2017年12月16日土曜日

2017年11月うたの日自選と雑感。

今年も2週間ほどになって、来年はなにをしようかなーなどとぼんやり考えてみる。来年のことを言えば鬼が笑うというが、それは何月くらいの話だろうか。

まだ特にはっきり固まっているようなものはない。

先月のうたの日は、なんとなく、自分の前日の歌から「いちごつみ」しながら作ろうとしていたのだが、あらためて見ると、一語を摘めてなかったのもところどころある。

いちごつみは、いい企画だよね。ただ、マッチングをランダムにしてくれるようなページがあると、登録して、え~この人とかよ、というのも面白いかもしれない。え~この人側のような気がするけど(笑)。

自選。

「意味」
もう中年ラスコリニコフに意味を問う詩のような目の斧もつ少女

「医」
「この中に」(医者か?)「詩人はいませんか?」「歌人でしたら」「歌人は、ちょっと」

「性」
参考になるものですか二足歩行の一過性なる文明なんて

「火曜日」
なにごともない火曜日の男、窓の南天の実が揺れぬのを見つ

「ブレーキ」
踏んだのはブレーキだった、綾鷹を買って一つの終わり宣言


2017年12月9日土曜日

2017年11月のうたの日の自作品30首。

「入」
ブリューゲルの村の踊りに入りぬれば君かもしれぬ村娘いて

「いい」
娘にはいいことがあれ、おっさんはそうだな詩心(しごころ)など持てばいい

「意味」
もう中年ラスコリニコフに意味を問う詩のような目の斧もつ少女

「医」
「この中に」(医者か?)「詩人はいませんか?」「歌人でしたら」「歌人は、ちょっと」

「再」
うたびとの声がふたたび戻るまで話題の若手の話NG

「擬音」
建設の槌音ダダダこれは壁完成したらもう戻らない

「ブックカバー」
裏返したブックカバーの参考書もうきみはここに飽きたのだろう

「性」
参考になるものですか二足歩行の一過性なる文明なんて

「レンガ」
きみの名の列火(れんが)の部分が燃えている文明もときに欲しがる野蛮

「自由詠」
ゆらゆらの長き焔(ほむら)に守られていな塞がれて現在のあり

「穴」
白鳥の穴場であったこの池も現在は長い目が追いかける

「ギリギリ」
腐っても鯛と男は呟いてギリギリ腐りながら長旅

「僕」
歴史上に名前がのぼったことがない僕の先祖の半分が男

「火曜日」
なにごともない火曜日の男、窓の南天の実が揺れぬのを見つ

「弓」
実際に突然ラブストーリーあらばかく弓なりの小田和正よ

「黄」
家の窓を黄色に塗ったさっきの子が抱えるストーリーが気になる

「杖」
玄関にニスつややかに塗られたる杖ありあるじを待つにあらねど

「チャンス」
誰もいない今がチャンスと角を曲がる監視カメラがさあ待っている

「馴」
からころも来つつ馴れにし君にあればカメラ越しには見知らぬ美人

「アレルギー」
守りたきつよき願いに苛まれ闇に逢いつつわが美男美女

「赤ちゃん言葉」
秋ゆえの無闇矢鱈の寂しさを寒さにすり替え生きており、ばぶ

「品」
要するに人畜無害、交替が宣言されても上品に笑み

「ブレーキ」
踏んだのはブレーキだった、綾鷹を買って一つの終わり宣言

「つむじ」
終わってもつむじの向きで伸びるだろう、もちろん髪があればではある

「待」
寝て待って待てど暮らせど果報とは縁遠いのに南向きの部屋

「凸」
男嫌いのきみのなかではぼくもただの凸なんだろう、遠すぎだ春

「ドレス」
華やかで嫌いなドレス着せられて幸せそうな笑顔じゃないの

「大学」
大学で汚れたんです幸せをシャーペンでカリカリガリガリと

「渦」
愛憎は渦なして減る、浴槽の湯が抜けたあとふやけた汚れ

「蔓」
鏡から蔓草伸びてくるほどにミュシャ的美人でふやけたニート

2017年12月6日水曜日

野いちごをつむ。〜kana と 照屋沙流堂

計画なくタイムラインの野いちごをつむ。巻き込まれてしまったのは、うたの日の詠草をツイートしたkana(@kana56753212)さん。

1 ティラミスの苦味沁み込むスポンジもスイーツとして括られるなら  『 シミ 』夏凪

2 フィレンツェ人(フィオレンティーナ)のティラミスでかしA4サイズの四角たちまちかたちうしなう  沙流堂

3 つまらない安心感が欲しいのか四角いケーキを三角に切る  夏凪

4 安心・安全でないのに舌をつけたのはそれは甘いと思ったのです  沙流堂

5 君のことなんでも知ってるはずだった。甘いみかんが嫌いだなんて  夏凪

6 南向きの斜面を灯しみかん畑、だいたいだいだい色のふるさと  沙流堂

7 クリスマス仕様に灯し幸せの外付け(アピール)なんて必要ですか  夏凪

8 クリスマス、老人を窓にぶら下げて光らせもする、そういうmerry  沙流堂

9 言うならばチョコあ〜んぱんカスタード味 そういうことに慣れてないだけ  夏凪

10 あんぱんをあ~んしていただろう犯人は裏口から逃げた  沙流堂

11 々とのちのマークの違い未だにわからずに曇りと雨で  夏凪

12 君に会う、うれしいときは「のち」にするかなしいときは「時々」にする  沙流堂

13 うれしい尻尾をふって出迎える愛し方しか知りたくなかった  夏凪

14 この尻尾くわえて吸えば甘いので生えても生えても与えるよ愛  沙流堂

15 いつのまに六歳臼歯が生えてもうおサルの君は人間ですね  夏凪

2017年12月6日 

kanaさん、ありがとうございました。

2017年12月3日日曜日

2015年11月の自選と雑感。

現在のこのブログは、2年前の作品と、先月のうたの日の作品をまとめながら、適当に雑感を述べているのですが、それをはじめたのが、この2015年11月からのようです。
そして、このブログで自選しているものを、ボットに流しているのですが、電子書籍にしやすいフォーマットとかがあったら、編集してもよいのかなーと、ぼんやり思ったり。

こないだ、短歌連作はどのくらいの量なら一気に読めるのか、と考えると、最大で20首くらいじゃないか、という結論が一旦出た。一首に3分咀嚼をかけると、10首で30分だ。20首で、一時間だ。20首を一時間かけて読むというのは、けっこうヘロヘロだ。

だから、連作を作る時は、まず、その作品を何分かけて読んで欲しいかを決めて、それから密度と歌数を決めるのも手なんじゃないか。

そのように考えると、一冊の歌集って、もっと歌の数が少なくてもよいのかもしれない。


あ、それから、2年前のこの月に、東京文フリに出かけたようだ。しかし、文フリのつぶやきは2ツイートのみ。そりゃそうだ。誰も知り合いがいなかったのだから。

自選。

本棚の上に積まれているだろうカラフルなあのAKIRAは今も

文学青年そのまま文学中年になることもあり忌むものとして

死ぬときの準備のような歌ばかりであったといつも後で知るのだ

法則によって落ちたる葉を見つつ感傷的になるのも物理

人の死ぬニュースにざらり、つまりもうその人のいない世界のはなし

「ますように」を使ってぼくも敬虔な人と思ってくれますように

USBに入った君の魂を水没させて狂う夢みき

われと君とひとつの画面にいることの上には瑞雲たなびいていよ

発揮せぬ才能いくつ手放してこの飼い主としあわせに生く

シンギュラリティもう川岸に、最期まで手をつなぐことを静かに誓う

父ちゃんが遊んでくれてしあわせが我慢できずに笑う子を見つ

人生の予想は尽きて押しつぶした薄いレモンを唐揚げと食(た)ぶ

変わりゆく画家の筆致よ、どうしてもいつまでもここにいてはならぬか

金魚鉢の中にいるゆえ水換えはぼくに可能なことにはあらず

いいねボタンといいねえボタンのいずれかを押さねばならず悩む夢かよ

何だっけ砂糖油あげみたいなあの沖縄のドーナツみたいの

2015年11月の60首とパロディ短歌1首。

科学にてせばまっていく世界へのモザイク、男は見たき生き物

本棚の上に積まれているだろうカラフルなあのAKIRAは今も

若くしての才能の訃を聴きながら若からぬわれの意味までにじむ

文学青年そのまま文学中年になることもあり忌むものとして

内海のこの砂浜はゆっくりと平らなる波の洗浄を待つ

静寂の音をしじまと呼ぶのって耳がいいよね、柿まだ食べる?

才能はあろうなかろうカローラに乗りし男を選んだきみは

選びしは自分だからかこの場所をのこのこ歩く因果のように

死ぬときの準備のような歌ばかりであったといつも後で知るのだ

法則によって落ちたる葉を見つつ感傷的になるのも物理

足元に着かず降り立つすずめらの、めらめ、めめらめ、独善(どくぜん)の寂(じゃく)

コンピュータゲームが盛り上がるころに干渉したりペリュトン=レンジ

人の死ぬニュースにざらり、つまりもうその人のいない世界のはなし

水星にぼくは棲むんだ、緑色の太陽と黒い空の真下で

もしかしてこの人生はところてんの材料までの満員電車

薄暗い公園のベンチみておれば人がいてちょっと驚きすぎた

てんぷらの黄色い匂いする路地をその家の子のようによろこぶ

毛玉とか猫を呼びつつ猫も猫で父のあぐらに乗りて丸まる

現実を誤魔化すために現実を歌うのもあり、われ歌われて

萌え絵など坊主が屏風に描くだろう狂気が病気になりし時代に

「ますように」を使ってぼくも敬虔な人と思ってくれますように

気がつけば世界はしじまに満ちていて音楽よりもうるさきほどに

きつね冷やしたぬきも冷やし河童(かわらわ)は巻く、親の身は子どもで閉じる

USBに入った君の魂を水没させて狂う夢みき

現代の危機嬉々として語りたる喫茶店にも伏兵潜む

いい人と思うからこそ騙されてつまり詐欺師はいい人である

ラーメンを待つ間(ま)クリックされざりし命をおもう、そしてラーメン

排便の感触を記録する男今日のはニュルンベルクとか云うな

7の字のかたちの老夫、横になれば1を倒したかたちとなるか

われと君とひとつの画面にいることの上には瑞雲たなびいていよ

発揮せぬ才能いくつ手放してこの飼い主としあわせに生く

赤白黒の三色(みいろ)に女をこしらえてその残りたる色で男は

シンギュラリティもう川岸に、最期まで手をつなぐことを静かに誓う

作品は完成したることもあり作者の生が不要なほどの

雑居ビルに生のほとんどいたりける男死すれば雑居居士と書かれき

男数人女一人で飯に行く景色よくあるものとして見つ

かまぼこのような若さの味がしてひらくとは少し死んでいくこと

昭和期に活躍したる先生のその無茶苦茶な修行慕(した)わし

職場にてモランの孤独をあしばやに語っておりぬ、わりと重めの

月かげにましろき猫がたたずんであわれむように人を見るなり

前世紀熱線照射実験でハラキリ虫はのたうちまわる

つけっぱなしの電気の文句言うために階段をのぼる、上乗せしつつ

下北の下は南でないのかと口にせずただ突風ひとつ

ビーバーの絵に似てるのはつぶらなる目もだが青きひげの剃りあと

天才に許されている放埒のほうのあたりで時間みていき

父ちゃんが遊んでくれてしあわせが我慢できずに笑う子を見つ

ワインにて前後の不覚あやしくて恋であったということにして

ポロネーゼ食いつつショパンのポロネーズ聴くベタにして夕(ゆう)べ、祝日

人生の予想は尽きて押しつぶした薄いレモンを唐揚げと食(た)ぶ

変わりゆく画家の筆致よ、どうしてもいつまでもここにいてはならぬか

金魚鉢の中にいるゆえ水換えはぼくに可能なことにはあらず

お笑いの小ネタのように埋立地のビル群は地震でおんなじ揺れる

雨のビームがぼくのからだに降りそそぎ穴だらけなるままに帰りき

いいねボタンといいねえボタンのいずれかを押さねばならず悩む夢かよ

武器を持って戦う権利奪い終え君の燃えたる目を味わえり

ええいもう忘れてしまえ脳内から耳かきでかゆく出してしまいたき

何だっけ相当あったけーみたいなあの沖縄のドーナツみたいの

何だっけ砂糖油あげみたいなあの沖縄のドーナツみたいの

ブラックホールを絵図で説明するときのグラフの深いくぼみ見おろす

清流が心のなかにありますと云われてそれが雫となりぬ


パロディ短歌

マッチ擦るつかのま海に霧ふかし吸い殻捨つる灰皿ありや

2017年12月2日土曜日

2017年10月うたの日自選と雑感。

今年も残りひと月となりましたが、ま、12月というのはおまけのようなものとして、のんびりまいりましょう。

このところ、ツイッターでは、「名刺代わりの自選3首」というタグがあって、みなさん、自選の3首を挙げておられます。で、どれもみな、非常にいい作品で、これはちょっと重要な事実なんじゃないかと考えています。

というのも、歴史上から現在までの歌人を並べても、有名な歌人といっても、数首の名作があれば、それはもう立派な歌人じゃないかと思うわけです。逆に10首以上そらんじる作品を作った歌人なんて、どれだけいるのかとも思います。まあ、私は全然短歌を、自他ともに覚えていないのですが。

万葉集には、その歌一首だけで、名前が残っている人もいますからね。それ以外、まったく何もわからない人。いや、そんなことを言えば、詠み人知らずは、名前もわからない。

短歌は、どういう形になりたがっているのだろうか。

自選など。

「四面楚歌」
虞や虞やときみにしなだれかかってももうすぐドラマが始まる時間

「勢」
うれしさを勢いに代え散歩前につい噛みついて怒られて犬

「ホーホーホッホー」
この仕事ホーホーホッホー続けてもきみのおとうさホーホーホッホー

「やばい」
みんなには内緒やけどな魔貫光殺砲ウチな、ちょっと出るねん

「麦」
麦を食う生き物のいない惑星で麦はもの憂げなる繁茂せり

「ペン」
痛いところをそのペン先は突いてくるもうひと突きで赤いのが出る

「そこから1300m向こうの歌」
年の差が七光年もあるからねこんな距離なら平気で歩く

「メロン」
お見舞いのメロンの周りのキラキラの紙そうめんを姪っ子にあげる

「胃」
口論の勝利のあとも怯えてる胃袋にさ湯、言い過ぎたかも

2017年12月1日金曜日

2017年10月うたの日の自作品31首。

「ドングリ」
新しい話でなくていいですよ「ドングリとドングラ」なんてちょっと気になる

「街」
かつて住んだ街が新たに栄えいてわれの歩むは追憶の街

「島」
手紙には「心は君と共にある」、孤島の鬼になりきれぬのだ

「老」
昔話ではない玉手箱がありもう一つ目は開けてしまった

「四面楚歌」
虞や虞やときみにしなだれかかってももうすぐドラマが始まる時間

「菱」
洋梨のような香りの日本酒は「見返り美人」に房総を酔う

「勢」
うれしさを勢いに代え散歩前につい噛みついて怒られて犬

「ホーホーホッホー」
この仕事ホーホーホッホー続けてもきみのおとうさホーホーホッホー

「秒」
にじゅうびょう、いち、に、後手「今度箱根の星野リゾートはどう?」

「自由詠」
スイッチが目の前にある切り替わるのが何か知らないのに押してみる

「やばい」
みんなには内緒やけどな魔貫光殺砲ウチな、ちょっと出るねん

「肩」
肩で押されて彼女に話しかけたのだそのスマホいい割れ方だねえ

「麦」
麦を食う生き物のいない惑星で麦はもの憂げなる繁茂せり

「ペン」
痛いところをそのペン先は突いてくるもうひと突きで赤いのが出る

「好きなおかず」
マルシンのハンバーグがあればいいと言う改めて食べて、変わらぬ味だ

「顔色」
これからも顔色をうかがいながら生きてけそうな公約をさがす

「従」
「⋯⋯従って私はきみが好きである」「わたしはそういうところが、ゴメン」

「豊」
アウェーって呼ぶ前はなんて言ったっけ? 日産ディーラー豊田市支店

「応」
「応答セヨ。イシヤキイモからモンブラン。帰宅」「了解。ザッ。ショウガヤキ」

「布」
仕えたる楽しき記憶過去として董卓を己が手で刺して呂布

「そこから1300m向こうの歌」
年の差が七光年もあるからねこんな距離なら平気で歩く

「メロン」
お見舞いのメロンの周りのキラキラの紙そうめんを姪っ子にあげる

「芋煮会」
寒き日の河川敷にてあたたかき湯気の醤油(か味噌)の香うれし

「情熱」
失ってからが情熱、武蔵野の林をあるく泣いてはいない

「アロエ」
来世にはアロエになるのも悪くない有用性もほどほどにして

「冴」
水鏡のおもて冴え冴えしき朝の冴えない顔よ、あしたもそうか

「喪」
神さまの子どもぴょんぴょん楽しげに数えておりぬ喪ったものを

「胃」
口論の勝利のあとも怯えてる胃袋にさ湯、言い過ぎたかも

「踊」
人間は踊りながらは泣けないからやってみたら? ってやると思うか

「天使」
ブランコで天使の悩みを聞いている絵としてはオレの方がやばいが

「変」
いつからか変な感じの自分対自分の環境、行くか逃げるか

2017年11月24日金曜日

2015年10月の作品と雑感。

昨日は東京文学フリマがありまして、ふだんツイッターのタイムラインで拝見している方が、本当に実在するのか、AIではないのか、確かめるために行きました。そして、本当にゴーストをコピーした擬体でないのか、虹彩まで確認して、その実在を確認しました。(もちろん、私自身が水槽に沈められた脳であることを否定することは出来ていないのですが)

という冗談はともかく、多くの方にお会いできて、うれしかった。そしてみなさん、いろんな活動をされていて、凄いことだと思うのです。

短歌名刺からはじまって、フリーペーパー、ネットプリント、冊子、そしてまあ、歌集というのがあるのですが、自分もなにかやったほうが良かったような気になります。

これは以前もツイートしたことがありますが、ネットというのは、あるいはブログ、HPというのは、本質的には、電子書籍と同じ、いやそのものだと私は考えていて、ツイッターというマイクロブログを、表現の場に選んでいました。

ところが、やはり、ツイッターは、本当に大事なことを書く場所ではない、と考えている方は、多いようにも思います。それもわからないでもありません。

たとえば、本に嗜好的に趣味がある方は、活版印刷の本を喜んで、指で字をなぞり、その凸凹を愛でます。しかし、活版印刷しかなかった時代には、その凸凹は職人の下手さを示すものであり、いかに凸凹させないで印刷するかが、職人の腕であったのですが、皮肉なことに、その下手な凸凹こそが、愛でられたりすることになっています。

短歌もきっとそうで、歌集に載っていそうな短歌が、短歌然としている短歌で、ツイッターに流れている短歌なんて、本式の、正式な、純粋な、短歌ではない。どこかでそんな気持ちがあるのは、わりと誰もが持っているかもしれない。

それは、活版印刷の凸凹で、本当にないのだろうか。

名刺代わりの歌集が欲しい時もある説明しがたきおのれにあれば  沙流堂

2015年10月の自選など。

ルナティックなんだからこれはしょうがない詩を作ったり電話をしたり

同じ場所で違う時間を歩く君と笑顔を交わす、笑顔だよな

チャタテムシを三匹爪で潰しいき、長き寿命を説く経の上(え)に

ループする母の会話にスタンド使いならざる我は敵見つけえず

ぬるぬるん、ぶどうを口に入れながらふたりはいつか飲み込む機械

やや雑に犬は頭を叩かれて飼い主の知人なれば許しき

子の首に薬を塗っている母のごく手慣れたる祈りのごとし

食べたあと可能な限りすぐ横に寝転がるのに牛になれない

好きだった娘もかあちゃんになっていてその大きなる尻ぞ善きかな

いきものの多くが生きるか死ぬか死ぬ寒さの冬がくる、冬がくる

殴られて地にうつ伏せて土を噛むこれは放線菌のにおいだ

お別れは悲しいけれど悲しさに側坐核ふるえることも知る

昼飯は会社の外は明るくて小雨、ぱらつくチャーハンにする

モアイみたいな蓋付き便所怖かりしばあちゃんの家の跡地、コンビニ

掌(て)のなかのいのちに承認されていてわれ顔のある樹木のごとし

懐かしくブーニンを聴く音楽が亡命に至るわかき時代の

さわやかな10月の夜歩きつつ話したいけどあかるくひとり

父方の実家の庭になっていたサザンキョウなど飢えの備えの

台形の土地にある家壊されてまた台形の家が建ちゆく

パロディ短歌

とつぷりと真水を抱きてしづみゆく鳥人間を近江に見をり





2015年10月の62首とパロディ短歌1首。

あの月へわれらはかつて行きしとう無人の宇宙うすうす知りつ

ルナティックなんだからこれはしょうがない詩を作ったり電話をしたり

激励はできぬ世界の解釈を少しずらして微笑むばかり

寝室に月の光ぞ、水の底のふるさとの家に触れえぬごとし

同じ場所で違う時間を歩く君と笑顔を交わす、笑顔だよな

チャタテムシを三匹爪で潰しいき、長き寿命を説く経の上(え)に

ループする母の会話にスタンド使いならざる我は敵見つけえず

ぬるぬるん、ぶどうを口に入れながらふたりはいつか飲み込む機械

半世紀も生きておらぬに酒飲んで酔うだけで語る人生ワロス

最期まで希望に胸をふくらませ明るく滅ぶ思想をおもう

生き物がおんなのように寝ておりぬわがとろけつつ起きあがるとき

ヒトなるはいのちの不思議を思いつつでもその不思議をやめたがりする

飼い主と首のロープで繋がって皮肉でなくて幸せな犬

要するに死後も評価をされてないゴッホみたいなことか、キツいな

見られないまま柔らかく死んでいく観葉の鉢、世界が包む

やや雑に犬は頭を叩かれて飼い主の知人なれば許しき

君の上の雨雲のためだいたいは濡れているのだ寒そうなのだ

excelの図形で作るジャックオーランタンの顔、仕事に戻る

子の首に薬を塗っている母のごく手慣れたる祈りのごとし

変な味のお菓子を無理に分けあって嫌がるのも罵しるのも、うれし

格言と歌は似ていて署名込みで読むものだよね 照屋沙流堂

飛行機が現れるまで何と呼ぶ、くぼみもつ紙のしみじみと飛ぶ

夢の中でまたあの猫がやってきて当然のように布団に入り来

食べたあと可能な限りすぐ横に寝転がるのに牛になれない

人生にいつでも眠いままだからすぐ夢をみる、その眠りまで

ワレワレハ宇宙人デスっていうんだよ、電車で弟に話す姉

世の中のかなしみをすべて背負いたる戦いも顔もやめても昏し

風情とはたしかにそうで壊れゆく破壊の音として枯葉ふむ

我が足に踏まれかけたる丸虫のお前は昨日と同じかまさか

バッハ聴いて眠るつもりが時折に彼がもらせる呻きに冴える

ハリボテの街並みの裏を通りぬけ待ち伏せてわれに素知らぬ猫よ

好きだった娘もかあちゃんになっていてその大きなる尻ぞ善きかな

コーヒーをコヒと略した伝票が落ちている、落ちているコヒの1

いきものの多くが生きるか死ぬか死ぬ寒さの冬がくる、冬がくる

殴られて地にうつ伏せて土を噛むこれは放線菌のにおいだ

被害者か加害者か読めぬドラマ観つつ菓子こぼすボロボロウロボロス

眠るわれを無数の蟻に齧られて泡立つように還元をせよ

伏せたまま我慢したまま眉をあげ君を見上げる幸福な犬

万年の二位も天才だと思う二番目という意味ではなくて

お別れは悲しいけれど悲しさに側坐核ふるえることも知る

冗談はそれと知るまでそうだとは分からないのだ、まだ生きている

レーティングのかかった世界で終わりたる人生はよし、オレまで頼む

昼飯は会社の外は明るくて小雨、ぱらつくチャーハンにする

モアイみたいな蓋付き便所怖かりしばあちゃんの家の跡地、コンビニ

掌(て)のなかのいのちに承認されていてわれ顔のある樹木のごとし

公園のベンチにわれと蝶といてだれもわれらをみつめてならぬ

懐かしくブーニンを聴く音楽が亡命に至るわかき時代の

枯れ尾花を正体と思いいたりしが霊より怖き笑顔となりぬ

ベッドタウンの昼下がり人も音もなく明るくてまるでわが無き世界

思うより深かったよと遠浅のはなしとちがう海を戻り来

じじいばばあの聴くものとしてうら若きこのイケメンはショパンを挙げる

表現が人生の先を越してゆきそういうときは別の路地えらぶ

明るさを置かねばならぬ生きることの本質がたぶん歓喜であれば

関係も成住壊空(じょうじゅうえくう)することを壊れはじめてからいつも知る

水底のお前はいまだ知らざらん魚とワシとのかけひきである

さわやかな10月の夜歩きつつ話したいけどあかるくひとり

父方の実家の庭になっていたサザンキョウなど飢えの備えの

差し歯のあと神経に刺す痛みありて歯ぐきを揉んでより痛み増す

ふるさとの少しくクセのある酒でレキントギター聴きながら酔う

彼はまだ読者のおらぬ小説を書いておのれを恃むだろうか

本能を発揮しながら、散歩中の飼い犬は鼻を這わせて進む

台形の土地にある家壊されてまた台形の家が建ちゆく


パロディ短歌

とつぷりと真水を抱きてしづみゆく鳥人間を近江に見をり

2017年11月4日土曜日

#いちごショート20tanka 〜織紙千鶴と照屋沙流堂

2017年10月26日から、11月4日までの、#いちごショート20tanka がつめましたので、どうぞご賞味くださいませ。

お相手は、織紙千鶴(@marchan_0214)さん。

1 群雀の一されど疲れれば白を隠してしばしのねむり  沙流堂

2 落つことのない群雀 囀ればに連れて行ってはくれぬか  織紙千鶴

3 大地からいろいろな色が湧き出してってなんだろうねえおじいちゃん  沙流堂

4 あなたから眠る大地の音を聞くこんな、たくさん揺すってもまだ  織紙千鶴

5 揺すったらどっぷんどっぷん悲しみを沸かして入ればなんかたのしい  沙流堂

6 どっぷんとぷ、ん ぎりぎりで落ちたを忘れないでね(さみしいよ、ぷん)  織紙千鶴

7 逆回しのスーパースローでらはきみの(はだえ)に還らんとする  沙流堂

8 誰もみな遡らんとするあなたのをまた、すくえない  織紙千鶴

9 みぎはひだりは川の通学路自転車でもう6年駆けた  沙流堂

10 制服の駆けていくまでに終わったみちひき、君は濡れてもきれい  織紙千鶴

11 暗い朝あるいは明るい夜のような不安定さがあなたのきれい  沙流堂

12 の指あるいは春のなで肩を触らないままわかった、つもり  織紙千鶴

13 旧駅舎の待合室のストーブの湿ったあたたかさをと呼ぶ  沙流堂

14 ぽかぽかの待合室すぎてタが呼ばれるまで肩を貸す  織紙千鶴

15 大な自由な未来目指しつつ決められたレール走れ鈍行  沙流堂

16 あかときの忙しない心臓乗せて鈍行は駅のたびに停まった  織紙千鶴

17 舌見せてからかっているこの舌は心拍高き心臓の赤  沙流堂

18 心臓の末端絡み合わせれば名も無きままに濡れ烏鳴く  織紙千鶴

19 引越しの終わりのようにからっぽの名も無き気持ちに満ちて祝日  沙流堂

20 からっぽの心のままに流されて角なきことを沙(すな)と呼ばれる  織紙千鶴

2017年11月4日

織紙千鶴さん、ありがとうございました!

2017年10月20日金曜日

伏屋なお作品評

「うたの日」の128首から、20首選ばせていただきました。


飛行機が空を切り裂く真夜中に屁が出て終わる僕らのケンカ
  
  上の句の描写の、修復不能な破滅を思わせる裂け目から、屁。力の抜け具合がステキだ。

街で遭う二オイに恋と知らされて煙草の灰で君が出来てゆく

  特撮の映像のように、香りで出来た君が立ち現れるさまが見える。

門限が近づく夜のバス停で送ってと言えずコスモスの花

  この物語感はおそらく作者の得意技だ。心地よい風景。

deleteをしようとしてるだけなのに改行ばかり押すiPad

  あの先に進めず何回も同じことやる感じ。わかる!(笑)

散る前に私に咲いてくれたのね姿見に映るノウゼンカズラ

  植物との距離と気持ちのバランスがいいと思う。鏡越しなんだよね。

あまりにも不出来な味のみそ汁も許してくれる菜園の土

  この作者は、文をつなげるのではなく、語を配置するタイプなのかもしれない。結句の小ジャンプが心地よいのよね。そして内容のすごくいい歌だと思う。

教室のどっちにいても彼を追い僕の近くで揺れる天使の輪

  むこうの彼と、それを見る彼女と、自分。でも、誰が誰を好きな設定にしても、彼女の髪が揺れているだけで物語が成立している。コレイイナしたかも。

賛美歌の美しさから溢れ出す頬になみだの熱懐かしく

  この歌は「懐かしく」がやはり良くて、今と当時のあいだに”そうでない時期”があるわけで、それを想起させる構造になっている。決して奇抜な言葉は使わないが、品があると思う。  

お互いが屋根であることに気が付いて共に暮らし始めた「屋根の日」

  実際にある屋根の日でなく、自分たちの屋根の日なわけで、その理由も、記念日名称も、ただごと感があって面白い。

最後の日 配置替えでここを去る友とコーヒー飲んだコンビニ

  ああ、この作者の、力が入りそうなところで、スッと力を抜くのが、熱でなく辺りの暗さでひかるホタルのような一首のよさを生み出しているんだ、と思う。コンビニの安くてうまいコーヒーで、でも友との別れ。

「泣かんどき」頬に手を当て微笑んで遺言までも父親だった

  平易で、まっすぐなものをうたうことは、何周かする心境の波のようなものがあって、揶揄するのも、開き直るのもよくなくて、作者は、このあたりの感覚が、優しいんだと思う。

毒親と不意に呼ばれた細道で濡れ衣だよね毛虫の卵

  これもいい歌で、だれも、自分だけは自分をそうは思っていない、つまり、誰かを指す(刺す?)ときだけに使う言葉というものがあって、「毒親」って、そういう語だ。それを呼ばれた側の視点で詠むところに、作者の世界観がある。

茶柱が偶然に立つ趣をアトランティスの古都に触れつつ

  これは茶柱とアトランティスの距離感が面白い。関係なかろうが、古代都市って、建物の柱だけが残ってたりして、この”柱連想”でなんかつながる。

遠足の弁当に添う母の手紙うれしさの中隠れて読んだ

  不思議な歌だ。これはもうシチュエーションの情報が足りない。足りないが、絵として出来上がっている。

マッコリの生成(きな)りの色に白無垢を見つけて欲しくてゆっくりと注ぐ

  韓国では、男は三つの白に惚れる、という話があるが、そのひとつがマッコリで、それに、和装の語である白無垢を持ってくるのが面白い。

幸福駅行きの切符を渡されて君のはあるか訊くのがこわい

  コレイイナしたかも。君がいなくても幸福には行けるんよね、幸福行きだから。でも、こわいという感情。

似顔絵師が描(か)いた私の特徴に顔で笑って心で泣いて

  あれなあ(笑)。どんな人も醜い人間に描く似顔絵術って、あれ、なんだろうね(笑)。

箪笥(たんす)の裏から出てきたビー玉がここでの日々をシネマに変えた

  この歌のような、短歌を映像化する技術は、ずば抜けていると思う。別の表現のベースをもってらっしゃるのかもしれない。

湯治場の真白き乳(むね)を見せ居りぬ少女は街で夢二を纏(まと)う

  短冊にしてもよいような美しい歌。

祝事(ほぎごと)やしずしず歩くしじら織瓶覗(かめのぞ)き色の君に見惚れて

  この20首選は逆時系列なので、2017年03月から10月までの作品なのだが、初期における語の選択は豊潤で、この半年で、戦略としてその傾向は減らしているのだと思いますが、ここはなかなか難しい話になりますが、うたの日とは別のところででも、維持をされていればいいなあと私は勝手に一読者として思います。これはきわめて現在の話なので、誰も正解がない話のように感じています。

以上、20首選からの、コメントの、だんだん私的な便りになってる感じの、伏屋なお作品評でした。

2017年10月16日月曜日

#いちごショート20tanka 〜短歌ティータイム

ominari-shinyaさんがはじめた#いちごつみ200tankaにのっかって、20首のいちごつみ、#いちごショート20tankaをやってみました。

お相手は、Sachikaさん。Sachikaさんは、幸香さんなので、「香」をいちごつみ。

1  追憶になるころやっと気がついたずっとっていたのはあなた  沙流堂

2  もうちょっと長く一緒にいられたらずっとになったかもしれなく  Sachika

3  この長くゆれる吊り橋の真ん中で引き返すのもいやだ人生  沙流堂

4  どうせなら吊り橋効果に掛けてみる好きにならないならばそれまで  Sachika

5  効果的な運動なりや、昼食後を寝てたら鬼に追われて逃げる  沙流堂

6  牛になどなるくらいなら追われたし行き着く先が地獄であれど  Sachika

7  地獄行き特急電車、人身事故で遅延しているわれの結末  沙流堂

8  月曜日人身事故影響で明日へ繋がる命がひとつ  Sachika

9  目が合うとにこっと笑う影響は母からという、かわゆき遺伝  沙流堂

10 遺伝子に組み込まれたのはに似た人が好みという変なとこ  Sachika

11 おさん、生きてる時は許せないことも多くて⋯⋯まだムカつくわ  沙流堂

12 ムカつく。と言われたこともあったっけ……反抗期だと思って過ぎた  Sachika

13 反抗じゃないんだぼくは平凡が恥ずかしくって怖かったんだ  沙流堂

14 「ぼく」だった時もあったと振り返るブリーフが似合ってた頃  Sachika

15 月よりもい背中の山なみを舐めてゆく君の顔は見えない  沙流堂

16 あなたから見えない場所に爪の跡残して終電逃さずに乗る  Sachika

17 半分以上機械になったあなたでも好きよ、前より優しくなった  沙流堂

18 機械的に処理をするから寂しさが死亡届に映らないまま  Sachika

19 あと処理がすべて終わって残りものの寿司にわさびが無いのに泣いた  沙流堂

20 残りものになってしまったはずなのに抜けなくなった指輪に笑う  Sachika

2017年10月16日

Sachikaさん、ありがとうございました!

2017年10月14日土曜日

2017年09月うたの日自選と雑感。

ツイッターのタイムラインで、「自分にとって短歌は趣味か」云々の話題が流れているのを見た。こういうのは、カッコイイことを答えたいけど、カッコよすぎるのもよくない気がする。というか、カッコイイカッコよくないとかじゃないか。

短歌、まあ俳句や川柳その他短詩型文学の人口がどれくらいか、はっきりしたことはわからないが、たとえば日本のツイッターのユーザ数を人体に模したら(どんな比喩じゃ)、くるぶしくらいのユーザ数なんじゃないかな、と思うのよね、しょせん。

だから、仲良くできればいいなって。いや、そうじゃなくて(そうなんだけど)、短歌クラスタと呼ばれている若い人たちは、間違いなく短詩型文学の未来を担う人たちなんだろうな、と思う。担うっていうのは、有名になるってことでもあるし、短歌を辞めてしまっても、その短歌的な感性を、メンデル遺伝のように、潜性させてゆくことも、広い「担い」なんだと思う。

自選など。

「形」
褒められているのは形、まんざらでもないけどわりとしんどい形

「散」
この夏の花火大会は土砂降りで散々だった彼女ができた

「カマキリ」
カマキリは首かたむけて憶いだせぬ殺してやりたい人がいたこと

「店」
友よ寝るな! 浜崎あゆみ大音量の店は遭難したる雪山

「栗」
栗きんとんケーキと説明されたけどばあちゃんモンブラン知ってるよ

「ススキ」
きみは月だぼくはススキだきみが好きだぼくは佐々木だ君も佐々木に

「イカ」
イカのワタをホイルで焼いて日本酒で嘗める、ほんとにここは地獄か?

「ビタミン」
この人を耳の裏まで食べながら寝る前に別にビタミンは摂る

「彼」
元彼にフォローされてるアカウントの私の日々は充実してる

「同情」
同情も4割くらいありまして残りは全部メロンパンです

「首」
首の皮一枚で繋がっている関係ですね、さようなら首

2017年09月うたの日自作品の30首。

「デビュー」
クレジットカードデビューはわかるけど二本の指で挟むのはよせ

「ブーツ」
片足のブーツに引きこもったまま覗くときどき目があう、いいよ

「形」
褒められているのは形、まんざらでもないけどわりとしんどい形

「芋」
さつまいも二本が食事だったころの白米の夢、もう見ぬ夢か

「散」
この夏の花火大会は土砂降りで散々だった彼女ができた

「三日月」
天体の運行なかば狂気にて快方に向かう鬱の三日月

「曇」
しとしとと涙ふりだしさうな日の曇りだ、さうだ、サウナに行かう

「パラドックス」
ふたご座は二重人格とか言うがおとめの他は人格もない

「カマキリ」
カマキリは首かたむけて憶いだせぬ殺してやりたい人がいたこと

「自由詠」
現代に短歌を詠むということの君に見せるということの意味

「膿」
身内から出るからだろう、膿(うみしる)のくさい匂いに少し優しい

「店」
友よ寝るな! 浜崎あゆみ大音量の店は遭難したる雪山

「栗」
栗きんとんケーキと説明されたけどばあちゃんモンブラン知ってるよ

「送」
送り火の終わった夜にさびしさを不法投棄に君が来てくれた

「ススキ」
きみは月だぼくはススキだきみが好きだぼくは佐々木だ君も佐々木に

「黄色い花」
ひまわりは気狂い花だと言う父の息子と嫁の好きなひまわり

「イカ」
イカのワタをホイルで焼いて日本酒で嘗める、ほんとにここは地獄か?

「泡」
波頭の白は無数の泡にしてこころもち点々と筆置く

「ビタミン」
この人を耳の裏まで食べながら寝る前に別にビタミンは摂る

「松茸」
コンビニが教えてくれて秋だから松茸ごはん弁当にする

「水玉」
擦りつけた額の功徳、ここだけの撮影禁止の水玉でした

「なぞなぞ」
降参する大人がみたい甥っ子が即席したるずるいなぞなぞ

「ゴッホ」
過激なる伝道の過去を思い出しのたうちまわったベッドも描く

「唾」
欄干からぺっと吐き出すわたくしの遺伝情報、レゾンデートル?

「彼」
元彼にフォローされてるアカウントの私の日々は充実してる

「同情」
同情も4割くらいありまして残りは全部メロンパンです

「夕餉」
自分には自分の時間いくつある夕餉のかたち決めてから、うた

「返」
もう一度会うのだろうな、それまでに返信願望失くしておこう

「喜」
爪ほどの歓喜のためにぼくたちは——。雨が閉じゆく海を見ている

「首」
首の皮一枚で繋がっている関係ですね、さようなら首

2017年10月9日月曜日

2015年09月の作品と雑感。

この、2年前の2015年09月は、テルヤにとって大きな出会いがあった。それまで3年間、あまり人と関わら(れ)ずに短歌を作ってきたが、ある同人に誘われ、参加しようとしたのだ。その起ち上げ0号が、大阪文フリで配られるというので、誰も知っている人がいなかったが、大阪の文フリに新幹線で行ったのだった。

その同人に他に誘われていた人は、いま思うとなんという豪華な人たちだったと思うのだが、テルヤはそのあたりの事情を知っていなくて、文フリの同人誌も、どれが何なのか、あまりよく分からずに、ほとんど買ってなかったと思う。

結局その同人からはテルヤは抜けたし、その後の状況はあまり聞かない、というのも、一説によるとテルヤが壊したのかもしれない。そして、それが大きな出会いだったのではない。

その出会いとは「うたの日」というサイトであった。そういえば、ツイッターで、なんか誰かが呟いているのを見たことがある、くらいの認識だった。題詠を歌会形式で投稿、選評できるサイトで、その同人で知り合った人から説明され、文フリの翌日に、投稿してみた。

ん、これ、とりとめの無い話だな。

自選など。

あたまごちーんごっこ続けてその次にひたい寄せれば神妙に待つ

宇宙論突き詰めてもうぼくたちは時間がとまっているかもしれ

湯舟にて十匹の鳩と目が合えり十一匹目はもしかしておれ

ばきばきにびしびしにそしてぺきぺきに割れたスマホで君が告ぐ愛

その犬はきれいに円を描きつつ首輪をつなぐ杭を逃げおり

ピンチはチャンスチャンスはピンチピチチャプチャプ蛇の目でお迎え来たるのは誰

救いなどいらぬといえる若さなくやや多めなるカレーをすくう

人間界では人間の顔せねばならぬ通勤の朝聴くノクターン

NIMBYでないとばかりに正義とは後頭部から声出す感じ

ひるがえしOKサインをうつくしく重ねて赤き曼珠沙華咲く

作業着のままがっついて食う飯の、余生もまたは作業のひとつ

一瞥に結論ありて、これはもう宇宙をくらくただよえる岩

血飛沫の代わりに綿(わた)がはらわたからこぼれて、これって、オレって、もしや


ああ、それから、この月に、パロディ短歌のハッシュタグを作っている。


この味がいいねと君が言ったからそれからずっとサラダ記念日  

問十三 前問の解を用いつつまだ赤くない秋を見つけよ


2015年09月の60首とパロディ短歌2首。

キーホルダーに地球がひとつぶら下がり彼女の名前をひとつ思えり

ひょうきんなぼくは横断歩道にて両手をあげる、姉ちゃんが笑う

あたまごちーんごっこ続けてその次にひたい寄せれば神妙に待つ

宇宙論突き詰めてもうぼくたちは時間がとまっているかもしれ

気がつけばいつもの名物ばあさんもいつものままに老けてゆくなる

一匹だけ遅れてやってきた蝉の鳴いても鳴いてもオレだけらしい

半分は寝たら解決することでそのほかはもう多めに笑う

湯舟にて十匹の鳩と目が合えり十一匹目はもしかしておれ

権力を揶揄するときにどうしても揶揄ゆえにわが性癖の出づ

この夜の街灯やわらかく灯(とも)りちから尽きゆくごきぶりである

ばきばきにびしびしにそしてぺきぺきに割れたスマホで君が告ぐ愛

たたかいの相手は悪いほうがいい不正を憎むオレたちなれば

世界から取り残されるようにして早めに眠る、練習のごと

ビル風にあおられながらキアゲハのつよさのような羽ばたきをみる

漕ぎ出でな漕ぎ出でなとて一日の終わりにはたぶん熟田津が待つ

すべからく思想一周するまでに断言したる過去恥ずるべし

誰にでも長所はあると、惜しまれず去りたる人の次を思いつ

吠え声がしずかにひびく雨の夜、威嚇とはなかば負傷の覚悟

未来っぽい過去のデザインああこれは子供がなりたかった大人だ

止まぬ雨はないことは知っているけれど今ずぶぬれのおれにそれ言う?

ジャンプして彼岸に着地できぬまま落下する見ゆ、遊泳に似て

その犬はきれいに円を描きつつ首輪をつなぐ杭を逃げおり

音楽を聴くよりも耳を塞ぐため両側に垂らす白き銅線

断ち切れば痛みはどこだ、鋭利なる刃(は)がまるで赤き血をしたたらす

生き物に黙って家を出でにけり見届けて消えてゆく死者のごと

ピンチはチャンスチャンスはピンチピチチャプチャプ蛇の目でお迎え来たるのは誰

わが前を野良猫がすこし先導し、人の敷地に行けばさよなら

姪っ子に箴言めいた話して途中から聴いちゃいねえ夢みる

耳の後ろを赤くしてなんと少女とは女より凶暴なるけもの

ゆっくりと生きてぽろぽろこぼれゆく再来世(さらいせ)あたりにみつかればいい

早朝の父子の打撃練習の父子は去りぬ広場静寂

曼珠沙華の歌をいくほど詠んだろう乾いたわれと土に咲く花

救いなどいらぬといえる若さなくやや多めなるカレーをすくう

個室にてトランクスごとずり下ろし汗でめくれているうちは夏

人間界では人間の顔せねばならぬ通勤の朝聴くノクターン

公園の三角屋根のベンチにて雨を見ている永遠である

一日の間に冷えていく風に身をさらしいつ身は冷えていく

戦時中もぼくらは日々の、下手したら相聞なんか書いているんだ

本当はわかっているよなんか妙な敗北感と言って笑って

犯罪者になったあいつはもしかして共食いモルフ、いや感傷だ

中身などアメ玉ふたつほどあればよいとも思うわれのうつわは

コミカルなインベイダーが襲い来て隠れてるだけの怖い夢みる

継承をあきらめた父と飲む酒の心であやまりながら、生意気

NIMBYでないとばかりに正義とは後頭部から声出す感じ

僕と君はたとえば青い、ヤシの木の描かれたシャツで遠くへ行こう

ひとすくいの氷にウイスキーをかけチョコをかじって夜は液へと

びっくりするほど遠い未来で会う君と小さいことで今をいさかう

日常をひきちぎるようにわれだけが感じた別れ、きみよバイなら

自分への関心を待ちおしゃべりの止むのを待って見上げいる犬

ひるがえしOKサインをうつくしく重ねて赤き曼珠沙華咲く

その時は死にたくないと言うだろうさんざん嘆いて嘘はなけれど

作業着のままがっついて食う飯の、余生もまたは作業のひとつ

どこの秋の赤き野点(のだて)の傘のしたあかい影した顔を並べた

なんちゃってアールデコ的絵の象が葡萄をつかむ、食うかなぶどう

鳥よ鳥もいのちささげて悔いのなき瞬間のため二度生まれたる

一瞥に結論ありて、これはもう宇宙をくらくただよえる岩

夕焼けが反射してまるで終わりゆく街に見えおりそんなはずなく

端末でみるおっぱいとベランダからの下着の違いと言えば分か、らん?

ポンチョ着て雨がうれしい少女なり、音楽のようないのちの時期よ

血飛沫の代わりに綿(わた)がはらわたからこぼれて、これって、オレって、もしや


#パロディ短歌
この味がいいねと君が言ったからそれからずっとサラダ記念日  

問十三 前問の解を用いつつまだ赤くない秋を見つけよ

2017年10月1日日曜日

2017年08月うたの日自選と雑感。

10月になって、さすがに少し涼しくなってきました。
8月の短歌を読んで、そこに「暑い」と書かれていても、そんな暑かったっけ? みたいになる。つまり、人間の脳とか心は、現在の身体の影響をものすごく受けるので、一生懸命記憶を呼び起こさないと、もう夏もわからない。

あと、鎌倉時代なんかは北の方はシベリアのように寒かった、みたいな話もあって、「暑い」「寒い」というのは、きわめて相対的なものなので、100年後に今の暑さを伝えることなんて、むずかしい。数値を示せばいいよ、という話ではないですよ。

自選など。

「暑」
冷房のおかげで暑くない夜だ魚にはもうなれない二人

「蝉」
ぼくたちの宇宙は蝉の腹のなか、とても儚い命だそうだ

「好きなアイス」
自転車できみの町まで来てしまいガリガリ君を食べたら帰る

「戦」
ながい長い永いいくさだ、このからだナマコとなっていくらか平安

「トカゲ」
こうやって止まってトカゲ、いのちとは動くか動かないことである

「漁」
メヌエットばかり弾いてたお嬢さん漁師に嫁いで幸せと聞く

「槍」
僧侶キャラの武器をしずかに考える槍と棍ではどちらが慈悲か

2017年08月うたの日自作品の31首。

「暑」
冷房のおかげで暑くない夜だ魚にはもうなれない二人

「立」
刀剣の錆泡泡と包みいて立つものあればかく群がるを

「蝉」
ぼくたちの宇宙は蝉の腹のなか、とても儚い命だそうだ

「蜃気楼」
振り返ると彼はいなくて紙切れに蜃気楼2ノ5ノ1とあり

「浮き輪」
「溺れる者は"わら"って"water"のことかしら?」「発音良すぎほらっ浮き輪だ」

「厳島」
定番といえどもネタも古いので選ばずなりきもみじ饅頭

「あきらめ」
あきらめてないんだってね偉いなあそれじゃあぼくはあきらめようか

「真顔」
動物は動物みたいに生きていて真顔であるよ、人はどうして

「港」
パトカーが半円形で待っている港のような今日の告白

「自由詠」
あまりにも多忙な為に不善すら為せない日々よ、善はるかなる

「甲子園」
「めざせ甲子園!」の色紙が本棚にあるけどたぶん本人の字だ

「踏」
踏み込んだ話のできる関係にないぼくたちにやむ天気雨

「巣」
巣の中にこんまいたからもの入れてあるじが戻るからたからもの

「好きなアイス」
自転車できみの町まで来てしまいガリガリ君を食べたら帰る

「戦」
ながい長い永いいくさだ、このからだナマコとなっていくらか平安

「故郷」
ふるさとで終わらなかった生なだけ、簡易マックで何の涙ぞ

「の日」
カレンダーにクルトンの日と書いてありニワトリのように動揺しおり

「禁」
かあちゃんもとうちゃんもぼくも禁止事項を守っていれば幸せ家族

「風鈴」
ありていに言って地獄の毎日に風鈴のような君ではないか

「トカゲ」
こうやって止まってトカゲ、いのちとは動くか動かないことである

「よく」
頑張ると自分からよく言ったなあ金出したいのはおれだったのに

「漁」
メヌエットばかり弾いてたお嬢さん漁師に嫁いで幸せと聞く

「綾」
綾なしているは憂いや悲しみや面倒くささや君抱きたさや

「控」
控えめにいられることも強運だ鳴く蝉も鳴かぬ蝉もみえない

「歯」
歯を噛んで平気な顔をしています口角をうぃっと上げたりもして

「ほんの」
もう折れていたものだからきみのほんのちょっとの笑みに吹き出して泣いた

「髭」
状況はよくないけれど今朝の髭はきれいに揃えられたのである

「踵」
踵から地面に付ける走り方を「かかと時代」と呼ぶのが歴史

「誠」
誠実な人と書くのは止めましたサンボマスター二人続いて

「銭」
銭男はすべてを銭でみる男、上空を過ぎてゆく20億

「槍」
僧侶キャラの武器をしずかに考える槍と棍ではどちらが慈悲か

2017年9月30日土曜日

2015年08月の作品と雑感。

すぐに、思いを発表できる時代に、短歌は、どうなるのか。時間と空間がその制限をうしなって、ほとんど4次元空間を生きていることを、短歌は、どう受け止められているのか。

そういう問いを、いま持てるのは、前の方にいる人なんだと思う。誰が前にいるだろう?

あんまり雑感もないでいいや。

自選など。

この時期に長袖を着ざるをえぬ娘の目は哀しくて美しきなり

迷いたるわれに方角示すため撒き散らされた星、隠す雲

夏の陽のやわらぎはじむ夕方にうづまき点けて座る路地あり

ブルドッグぶるぶるからだふるわせて飛んでいきそうなのを踏ん張る

竹膜を隔てるように薄くまで近づきながら百年触れぬ

昼去ればもう閉じて揺れぬおじぎ草冬を越えぬというが貰いぬ

ツイッターの床屋談義は楽しくて義憤に差別をすこし添えれば

運転をせねば事故など起こさねば縮小しゆく生の一理は

雨の中蝉がわあわあ鳴いていて物語なき今日のはじまり

われもまた形式だけを受け渡し文字積んで歌と呼ぶ一行の

研ぎ澄んだ思想は人を殺すので澄みそうになると口あけており

野良猫の子が鳴いている、雨あがりの冷えたる朝のまづしき底に

いのちとは地球の無数の指だから殺しても殺してもこんちは

人生はばつばつにまるばつにまる、死の採点は残してあそぶ

あらすずし朝のシャワーの国じゅうの乳首の立ちて秋の色する

太陽に顔を圧(お)されて逆光の為です君を眩しく見おり

この先は因果の強い結界でぼくは行けない君はさよなら

孫と手をつないで祖父はなんとなく贖罪のような優しさにいる

「明日もここで待ちます」という字もかすれ伝言板がしずかに朽ちる

2015年08月の63首。

平静の土日であるが夏休みのようにエアコン効いているなり

このようにむし暑い日はパウルツェランのつぇらんの顔でやり過ごすべし

この時期に長袖を着ざるをえぬ娘の目は哀しくて美しきなり

太陽が疾(と)く狂えよと嗤(わら)うのでいやだとひとり大声を出す

朝顔が紫の穴を開けているこの時間だけ向こうはありぬ

いっせいにサウナのドアを開けはなち、さわやかに言ってみれども暑し

迷いたるわれに方角示すため撒き散らされた星、隠す雲

夏の陽のやわらぎはじむ夕方にうづまき点けて座る路地あり

正解はないというのにたぶんもう星辰占察ごと間違える

窓屋根の狭いところに寝そべって電車ボンヤリ、尻尾をパタン

ブルドッグぶるぶるからだふるわせて飛んでいきそうなのを踏ん張る

ベランダの室外機の下うづくまり許されるのを長く待ちいし

返歌
そうなのだソーダのなかの無数なる小爆発を呑めば清(すが)しも

ソファの上のスマホのバイブくぐもって言葉にできぬ不満のごとし

原爆を使いたい奴に原爆を使いたい、蝉は死ぬまで鳴けり

見る男はもう世界への入り口の入り方すら忘れても見る

tears in heaven をテープで聴いていた歌詞などはずっとのちに知ること

水曜は鳥にごちそう、ミレットの半分を挿してこっつくを見る

スピッツの愛のことばのイントロでぐわっとくるね(それを言うのね)

竹膜を隔てるように薄くまで近づきながら百年触れぬ

サツマイモのようなジャガイモ食いながらせつない地方都市の夜は更(ふ)く

昼去ればもう閉じて揺れぬおじぎ草冬を越えぬというが貰いぬ

バラ園にむせ返る香のタオル巻いて手入れする男も香りおり

8月の中旬首都より離(さか)りゆきホームの人のすこしうれしき

湿原をまっすぐ通るアスファルト、人間が過ぎるまでは静寂

居酒屋の難民歩くゆうぐれの駅前、振り返るたびに暗し

無差別の殺戮のあと音もなく訪れるこの無差別の加護

音もなく燃える炎の夕方が夜に呑まれて祭りが動く

少しずつ貧しい国で並びつつ補てんのように笑顔の旅行

夜光バスオレンジ色の線ひいて地球の影を夜行してゆく

ツイッターの床屋談義は楽しくて義憤に差別をすこし添えれば

被害者がましろき加害者となりて被害者を生む景をみており

老衰ってなにと訊く子の無邪気さを涼とも思う、寥(りょう)とも思う

運転をせねば事故など起こさねば縮小しゆく生の一理は

スカルラッティ無限に続く回廊で君の姿を追いかけており

感性も電力量が決めていることもうすうす荒々しけり

雨の中蝉がわあわあ鳴いていて物語なき今日のはじまり

われもまた形式だけを受け渡し文字積んで歌と呼ぶ一行の

研ぎ澄んだ思想は人を殺すので澄みそうになると口あけており

優しさの過剰か不足かは知らず彼は相談せず死んでいく

わーっはっはっ魔王が笑っているような夏の桜の蝉の音(ね)のもと

うどんには胡乱(うろん)の音が含まれてそこはかと枝雀師匠の顔も

ピストルが手に入るなら撃たれてもいい君に渡しやさしく生きん

2リットル75円の水を買う飲みおわらねば流しておりぬ

夏休みにひとりで電車に乗ったこと話題にしたい四年生はも

野良猫の子が鳴いている、雨あがりの冷えたる朝のまづしき底に

その火力高ければ人は喜びて終わろうとする夏の花火の

しあわせはほとんど温度、適温で増減しつつ回る魚も

食べながら生きるのだからユニバースおおむねがつがつうまそうに食え

カチカチとトング鳴らしてドーナツ型の菓子選ぶとき人は前向き

いのちとは地球の無数の指だから殺しても殺してもこんちは

人生はばつばつにまるばつにまる、死の採点は残してあそぶ

あらすずし朝のシャワーの国じゅうの乳首の立ちて秋の色する

見上げればベニヤに反射する白を月と見紛(みまが)う、わが月である

ネットラジオのバッファも途切れ途切れなるバッハを聴けり、駄洒落などでは

小型犬は飼い主の腕で散歩して土掻(か)いて走る夢は寝てから

心理学なきゆえ無駄に性的にならねばショパンなども羨(とも)しき

太陽に顔を圧(お)されて逆光の為です君を眩しく見おり

この先は因果の強い結界でぼくは行けない君はさよなら

孫と手をつないで祖父はなんとなく贖罪のような優しさにいる

籠の鳥にぼくはひとつの全宇宙、きまぐれでざんこくでやさしい

「明日もここで待ちます」という字もかすれ伝言板がしずかに朽ちる

しかるべき感動と愛を引き換えてチャリティー番組明るき深夜

2017年9月11日月曜日

さるのサルベージ

なんとなく、mixiの過去の作品をちょいあげ。塚本邦雄の訃報を聞いてしばらくして、わたしは何年もやめていた短歌を連ねてみた。



短歌「リハビリテーション」

動くことが動かなくなるという因果、贋物のような手をじっと見る

その因を辿ればかつて断崖の疾風に揺れる夜を過ごしき

あるいは海、シニャックの描く点描の人っ子ひとりいない明るさ

少年がかなしき銃を磨きいて逆巻いている画面の裸体

失える腕ゆえに人に愛でらるるニケのつばさも持たず捨てにき

年下のピアノ教師に教わりてバイエルばかり繰り返す夏

いつの間に指が動くという希望、産毛なき塩化ビニルが震え

ユーカラを学者が写し終えた時、ユーカラの声は山へと還りなむ

救急車のサイレンと共に野を駆けて飼い犬の凱歌届く夜なり

人生の半ばのような夕方にハイテンションか、リハビリテーション

2017年9月10日日曜日

2017年07月うたの日自選と雑感。

月が変わると、先月のうたの日の作品をまとめるのと、2年前の先月の短歌をまとめてブログにあげていたのだが、いま7月の分をやっているということは、さぼっておったのである。

当たり前の話だが、短歌を”選ぶ”とき、その歌の良し悪しとともに、どの文脈で選んでいるのか、というのが、実は”選ぶ”という行為の、ほとんどすべてであったりする。

以前も書いたが、それは食べ物に似ていて、3時のおやつの時間に刺し身を出しても不評だし、夕食に新製品のポッキーを出しても、そりゃ確かにおいしいけど、そうじゃないだろう、となる。

だから、”選ぶ”という行為は、実は、いい歌を作る、という行為よりも、いい歌を作る行為かもしれない。なんのこっちゃ。

自選。

「与」
余剰生産物が文化を生み出して与ひょうの言葉がつうに届かず

「沖縄」
先生はとてもこの地を愛したが胡椒を必ず持参してきた

「つまずき」
つまずいてもんどりうったその刹那、星座のようなポーズだったよ

「賞」
人生は変わりゆくのでこんな時ものほほんとして揺れていま賞

「三葉虫」
愛し合った三葉虫のふたひらの化石、彼女は奴を選んだ

「扇風機」
夏休み父と息子が宇宙人、父は宇宙に行けなくていい

「チャーハン」
この冷めたチャーハンまでも愛されて私はけっこう幸せである

2017年9月9日土曜日

2017年07月うたの日自作品の31首。

「飛行機」
飛行機で隣の街に行くような勢いは愛プラス性欲

「茄子」
茄子の身に染みとおりたるあじわいがわが身に沁みとおりたる壮年

「与」
余剰生産物が文化を生み出して与ひょうの言葉がつうに届かず

「泥」
貯水池の底の泥地が噛みついた長靴ぜんぜん味がしないよ

「沖縄」
先生はとてもこの地を愛したが胡椒を必ず持参してきた

「団地」
お孫さんの手紙と写真に囲まれてチヱさん一人の団地に西日

「パチンコ」
この店を決して覗いちゃいけません、恩返し出来ぬ鶴がわらわら

「鎖骨」
撤退のみじめな気持ちに泣いているきみの鎖骨が収まるのを待つ

「国境または腕時計」
国境を超えた瞬間腕時計の妖精も「ぐりゅえつぃ」と気取って

「自由詠」
今日ひと日考えたこと、多摩川の水なら何キロ分の水嵩

「国境または腕時計」
腕時計をつけるしぐさも似ているかこだわりのない父のシチズン

「斧」
各々が己が道ゆくその奥に斧でも切れぬ遠き戦き

「午前12時/午後12時」
午前12時/午後12時を同じ顔で過ごしてそうな君が心配

「つまずき」
つまずいてもんどりうったその刹那、星座のようなポーズだったよ

「賞」
人生は変わりゆくのでこんな時ものほほんとして揺れていま賞

「黄」
金色(こんじき)になりそこなったのだろうかそれともこれから光るたましい

「入道雲」
入道雲ぱかっと開(あ)いて夏の神が現れいづる前から暑い

「かき氷」
喩えてもいいけどそれは冷たくてシロップをかけると溶けて無くなる

「移」
移動しても付いてくるもの、影、自分、優しいきみを振り切ったこと

「三葉虫」
愛し合った三葉虫のふたひらの化石、彼女は奴を選んだ

「ロボット」
ロボットに心があるとしたならば電源のことは触れないでおく

「エイ」
底辺を生きるすがたは地味にしてその裏側の白き柔肉(やわにく)

「素麺」
流しそうめんの下流で腹が満たされた者から語れトリクルダウン

「扇風機」
夏休み父と息子が宇宙人、父は宇宙に行けなくていい

「避」
避難指示の矢印ふたつ、落ち着くんだ今からおれはこの主人公

「LEGO」
異能力、生き物をレゴブロックに変える男は敵か味方か

「球」
球種では負けていたけど羨ましい彼は勝手に飽きてしまって

「チャーハン」
この冷めたチャーハンまでも愛されて私はけっこう幸せである

「袋」
待ち人は来ないいけふくろうの前待ち人もいないここは何年?

「嵐」
この雨が嵐になるかならないかぼくらはずっとやっていけるか

「家」
ホームタウンと地球を呼べば住みやすい星に記憶が上書きされて

2015年07月の作品と雑感。

自分の過去作品をまとめるのも億劫になっている。ただでさえ2年前の作品なのに。

先日太陽フレアの話題があったけど(なんか振り返ったら変な句つくっててわろた)、ネットの情報は、やはりいつか消える。保存っていうことを考えると、紙、木、石、と、硬いものにしていくべきだ。とりわけ日本は、紙の質がよいので、歴史史料を多く残してきた国だ。建物は燃えてなくなることが多かったけれども。紙、そして墨、これは強い保存手段だよね。

自選など。

休日の昼下がりの湯、このまんまおわってしまってよくなくなくね?

鈴のようにグラスの氷鳴らしつつ階段で飲む透明の芋

ひるがえり乗り込む電車、我の背に銃口のようにスマホが当たる

甘えたる言葉を言いて後頭に頭を寄せてピンが当たるも

わが私史にくしゃみが増えてゆくこととその大きなる声を記さず

雨に濡れサーバが運びこまれゆくドナドナのような気持ちもなくて

サバイバーズギルトかもしれぬ自己卑下をやまなく降れる雨として見る

ああカラス朝の袋のそばに立ち愛でられるなく生きようとする

不本意な死に方のほか何がある電車のカーブにみな傾(かたぶ)きぬ

王道のかたちのやがて見えるころなかばを過ぎていることも知り

画家は目を音楽家なら耳を病み人を目指せば人間を病む

若き男の口の息嗅ぎ血気という言葉をおもう妬みもありぬ

四十過ぎて変態でない男など緑の見えぬ景色の窓は

空間をむさぼり走る馬の列をわれの娯楽を離れて見おり

口語の人が緩く文語に変わりゆくわかき時にはせぬ顔をして

限りなく意味を求めていたのです東北に煙のぼるを、みつつ

何欲であろうか満員電車にて夕刊フジをルーペで読むは

母親は息子にできた恋人をイヤなタイプと言わないでおく

別の拍に心臓が狂う夢をみて身体は死にたくないことを知る

人生にあと一度ほど残された転向と呼んでいい岐路のこと

高学年男子は宇宙が好きである母の女に少し飽きれば

楽をしてもっと甘えてずるずるとズルくあらんか、人間のきみ

ちょっと奥にきゅうりの花が咲いていて黄色いそれにも注ぐものみゆ

2017年8月30日水曜日

雑誌『短歌分析』新人賞応募作「自題作語」

雑誌『短歌分析』 新人賞 応募作

  「自題作語」


いらすとやっぽい絵を描く人が現れてそれをいらすとやが描く未来

 「未来」
未来からやってきたけどこの世界の未来のことは知るよしもない

 「世界」
ハイ「世界」NGワード「ぼくたちは」それもNG、Nice Guyです

 「ワード」
ワードソフトの罫線に悩むおっさんが一匹、二匹、アンドゥ、トロワ

 「おっさん」
タレントの美少年いつか美おっさんになっているけど受け入れている

 「美少年」
髪切って気づいて欲しい美少年のことを少年と呼んでよいのか

 「髪」
この島の髪とは森か銀糸なす川上をどんぶら桃の尻

 「桃」
桃の実の甘酸っぱいに至らざる酸っぱいだけのところか今日は

 「今日」
削られた丘の向こうに復讐に無関心なる今日しずみゆく  

 「復讐」
お前を殺して俺も死ぬんだ、問題は①お前の不在②希望は無痛 

 「無痛」
飛んでゆく痛いの痛いの降ってくる痛いの痛いの傘で防ごう

 「傘」
傘柄の傘差しおればわたくしも何かの柄で、そこにも雨は

 「雨」
雨どいに球をぶつけて球場に鳩飛ぶようにぶわっと、蚊が

 「鳩」
ものすごく飢えたる鳩よハトったってドバトが象徴する平和はなぁ 

 「平和」
平和とは風船である、それっぽいことを言ったな風船主義者

 「風船」
それは赤い、恋人の襟に引っかかり、そのままアイルランドへ行くの?

 「恋人」
日中の夏に男女かしらねども重なる影だ、黒い恋人

 「黒」
もう少し派手な色でもよかったと思う眼鏡を選ぶときなど 

 「眼鏡」
メガネかけた白い子をまた好きになる! 私の路線もそうだったけど

 「路線」
大都市の動脈に血栓できて静脈にすぐ乗り換えて帰る

 「脈」
横になる人間という山脈のもう何回も遭難をした 

 「横」
横の人が高速で打つツイッター、こっちのタイムラインに「見るな」

 「高速」
高速で事故った時の走馬灯がちょっと速すぎるよ待ってくれ 

 「事故」
この事故の教訓もまた夏草の抜いても抜いてもひしめくごとし 

 「夏草」
草が切る頰も少しも痛くない今締めている首を思えば

 「首」
人を殺す一首のあとに「実話です!」みんな大人の対応で過ぐ

 「大人」
大人の階段の踊り場に柵がないなんて危ないじゃないか落ちるじゃないか

 「踊り」
法を得た喜びで舞う菩薩らの一万年の苦行も軽し

 「喜び」
君に逢う喜びと逢わぬ喜びとあるから客観的にはヤバい 

 「客」
結局はいらすとやの絵を選ぶ客だ、よく食う客だ、金もないのに

2015年07月の64首。

休日の昼下がりの湯、このまんまおわってしまってよくなくなくね?

鈴のようにグラスの氷鳴らしつつ階段で飲む透明の芋

出がらしのような劇場版の帰路記憶の先後の浸潤やまず

ネイチャーは真面目にあれば人間の弱った時にきびしくやさし

ひるがえり乗り込む電車、我の背に銃口のようにスマホが当たる

魂に尻尾があると君もいう、マックではあれだ場所を変えよう

甘えたる言葉を言いて後頭に頭を寄せてピンが当たるも

人間を倦んでしまった罰として蘇生の物語読むばかり

質問を質問のまま土にまきいつか帰らぬこの先へ行く

人生のはじめのころと今ごろで例えばメンマを受け入れしこと

わが私史にくしゃみが増えてゆくこととその大きなる声を記さず

雨に濡れサーバが運びこまれゆくドナドナのような気持ちもなくて

サバイバーズギルトかもしれぬ自己卑下をやまなく降れる雨として見る

人間の顔を忘れているときに君が見ていた、ゆっくり戻す

原因の原因を辿るかなしみは濫觴(らんしょう)よりのあかいさかづき

高架下は一灯一席この雨が止むまで待っている鳩たちの

ああカラス朝の袋のそばに立ち愛でられるなく生きようとする

不本意な死に方のほか何がある電車のカーブにみな傾(かたぶ)きぬ

岩を押せば隠し階段あるように時間を押さん腹にちから込め

地下鉄の電車近づく轟音にロマン派シンフォニー消えてゆく

王道のかたちのやがて見えるころなかばを過ぎていることも知り

画家は目を音楽家なら耳を病み人を目指せば人間を病む

戦いに没入すれば歌のある場所の遅さを厭うていたる

鉛丹で描くくちびる、筆先を舐めて君との違いをおもう

鏡の中の顔もゆがんでわが頭痛のお前の脳も苦しみいるか

小動物は寿命みじかくこんなにも甘えていても思い出になる

どうすんねんっちゅうねんっちゅう突っ込みはあれど生きつつ死ぬのはいかん

若き男の口の息嗅ぎ血気という言葉をおもう妬みもありぬ

四十過ぎて変態でない男など緑の見えぬ景色の窓は

女の子もぼくの背も過ぎひまわりは擬人化しえぬ顔をして立つ

先進を滅亡途上と言いかえたところで、水を待つ多肉類

ビニールプールの中のアヒルもふにゃふにゃでそれでも夏の歌にはならず

空間をむさぼり走る馬の列をわれの娯楽を離れて見おり

一面にミミズの死骸、焼きそばをこぼしたような俺の悲鳴は

思想的な議論のようでおそらくは違う景色の説明つづく

口語の人が緩く文語に変わりゆくわかき時にはせぬ顔をして

限りなく意味を求めていたのです東北に煙のぼるを、みつつ

物語に少女がひとりあらわれて笑みを残してかろやかに去る

泣き声も再現されている歌の歌舞伎の型もボーカロイドも

一代で財をなしたる男老(ふ)けて子に取り崩しほそぼそと生(い)く

明日の神話のような雲ありわれはしろくステップ踏まぬ骨になれるか

快楽と君とを切り離すというずるさのような落ち着きを得(う)る

浴槽でくしゃみ一喝、残響が消えてもわれの裸身は消えぬ

灼熱のくじら広場に位置情報ゲームのために立つ男はも

香水が日毎に薄くなるように善意の人の減るをなげくは

何欲であろうか満員電車にて夕刊フジをルーペで読むは

母親は息子にできた恋人をイヤなタイプと言わないでおく

別の拍に心臓が狂う夢をみて身体は死にたくないことを知る

人生にあと一度ほど残された転向と呼んでいい岐路のこと

いつまでもいたし善意の少数の被害の側の正しいほうに

本当に葡萄が酸っぱかったのでわが身の程を知らねばならぬ

一日に何度も水を浴びていてしたたるがさほど良くない男

妄想を殺そうとしてもう遠い君は自死にて果たしたりし、か

高学年男子は宇宙が好きである母の女に少し飽きれば

しあわせでなかった過去を肯定も否定もせずに歌う彼女は

つい蟻を踏むが土ゆえ死なずとも済むかもしれぬ死ぬかもしれず

乱打するピアノの音を燃料に代えて世界を飛びたい男

麦藁帽で気分大きなわれなるに女はすべて海を知りいて

楽をしてもっと甘えてずるずるとズルくあらんか、人間のきみ

ちょっと奥にきゅうりの花が咲いていて黄色いそれにも注ぐものみゆ

生き物が宇宙抱えていることを生きると呼べば闇ぞかがやく

コーヒーの「ヒー」の部分が恥ずかしくカフェと呼んでた頃も恥ずかし

2017年8月17日木曜日

返歌球オールスターズ

この夏も入道雲だ、夏休みのわくわくが沸く巨(おお)きなる白  沙流堂

 返歌「この夏も」

自転車の背中おしてたあの風が我が子の背中おす夏休み  豆田✿麦

夏を描く大きな白いキャンパスは土や汗の手で汚してほしい  楓奏

女子ひとり見学してるほのあおいプールの底へひかりはぬけて  杜崎アオ

飛び込んだ(夏に、あなたに)跳ね上がる(水が、光が)雲を作った  楢原もか

おおきなる入道雲にせかされて麦わら帽子は海へと走る  寿々多実果

蝉の声、雑木林の木漏れ日もかき分けてゆく夏の影踏み  柊

もくもくと一口で食べちゃいたいねソフトクリーム 、ゆるみ、したたる  のつ ちえこ

 返歌「一口で」

白桃と夕張メロンの口づけをサービスエリアで見るひとり旅  沙流堂

したたったクリーム落ちてぽとぽとと傘の先端丸呑みにする  幸香

ゆっくりと味わいたい気もするけれど待ちきれないし夏は短い  寿々多実果

君がまだ舌ったらずのころに見たお化けだぞ大きくなったねえ  中本速

ほうらほら大きすぎるよひとりでは ぺろりと横からなめるふりする  めぐまる

レモン味一口どう?と差し出され縁側に溶けゆくイチゴ味  楓奏

禿入道甍の波を見下ろしてごろり一声空がしたたる  最寄ゑ≠

分け合ったただ一口のクリームを別れた夜も舌は忘れず  松岡拓司

いささかも分けぬつもりの君に告ぐワッフルコーンのふかさとたかさ  kazagurumMax

朝顔の蕾がゆるみほころんで台風一過の青空の下(もと)  大西ひとみ

覆水は盆に返らず溢れ出た涙をアスファルトが受け止める  ひの夕雅

ひとりでは食べ切れなかった思い出がしたたり落ちてつくられた染み  柊

ひと夏の恋にはしない温度差を顧みないで落ちたのだから  楢原もか

尖ってるコーンの先までクリームが詰まっていない でもゆるしてる  岡桃代

なめらかなわるくちをいう 桜桃のふたごの肉をじょうずに裂いて  杜崎アオ

べろ出して確かめあった溶けかけのブルーハワイの青色3号  伝右川伝右

 返歌「3号」

海のないこの県を今夜出て行こう君と手をとる妄想も置いて  沙流堂

何番目かも知らされず愛人は青空の下堂々と生く  幸香

早々に飽きてしまってジオラマはレールと木だけのデアゴスティーニ  寿々多実果

ニケツして海まで抜けるニケツとはサドル目線の言葉なりけり  楓奏

ほか弁が打ち捨てられし舗装路と少し交わる国道3号  のつ ちえこ

3号のキャンパス舐めるように青 あの日の赤をどこに乗せよう  御殿山みなみ

青い舌どうし重ねる砂浜に愛人ごっこのキスの痺れて  松岡拓司

こんにちは 夏のカレーはキーマだと聞いてきたのでご飯三合  大西ひとみ

読み上げた入浴剤の成分にだあれもいない海が混じって  楢原もか

 返歌「入浴剤」

ひとりくじら泳いでゆかむ悠々と羽ばたくように浴槽を出ず  のつ ちえこ

ウユニ湖に最初の雪が落ちる音を聞きとるように真面目な寝顔  沙流堂

注文の多い彼氏の風呂の湯がコンソメスープ、これってつまり  沙流堂

渋滞と日焼けは嫌いという君の故郷の海はコバルトブルー  寿々多実果

千年に一度の星が降るように螺鈿細工の風を飲み干せ  とうてつ

ふつふつと毒々しさを増す釜を魔女が混ぜれば夕陽より赤  幸香

渦を成す排水口にさよならを吸い込ませているか細い月夜  なぎさらさ

海のない海抜四千メートルで塩田がうつす青空の色  大西ひとみ

潮騒が時間を少し巻き戻すひとりぽっちで眺めた海に  柊

僕たちを構成してる成分に愛や君とは書いてないので  楓奏

サザンオールスターズ流れ湯あがりのようにきおくの耳がのぼせる  杜崎アオ

雨止めば濃いめにいれたカルピスに氷以外の影があること  kazaguruMax

雪のいろ灯したような湯となりて瞳とじれば遥かカルルス  松岡拓司

 返歌「北国の夏」

北半球は北が寒いとカルロスが書き込む手帳がかなり読みたい  沙流堂

腹這いにヒグマは伸びて背の上をヤンマの影の映りては過ぐ  松岡拓司

美しく染まった空の夕焼けがそのまま朝焼けになる白夜  寿々多実果

地獄なら別府にあるとつぶやいた君の上にもペンギンは飛び  幸香

マッチ売りが灯に見た夢の陰もなく明るいだけの街を彷徨う  楓奏

カルデラって温泉みたい差し出せばふやけた指に阿蘇の風切る  伝右川伝右

ホームへと降りれば風の舞うにおい今なら空が高くて青い  岡桃代

東京の星は見えなくないという歌もあったなどこも同じか  kazaguruMax

あの夏の旅の記憶は薄れゆき手吹きガラスのにごりの色と  大西ひとみ

眼裏に雪原を描き熊の子のようにひとりの夜を迎える  楢原もか

もうこない手紙のように立っている薄荷畑のなつかぜあおい  杜崎アオ

 返歌「手紙」

寒風を水に溶かして固めたる薄荷飴舐めて今夜さみしい  沙流堂

ただ風が僕らの合間をすり抜けて言えばよかった言葉を散らす  藤田美香

この手紙泣きたくなったとき用にミントのアロマ一滴も閉づ  松岡拓司

夏風に煽られ進む蝉時雨 君までの5cmが遠くて  楓奏

モヒートと手紙がわりのレコードはブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ  大西ひとみ

何を隠そうとしてるのガムに濾過された声しか聞こえてこない  楢原もか

届かない手紙のような歌を詠み知らない人にいいねをもらう  寿々多実果

万年筆あおのにじんだ絵葉書を形見のように抱いて眠る  岡桃代

盂蘭盆に螺旋階段うるおして片道切符のメンソレータム  kazaguruMax

ぬるい風にふわと手紙がひらくとき蝉のふたりがみる恋の夢  飯山 葵

ドロップの缶に白だけ閉じ込めて秘めたる思い言葉にはせず  幸香

 返歌「ドロップ」

黙ったままじゃ分からないって言うけれどにちゃにちゃの飴なんだよ今は  沙流堂

放たれしスローカーブが下りるまでだれかれも皆ひと夏を経る  松岡拓司

霧雨はまだ降り止まず夜は更けて月は雫を落としはじめる  寿々多実果

薄荷だけ残してしまいごめんねとカラカラ鳴らすドロップの缶  柊

「その缶によく水入れて飲んだよね」「どんな味なの?」「ただの水だよ」  沙流堂

帰り道ひょいと渡されたキャラメルをあと2時間は見つめてられる  楓奏

薄荷色の海にもぐって叫んでも通じないけど涼しい喉だ  御殿山みなみ

空き缶に薄荷のにおい染みついて形の消えた思い出が残る  岡桃代

かなしみがしみだすようにかみしめていたのは雨のしずくなのかも  杜崎アオ

はぶたえの虫取り網のおじさんは雑木林を上手にすくう  kazaguruMax

ラムネ瓶ふたを開けたらあふれだす夏の向こうの涼しい風が  大西ひとみ

飲み込んだ言葉を抱えた帰り道こんなに白い真夜中の月  木蓮

 返歌「白い月」

月の男が酔いつぶれ見る満地球(まんじきゅう)あんなに青白くて何が棲む  沙流堂

水田に月を配って、この道はその先でキスをもらったところ  沙流堂

ふたりして桶に満月つかまえて近くて白くぶよぶよしてる  松岡拓司

たなびいた雲に隠れた白い月みじめな僕を闇に葬れ  柊

照らされて巨(おお)きくなりつつある影も連れていこうか夏の端っこ  幸香

透けそうな三日月に嗤われていて思いはドアの中まで溢さず  寿々多実果

太陽の白が月より激しくてゆうべのあれはなんだっけ、鳩  御殿山みなみ

連れ立って歩くことすら許されぬ君の月白色のシュシュかな  楓奏

いま空に真白の月が出てるだろ きみに言いたいことがあるんだ  高木一由

天球の穴からこちらを覗く神 あいにく白目を剥いている模様  拝田啓祐

満月の錠剤しろいねむりからねむりへひとは死をととのえる  杜崎アオ

似合うねと言ったあなたの言葉ごと海に放った真珠のピアス  いなば・みゆき

 返歌「言葉」

わくわくが詰まったはずの夏だった青い海とか白い雲とか  幸香

真実が真珠のようであるかぎり遠くなっても君はきれいだ  沙流堂

投げ捨てた真珠も想いも磨かれて近鉄鳥羽で売られていたり  松岡拓司

6月の誕生石は真珠ってすぐに言ったら詮索されて  沙流堂

また会いたいけれどそうとは言いません真珠は貝に眠っています  沙流堂

ミルキーをそっと差し出す人が言う「お前に真珠はまだ似合わない。」  幸香

貝のなみだは上昇気流に乗っかってまもなく秋の真水降るでしょう  kazaguruMax

もう私「純潔・無垢」が似合わずに「健康・長寿」でいいかと思う  寿々多実果

思い出も言葉も抱き海しずか君に会いたいすぐに会いたい  木蓮

海風がページをめくりさいごには固有名詞となるこの夏も  杜崎アオ

秋がきて海原のような鱗雲 空一面が巨(おお)きなる白  大西ひとみ

なぐさめる言葉を知らぬ海鳴りは寄り添うように歌うばかりで  柊



以上、104首の豪華なる球宴でした。参加していただいたみなさまに、深く、感謝です。(照屋沙流堂)