2017年11月24日金曜日

2015年10月の作品と雑感。

昨日は東京文学フリマがありまして、ふだんツイッターのタイムラインで拝見している方が、本当に実在するのか、AIではないのか、確かめるために行きました。そして、本当にゴーストをコピーした擬体でないのか、虹彩まで確認して、その実在を確認しました。(もちろん、私自身が水槽に沈められた脳であることを否定することは出来ていないのですが)

という冗談はともかく、多くの方にお会いできて、うれしかった。そしてみなさん、いろんな活動をされていて、凄いことだと思うのです。

短歌名刺からはじまって、フリーペーパー、ネットプリント、冊子、そしてまあ、歌集というのがあるのですが、自分もなにかやったほうが良かったような気になります。

これは以前もツイートしたことがありますが、ネットというのは、あるいはブログ、HPというのは、本質的には、電子書籍と同じ、いやそのものだと私は考えていて、ツイッターというマイクロブログを、表現の場に選んでいました。

ところが、やはり、ツイッターは、本当に大事なことを書く場所ではない、と考えている方は、多いようにも思います。それもわからないでもありません。

たとえば、本に嗜好的に趣味がある方は、活版印刷の本を喜んで、指で字をなぞり、その凸凹を愛でます。しかし、活版印刷しかなかった時代には、その凸凹は職人の下手さを示すものであり、いかに凸凹させないで印刷するかが、職人の腕であったのですが、皮肉なことに、その下手な凸凹こそが、愛でられたりすることになっています。

短歌もきっとそうで、歌集に載っていそうな短歌が、短歌然としている短歌で、ツイッターに流れている短歌なんて、本式の、正式な、純粋な、短歌ではない。どこかでそんな気持ちがあるのは、わりと誰もが持っているかもしれない。

それは、活版印刷の凸凹で、本当にないのだろうか。

名刺代わりの歌集が欲しい時もある説明しがたきおのれにあれば  沙流堂

2015年10月の自選など。

ルナティックなんだからこれはしょうがない詩を作ったり電話をしたり

同じ場所で違う時間を歩く君と笑顔を交わす、笑顔だよな

チャタテムシを三匹爪で潰しいき、長き寿命を説く経の上(え)に

ループする母の会話にスタンド使いならざる我は敵見つけえず

ぬるぬるん、ぶどうを口に入れながらふたりはいつか飲み込む機械

やや雑に犬は頭を叩かれて飼い主の知人なれば許しき

子の首に薬を塗っている母のごく手慣れたる祈りのごとし

食べたあと可能な限りすぐ横に寝転がるのに牛になれない

好きだった娘もかあちゃんになっていてその大きなる尻ぞ善きかな

いきものの多くが生きるか死ぬか死ぬ寒さの冬がくる、冬がくる

殴られて地にうつ伏せて土を噛むこれは放線菌のにおいだ

お別れは悲しいけれど悲しさに側坐核ふるえることも知る

昼飯は会社の外は明るくて小雨、ぱらつくチャーハンにする

モアイみたいな蓋付き便所怖かりしばあちゃんの家の跡地、コンビニ

掌(て)のなかのいのちに承認されていてわれ顔のある樹木のごとし

懐かしくブーニンを聴く音楽が亡命に至るわかき時代の

さわやかな10月の夜歩きつつ話したいけどあかるくひとり

父方の実家の庭になっていたサザンキョウなど飢えの備えの

台形の土地にある家壊されてまた台形の家が建ちゆく

パロディ短歌

とつぷりと真水を抱きてしづみゆく鳥人間を近江に見をり





2015年10月の62首とパロディ短歌1首。

あの月へわれらはかつて行きしとう無人の宇宙うすうす知りつ

ルナティックなんだからこれはしょうがない詩を作ったり電話をしたり

激励はできぬ世界の解釈を少しずらして微笑むばかり

寝室に月の光ぞ、水の底のふるさとの家に触れえぬごとし

同じ場所で違う時間を歩く君と笑顔を交わす、笑顔だよな

チャタテムシを三匹爪で潰しいき、長き寿命を説く経の上(え)に

ループする母の会話にスタンド使いならざる我は敵見つけえず

ぬるぬるん、ぶどうを口に入れながらふたりはいつか飲み込む機械

半世紀も生きておらぬに酒飲んで酔うだけで語る人生ワロス

最期まで希望に胸をふくらませ明るく滅ぶ思想をおもう

生き物がおんなのように寝ておりぬわがとろけつつ起きあがるとき

ヒトなるはいのちの不思議を思いつつでもその不思議をやめたがりする

飼い主と首のロープで繋がって皮肉でなくて幸せな犬

要するに死後も評価をされてないゴッホみたいなことか、キツいな

見られないまま柔らかく死んでいく観葉の鉢、世界が包む

やや雑に犬は頭を叩かれて飼い主の知人なれば許しき

君の上の雨雲のためだいたいは濡れているのだ寒そうなのだ

excelの図形で作るジャックオーランタンの顔、仕事に戻る

子の首に薬を塗っている母のごく手慣れたる祈りのごとし

変な味のお菓子を無理に分けあって嫌がるのも罵しるのも、うれし

格言と歌は似ていて署名込みで読むものだよね 照屋沙流堂

飛行機が現れるまで何と呼ぶ、くぼみもつ紙のしみじみと飛ぶ

夢の中でまたあの猫がやってきて当然のように布団に入り来

食べたあと可能な限りすぐ横に寝転がるのに牛になれない

人生にいつでも眠いままだからすぐ夢をみる、その眠りまで

ワレワレハ宇宙人デスっていうんだよ、電車で弟に話す姉

世の中のかなしみをすべて背負いたる戦いも顔もやめても昏し

風情とはたしかにそうで壊れゆく破壊の音として枯葉ふむ

我が足に踏まれかけたる丸虫のお前は昨日と同じかまさか

バッハ聴いて眠るつもりが時折に彼がもらせる呻きに冴える

ハリボテの街並みの裏を通りぬけ待ち伏せてわれに素知らぬ猫よ

好きだった娘もかあちゃんになっていてその大きなる尻ぞ善きかな

コーヒーをコヒと略した伝票が落ちている、落ちているコヒの1

いきものの多くが生きるか死ぬか死ぬ寒さの冬がくる、冬がくる

殴られて地にうつ伏せて土を噛むこれは放線菌のにおいだ

被害者か加害者か読めぬドラマ観つつ菓子こぼすボロボロウロボロス

眠るわれを無数の蟻に齧られて泡立つように還元をせよ

伏せたまま我慢したまま眉をあげ君を見上げる幸福な犬

万年の二位も天才だと思う二番目という意味ではなくて

お別れは悲しいけれど悲しさに側坐核ふるえることも知る

冗談はそれと知るまでそうだとは分からないのだ、まだ生きている

レーティングのかかった世界で終わりたる人生はよし、オレまで頼む

昼飯は会社の外は明るくて小雨、ぱらつくチャーハンにする

モアイみたいな蓋付き便所怖かりしばあちゃんの家の跡地、コンビニ

掌(て)のなかのいのちに承認されていてわれ顔のある樹木のごとし

公園のベンチにわれと蝶といてだれもわれらをみつめてならぬ

懐かしくブーニンを聴く音楽が亡命に至るわかき時代の

枯れ尾花を正体と思いいたりしが霊より怖き笑顔となりぬ

ベッドタウンの昼下がり人も音もなく明るくてまるでわが無き世界

思うより深かったよと遠浅のはなしとちがう海を戻り来

じじいばばあの聴くものとしてうら若きこのイケメンはショパンを挙げる

表現が人生の先を越してゆきそういうときは別の路地えらぶ

明るさを置かねばならぬ生きることの本質がたぶん歓喜であれば

関係も成住壊空(じょうじゅうえくう)することを壊れはじめてからいつも知る

水底のお前はいまだ知らざらん魚とワシとのかけひきである

さわやかな10月の夜歩きつつ話したいけどあかるくひとり

父方の実家の庭になっていたサザンキョウなど飢えの備えの

差し歯のあと神経に刺す痛みありて歯ぐきを揉んでより痛み増す

ふるさとの少しくクセのある酒でレキントギター聴きながら酔う

彼はまだ読者のおらぬ小説を書いておのれを恃むだろうか

本能を発揮しながら、散歩中の飼い犬は鼻を這わせて進む

台形の土地にある家壊されてまた台形の家が建ちゆく


パロディ短歌

とつぷりと真水を抱きてしづみゆく鳥人間を近江に見をり

2017年11月4日土曜日

#いちごショート20tanka 〜織紙千鶴と照屋沙流堂

2017年10月26日から、11月4日までの、#いちごショート20tanka がつめましたので、どうぞご賞味くださいませ。

お相手は、織紙千鶴(@marchan_0214)さん。

1 群雀の一されど疲れれば白を隠してしばしのねむり  沙流堂

2 落つことのない群雀 囀ればに連れて行ってはくれぬか  織紙千鶴

3 大地からいろいろな色が湧き出してってなんだろうねえおじいちゃん  沙流堂

4 あなたから眠る大地の音を聞くこんな、たくさん揺すってもまだ  織紙千鶴

5 揺すったらどっぷんどっぷん悲しみを沸かして入ればなんかたのしい  沙流堂

6 どっぷんとぷ、ん ぎりぎりで落ちたを忘れないでね(さみしいよ、ぷん)  織紙千鶴

7 逆回しのスーパースローでらはきみの(はだえ)に還らんとする  沙流堂

8 誰もみな遡らんとするあなたのをまた、すくえない  織紙千鶴

9 みぎはひだりは川の通学路自転車でもう6年駆けた  沙流堂

10 制服の駆けていくまでに終わったみちひき、君は濡れてもきれい  織紙千鶴

11 暗い朝あるいは明るい夜のような不安定さがあなたのきれい  沙流堂

12 の指あるいは春のなで肩を触らないままわかった、つもり  織紙千鶴

13 旧駅舎の待合室のストーブの湿ったあたたかさをと呼ぶ  沙流堂

14 ぽかぽかの待合室すぎてタが呼ばれるまで肩を貸す  織紙千鶴

15 大な自由な未来目指しつつ決められたレール走れ鈍行  沙流堂

16 あかときの忙しない心臓乗せて鈍行は駅のたびに停まった  織紙千鶴

17 舌見せてからかっているこの舌は心拍高き心臓の赤  沙流堂

18 心臓の末端絡み合わせれば名も無きままに濡れ烏鳴く  織紙千鶴

19 引越しの終わりのようにからっぽの名も無き気持ちに満ちて祝日  沙流堂

20 からっぽの心のままに流されて角なきことを沙(すな)と呼ばれる  織紙千鶴

2017年11月4日

織紙千鶴さん、ありがとうございました!