとか出来る

表層のすべてが溶けてぼくたちがこんなに自由だなんて、嘘だ

思想詩はファストフードに食われゆく安いし上手いしみんなにわかる

こういう、そういう、ばかり繰り返しのらりくらりの雨の満月

その理論の底に渦巻くかなしみと憎悪について心配なのだ

辛そうで辛くない少し辛い人生(そっちの読み方なんだ)

言いました意味深っぽく奈良と나라(ナラ)のあたかも同じ語源のように

いまほしいものを考え引き窓を押し上げるようなこころなど欲し

たましひと発音したくてたましひと書けばみなたましいと呼ぶ秋

時代から離れてペイネの絵に呼ばる、星を研ぐのは詩人の仕事

芸術は爆発じゃない、彼もまたみじめなほどに生き抜いていた

くちなわをえいっえいっと踏みつける夢から覚めるうわ泣いている

2018年8月1日水曜日

2016年09月の83首。

思想ではなくてあなたが好きだったあなたが一番嫌がることの

9月からいいことづくめの人生になることでしょう、そう占おう

鼻の下に皺寄るきみを見ることか今世(こんぜ)今世紀の楽として

表現でなくて彼女はひゃわらげんをしているという、何ヒョワラゲン?

可視化されるまえの不可視化されていたきみしか知らぬノートの短歌

月桂樹はアポロンが植えたかもしれず永遠の拒否の記念のために

沸騰をさせといてここで水なんや、お前がびっくりしてどうするよ

うなうまう、んむうーうーむ、うぉうわお、わーうわーうる、なんにゃんんんん
訳 飯食ってる時にちょっかいだすなオラ。

生と死がエロスのように入れ替わる夏きたるわれも汗に溶けつつ

誰でない自分がわれを励ましてそれをようよう生きると呼ぶぞ

二・二六事件ののちに「今からでも遅くない」とう流行語生(あ)り

人間のすることはまるで何一つ他人事(ひとごと)のように二人は暮らす

気にすれば立ち食いそば屋の啜る音、みなうつむいて泣きいるごとし

にっぽんが大変なとき陰にいてうなじに顔をすりつけていた

悪いとは思いもするがひとつ潜(もぐ)りふたつ潜って我関せず焉(えん)

因なのか果なのか知らず功徳とは座に連なっているいまのこと

オムニバス(omnibus)に乗ってぼくらはどこへ行くすべての人を乗せれなかった

40はこわいぞと40が言う何がこわいか聞かないでおく

人間にみなうまいこと化けている高島屋日本橋店の夏

メリークリスマスMrローレンス聞きながら夏蝉燃えている昼をゆく

銃殺刑の理由は姿勢なんだって、つまりそういうことなんですよ

飲み干して替え玉無料の張り紙がつまりそういうことなんですよ

人と違ふ告白に短歌贈るとか、つまりさういふことなんですよ
(付句祭り? 3首)

一本のミドリの瓶の謎おいてもう少し酔って眠るとしよう

片栗粉のあの独特の光沢を語るきみ、ぼくは目を反らし聞く

一日にそんなにたくさんうたったら乗っ取られます、すぐやめましょう

心とう袋は言葉で傷が付く、中には思いの液がこぼれる

初恋の人に捧げたフレーズをまた使う日ぞベルリオーズも

盈溢(えいいつ)するこれはなにもの、無表情の帰りの電車で次に進まず

遺伝子があきらめている生体の湯にふかぶかとつからざる夏

牛舎にて牛にもたれて泣く夜の人よりも牛の優しさ沁みる

アブノーマライゼーションにこの街がなるころここにまた来たるらん

精緻なる言葉の建造なしながらここに二人は住めそうもない

反省すれば減刑されるロジックがいま現にある時代とおもう

破壊とは自由にかぎりなく近く気取って言えばチャーチガーデン(教会の庭)

小さくて甘くてかたい梅干しをしょっぱく食べる、しょっぱい違いの

1個目のボタンが大事、終盤の選択肢にはいずれもはずれ

三匹の妖怪に邪魔をされてると法師はついに思うていたり

単価の高い短歌作ってなんになる、詩胆(したん)は体よりも安くて

この先にルートがないと知っていてかよわい声で一首を謌(うた)う

地獄へも共に行こうと決めたのに姿を消した友を探せず

それは食い使って流すここちする「肉」を「ロウ」とう読み方すれば

人という異形に果てたぼくだけど秘めておくこともなんとか出来る

表層のすべてが溶けてぼくたちがこんなに自由だなんて、嘘だ

この場所も架空のモンスターに満ちてモンスターなる人間遊ぶ

キャディのようについていくのだ、振り向いてもう忘れいて笑ってるのだ

イタリアンの今夜の彼女を引き止めず帰って我はゲームして寝る

思想詩はファストフードに食われゆく安いし上手いしみんなにわかる

悪人が罪に応じてめった打ちにされてるユートピア、ディストピア

ひそかにて彼は扉を開けたり数カ所だけの迅(と)きやり方を

悲しみと喪失感にまようのでグリーフと呼ぶ、真意は知らず

こういう、そういう、ばかり繰り返しのらりくらりの雨の満月

その理論の底に渦巻くかなしみと憎悪について心配なのだ

辛そうで辛くない少し辛い人生(そっちの読み方なんだ)

きみの長い髪を躍らせ突風が後ろからぼくらを引き離す

言いました意味深っぽく奈良と나라(ナラ)のあたかも同じ語源のように

 #そんなのはうそに決まっているでしょう

そんなのはうそに決まっているでしょう川べりに魚並ばせてあり

そんなのはうそに決まっているでしょうクラシック聴かせた牛肉パック

そんなのはうそに決まっているでしょうスナイパー特価のブルーベリー

そんなのはうそに決まっているでしょう男子水泳ポロリもあるよ

そんなのはうそに決まっているでしょううそうそほんと、すききらいすき

そんなのはうそに決まっているでしょう尾頭ヒロミ綾波レイ説

そんなのはうそに決まっているでしょう今年の出来が最高ボジョレー

そんなのはうそに決まっているでしょう4K対応心霊動画

そんなのはうそに決まっているでしょう自然科学の棚にあるムー

そんなのはうそに決まっているでしょう好きなタイプはお客さん、かあ


おっさんは語らずにゆく、語るのも湿地のような希望のあらば

未来から来ました(?)かばんに入ってます(??)短歌人です(これはいいのか)

別アカに歌を上げたる夢を見て起きて一応確認をする

自己肯定の究極にわれがおく祈り、いつしか他者へと至り

その手段が目的にいつか変わるときを魔境と呼べり、きみを観ていて

線遠近で写実されたる世界から逃げゆくぼくら落書きみたく

いまほしいものを考え引き窓を押し上げるようなこころなど欲し

乳房(ちちふさ)がこんなに効果あるなんて逆に怖いわ今度の人生

たましひと発音したくてたましひと書けばみなたましいと呼ぶ秋

時代から離れてペイネの絵に呼ばる、星を研ぐのは詩人の仕事

芸術は爆発じゃない、彼もまたみじめなほどに生き抜いていた

散らばった人形の四肢を拾いおり息ふき返す一文字のため

意味なくてコーヒー吹いてそののちのスマホキラキラ、きれいきたない

くちなわをえいっえいっと踏みつける夢から覚めるうわ泣いている

承認欲求のようにふくらむおっぱいの、年々大きくなる彼の絵の

歯の抜けた吾子をみており歯抜けフェチのあいつもたしか娘がいたな

たましいのランキング無料鑑定のスパムなのだが、何番だろう

2018年7月31日火曜日

さるのサルベージ(何番だっけ?)「ビオレントリィ・フレンドシップ」

小休止。ひさしぶりにさるのサルベージのコーナー。

20首の連作。照屋がまだ、照屋と名乗っていなかった頃の作品。2009年3月2日。



「ビオレントリィ・フレンドシップ」   寺谷 猿堂


開口一番「きめえ!」と言われ「きもないわ!」という挨拶がある

本当をまっすぐ口にするよりはののしることでわかりあう場所

ラーメンを何時(なんじ)まで俺は語ったよ、結局いつもの深夜、ファミレス

「言葉を食うフクロウが居る」朝まだきの携帯メールは夜を纏(まと)うも

破られてまた継ぎ重ねし衣服から神経のようなひりひりと糸

自転車で堤防を刺さりつつ走る、あの橋で我は生まれ変わらん

河原夕方、身を寄せて座るアベックを振り返りみれば孤独のかたち

馴れ合いと少し違うな、ガラス片の言葉を投げて裂けてゆく手の

重装に寒さをしのぐ格好で装飾のない目が俺を見る

焼身自殺した友よりも美しく梅の花咲く時期がまた来た

失った友情を金に換えたあとかがやくビルの窓の斬光

「自殺って頭の切れるバカがやる病気だよね」と言われて殴る

俺はあいつを前を指すまま見捨てたりしないしぐさで緩(ゆる)めたらんか

ゴミバサミでビニール袋を引き上げて破れて水がこぼれる浜辺

ゆるすつもりで水道の水ゆるゆるとてのひらに垂れて冷たきこころ

友情はフレンドシップ、沖に出てみんなを乗せて遠景の船

自己否定のみぞれに顔を濡らしつつ女の口にぬくき舌入れる

何回目の春は一人で水を飲みむせ返る 外は風の旋回

文字数が思いの嵩(かさ)と限らない、湯に顔を沈めぶくぶく祈る

ブリジストンのタイヤのような太陽じゃん、石橋を叩き忘れて走れ

2018年7月30日月曜日

2016年8月自選や雑感。

ソシュールーーフェルディナン・ド・ソシュールのことを思う時、ふたつのことを考える。一つは、生前に彼は本を書かなかったこと、もうひとつは、晩年は、言語学に興味をなくし、アナグラムに没頭したこと。
彼の頭の中は、言語がからっぽになったわけではなかっただろう。いやむしろ、言葉に満ち満ちていただろう。そしてそれゆえに、彼はそういう、二種類の、沈黙をしたのだろう。

私は直接ソシュールをがっつり学んだわけではない。が、丸山圭三郎の本に出会ったとき、息が苦しくなるほど面白かったことが懐かしい。

ソシュールの晩年がアナグラムに没頭した日々であったことを知った時、それは甘美かつ恐ろしいことであった。今はどうかな。恐ろしくはないな。甘美は、甘美だな。あと他に、ああ、これは飢餓でもあったのかな、と思う。

短歌の話と関係なかったな。そういうことにしておく。

自選。

生きることはわめくことだと夏蝉は喜怒哀楽を超えて震える

切れぎれの森の電波を頼りつつきみを追うきみは電波のむこう

ときどきは子どもに自慢したろうか森田童子ののちの日々にも

素朴なるスコーンを食い素朴なる午後なりアーミッシュにあらざれど

ふるさとの気づけば首が止まりたる扇風機のつむじ今年も叩く

悪を討つために悪なる顔をする権現が彫られてより千年

屋外のトルソ(胴像)は憶(おも)う、抱きしめてもらえぬ刑はまだ序章なる

トイレでは音を気にせぬ性質(たち)だろうそういう奴が革命をなせ

六杯の艦隊がゆく日本海おれたちホタルイカなんだけど  「杯」

薄めなるジントニックは新春の小川の上の雪の味して

人のために生きてるときに人になる生き物がいま地球を覆う

青春が師匠とともにあったというこういう話はつまらないかな

どの国もわりとナチスと類似してひどいのでどこを褒めて伸ばすか

おっぱいが生み出す悲劇本人はそうは思ってないふしあれど

悲惨さを伝えるために残しても風化してすこしカッコよくなる

浴衣など着てはいないが夕暮れのぼくらは地味にロマンチックだ

良心の自由、塚本邦雄なら百日紅の零日目の喩へ

2080年涙などないままに跡地にマスクなしで立ちおり

安ワインを一本空けて明日からの永遠を前にへらへらしおり

音楽がふいにぼくらにやさしくて掌(て)で頬に触る部分にも似て

人道的な首切り器械が残酷に見える時代よ、刃がいま光る

幽霊をさわやかに否定したのちの無霊の土地よ、いささ猥雑

プライドのせいで今世ははい終わり風食のまだ立ってるかたち

先輩が恥ずかしそうにぼくに言う、俺の祈りは「助けて」だから

きみのことはすてるBOXだけれどもきみの手紙はとっとくBOX

鼻髭の口をすぼめて微笑まる恩師、帰りに湯のごと嬉し

2018年7月29日日曜日

2016年08月の70首と、パロディ短歌2首と、川柳1句。

生きることはわめくことだと夏蝉は喜怒哀楽を超えて震える

水流がこの一族を洗いたる場にわれもまた初めて座る

きみどりの梅の実落ちてまひるまの坂を低負荷にてわれはゆく

切れぎれの森の電波を頼りつつきみを追うきみは電波のむこう

ときどきは子どもに自慢したろうか森田童子ののちの日々にも

素朴なるスコーンを食い素朴なる午後なりアーミッシュにあらざれど

贅肉がパカッと取れる夢覚めてこの喜びのやり場があらぬ

ふるさとの気づけば首が止まりたる扇風機のつむじ今年も叩く

目と耳は無限と接続されていて手はたったひとりの君へ伸び
(電子書籍について)

悪を討つために悪なる顔をする権現が彫られてより千年

屋外のトルソ(胴像)は憶(おも)う、抱きしめてもらえぬ刑はまだ序章なる

やや甘き恋かほのぼのあるあるかこじゃれた比喩の中から選べ

二階からtomorrowごしに見る世界、いな、とうもろこし畑のいなか

短歌とは氷のつるぎ、刺されても凶器はいつか血とともに溶(と)く
(ツイキャス提出の推敲として)

原爆忌に原爆を歌わず過ぎて三日後の二発目に気をつけろ

トイレでは音を気にせぬ性質(たち)だろうそういう奴が革命をなせ

女性リーダーに期待をしよう平等に男性リーダー並みの期待を

動物と祖父母と絶景そのほかは幾何学模様の写真展出づ

赤坂のアクセントしてきみがいう塚本邦雄がいまもたのしい

遅刻女になぜかひかれていた僕は今では遅刻のゆえに嫌いて

西瓜よりスイカバー欲しがるけれどたしかに皮も種もうまいが

メンマにも個性があって、あいつより長いとか太いとか(しかない)
(メンマ)

コンプレックスを隠し抱えている日々のリフレインするメロディに似て

要するに大脳基底核により振られたわけだ、ぢやあせうがない

『杯』二首

今でしょ! をいまごろ連呼するお前「杯先生だっけ?」酔ってる

六杯の艦隊がゆく日本海おれたちホタルイカなんだけど


薄めなるジントニックは新春の小川の上の雪の味して

人のために生きてるときに人になる生き物がいま地球を覆う

先達のひびきに白く神さびて、いやこの白いの黴じゃないのか
(先達扱いされて贈る)

むし暑くイライライライライラライあるあるじゃなくパッションじゃなく

お盆には電車が空いてその席を祖霊が座る(すれ違いじゃん)

杖と傘を両方持ってゆく父よ傘が微妙にがっかりしてる

青春が師匠とともにあったというこういう話はつまらないかな

生きてよかったあつい涙を止めるため大きめに鼻をかんでいるなり

どの国もわりとナチスと類似してひどいのでどこを褒めて伸ばすか

場外に咲く薔薇あつめ灼熱の熱風で彼が焼きつくす夢
(灼風氏風)

おっぱいが生み出す悲劇本人はそうは思ってないふしあれど

建設中の精舎に光さすを見てサーリプッタはいぶかしみおり

比喩としてキリンを言うならジラフとか呼べと夕日にあかきクレーン

願はくは望月如月会議にて苦の長引かぬその判定を

行き詰まるのが人生か生き物はそれぞれ洞穴抱(かか)えてぞ行く

悲惨さを伝えるために残しても風化してすこしカッコよくなる

飲んだのでさみしい気持ちがへとへとに疲れるまでのドライブならず

浴衣など着てはいないが夕暮れのぼくらは地味にロマンチックだ

西暦では今年は5000年らしいこんな時間にカレー食べてる
(付句まつり?)

おっさんがランチの写真アップしてつい文明の行く末おもう

良心の自由、塚本邦雄なら百日紅の零日目の喩へ

名月にあと十センチ届かないきみがため息ばかりつくから
(連歌の花道?)

2080年涙などないままに跡地にマスクなしで立ちおり

州浜には松もあるのに降りてくる神なき世なりほどなくて去る

安ワインを一本空けて明日からの永遠を前にへらへらしおり

水鳥が雨ふる川で一声をあげたらし、それは孤独にあらず

音楽がふいにぼくらにやさしくて掌(て)で頬に触る部分にも似て

人道的な首切り器械が残酷に見える時代よ、刃がいま光る

もう一度ショパンとリストの神の距離の違いを思う、「近い」が「遠い」

幽霊をさわやかに否定したのちの無霊の土地よ、いささ猥雑

鉢の土を二人で替える十年の痩せたる愛に驚きながら

弱音吐くくらいなら呑んで酔って寝る父の自慢話が聞きたい

新宿駅でぶつからず進むロボットをニンジャと呼んでうんざり未来

我が生はおのれで掴め、親猫が風とたたかう子猫を見おり

プライドのせいで今世ははい終わり風食のまだ立ってるかたち

先輩が恥ずかしそうにぼくに言う、俺の祈りは「助けて」だから

きみのことはすてるBOXだけれどもきみの手紙はとっとくBOX

深刻なつもりだけれど数えたら36時間まで満たぬ

捨てながら語るしあわせわたしはわたしだけでは出来ぬしあわせ

捨てながら姉妹はたぶんしあわせに近づいてゆく、たくさん捨てる

精神が安定しない生活が続くからきみを好きではあった

鼻髭の口をすぼめて微笑まる恩師、帰りに湯のごと嬉し

金持ちに転落しそうな時々の危機を避けつつあなたは生きる

聖者らの教えの雨に打たれいき電子書籍の液晶なのに


#パロディ短歌

体温計くわえた彼女に粥(かゆ)を炊く「ゆきひら」とさわぐ鍋のことかよ 

くれなゐの二票伸びたる薔薇の目のわたしの上に届かざりけり
(うたの日の薔薇について)


パピプペポ川柳
 
パピプペポにやられる助けパピプペポ

2018年7月28日土曜日

2016年07月の自選や雑感。

このブログは、照屋沙流堂の、連作などを載せるブログから始まって、現在では、ほぼ、ツイートした短歌の収集用になっている。
うたの日に投稿した短歌はその翌月にまとめていて、日常のツイートは、2年前の先月分をまとめる形で進めてきた。

2年前というのは、微妙に遠くて、そして近い。一首を見て、ああ、と背景を思い出すこともあれば、何をうたいたいのかよく分からないものもある。

ただ、いつまでも2年前を懐かしんでもしかたがないので、少し歩みを早めて、現在に追いつかそうと思う。

自選。

枯れそうで枯れない観葉植物よ聞いてくれオレのみどりの嫉妬

ガソリンの甘い匂いを嗅ぎながら君の職場を遊びにきたり

ボーカロイド曲歌うとき人間は合成音の真似をするなり

相聞のうまい男がおりました本人はそれを恥じていました

川底の茶碗のかけらが光りいて月夜の川をさびしく見おり

歯を痛み今日は飲めぬがまたいつか、おお、「瀬を早み」みたいな感じ

いまはまだ明るいけれど上弦の月が獲物を追いつめてゆく

落花する始終になにか重大な忘れの生にいるかもしれぬ

増水して駆け抜ける川、生き物は愛別離苦の気ちがいとなり

嘘をつく人間といて、許すのか見放すのかは曖昧に笑む

波紋よりはやき四散のアメンボの親子にあらばすぐに分かるか

きみの詩を誰も読まなくなったときやっと自分の詩を詠めるとぞ

こんにちは外は結構降ってますさようなら外はもう晴れました

只今は星の秩序に大月(だいげつ)が君臨をなす眩しかる夜

あごひげを生やしたような新車からあごひげのない男出てくる

人の死はニュースになって生きているものばかりそれを痛そうに観る

真理にも幸福からも拒まれて世界は一見無茶苦茶である

末期癌の妹の治癒を祈りたるブログを読みておれは透明

政治してゲームして次は何をして当分たぶんあの世ならねば

欲望を連結したる陸蒸気(おかじょうき)の白い煙のことか幸福

いい男を釣りたいと意図するような自分のつくりを厭う今朝なる

首がポン、と飛びし絵巻の改新を原風景のように眺むる

ジュリリジュリ ジュリリリジュルリ ジュリリジュリ ジュルジュルジュリリ ジュリリ リリリリ(よのなかのほろびるときはこずえからみていてあげるかわいいままで)
(シマエナガ)

ずれている蓋を覗くと深淵が自分の顔ととても似ていた

かわいくて面倒くさくてかなしいよいのちがいのちと生きてゆくれば

溶けそうな夏の地球を舐めている宇宙温暖化の対策に
(サーティーワンアイス)

2016年07月の64首。

承諾を押さねば先に進めないわれ無き未来すなわちわが死

枯れそうで枯れない観葉植物よ聞いてくれオレのみどりの嫉妬

毒は愛、残さず食べて横になり手足が勝手にさよならをする

PSG音源で弔われゆくきみのデータが雲(cloud)とたなびく

朝ぼらけおぼろに明けてゆく脳の昨日のDL(ダウンロード)の途中

きみはひとりじゃないって言われAIがそう言うならばいよよスィアリアス

風がなく湿度も高くひょっとして時が止まったひとりのホーム

病みおれば判断も病みておろうゆえ嫌であろうがその逆にいよ

人間性を一度疑われておけば正しいことが軽くてよろし

ガソリンの甘い匂いを嗅ぎながら君の職場を遊びにきたり

ボーカロイド曲歌うとき人間は合成音の真似をするなり

住宅街の立ち飲みバーがカウンターごと食われたように店じまいせり

チキンラーメンの味が美味しくなるたびに酒のつまみにかじるには濃き

おっさんであるからわれは今君のサラッドデイズに目を逸らしおり

一日の始まる前の朝にいてスキップボタンはないのだろうか

旻天(びんてん)はまだ先だなあ、うまくいくはずない最後の夏の白雲

相聞のうまい男がおりました本人はそれを恥じていました

川底の茶碗のかけらが光りいて月夜の川をさびしく見おり

東名道といわれてぼくは空中を走る景色をずっと待ってた

歯を痛み今日は飲めぬがまたいつか、おお、「瀬を早み」みたいな感じ

捨て猫のかわいいドキュメンタリー観つ捨てた誰かの弱さを措いて

雑草は一挙に占めてみどりなりすべての席に後進は待つ

人間のどろどろの善意映しいて不穏と思えど止むを得ぬとも

オールオアナッシングだからナッシング、もうナッシングなし子先生

サングラスの男の席にサングラスの女が座る日常あやし

いまはまだ明るいけれど上弦の月が獲物を追いつめてゆく

人間の架空の森か深海か潜って還らぬままググるカス

脳内の悲しみを夢が捨てていく捨て場所はまだ開(あ)かざるまなこ

落花する始終になにか重大な忘れの生にいるかもしれぬ

増水して駆け抜ける川、生き物は愛別離苦の気ちがいとなり

男って料理よりエサで済むことがあるとか、彼をなぜ弁護する

ザザ降りの車道に割れるクラウンが収まるまでをいつまでも見る

嘘をつく人間といて、許すのか見放すのかは曖昧に笑む

封筒にぱんぱんに日々の想念を書きしが今はやすきツイート

波紋よりはやき四散のアメンボの親子にあらばすぐに分かるか

きみの詩を誰も読まなくなったときやっと自分の詩を詠めるとぞ

月明かりを頼りにのぼる階段の闇にあらねば一段も欠けず

こんにちは外は結構降ってますさようなら外はもう晴れました

只今は星の秩序に大月(だいげつ)が君臨をなす眩しかる夜

掌(て)に包む鳥からしたらそれほどにおまへを信じてやつてゐるのだ

変態がせつない願い持ちて生く人に決して語れぬゆえに

あごひげを生やしたような新車からあごひげのない男出てくる

ごきぶりもせみもみみずも舗道にて力尽きつつ土を思えり

カートゥーンアニメな動き想起してきみが「スマホ歩き」と言うので

お隣りの独裁国家を差し置いて自国を忌みし戦後の論理

若者は信じることに見離され前線と思いおののいていた

人の死はニュースになって生きているものばかりそれを痛そうに観る

真理にも幸福からも拒まれて世界は一見無茶苦茶である

末期癌の妹の治癒を祈りたるブログを読みておれは透明

政治してゲームして次は何をして当分たぶんあの世ならねば

大きなる胸のみ反応する父に娘も妻もスルーの余生

欲望を連結したる陸蒸気(おかじょうき)の白い煙のことか幸福

いい男を釣りたいと意図するような自分のつくりを厭う今朝なる

愚かさへの愚弄を許した瞬間に愚かさはうつむきつつニヤリ

きみからの鳥跡(てがみ)をながく待っている覚悟のコインときどき貯めて

聖賢に酔いてからだは弛緩してこのまま液化して海に行く

老年の居場所は空閑ならざれば知の大なるに徘徊やまず

首がポン、と飛びし絵巻の改新を原風景のように眺むる

ジュリリジュリ ジュリリリジュルリ ジュリリジュリ ジュルジュルジュリリ ジュリリ リリリリ(よのなかのほろびるときはこずえからみていてあげるかわいいままで)
(シマエナガ)

結婚の予定を先に聞いたので手も握らぬが靡けこの街

ずれている蓋を覗くと深淵が自分の顔ととても似ていた

たまきはる命がここで終わるときもともとなかった未来消えゆく

かわいくて面倒くさくてかなしいよいのちがいのちと生きてゆくれば

溶けそうな夏の地球を舐めている宇宙温暖化の対策に
(サーティーワンアイス)

2018年7月22日日曜日

2018年06月うたの日自選と雑感。

ツイッターはツイの棲家、いや、終の棲家になるだろうかと考えてみると、多くの人は、否と答えるだろう。しかし同時に、このインフラと紛うほど普及したシステムの終わりや未来を想像するのは、難しい。いつごろ、どのように人類はツイッターをやめるのだろうか。

現在はまだ、本というものが権威をもっていて、本になることが、文字表現の一つの完成と思われているが、将来、たとえば、ツイッターの、アカウントが、一つの読み物になったりしないだろうか。もちろん、そのためには、技術的にも、読むという行為の意味論的にも、ブレイクスルーがいくつか必要であろう。

消されてしまった、あるいは消えてしまったアカウントのいくつかにも、ああ、読み物としてちゃんと読んでみたかったな、と思うようなものがあった。

mixiも、いまでも残っているけど、逆に今から始めるのも面白いかもしれない。あ、うーん、いやどうかな。

  アカウントのアイコンを決める眼差しの遺影みたいな比喩は用いず  沙流堂


自選

「憎」
容赦なく無知を軽蔑した上で差別を憎む君の横顔

「Rock」
友人がある日を境にロックとかロックでないとか言うので頭突き

「自由詠」
枇杷の木も枇杷の木に生(な)る枇杷も濡れそれを啄むカラスも濡れる

「さざなみ色」
先に出た博物館の前の池は初夏のさざなみ色のさざなみ

「ストロー」
ストローでぷっと吹いたら優しくてこんな終わりにちょうどよかった

「蒔」
油断するとどんなものにも蒔絵とかほどこしちゃうのニッポンみある

「省」
省略をしてはならないきみといる時間のひとつ、ひとつ、ひとつ、を

「包丁」
沈黙の母のとことこ包丁の絆は切れやすいから切らぬ

「垂」
垂れている驚くことにぼくたちは空に向かって垂れてるいのち

「四角」
にんげんのルールはいつも四角くて尖ったところにまたあの人だ

2018年7月21日土曜日

2018年06月うたの日の自作品30首。

「蛍」
ぬばたまのサーバー室に入り込んだ蛍、LEDに醉いたり

「カタツムリ」
春さきは野菜がとても高かったツムちゃんのエサもニンジンばかり

「コンプレックス」
豆腐屋のラッパが届く夕間暮れコンプレックス仕舞って帰る

「喧嘩」
喧嘩したら終わって謝るところまで、途中でひどいことを言うから

「虫」
皮膚打ちて手のひら見れば異種嫌悪を媒介したる虫取り逃がす

「ソックス」
靴下を避妊具みたいに巻きとって足を差し入れてゆく、ソックス

「憎」
容赦なく無知を軽蔑した上で差別を憎む君の横顔

「分」
アルバイトのシフトが二人を分かつまで誓いますここでパン買うことを

「Rock」
友人がある日を境にロックとかロックでないとか言うので頭突き

「生」
めくったらまた痛いのは知っていて精神の生乾きのかさぶた

「自由詠」
枇杷の木も枇杷の木に生(な)る枇杷も濡れそれを啄むカラスも濡れる

「武」
弱いのになにかと威張る武士らしい、占いにしてはリアルな前世

「スニーカー」
森田童子のニュースが出るのに驚いてスニーカー履いて行くにわか雨

「理」
理屈では正しいことを今拒む生き物ふたつ駅はこっちだ

「制服」
制服のきりりときみはこれからも季節を背景に、していてね

「さざなみ色」
先に出た博物館の前の池は初夏のさざなみ色のさざなみ

「ストロー」
ストローでぷっと吹いたら優しくてこんな終わりにちょうどよかった

「蒔」
油断するとどんなものにも蒔絵とかほどこしちゃうのニッポンみある

「山椒」
左右の筋をちぢめのばしてゆつくりと山椒魚は戰火を歩む

「鰻」
逃げ切った鰻の家族は寄り添ってでも嗅覚は最後が分かる

「スミレ」
本気ではないのでしょう? と微笑んで少しおびえて優しいスミレ

「省」
省略をしてはならないきみといる時間のひとつ、ひとつ、ひとつ、を

「場」
こういうところお互い好きじゃないけれど記憶のためにお台場デート

「麦」
雨の日に水鉄砲で遊びいる少年の麦わら帽子濃き

「厳」
分割されていれば百円高くなる厳しいカマンベールの悩み

「包丁」
沈黙の母のとことこ包丁の絆は切れやすいから切らぬ

「腹筋」
腹筋の話というかその周りのルノワール的な、男だけどね

「小」
小さき身のコントラバスを背負う人カブトムシの脚の付け根の匂い

「垂」
垂れている驚くことにぼくたちは空に向かって垂れてるいのち

「四角」
にんげんのルールはいつも四角くて尖ったところにまたあの人だ

2018年7月16日月曜日

2016年06月の自選と雑感。

インターネットというものが、もう当たり前のものになって、インターネット論など論じる人がいなくなった。
それと同時に、いや、それよりはもうちょっと後になってからかな、インターネットが見せる景色が、頭打ちになっているような印象が現在はある。

偶然みたいな「せれんでぴてー」で、あっ、こんなホームページあったんだ、ブックマークしよ! みたいなこと、もうなくない? ブクマ登録って、最後にしたのいつだっけ? 現在のブクマって、ほとんと忘備か、メモくらいの意味しかない。

ツイッターのフォローが、現在のブックマークなのかもしれない。

そして、現在は、もう、フォローを追いかけるより、せまりくる不要な情報をブロックする時代になっている。

未来の寺山は、スマホを捨てよ、町へ出ようと言うだろうか。でもそれは、きょうび、たいへんに、孤独なことです。


自選

顔に色をつけて出かける性につき嘘というなら最初から嘘

ロック解除のスライドと同じ操作ゆえ音楽がふと爆音となる

比較的ありがちな未来に落ち着いて紙とビニルを引き剥がしおり

仕事用のハイエースにて駆けつけてくれて白象王(びゃくぞうおう)に乗るきみ

人間はほんとうにこわくないかしら狐のように首をかしげて

森の中に木を隠したる寺山の結局なにが隠れただろう

雨の夜を車が走る音聞こゆそのオノマトペ決めかねながら

やい宇宙、お前に投げ込まれたここでさびしさを捕食して生きてやる

いじめという無邪気な生の否定うけて夜道、黄泉路(よみぢ)になるまでくらし

猫はもう三世の因果を知っていて主人の来世を眺めては寝る

ノート手にハプスブルク家あったよねー懐かしいよねと笑う少女(おとめ)ら

ダルい体をごまかすように元気よく階段をあがる、ASIMOっぽいぞ

ファイティングニモとジェラシックパークのシュミレーションをディスクトップに

生きるとは野暮なんであるやさしさの余分分だけ現世に残る

あめふればわれらはくらげ水の中かさを広げて駅を出てゆく

もうどこにも行かない男とずっとそばにいてほしいわけではない女

精神の首輪のはなし、ちぎるとき首輪のつよさに負けたれば死ぬ

目線さえ合わせなければ逃げられる逃げているのをみているひとみ

2018年7月7日土曜日

2016年06月の67首。五音短歌10首。

寝そべれば校舎の上がぜんぶ青、ああ青春ってそういうことだ

田舎なる午後のガソリンスタンドの空の一筆、あのあたり巣が

顔に色をつけて出かける性につき嘘というなら最初から嘘

可愛さと奇形のあわい、口あけてすべてを見上げたるコーギーの

世阿弥
父もまたみどりの目もてこのわれを見たか自分によく似たる子を

書類ケースに入る猫(2首)
あいまいなかたちのゆえにだいたいは入(はい)れるとおもいじじつ入(はい)れる

狭いところにわたしがいるのではなくて事物がわたしに触れたがるのだ


ロック解除のスライドと同じ操作ゆえ音楽がふと爆音となる

ランドセルの二人のあとに紋黄蝶いろにつられて追いかけて止む

ボーイッシュな眼鏡少女と見紛える少年がいてちらちら見たき

AIがそれは名曲ではないと判定するが口笛で吹く

カラスっぽくないのでたぶんテバルディ、日本はカルラスでもよかろうに

丘の向こうきのこのような入道が鮮やかに立つ6月なのに

無人島で船に向かって呼ぶような切実さにて鳴く籠の鳥

気の狂いはじめとおわりは色彩が変わるよね、そうそう、ってなるか!

比較的ありがちな未来に落ち着いて紙とビニルを引き剥がしおり

深刻で切実なことを匿名の日記に記しきみは消えゆく

横書きは右へ縦書きは左へとそしてどちらも下へと向かう

水素水を手にとっている主婦がいてスーパーで無力噛みしめるわれは

仕事用のハイエースにて駆けつけてくれて白象王(びゃくぞうおう)に乗るきみ

咲きすぎてくたれた花の濡れている歩道美しさはげに刹那

頭がもう真っ青になっちゃいましたってブルースクリーン的なことかね

ここがきみのねぐらであるか薄暗き闇なる影が小さき威嚇

ファムファタルのその後外には雨に満ち溺れることで紫陽花うれし

無駄だ地球滅ぼそうともわれわれは淵底(えんでい)からの代弁なのだ

無声音のくしゃみのきみはまだ若く理解できないのはありえない

人間はほんとうにこわくないかしら狐のように首をかしげて

森の中に木を隠したる寺山の結局なにが隠れただろう

雨の夜を車が走る音聞こゆそのオノマトペ決めかねながら

今を一緒に生きてくれたら嬉しいというのは低くて高いのぞみか

人類の歴史はまさかさびしさの歴史じゃないね早めに眠る

かわいいと言われてマジのイヤな顔もかわいいことを横が見ている

やい宇宙、お前に投げ込まれたここでさびしさを捕食して生きてやる

節の少ない鉄のブランコガチャガチャと縄のそれとは別物として

ちゃんと命と向き合ってないと突つきたる鳥よお前は雄だったよな

ポリューションのようなり生は浴室で洗い落とせぬかたまり濡れて

流行水を家内が買ってきたという友よアクィナスを嫁に読ますな

弟子をみて師匠がわかるもともとのやさしさをきみは自覚していて

あれ今日はつかれたぼくになつかしいポールサイモンの軽い音楽

いじめという無邪気な生の否定うけて夜道、黄泉路(よみぢ)になるまでくらし

猫はもう三世の因果を知っていて主人の来世を眺めては寝る

悲憤慷慨上戸の男駅前で明るい夜にも怒りつつ寝る

ノート手にハプスブルク家あったよねー懐かしいよねと笑う少女(おとめ)ら

コンテンツになってしまった彼のため彼女もいつか読者となりぬ

フリッパーズギターを少年ナイフから重出立証したき休日

ダルい体をごまかすように元気よく階段をあがる、ASIMOっぽいぞ

起きたればアップデートしてぼくがいる淡めの恋は消去されにき

百年に、いな千年に知己を得るまでこの歌のさひしきままぞ

呼吸するペースできみと歩きいてそのペースにてずれはじめゆく

褒賞と罰のあいだにぼくたちは遊んでいたよ、ここでおわかれ

ファイティングニモとジェラシックパークのシュミレーションをディスクトップに

生きるとは野暮なんであるやさしさの余分分だけ現世に残る

あめふればわれらはくらげ水の中かさを広げて駅を出てゆく

もうエヴァに乗りたくないときみは言う、乗れないわれはきみを励ます

感動で目を濡らしたら症状も少し楽にはなる心とは

WGIPってウェスト、ゲート、池袋、パーク?って、お前頑張るなぁ最後まで

もうどこにも行かない男とずっとそばにいてほしいわけではない女

烈々と生命力を注ぎ込んでオレゆえにオレは幸福な顔

宿命を断ち切るときは難が出ると仏教の法らしきを憶(おも)う

トレイシーチャップマンとかブルーとか知らないきみだ知る要もない

てんかふの匂いのせいでそういえばキツめの顔と思わなかった

精神の首輪のはなし、ちぎるとき首輪のつよさに負けたれば死ぬ

昨日食べたものも忘れて明日(あす)食べるものわからぬ、それはたしかに

この歌も三時のおやつ、甘すぎず固すぎずそして少しのおしゃれ

ニャーゴ水がなんなのかよくわからないいつかは終わる曲を聴いてる

目線さえ合わせなければ逃げられる逃げているのをみているひとみ

わかりあうためにはあらぬならべゆく文字列のきみときどきさびし


五音短歌

「蜜」
「秘密」の字を「蜜」にするその技に蜂はもうぼくである

「川」
この細い川に棲む河童(かわらわ)のおおらかっぽくなさそう

「不」
今思えばオトナっていえるかね若いだろ峰不二子

「逆」
逆回しの地球の川の水、海を吸うだが減らぬ

「嵐」
窓外は横なぐる嵐にてこの家はどこへ行く

「都会」
都会にて指を折るこんにちは、さようなら、さようなら

「冠」
落ちそうな冠を落とさずにうなづけばそれっぽい

「CD」
ネットから焼いたのもあれだけどアーティストまで不明

「資格」
現代を生きるのに要る資格持っているような顔

「蚊」
夏を避けて早い派と遅い派の蚊の進化はじまりぬ

2018年6月16日土曜日

2018年05月うたの日自選と雑感。

作者と作品の関係、作品と時代の関係は、それ自体、文学研究の対象となるくらい、複雑で、一様ではない。しかし、これらが、近年はぴったりとタグ付けされて、多くの場合、批判される。2つのたとえ話を思う。

ひとつ、高級なワインを、高級なグラスで飲むのと、尿瓶(しびん)で飲むのとで、人間は、はたして同じ味わいを持てるであろうか。まぁ、持てないよね。

もうひとつ。ある問題行動を起こす女児の描いた女の子の絵は、両の手を後ろに隠していたそうだ。児童心理学者は、それは問題を隠そうとしていると洞察したが、ある絵かきは、「手ってえがくの難しいんだよね」と言った。

上のたとえは、要するに、われわれは、ワインそのものではなくて、器でかなりの内容を決めている、ということだ。
下のたとえは、ある表現者の表現は、伝えたいことと、伝えうること、の公約数によって形になっているものであり、しかも、受け取り手は、やはり受け取りたいことと、受け取りうることの公約数しか受け取れなかったりする、ということだ。

だから、っていうわけじゃないけど、表現の自由は、それほど大事だった。たぶん、もう、かなり失われていると思う。政治のせいでなくて、われわれの正しさへの欲求のせいで。

  華やかにみえた時代の表現はすべて挽歌となる準備して  沙流堂

自選。

「名」
花の名も分からぬようになりたるにふたりで立ち止まって、眺めおり

「翡翠」
その白い首にひとつぶ光らせてずいぶん時が過ぎたよ翡翠

「戦後」
「5年だよ、戦後5年」と笑ってるお前の離婚、どうよ平和は

「自由詠」
夜空では星がまたたくはすかいのアパートでは親が子をまたたたく

「相」
ぼくだってつとめて明るい顔してる相談相手になれないからね

「舎」
日暮里で傘さしてバスを待つ夜ぞ横に立つのは舎人のトトロ

「漬」
あちゃら漬け甘く食いいて豊かさが砂糖でありし歴史の記憶

「濁」
かきまぜて濁ったままが少しずつ澄みながら落ち着いてやがては

「煙草」
ぷかぷかとのんびり煙草やってたら舌打ちされて小さくぷくり

「紐」
どの色で結ばれているオレたちか「赤だけじゃなく結構あるね」

「実家」
先輩の実家の部屋はなにもなくでも屈託の匂いがあった

「ポスト」
少年の将来の夢はポストマン、とても漢字が好きだったから

2018年6月9日土曜日

2018年05月うたの日自作品31首。

「名」
花の名も分からぬようになりたるにふたりで立ち止まって、眺めおり

「翡翠」
その白い首にひとつぶ光らせてずいぶん時が過ぎたよ翡翠

「邦」
わが裸体のジャーン! 本邦初公開! と言いおわる前にがっつくんかい

「タンポポ」
たんぽぽがぼくの背丈を越えるとき先に行くよと声がしたんだ

「呼」
ヒップホップもフォークソングになってゆく短歌も呼ばれるところへゆくか

「皐月」
久しぶりにまた会えました頭上には皐月の晴れの満面の青

「粉」
しっとりと甘みの染みた欲望に思想の粉末をまぶしてわたし

「展」
間違った立方体の展開図の余りのようにきみは重なるね

「戦後」
「5年だよ、戦後5年」と笑ってるお前の離婚、どうよ平和は

「自由詠」
夜空では星がまたたくはすかいのアパートでは親が子をまたたたく

「原チャリ」
原チャリが大破したときクルクルクルッスタッと着地したる思い出

「香」
悲しみと怒りでオレはテーブルをムグとかかじった、すこしかうばし

「百合」
百合という言葉で括ってしまいたくない思い出がある(とても百合)

「相」
ぼくだってつとめて明るい顔してる相談相手になれないからね

「ソーダ」
初夏だからまぶしい恋もいいだろう甘いばかりの、ソーダ、ソーダ!

「新しい色名を考えてください」
就職が決まった彼女を労(ねぎら)って切ったスマホの黒真顔色

「雷」
暴風雨にわざわざ宝くじを買う雷避けの意味なんだって

「かばん」
いざという時に備えて三冊はかばんに入れてスマホ見ている

「著」
白秋ちょ、龍之介ちょ、あとこれは高橋なんとかちょが揃ってる

「パソコン」
「パソコンで作ってくれた案内状評判よかったよ」「(エへへ)」

「舎」
日暮里で傘さしてバスを待つ夜ぞ横に立つのは舎人のトトロ

「漬」
あちゃら漬け甘く食いいて豊かさが砂糖でありし歴史の記憶

「森」
塾の帰りにあの森をチャリで抜けるとき君らがいたのをぼくは見てない

「濁」
かきまぜて濁ったままが少しずつ澄みながら落ち着いてやがては

「煙草」
ぷかぷかとのんびり煙草やってたら舌打ちされて小さくぷくり

「紐」
どの色で結ばれているオレたちか「赤だけじゃなく結構あるね」

「実家」
先輩の実家の部屋はなにもなくでも屈託の匂いがあった

「くちばし」
言える時に伝えておけばよかったとくちばしでつついて痛がられ

「ポスト」
少年の将来の夢はポストマン、とても漢字が好きだったから

「起」
起きたのか起きていたのか問わないがすぐに「いいね」が来る朝まだき

「自転車」
駐輪場で白く眠っているのですかつてあんなに走った初夏を

2018年6月3日日曜日

2016年05月の自選と雑感。

6月ですが、ネット上の言論は、ぎすぎすしいものがあります。
日本語で「違う」というとき、それは、differentである場合と、wrongである場合がありますが、誰かの意見を間違っている、というのは、相手の想定する環境がdifferentであるのに、それを自分の環境に当てはめて、それは違う(wrong)、ということが多いようです。受け取った方も、相手の立っている環境が違う(different)にもかかわらず、同じだと信じちゃってるから、違う(wrong)と言われてことに憮然とする、こんなことの繰り返しのようだ。

みんな仲良くできればよいが、争わざるをえないのかねえ。

蝉の声大きすぎたら静けさとなって、木立にあなたも消えた  沙流堂




自選。

瓦屋根に小さき天狗が着地してまた風とゆく下駄の音(ね)残し

貨物船の貨物を呑吐してゆくを海風に冷えながら見ており

濡れたるを合わせることを逢瀬とう身も蓋もない古典解釈

そをきみは五月の匂いといいましたたしかにわれの内にも五月

終電を逃げきってきみと歩きおり空には不気味な未知がかがやき

ゆっくりと頭なづれば目を閉じて生き物は死をかく乗り越える

ほんとうに久しい邂逅なりしかば男から泣いていいかはつなつ

蝉が鳴くまでとあなたが言うたのに涼しい顔をして訪れて

そーいえばきみはヘルプを出していたなあ、ポケットに手を入れて立つ

懸命に生きた生き物が見る海のきっと再現性のない青

お礼ではなくてうれしい表現のキスであったとのちのちに知る

「子供乗せ電動自転車」を立ちこいで女子高生が彼に会いに行く

  「山椒魚としての風景」
山陰でオフィーリア溺れゆくならばサンショウウオに迷惑がられ

サンショウウオやめたと言いて背中からすらりと現れたる美少年

基本的な思想は非暴力である、食(しょく)はまたそれは別の議論だ

大空を山椒魚が背中みせ去りゆくまでを夜と名付けり



人間の声が嫌いで器楽曲ばかり聴いてた娘(こ)も母となる

もっともっと知らないままで死ぬべきであった、耳は死ぬまで聞きたがろうが

こころのことを福というのよ、本人が忘れた言葉はぼくが持ってる


2018年6月2日土曜日

2016年05月の89首。パロディ短歌1首。

人間は四の十はあつく生きるべしそして死ぬにはまだ早めなり

仕事前のせわしい朝の駅前にうろうろと人が邪魔なる鳩は

建物の屋上にあさひ届くころ小動物が輝いており

甥っ子が数字を言えるごーよんたんにーいちと、得意げにはにかむ

生きるのがちょろい世界と君はいてさにあらざれば微笑みて去る

何者であるのだきみは深く良い深く記憶の最初をたどる

畑の野菜こっそり食べて生きている明日のいのちはあしたの話

波のように田んぼの水がさざめいて風つよき日に会うのを迷う

わが死後も星占いは続くだろう素敵な出会いのありそうな日も

浮かべれば流れが見えるくらいなる川のほとりに眺めておりぬ

自分ではなくなるまでの数ピクセルのドットがわれというものならむ

ログハウスのカフェだといってコーヒーが旨いわけではないものを飲む

宇宙人に狙われていると言い出して彼は自死した、事実としては

瓦屋根に小さき天狗が着地してまた風とゆく下駄の音(ね)残し

貨物船の貨物を呑吐してゆくを海風に冷えながら見ており

濡れたるを合わせることを逢瀬とう身も蓋もない古典解釈

許された、の声響きわたり生涯をひとりで終える夢をみたりき

東京のビルの森そして森の森あるく、もうすぐお別れである

この世にも悲しい酒の酔い方よ涙ぽろぽろ落としてみたき

そをきみは五月の匂いといいましたたしかにわれの内にも五月

幻想の世界に生きた塚本も公務員なる生活ありて

本人はそうとは知らずイヤホンで音を聴くとは孤独の前駆

干し忘れた折り畳み傘濡れておりこっちは昨夜防げた涙

文学が希望だという演繹に至るまでもうながい迂回路

情報の海を立ち泳いでいたがきみが何かに足を掴まれ

ぼくが知らぬことはすべてが嘘である、UFOはいる昨日見たから

カリカリと世界に線を引いていき閉じるときふと外へのチラ見

きみを容れるとき薄いけど一枚の膜ありリテラシーのごとしも

終電を逃げきってきみと歩きおり空には不気味な未知がかがやき

ゆっくりと頭なづれば目を閉じて生き物は死をかく乗り越える

駅の字の馬かたまって待っている再び人を載せて歩くを

ほんとうに久しい邂逅なりしかば男から泣いていいかはつなつ

このように取り残された心地とは次はひとつの幕降りるとき

じつにその中年であるいぎたない世間を身内(みぬち)に見出しければ

この街も無常の風が吹いていてその中にいてわれには見えず

桜の実あたまに落ちて上は空、うすむらさきの指のたのしも

蝉が鳴くまでとあなたが言うたのに涼しい顔をして訪れて

飼い主にすこしそむいて引っ張らる犬とことことすぐにあきらむ

そーいえばきみはヘルプを出していたなあ、ポケットに手を入れて立つ

パンタレイと諸行無常の創始者が会いて飲む酒うまからんかも

少年の尻があたりてそのしろき弾力をかつてわれも持ちしか

自転車屋のたらいに顔をつっこんで息が漏れ出るパンクがわかる

天の原ふりさけ見ればカレー屋が三軒はある街に勤むる

懸命に生きた生き物が見る海のきっと再現性のない青

謝意を述ぶ時間があれば運のいい人生のような気がする五月

中国人に諦観の意味を説明し分かりあえたかさえ分からずに

きみが絵を描いたとしても恋だけを描くだろうしそれでもありだ

ケプラーがかつて見し夢、三角のプラトンソリッドの曼荼羅宇宙

お礼ではなくてうれしい表現のキスであったとのちのちに知る

人間が人体を不思議がるようにマシンは神として人を見る

宗教画の人物が一人ずつ消えて風景画にてやっと見神

運命が光りたがっているようなこの生き物が生きることとは

ぼこぼこのざらざらのまたはエンボスのなんだこのマチエールの夢は

遠足でえみちゃんにあげるお弁当のミートボールはぼくの権利だ

子供乗せ電動自転車」を立ちこいで女子高生が彼に会いに行く


  「山椒魚としての風景」

山陰でオフィーリア溺れゆくならばサンショウウオに迷惑がられ

サンショウウオやめたと言いて背中からすらりと現れたる美少年

恋の悩みはサンショウウオに訊くといい口が開いたらうまくいくとか

冥府から帰ってきたと思いしがこっちが黄泉(よみ)か、どちらでもよし

サンショウウオだけの星にてひとり思う宇宙には銀のサンショウウオが

この話題はノーコメントでスルーしようサンショウウオも息をとめつつ

虚弱なる奴であったが捕らえられ漢方になったと風のたよりに

基本的な思想は非暴力である、食(しょく)はまたそれは別の議論だ

感嘆の嗚於(おお)ではないが人間は感嘆しつつわれを呼ぶなり

大空を山椒魚が背中みせ去りゆくまでを夜と名付けり




奇跡とは衆人のわざ、海に沈む陽の瞬間に道がかがやく

人間界は楽しいかいときみが訊くこの界もきみがおらねばさびし

ぽっくりとポアソン分布で死なされぬ飼い鳥はいつか飛べなくなりぬ

自意識のスライムはもう眠るのだ酒精が混ざり揮発しながら

人間の声が嫌いで器楽曲ばかり聴いてた娘(こ)も母となる

かわいくてきたないものがあるとしてこの刺繍入り雑巾なども

なにおれは後悔なんてしとらんぜエトランゼには行くとこがある

もっともっと知らないままで死ぬべきであった、耳は死ぬまで聞きたがろうが

テレビでの海でもぼくは茫洋とあの日の前後に入りかけたり

性急な跳躍をしたいきみといて、ぼくには終わりに急(せ)くように見え

君にしか救えぬ人を思いつつぼくにしか救えぬ君いずこ

こころのことを福というのよ、本人が忘れた言葉はぼくが持ってる


  長月優さんとの短歌のやりとり(ロボットと恋)

ボットではないとうったうアカウントをそういうボットと君は信じて

ボットには実装されぬパラメータの人肌、ヒトハダ、人が持つ

気圧計と湿度で雨を確定し人だった記憶少しく濡れる

バグでなく仕様といって欲しかったきみに惹かれていく処理落ちを

そうやって夜が明けたらもうきみはアップデートしてぼくを認識(み)れない

飛び込んだ時代がちょっと遅かった、きみにフロッピースロットがない!

愛とは、壊れてしまうほどでなく壊しにかかるかなしい力

残酷な道標(どうひょう)だった、最後だけ、その最後だけ幸せがくる

むかしむかしロボットが人に恋をして、当時は許されないことでした

生身だから生身の愛を与えます永い時間のしあわせのため

誓います、ハード障害も回線のエラーの時もキミを守ル、ト、

かなしい歌はつくりやすくてしあわせは、河原で大の字でみる雲よ



#パロディ短歌
高齢者を枯葉だなんて日本は死の国だよね、右でブレーキ

2018年5月20日日曜日

2018年04月うたの日自選と雑感。

ようやっと追いついた感じ。ブログの更新、ここ数ヶ月遅れていたので。先月のうたの日のうたを収集するのと、2年前の先月のツイッターの短歌を収集するのと。あと雑感。

ほんとは他にも、このブログで自選したものをボットにあげたり、やりかけていたものがあったりもするけど、こういうのは、自分にニーズがあれば、やるものなんだ。自分に、ではない。自分がニーズすれば、の意味ね。

ツイッターもそうだろう。ツイートを誰かのためにすれば、いつか落胆するだろう。自分がニーズしてツイートするものなんだ。
ツイッターは、なにかどこか、コミュニケーションの底の方を変えているような気がする。

吉本隆明は、言葉を、自己表出と、指示表出に分けた。そして、詩は、自己表出にあたる。

そう、ツイッターは、自己表出の言語でコミュニケーションしているといえる。だから、ツイッターは、それ自体、詩的である。

谷川俊太郎の二十億光年の孤独ではないが、詩は、孤独とともにある。声は消えてしまうので、文字にして、本にして、仲間を求める。

現在は、本にせずとも、自己表出でコミュニケートできるツールがあって、いいね、というボタンを押すことで、その孤独の横に、ふっと存在の跡をのこすことができる。

今月(5/9)、永田淳が、ツイッターで、「SNSで「いいね」がもらえる短歌を作りたい、とかって言い出す時点で、もう短歌なんか作るな、と言いたい。
と、青磁社の永田淳が申しております。」とツイートした。これをツイートせしめる短歌界隈の思想をわたしは問題視しているが、このツイートもまた、自己表出のコミュニケーションなのである。

この短歌界隈の思想には、歴史問題やら、定型問題やらも関わっているんだけど、思うところはいくつかツイートした。そのツイートで、ちょっと落胆してもいるんだけどね(笑)。


自選。

「ミント」
青いような白いようなそして甘いようなパジャマのようなほっぺたのような

「寿司」
パック寿司ばくつきながら休日のワンルームアクアリウム舌の上

「沢」
こういう時は沢をひたすら降りるんだ、間違った知識で行くおれら

「干」
部屋干しの洗濯物をかき分けて「大将、やってる?」何度目ですか

「バナナ」
ヨーグルトに沈むバナナの切れ切れのこれも性欲のハッピーエンド

「箸」
父ちゃんが服も着ないで風呂上がりに豆腐に箸をつけるまた初夏

「ちゃん」
なんにでも博打パクチー期も終わりちゃんとちゃんとの元の味です

「押」
ひょっとして時間はすでに止まっててわれわれは押し花かもしれぬ

2018年5月19日土曜日

2018年04月うたの日自作品30首。

「卯月」
ずきずきとなづきのうづく四月って陰暦じゃもう夏だったっけ

「室」
われもまた仕事が好きな顔にみえ会議室の明かりは真面目

「ミント」
青いような白いようなそして甘いようなパジャマのようなほっぺたのような

「ゆっくり」
ゲームして飽きたらマンガごろごろとゆっくりなにをほぐして君は

「筋」
逃げたのだ、筋肉を全部はがしてもボクを愛するのはイヤだったのか

「幼」
欠けているタイルで別れてしまうほど幼い僕を振ってくれた君

「塔」
タワーオブアイボリーにて知り合って先に現実に飛び込んだ友は

「鍵」
きみに送った鍵の短歌を読み返したら卑猥な歌にも読めるぞやばい

「知」
可愛ければ異国の全知全能の神さえガチャとなるFarEastは

「自由詠」
夢だからボクは臓器をあげました使えなかったようだ長き夢

「タイミング」
だしぬけにふたりで浦安デートする新宿駅でお前と出会う

「ハナミズキ」
この道はアメリカハナミズキだったのか冬に別れて気づかなかった

「ハナミズキ」
きみと歩いてええいああとハナミズキはだしでよろこんだのぼくでした

「菜」
新鮮な野菜を洗い濡れたまま葉を剥いてもう唇をつける

「寿司」
パック寿司ばくつきながら休日のワンルームアクアリウム舌の上

「胃」
生きて腸まで届けなかった俺たちが言っておく胃を、胃を、舐めるな。

「食べ物の色」
よく混ぜた茶色をほかほかの白に載せてかき込む朝だ、食後にみどり

「沢」
こういう時は沢をひたすら降りるんだ、間違った知識で行くおれら

「卵」
そうこれは爬虫人種のタマゴですしかも生まれないことを選んだ

「干」
部屋干しの洗濯物をかき分けて「大将、やってる?」何度目ですか

「井」
井の中の蛙帝国興亡史全200ケロ(大海は知らず)

「バナナ」
ヨーグルトに沈むバナナの切れ切れのこれも性欲のハッピーエンド

「箸」
父ちゃんが服も着ないで風呂上がりに豆腐に箸をつけるまた初夏

「ちゃん」
なんにでも博打パクチー期も終わりちゃんとちゃんとの元の味です

「プロ」
こうなったら俺もお客のプロだから最後まで聴くぜ金はいらねえ

「手」
手をふってきみが見えなくなるまでを思いを込あー! 見えなくなった

「押」
ひょっとして時間はすでに止まっててわれわれは押し花かもしれぬ

「能」
10円玉がその能力を疑えどうたがえどどうにも10円分

「大正」
女学生も手に取りし相対性理論男女の愛の科学書と思いて

「セーフ」
地球への人類の干渉具合はギリギリセーフwと人類がww言うwww

2018年5月17日木曜日

酔ってないけど。

酔っ払っているので連投したいが、通勤中なので、ブログで出す(笑)。

加藤治郎が、95年の評論集で、口語短歌は前衛短歌の最後のプログラム、と書いていたという。かっこいい言い方だ。

なるほど、前衛短歌は、それまでの短歌の破壊活動プログラムだったと見ることもできる。破調ではない、句割れ句跨りの定型韻律の破壊を技術的言語にして、塚本の体言による映像世界、岡井の用言による揮発性表現、寺山の偽<私性>物語、彼らによって、近代短歌は窒息し、舌を口からこぼした。

21世紀の現在のわれわれにとって短歌とは、大きく3つの流れにいるような感じがある。俵万智的、穂村弘的、枡野浩一的、な流れだ。

穂村弘は、口語短歌を完成させるために、サブカル的文脈を、現代詩っぽく使用した。ただこれは、口語短歌の完成のためであって、韻律詩を破壊するためではなかった。

それに対して、枡野浩一は、そもそも、韻律詩であることに意味を見出さず、彼は、口語短歌ではなく、散文短歌と呼ぶべきものを成立させた。

俵万智はちょっと違って、実は彼女の文語口語混交文体は、息が止まりかけていた、近代短歌の避難所となった。だから、ごく地味な日常詠は、彼女の結界がまだ健在な故であるし、近代短歌に遡る時の平坦ルートと言える。

もちろん、もっとルートは細かいし、そもそも、個人の印象です。

細かいところは各自修正いただいたところで、さあ、ではどこに身を置き、どの武器を持ち、何を破壊するか、それはあなた次第です。もちろん、すべてに属し、完全体になる夢を持つのも、不可能ではないかもしれません。

2018年5月15日火曜日

タイムラインをながめていると。

タイムラインを眺めていると、岡本真帆さんの「ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし」という短歌が流れてきて、なんだか似たような歌を作ったことがあるなあ、と思って、いると、かっしーさんがやってた付句祭りで、似たような題があったのを思い出した。

(あ、先に言っておくと、パクりパクられの話ではないし、岡本さんの方が先だし、そんなに似てない歌でした)

付句祭りの題は「#私なんかでほんとにいいの」で、まあ、これ自体、似てるっちゃ似てる。付句祭りは、付句祭りの主催者が、付句のオリジナリティを主張しているので、付句祭りの短歌は作者のものではない、というが、付句のフレーズさえも類似性が指摘されるなら、オリジナリティとは何かって話にはなる。

この付句祭りは2016年10月で、岡本さんの短歌は、ネットで調べたところ2016年6月のようだ。

照屋がこれに参加したのは、2016年10月7日で、金曜の夜、22時から23時半に、10首あげた。

「こういうのはね、明らかに『私のダメなところ』を出したらいけんのよ。ダメかどうか微妙なところを出して、『ほんとうにいいのか?』感を出さないと。あるいは、逆に、もうそれ絶対ダメだろ、というヤバいのを出して、つっこませないと」みたいな妙な使命感を出したりして、下の歌を出した。

5メートル向こうにリンゴを載せたきみ私なんかでほんとにいいの

(これは、頭に矢が刺さるな)

日常の会話もぜんぶ五七五 私なんかでほんとにいいの

(定型嫌いになりそう)

おならにはおならで返事できるけど私なんかでほんとにいいの

(お似合いのような気が)

わたしより若いとチャンネル変えるけど私なんかでほんとにいいの

(だんだんテレビ観れなくならない?)

うれしいと手品の音楽おどるけど私なんかでほんとにいいの

(オリーブの首飾り? なまめかしい)

つぶやきシローみたいな寝言いうらしい私なんかでほんとにいいの

(き、きかないで寝ればいいのよね、うん(モノマネ))

缶チューハイ2本でかよと思っちゃう私なんかでほんとにいいの

(パロディ短歌入ってますやん)

エロ広告は涼しい顔で見ています私なんかでほんとにいいの

(ま、顔に出す人あんまりいないよね)

カラオケの〆は欧陽菲菲の私なんかでほんとにいいの

(恋終わっとる)

休日は起きるまで寝るぞ同盟の私なんかでほんとにいいの

(多そうな秘密結社だ)

天久聖一が書出し小説大賞でやってたような要らんコメントをしてしまった(笑)。

で、何の話だっけ? そんな似てる作品あった? ⋯⋯なかったな。岡本さんの作品の可愛さが引き立ってしまっただけだな。

ただまあ、クエスチョンマークのあと、1字あけされてないのが少し気になるかな。


パクりパクられ警察じゃなくて、禁則警察の方かーい!


2018年5月13日日曜日

2016年04月の自選と雑感。

先日、書店で短歌雑誌をいくつかぱらぱらとめくった。目次を開いて、ふむふむこの人達が書いているのか、と、それから、文字通り、ぱらぱらとめくって、題やら短歌やら文章を目に取らせる。どの界隈もそうなので、驚くにはあたらないが、高齢化している。

正岡子規がホトトギスを創刊して、俳句運動を興し、歌よみに与ふる書を書いたのは30歳だ。子規は34で没したので、晩年といえば晩年だが、高齢ではなかった。

そういえば、短歌雑誌は、昔からの印象として、よく名前や作品を知らない、おそらく高名で高齢な方が、身辺雑記みたいな短歌連作を載せていて、「手紙でやれ」と思っていたことを懐かしく思い出す。今なら、自分のHPやブログでやれ、と思う若者もいるかもしれない。(あるいは、そんな”若者”は、もういないかもしれない)

福島泰樹が、「述志とは〜」みたいな短歌を載せていて、なんかふふっとしちゃった。


自選。

デジタル化してゆくぼくらあいまいな気持ちは消去しますか?(y/n)

ゆきやなぎの咲く石段にきみがいてシーン的には恋の場面だ

この人よりは先に死ねない人を数え幹の小枝にふとさくらばな

ユトリロの白を頭に入れようと次へ進んでまた戻るなり

焼き固めていない器を土に置きもう一度土に還るか尋ぬ

三千五百万の同胞と呼びかける明治後期の志賀の書を読む

きみのこと隣の部屋で祈りいて隣からくしゃみ聞こえるゆうべ

旅先のホテルのテレビの天気予報のいつもと違う地形の曇り

下弦過ぎて細くなりゆく月のした居場所がなくて飛びゆくからす

わが知らぬ集計データの分析でぼくはあなたのことが好きです

みな人の好きなものからはなれゆく理由を相手に見出してから

思想書のまとめて読みし時期も過ぎ日に一頁めくりて読みつ

二百年もすれば全部の入れ替わる人類よきみの悩みはなにか

息が止まるのはいいけれど止めるのはこわいと思う止められそうで

ぼくたちは快感しつつさぐりあう脊椎動物になった理由を(「快感」の題をみて)

終わりそうな関係だからやさしくて引力のもうとどかぬところ

死神と神がタバコを吸いながら戦後の命の高さをぼやく

2018年5月12日土曜日

2016年04月の61首。パロディ短歌2首。

風景は風のある景、君去りしのちのさびしき砂浜がある

デジタル化してゆくぼくらあいまいな気持ちは消去しますか?(y/n)

ゆきやなぎの咲く石段にきみがいてシーン的には恋の場面だ

この人よりは先に死ねない人を数え幹の小枝にふとさくらばな

ユトリロの白を頭に入れようと次へ進んでまた戻るなり

焼き固めていない器を土に置きもう一度土に還るか尋ぬ

現世の褒美のような桜ふり生前死後のあわいにありぬ

丸々とかわいいきみが痩せてゆく、彼に疲れて美しくなる

三千五百万の同胞と呼びかける明治後期の志賀の書を読む

ガラス玉のようにかがやくまなざしでデビットボウイは人界にいた

たとえば、暁鐘(ぎょうしょう)を乱打する生をおもう、あるいはそれを聞く生

きみのこと隣の部屋で祈りいて隣からくしゃみ聞こえるゆうべ

ルネサンス以降も描かれるイコン、かく拒まれし人間の味

ゾンビとは止まった時間のことなのにどうしてぼくは逃げているのか

イタリア人ばかり描いて文芸の復興は成る、クールイタリー

昨日まで跳びはねていて今日はもう息も荒くて同じいのちが

君といる時のポアンカレプロットが一定なので好きとは言える

おっさんが窓から外を眺めいてただそれだけでキモい、世界よ

時流という真意の見えぬ体積に押されていれば押しつつもある

旅先のホテルのテレビの天気予報のいつもと違う地形の曇り

下弦過ぎて細くなりゆく月のした居場所がなくて飛びゆくからす

わが知らぬ集計データの分析でぼくはあなたのことが好きです

天才はたとえば早さ、夭逝の歌手の歌詞いまさらにおどろく

春の午後だから光が降るように桜がかがやいてまぶしくて

人生は読み終わらない本なのでどんでん返しになるかはたまた

通過するこの特急に何度ぼくは死んで汚して引き上げられき

みな人の好きなものからはなれゆく理由を相手に見出してから

短詩系文学思うより早くAIに負け勝ち負けに醒(さ)む

目も耳も口であるのだ音楽と思想を食べて人は生きれば

このおばちゃんトルクあるなと思わせて電動である、さいばねて来す

思想書のまとめて読みし時期も過ぎ日に一頁めくりて読みつ

この語句の微妙に突き詰められてない感じはあれだ斉藤和義

妄想に勝ちぬいたという妄想が、その後美味しくいただきました

二百年もすれば全部の入れ替わる人類よきみの悩みはなにか

子供の頃父ちゃんと食べた夜鳴きそばのもやしの苦みが父と食べたし

訊かれてもない防災の豆知識を神妙に放つよかれ世界よ

息が止まるのはいいけれど止めるのはこわいと思う止められそうで

深淵をのぞき込まないきみがいて深淵はついに手を出さざりき

弁当のしそおにぎりが濡れているそれを咥えて遅い花見は

道端にポピーぽぴぽぴ、こんな歌前にもたしか作ったっけか

ぼくたちは快感しつつさぐりあう脊椎動物になった理由を(「快感」の題をみて)

キティちゃんのラッピング電車に乗る人を全員ファンとみなして愉快 

災害に人の善意がいっちょかみしたい気持ちよおさえかねつも

脅威より悪意を感ずうつしよのquakeやrainあすのわがみに

濡れている藤とわたしに春の雨ひとつは慈悲でひとつは罰で

ほんとうに黒目が穴になることがあるさ、どうにもできないけれど

公園の向こうに杜(もり)のシルエット夏蝉のSEふさわしく

最低気温と最高気温の同じ日にここは真冬の南国に立つ

軍服のフィデルはおもう、いつか敵が見えなくなっていくさも見えぬ

ネクタイに蜘蛛連れてわれは通勤しわれ驚けば蜘蛛ぴょんと去る

「この曲なに?」「パッヘルベルの」「ヘルデルの」「ベルの」「パッヘルデルのベルノの?」

呼び継ぎの小さいが目立つ模様して一部になってしまうならいい

すこし跳ねて乙女が通話する横を別の乙女が一暼し過ぐ

建物の奥へ電線伝いつつネズ公が消ゆ、奥とは異界

とても怒るぼくに夜中に起こされて昼間は我慢してたのだろう

一生分の容量くらいなる脳の君が上書きされてゆくなり

輪廻など手慣れたものよ、人間の歩道を横切ったるダンゴムシ

終わりそうな関係だからやさしくて引力のもうとどかぬところ

欲望を遠ざけながら読んでいる万葉集は欲望の歌

ネットなどしたことないとツイートしバナナはお菓子に含まれざりき

死神と神がタバコを吸いながら戦後の命の高さをぼやく


#パロディ短歌

サラリーマンが歌よむ時に世の中の新しき歌多くて怒る

「暑いな」とひとりごつれば「暑いよ」とかぶせる奴のいるむし暑さ

2018年5月5日土曜日

2018年03月うたの日自選と雑感。

古臭い考え方のようにも思うが、短歌というのは、やはり、ちょっと頑張らないと、文学にならないようなところがあるように思う。

ここでいう文学というのは、言葉で編まれた文芸表現をすべてを指すような広い意味ではなく、また、学問として学んだり教えたりするものでもなく、近代文学から、現代文学へと移り、そして、”現在”文学をとおり、文学”未来”を開くような、そういうとても狭い語りの表現だ。

だからまあ、そんな「文学」とやらは目指していないよ、という人がいるのも当然だし、文芸、ああ、文芸という言葉も定義しなきゃいけない。文芸には、文字芸術という言葉の略というより、私は文字芸能に近いニュアンスで使うことが多いが、堅苦しかったり、難しかったり、知識を前提にしたり、そういうもの以外も短歌は受け入れていることを、とてもよい特質だと思っている。

短歌というのは基本的に古い形式の詩なわけだから、古き良きものととても相性がよい。新しき悪きものと相性が悪いのだ。だから、現在にそれを使用するには、どこか構築の意志というものが必要になってくる。

何年か前、耳の聞こえない設定の音楽家が、現代音楽作曲家の手を借りていたことが話題になったが、面白かったのが、新垣隆氏は(名前出すんかい)、あの匿名性を手に入れることによって、現代音楽を作らなければならない自分が解放されて、ロマン派風の音楽を楽しく作曲出来た、というようなことを述べたことだ。

音楽は、音楽のムーブメントが過ぎると、もとに戻ることは難しい。現在において、たとえばバロック音楽の作曲家になるというのは、好事の域を超えて説得力をもつことは難しい。

短歌は、まずは定型にする楽しさ苦しさ、というのがあって、次に、定型の中で表現の幅を広げてゆく楽しさ苦しさ、というのがある。

その先は、人にもよろうが、短歌を表現として選ぶことの楽しさ苦しさ、というのがあったり、短歌を文学として構築することの苦しさ、というのがあろう(楽しさないんかい)。

次世代の短歌(単に作っている世代が次である、ということでなく)を開くのは、才能なのか、努力なのか、知なのか、量なのか、単に世代なのか、さまざまな考え方があるので、最初に書いたように、ここで書いたのは、古臭い考え方のひとつだと思う。わたし自身、構築ということをいま敢えてやろうとはしていないところがある。

ところで、ゴールデン・ウィークは、けっこう食べてしまっている。運動というのを、やはり、ちょっと頑張らないと、習慣にならないようなところがあるように思う。

  浜松を過ぎてもそれを待つだろう旅の終わりはわりあい早いのに  沙流堂

自選。

「暖」
思想ひとつ暖まりゆく夜の二階、屋根を跳ねゆく春の生き物

「マーク」
分からないマークシートを適当に塗りつぶす時の力で抱(いだ)く

「列」
約束はまだまもられて列島にまぶされてゆく春のパウダー

「いろは」
ことのははかつて「いろ」からよみあげていまも「あい」からはじまるものを

「垂」
画面上から何かが垂れてくるようなゲームオーバーみたいな眠り

「蜂」
プログラムみたいな生を生きてらと菜の花畑を去りて一蜂

「雲」
文学の秘密が次の瞬間に出そうで出ない先生と雲

「才」
最初から才能なんてないんだよそれから最近肉焼いてない

「欠」
せとものの白い欠片が埋まりたる空き地にいけばよく君がいた

「穴」
もうひとつの穴なんですよ、もうひとつの穴なんですか、しげしげとみる

「襟」
なにもない春なんですがきょうきみの襟のあたりにひかりがあって

2018年03月うたの日自作品31首。

「暖」
思想ひとつ暖まりゆく夜の二階、屋根を跳ねゆく春の生き物

「染」
太陽がひとつしかない場所だからきみも染まってしまう夕焼け

「耳」
この耳が一部始終を聞いていた別れたあとのぶひひぶふずび

「マーク」
分からないマークシートを適当に塗りつぶす時の力で抱(いだ)く

「列」
約束はまだまもられて列島にまぶされてゆく春のパウダー

「いろは」
ことのははかつて「いろ」からよみあげていまも「あい」からはじまるものを

「枚」
デスクトップにそんな私を貼るなんて奇跡の一枚あるんですけど

「せっかち」
ブリンカーがかちかち動くライフゲームせっかちなまでの増殖退(ひ)けば

「何」
サインカーブのように輪廻をくり返し何の理由でまた君と会う

「自由詠」
テレビ通話にしているけれど母親の耳ばかり見て話すやさしく

「ぶどう」
義母と飲むジュースのようにあまあまのワインというよりぶどう酒を飲む

「垂」
画面上から何かが垂れてくるようなゲームオーバーみたいな眠り

「蜂」
プログラムみたいな生を生きてらと菜の花畑を去りて一蜂

「24時間」
それがあと24時間だとしたら会いにはいかぬがどうぞ達者で

「雲」
文学の秘密が次の瞬間に出そうで出ない先生と雲

「亜麻色」
百発百中死ぬ身にあれば恥ずかしいことなどない!(ある)亜麻色にする

「忖度」
自然界になんの忖度されながらヒトぞろぞろと春をうごめく

「コップ」
目の前のコップの中の水だけが揺れてるシネマグラフのわたし

「デニム」
きょう街で君に似ている人がいてブログのタイトルには「春デニム」

「才」
最初から才能なんてないんだよそれから最近肉焼いてない

「欠」
せとものの白い欠片が埋まりたる空き地にいけばよく君がいた

「穴」
もうひとつの穴なんですよ、もうひとつの穴なんですか、しげしげとみる

「キッチン」
ネガティブなこころが今日もキッチンで美味しい味にしかしするのよ

「襟」
なにもない春なんですがきょうきみの襟のあたりにひかりがあって

「ほどく」
怒られてほどけて落ちたひも状のそれらをかき集めて戻りたり

「苗」
新しい知識がきみに入るとき若苗色のその好奇心

「私」
ふたたびに国家主義だな私心なきリーダーもまた推し進めゆく

「構」
時間で起きて外で何事かを動き時間が立てば帰る構造体

「船」
あるじ落ちて船は自由を手に入れたぷかぷか自由また会いたいな

「浸」
人類愛が前世紀より薄味の煮浸しはゆつくり食べませう

「4時」
不可逆の悲しい夢で目が覚めてせっかくなのでもう起きる4時