2019年11月10日日曜日

いちねんいちにちいちごつみ

20181111
父に付ける枕詞の乳の実はイチョウの実らし、匂いのことか

病室の窓から見える川ひとつ、父にはどこに流れる川か

事故のあとの父を祈りて回復と回復でないことをも祈る

父が薄まり母が薄まりゆく日々のわれもたしかに、同じくらいに

脳を潰して脈絡のない生を生きる父のところに子らが集まる

そうやがて父を離れてゆくわれの旅にたびたび現れよ父

なにひとつ奇跡なければ旅行とはついに疲れる移動の記録

移動する点Pの意志、サボるのも急ぐのもまた我には邪悪

本当は少し嘘です、人生の今世まるごとサボってもいい?

雲ひとつない空の下嘘ひとつないような顔してたねきみは

アンドレイ・ボルコンスキーの空なんて呼んでた青もずっと見てない

信号で例えるならば青ならば黄色のことを憂いておりぬ

この季節黄の花のなき道なるが黄の帽子なる子ら過ぎるなり

風に飛んで行方(ゆくえ)知らなくなるという終わりはハッピーエンドか帽子

風の噂じゃオレは頑張ってるらしい、そいつを見失ってるんだが

人間はカフェオレである、黒と白の配分をわが身を検見(けみ)しいる

休日の朝にはカフェっぽい曲を、カフェっぽく書いたものではないが

休日も夜更かしせずになることが悟りのような東京の夜

ボルダリングジムで子供がにょきにょきと登る、はじめから東京にいて

子供からそんなに優しくどうなのよ、残酷であれ、鋭くてあれ

20181201
残酷なさよならだった、いやきっとそれがなければ別れではなく

人間がかがやくならば別れなど笑い飛ばしてあの山の奥

山道を歩くうつむく考える安同情のないところまで

叱られた神がうつむき帰宅する、地表は人類のいつものざわめき

人類史の68ページの人は30ページの人を笑うかな

読み差しの本のページに前回の悲しい気持ちが挟まっていた

悲しくてかなしくしくてしくしくと連絡したき時してはならぬ

くらげのような連絡網の足先は少しはねっかえるのも自由

権利などもたないままでこのくらげ眠ってのらり、起きててくらり

適切な温度のビニルハウスにて野菜の権利闘争、白し

傷みたる野菜が黒き汁を出すそしたらきっと捨てるしかない

捨てられる猫あれば拾われる猫あり、人は神じゃないのに

獰猛な感じをすこし残しいて猫のあくびは眠りへ至る

眠りから覚めて始まる永遠と延々がそう違わないこと

永遠でないことは知っているけれどぼくの人生はまたぐオリオン

土牢からオリオンならぬ鼓星(つづみぼし)を腰まで冷えて見たか過去生(かこしょう)

顔面を冷やして帰るビル街の人類だけの地球のごとし

地動説を結論付ける瞬間のガリレオのめまい、地球のめざめ

あっけなく倒れてしまうわが内に地球がありて地球転べば

起き上がり小法師をつつくPCの待ち時間倒れても倒れても

机にはPCがある、そのような時代ばかりをほとんど生きた

時代とはやっぱり川か、水は流れ、流れを作り、流れに流れ

水流はわが手を離れゆっくりと湯船(ゆぶね)に線をあらわして消ゆ

湯船からざざあとかたちできあがる怪獣われが破壊する街

歴史的遺物が破壊されている映像が呼ぶ正義の殺意

映像のあなたが語る呼びかけを未来人のように聴いている夜

殉教の人を祝いて二千年いま生まれても殉ずるべきか

「お祝いに白くて甘い三角の上に苺を乗せる」文明

しかめつら文明もニコニコ文明も滅びるだろうけど選びうる

われニコニコゆえにニコニコのわれありと思い至りて年の終わりぬ

年末の掃除ギトギトわれはコギトエルゴスムさず、私心なきまで

20190101
掃除して要らないものは捨てること、要らない思想も随分溜めた

思想さえめでたいような一年の始まりのさかづきの透明

透明が形を決めて完成後の切り絵の捨てた方をいただく

かろうじていただき見えて富士山は八万歳のまだまだなかば

八万の仏の言葉あるというおそらくはたったひとつのために

一年をのこのこ始めたるわれよおそらく楽しいこともあるらん

楽しそうなラーメンと君が呼ぶそれはチャンポンである、名前も、らしい

名を呼べば記憶は振り返るだろうか向こうが見るのも記憶だろうか

記憶って海のようです、泳いでも疲れて濡れて結局戻る

冬の夜にハイボールそしてチョコレート、舌から喉へ香り濡れつつ

蕎麦食って店を出るとき日照雨(そばえ)なる、喉満ちていて小走りならん

肩に手を回して男は少年を包んで少年満たされたるか

よしだきせいと読んだら軽く笑われて男はもっと軽く笑った

皆に沿ってゆっくり間違っていく真面目に生きた方だと笑う

アスファルトとコンクリートの隙間から生えてきたからもう愚痴ばかり

襲いくるゾンビのごとき愚痴を撃つ銃弾を惜しめばすぐに赤き死

銃弾もひとつの甘美、人間はそうそうそれを許してくれぬ

許されたわけではなくて赤信号みんなで渡って死ぬ人もあり

われわれはひとりひとつの風として職場と家を渡りゆく風

職場には友を求めぬ風潮で全員を動物に例える

周りから何周遅れてるかなど知らない白き動物を飼う

半周で勝負が決まる自転車のゆったり散歩みたいな前半

勝ち負けをはっきりしないまま終わる焼け残りたるまだ燃える薪

これからも文明はよく燃やしゆく一番燃えてるところが火元

「明日は今年一番のさびしさです」とLINEきて恋人のその予報を信ず

さびしいというより寒い半島の岬の灯台守の長靴

一周で2回は灯台が照らしその次までに言えよ恋人

休日は恋人気分なる二人つまり週休二日の微笑

休みとは明日が休みという気持の安らかさなので日曜は暗し

日曜が左のカレンダーというおためごかしに騙されはせぬ

音楽的に微妙なアニメのエンディングソングに騙されて、懐かしい

20190201
石炭が石油に変わりゆくときの最後は誰も見ぬエンディング

今のままのダメなあなたでいてよって変わりたくなる為に言うのか

言うことはもっともでありやることも旧暦のようにずれてなければ

旧暦の行事か知らず恵方巻きのハーフサイズは朝飯にいい

朝飯にコーヒーを挽く、コーヒーはその一日の最初の褒美

一日(ひとひ)には一日の褒美あるというそれを探してやや明るくする

ラジオからあの二胡の曲、探すのをやめたら少し近づいてくる

重ステの出前の商用車で聞いたAMラジオの野球なつかし

この古いビルの階段の入(はい)り口にいつも出前の器のありき

階段で中のケンカを聞いていた、空は先まで真っ白だった

葉の上にまだ白いもの残りたる昨夜降りたるこれがなごり雪か

名残惜しい気持ちだったよ男女5人夜道をおしゃべりして歩きいて

おしゃべりのない職場にて僕がみる天井に風船な思念を

天井の木目は長く見た景色、語り合わない友だったかも

もう会わぬ友を思いて友のない今はなかなか余寒のつづく

寒さとはたとえば海苔の養殖の人は基準にならぬ厳しさ

刻み海苔を貼ればすなわちクールジャパン守りたきこのエロマンガ島

エロいということば繁盛する世紀にいる限りきっとわれらはエロい

価値観が商売繁盛ばっかりな現在がかなり不満ではある

価値観を逃げてゆくキツネのしっぽ、捕まらないでいられるかなあ?

思想とはしっぽみたいで本体の後ろに付いてバランスを取る

要するに男が去勢することが現在の平等のバランス

去勢された宦官の顔に髭はなくおそらくくすぶり続けておらむ

休みには時間をかけて髭を剃るどこにも行かずこころゆくまで

亡命を余儀なくされたらどこに行こうそして日本を恨むだろうか

日本的なその短調のメロディがけっきょく居心地よかったりする

メロディしかなくて🎵ハッハハ繰り返すバロック以前の男声ミサ曲

百年前の音楽だって眠いのにバロックとかもう催眠魔法

20190301
生という一生の魔法かけられて魔法が使えたらなあなんて言う

君の声や顔を忘れるくらいまで君が大切だったと言うぞ

風呂上がりのようにさっぱりした顔で「最近サッパリですよ」二回目

風呂で洗うわたしの何が洗われて何の汚れが残ったままか

いつまでも汚れていてと思うけどきれいになるかきたなくなるか

きれいな音を鳴らしてヒール履くきみをあの頃のわれは見つけれなかった

ヒールという風習いまだ繁くして女の時代はまだ終わらない

終わらない仕事にしかし独特の楽しさもちょっとあるのが困る

パンに塗るマーガリンこそげ取られいて仕事に向かう私のごとし

マーガリンは忘れた頃に食べるときもっとも美味で二日目は普通

「マーガリンを危険視する人は他にこんな食品も危険視してます」

災害の危険に満ちた毎日で実に律儀な民草の国

改元で日本の何か変わるような律儀に期待する気持ちあり

元号は「大福」とする、中国の古典にたぶんあるし美味しい

大福にいちごを入れる罪深き発明をして昭和は終わる

発明王の「頭が良くなる薬」というとても頭の悪そうなネーム

遺伝子は人間という馬鹿馬鹿しい乗り物でレバーガチャガチャ進む

創作はマリオカートだ馬鹿馬鹿しいことだ表現の安全運転

運転が減って歌わなくもなって下手になったことも気づかない

生きるのが下手でもいいじゃないですかせっかく心があるんですから

飛びそうでまだ足をつと地につけてそのしばらくの心のかたち

レコードも知らないくせに記憶が飛んだなんていうんだ、あ、メモリーからか

メモリーの増設のあとの快適を人に伝えることはないけど

快適の少ない町に戻りきて快適でない礼服を着る

牛よりも馬を食べてた町の話、牛は最初は土臭かった

くろぐろと目の濡れていて老い牛は人を恨んでないであろうか

ふと浮かぶわくわくちゅぎゅって何だっけ樗牛の樗とは無用の意味で

平成が終わって次にわくわくな何が始まる国とはなるか

始まりが始まるまでを寝ころんで起き上がりたくなるまでの待ち

妙な期待なくなるほどに早く寝る回し車の夢のハムスター

ハムスターの姿の神よこの地球を噛み砕かずに頬であたためて

20190401
青空の真下で思う、あと何回頬の内側を噛んで固まる

元号があたらしいたびに元号の内側と外側の生るるも

元号は令和ですって、キャリーオーバーした分は次に、次はいつだよ

人間がいつかは悟るものならばキャリーオーバーになるか今回も

悟るって発見よりもおそらくは決意に近いと気がつけるまで

生き物はなんとかやってゆくばかり近くの公園の土の穴ぼこ

やってみたいと君が言うから公園でワンカップだけのおっさん花見

おっさんは深く静かに生きるべし、そんな言葉に騙されるなよ

早く寝る夜はおそらく静かなりゲンダイジンは夜中も動く

福笑いみたいな顔で泣いている夜中の人が昼間快活

快活なこころにひかれゆくものを毒吐くキャラのさみしい毒ぞ

人類に毒は増えたか減ったのか知らぬが薬は一応多い

人は死んだらどうなるかなんて考えて知らぬがブッダ、毎日仕事

聖人を描くのは嫌になるらしいブッダを描く手塚治虫も

ゴム人形の手塚治虫のキャラクターみたいに歩く、心象として

人形をつくってしまうわれわれは征服者(コンキスタドール)なんって、失礼

孤立主義に征服されてわれわれの隣人同士のまなざし不審

猫の方が近所を知っているだろう隣は何をする春の人

猫屋敷の思い出かすかしかれども玄関くぐれば缶詰の匂い

玄関は暗いところであったこと家そのものが暗かったこと

理想主義は家で育てよ家の中にイズムは言いがたく作られる

理想とは垂訓が山にあることでその山を下りるまでが遠足

遠足のような小さな弁当を会社で食べる永い遠足

半日を会社でモニタなど眺め指先ぴらぴら働く世紀

モニタとか液晶画面ここではないどこかばかりを見ているぼくら

画面には銃痕に似たヒビ走り命を救ったスマホのごとし

スマホ持たないブームがやがて来たときに懐かしそうにアプリゲー語る

レトロゲーちまちまやってハイスコアを友達と競いあいたい令和

ちまちまと洋菓子みたいな犬がいて洋菓子の名を飼い主が呼ぶ

車窓から犬が見ている世界とはこんなに人が変えてしまった

20190501
車窓には雨のふるさと、去る時に晴れるであろうつれなきところ

晴れていてしかも霧雨ふる場所でちょうど気持ちもそんな内面

生き物にみんな内面あることの公式行事に響く靴音

行事用の噴水が水を盛り上げて行事終わればはやpetite mort(プチモルト)

噴水をまぶしく見てる結果でなく原因のような笑顔できみは

結果論のように連休後半をなんにもしないコーヒーを飲む

コーヒーの豆をごぐるり挽いている身を粉にしたらわれも匂うか

大型の休みも終わり人間はまたさまざまに匂いだすなり

人間が人間のままでいることが休みとは何だと鏡に叱る

化粧する君の鏡をのぞき込んで知らない女に会ってしまった

いたるところに穴があるけどのぞき込んでいいものなんてそうそう無くて

中古ゲームショップをはしごして探すゲームが無くて歩く箱庭

箱庭はきれいにしても箱庭には外があるらし、ちょっと気になる

外に出たインコその他の鳥のため鎮守の杜はみどりを吹けり

エモい歌手がさもエモそうに歌うのをインコが苦しそうに真似する

真似されて広がってゆくものゆえのオリジナリティにこだわるやまい

やまいではあったと思う心でなく頭と相談していたボクは

心とはこころもとなきものなので我慢するのが現代しぐさ

顔よりもしぐさの記憶になってゆくもう会うことのない恋などの

朝食を作らせながら恋なんてしてないなんて♪言うなよぜぇったい~

朝起きてちゃんとお腹がすくようになってはじめて朝食がわかる

腹が出る生き物なのにみずからを肯定しないほどの豊かさ

豊かさの指標のように野良猫が片足あげて毛づくろいする

野良猫に自分の名前つけていて最近アイツと会わなくなった

休日に誰とも会わなくなったからインターネットの正論まぶし

正論がひとつもないとそれはそれで別の生きづらさの二日酔い

二日酔いのいちにちまるで生命にピントがあわないまま仕事する

年取れば世界のピントがズレてゆく目についてならメガネでよいが

少しずつ顔の一部になってゆくメガネがデフォルトのわが顔になる

デフォルトの顔して仕事しておりぬいやみな奴はどこにでもいる

どこにいても連絡取れる世になって連絡取れなくなったら終わり

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連絡も取らずに忙しいままで次に会うのは何色の星

何色の若さにしよう今ぼくは年を取ろうか考えている

あの人がぼくだったらと考えるよくぞスパッとやれたもんだな

あたたかいスパッとと冷たいスパッとがあってスパッと決めねばならぬ

決めかねている生きることの目標は浅からずかつ難しからず

短冊に書く目標のぺらぺらと裏返りつつまた裏返る

若ければ裏返ってもいられたがだからと言って戻れぬところ

戻りたい過去なんてない、こともないがどうせ現在へと至る道

君も過去言ったであろう「何時何分何十秒」の口げんかみたく証跡をとる

証跡はPDFで保管されまだ十年あと何年の規格

脳という保管庫もまたあやふやできみももう断片的なシーン

"われ"もまたこの全体の断片かゼリーのかけらまとめてすする

透きとおる緑のゼリー食べるときどこか昭和のよろこびがある

つぶやけずタイムラインを見るだけと思えばさびし透きとおる霊

サニブラウンは片仮名表記なのだろう国籍ルールの風透きとおる

ルールとは変わりゆくもの、守られているのは変えないルールの追加

諸行無常ぜんぶ変わっていきますねそれでは現場から以上です

現場には言葉少なき女子ありてここにあらずという意思つよし

心ここに在らずそこにもあそこにも実はどこにもありませんでした!

タピオカを心の補修材にして噛み噛みにして飲んでる彼女

タピオカはきっと沈んでゆくだろう山椒魚がその上をゆく

山椒魚を聖なるものとして見おり俗を突きぬけたるものは聖

聖と俗なのではあるが神様の便所じゃなくて便所の神様

目の前の壁を破れと目の前に落書きがある和式の便所

落書きの中に未来が含まれて必要なのがNGワード

賑やかな街と職場の裏側にNGワードの川 音もなく

言葉とか思いで賑やかすぎるのだ話さなくても命は足りる

美味しくて小さいプリンすぐ食べて王よこれでは足りませぬとも

12頭目のラクダの話を聞いたのでプリンを11個も買ってきた

急いでもラクダのようでありたくて顎を左右にしてガムを噛む

20190701
王選手は顎ががくがくだったというエピソードなどありて昭和は

これからも大王もその偽物も現れてぼくは信じるだろう

偽物の苦労のような残業でジャンクフードを褒美に食べる

憎悪そのものがいけないわけじゃないヘイトスピーチはジャンクの言葉

ネガティブな言葉が消えて、ネガティブは態度でしめそうみんなで○○を叩こう

叩かれて素直に折れる凡人だ褒めたら起きあがる凡人だ

それはつまり強いひとつの意志として進む未来の平凡パンチ

短冊の願いがやたら面白い未来であれと書かれた短冊

面白がる元気を胸に死守しつつラガーマン走るその端っこを

走りつつ苦しまぎれに空を見れば目先と永遠とがふと混ざる

現在の思想も人を責めやすく無知と差別を混ぜるな危険

危険から身を守れない毎日だ銃ももたないだらしない顔

だらしなくしていても正義は勝つか だらしなくない悪意いい顔

空気薄い宇宙はきっと善悪も薄くてのっぺらぼうの神様

ながながと神を信じた種族ゆえ起きたくないし二度寝もしたい

寝苦しい夜がまた来るエアコンをかけたらかけたで寒い丑三つ

丑三つ時に漠然と覚め、夢に住む人たちは夢で面会できる

面会のアクリル板の穴のひとつに指入れて待つ、あ、汚いかも

汚さの少なくなった現代に残る汚れはおそらくこころ

ディディミウムフィルターで見るこころには黄色が遮断されて見やすい

緋目高(ヒメダカ)は赤というより黄色くて本人たちは気にもしてない

選挙など気にもしてない人といて政治を怒る人と比べる

鉛筆でユポ紙に多くその名前を書かれた人が政治家となる

助けたり助けられたりしたいのだ名前は名乗らなくていいのだ

のったりと宇宙を泳ぐサンショウウオ助けたいなら拒みはしない

のったりとエスカレータで歩くのをやめるもうすぐ日本が変わる

歩くのは右から左エンディングの音楽終わるまでひたすらに

タイムセールが終わると購買欲も終わるほんとは誰も欲しくないのだ

欲しいという気持ちがつまり人生だ、それって芥川の芋粥

芥川に憧れた太宰に憧れて日本文学の死のチキンレース

ニッポンの文学はいまどこにいて死にたがってるジャンルはどれだ

20190801
いい話、泣ける話というジャンルわれはいかなるジャンルのいのち

泣くも鳴くも「なく」日本語の中にいてNACK5は埼玉の風

軟骨のクッションのように埼玉は衝撃吸収能力ありそう

自動車の事故の衝撃実験の人形にまた生まれ変わった

人形に性器がなくて人形にジェンダーふりふり施されおり

ふりふりとふりかけかけて大人には一品分のおかずになりぬ

おかずなんかはちょっとでいいのだーと歌うひとりの飯だ、金は欲しいな

金のない生をたのしく生きているとんぼが立ち止まってまた行く

叔父さんのたんぼにとんぼ、数年後コインパーキングになるという

コインパーキングにひとつつむじ風、風も居場所がないときがある

居場所など木の幹でよい、ヒグラシとその木のような世界とわたし

ヒグラシもヒグラシのその鳴き声もあしたのようなきのうのような

アフリカでは差別主義者のガンジーだ、あしたはどこに英雄あらん

衰えてゆく英雄をながめおりちゃんと過去形にするのも知性

窓に当たる雨が垂れゆく衰えゆく世界を暴れまわれ颱風

世界に一つだけの花とか流しつつ戦争に勝つ国でありたい

国力に人が思いを致すとき戦争ドミノの角の取り合い

角部屋は梅の木が見え、若者は終日 性を戯れていた

人間は性器がつなぎゆくという事実にがにがしき瓜噛みて

ほんとうは苦瓜は甘くなるというその前に食べられるにがうり

甘いものを褒美にしたい心地してコンビニで饅頭を見ている

饅頭のうす皮が口の裏側にひっついており、われのみぞ知る

いちにちはとろりとすぎて、われのみが坂のごとしと思うにあらず

坂をゆく人々の列にわれもまた肩を落として加わる背中

背中ではさみしくないぞ食堂のわざわざとなりに来るおまえたち

おせっかいな友がいたっけ、あとあとにそのわざわざがしみじみとある

おせっかいに将来われもなるだろうと思っていたが難しかった

難しい時代だろうか、どの時代も明日のことは誰も知らない

魂が大きいものを求めるのを習ってないから知らないという

習わない歴史のように人間が今日もうらおもいに満ちて行く

歴史観そのものが変わりゆく時代に歴史を読めば不便の歴史

20190901
火星などおそらく不便、人類はまずコンビニをしばらく探す

コンビニの床はましろに反射して深夜勤務の顔たがい知る

やりすごす深夜勤務の一日の終わりの朝ぞ暗くして寝る

寝て起きて庶民のわれにテレビでは世界のニュース、うまくやってよ

まだニュースになってすらない暴力を思う、逃げれる運はあるかい?

裕福は運の良さだが幸福は運じゃない気がしてきたぞ、うん

裕福な街かどうかは女性の服で分かりそうだが分からないふり

服を褒めるのも難しいおっさんが陰口のように服を褒めおり

陰口を聞かれてしまいあきらめる本心じゃないが善人でもない

本心はあまり突き詰めないほうが自分を傷つけないこともある

むしろみんなばらばらにものを考えて時々傷つくだけで済んでる

ばらばらだ豚ばら青菜チャーハンをよく食べたオレたちもいつしか

チャーハンにオイスターソース香りいて個人的なる記憶よみがえる

社会学が発見される前までの個人的なる自殺なつかし

社会学は名前をつけてくれるだけ知は力です知は力です

世の中に読めない名前増えてゆき嘆く奴から世の中を去る

世の中の役に立たずにいるからにモブっぽいこと言えば楽しも

人生の達人という狂人は日々を楽しむつもりであろう

狂ってる人がひとりもいないので水位が上がりゆく箱の中

箱の中に天狗の面が一つあり一度開けたらうまく収まらぬ

今まででなくてこれからこそ大事電柱の上で思う天狗は

電柱を人は次々並べたらとりあえず鳥は止まってみよう

空を飛ぶ、最初は逃げるためだった、その頃の記憶残して鳥は

記憶の家に、記憶の日曜の朝の、目玉焼き食べる記憶の親子

目玉焼きの端カリカリとプラスティックみたいなところを転がる醤油

悪役のプラスティックを追い出して紙のストローが唇に付く

ストローを抜いてごぶりと杯をあおぐ毒なら毒で愛なら愛で

毒のような苺大福買ってきた一番合うのは紅茶だろうか

紅茶のむ部屋のカーテンを揺らす風、何かの挿絵のようじゃない? これ

いつのまに挿絵が世界観となる小説の類似してる異世界

20191001
異世界と思えばここも変わってる世界だ魔法も魔王もいない

ねじくれたわが心根を真っ直ぐにする魔法習得の冒険

同じ道を毎日歩く会社員の冒険、普段行かぬ店で食う

毎日がだんだん小さくなってゆく、怒りっぽくはならないように

休日は液体みたいにいるよろし、固体の怒りのアイス舐めなめ

箱買いのアイスはちょうど食べたことを忘れるサイズ、急にラスいち

ラスいちで那須与一がひょうと射(う)つあの平家側も盛り上がる感じ

駅前の弾き語りする兄ちゃんかつて平家物語うたう琵琶法師だった

賑やかな駅前は淡い恋に似て恋終わるあたりに住宅地

イングレスで一度歩いた住宅地をなぜか覚えているゆるい坂

イングレスの網ガチガチに張られいてあきらめて別の冒険にゆく

冒険はスマホの中で人生はスマホの外で楽しむとする

スマホから魔人がぬうと飛び出してアキネイターじゃねえかお前は!

雨嵐のなか飛び出して行ったので命の玉を転げ落とした

公園で砂場のアリを溺れさす無邪気な神に命乞いする

公園に入らずチャリで佇ったままスマホをいじる今の風景

その隅に乗れなくなったチャリたちが廃墟の予感のように重なる

人間は廃墟がこわい、思い出がくさったままにあるのがこわい

怖い話を無性に観たくなるゆうべ、お笑い芸人が役割を担う

笑う差別、差別を笑う余裕なき氷は透きとおってて冷たい

氷菓子暖房の間で食うことの娯楽のために冬を待ちます

勝ちたくて戦う男を観ることは娯楽、この世は観るなら娯楽

外つ国の雨しげければ堤防の決壊を見にゆく老い男

堤防に冷ための風吹いてゆくこの世ではないところからのよう

この世とは数の定理のある世界あの世にはどんな数学あらん

数学をいくら学べば身にかかる損を笑っていられるだろう

損得に多くは生きるものだから損得抜きのことを祈ろう

祈ったら祈った人が変わるのかよ、でも祈りってそういうものか

一時間ごとの天気の変わりゆく雲をみている、自分のように

天気さえカリスマは影響させて人間原理の虹などちょろい

ちょろい奴がいなくなったら懐かしい油断も隙もない街となる

20191101
ヤクルトをピルクルに代え変わりなし油断しているわけではないが

シンボルが燃えてしまって生活は変わらないけどおかしな気持ち

雨が降る夕方屋上遊園地のさみしさできみと会いたい気持ち

秋ごろは雨が冷たく白くなる心を隠さなければならぬ

小動物が食料を隠す武蔵野の乾いたものを踏んでゆく道

武蔵野の高い木立の街道をふたたび見たら懐かしい日々

街道に並ぶチェーンの食べ物屋、わりとどこでも同じものを食う

食べ物を健康的なものにして長生きでなく病まずにいたい

寝て起きて食べて出す動物としてまず動物としてよい動物に

あたたかき液を回して動物は北斎の波のような生であるなり

ニッポンのアートは可愛さへ至る北斎もその父の一人だ


2017年05月の自選。

自選。
BitchesBrewのような屁が出て人間はそんなに俗になっても平気

国際人は無国籍とは異なると学校新聞に書きし若さぞ

この人もミモザの花をうたうときレイヤがひとつうわずる人だ

売れ残りの金箔入りの酒を舐めおめでたかった日々のきらきら

生きている意味って何だ、長い猫は今日も一日ゆっくり長い

自分にはもっと素敵な嘘をつけけっこう騙されやすいんだから

たんぽぽは根っこがとても深いので踏んでも踏んでも死なないのです

死に場所でオレの形は決まるから桜、いや海、いや君の膝

その気持ち百年経って気づいたら涙がつたり、誰も無き夜に

最新鋭だった天文機器で見る宇宙がとても、最新だった

ただ単なる善人は役にたたざると本間俊平信徒を語りき

強情に負けてよかった、山奥のダムの水面(みなも)に遅めの桜

歴史上の歌人もボットでよみがえりみな横書きを強制されつ

この犬が五月の昼のぬるま水で命をつなぐ愛の記憶と

この星の腐る匂いがわからない? そうかこの星生まれだもんね

こんなにも尊い人間存在が新宿ホームにうじゃうじゃといる

襲いたい襲われたいと気づかずに善意すぎない善意を話す

正しさの為に悪まで身を落とし君はもう考えたりしない

生き物はずっと脆弱、脆弱がぜいぜい言ってお前を守る

大木が宇宙にいっぽん叫びたいほどの孤独だこれがいのちか

浅はかな修辞に飽きて朝飯の納豆がすこしざりりとうまい

パブリックを一日抜け出す名作をパブリックなき俺らが真似す

エイプリルフールの日にも苦し紛れの醜い嘘を言ってた君よ

嘘泣きのゔぉえーの声が思うより深かったので悲しくなりぬ

生きてれば幾分眠いということでかの聖哲もあくびする夜

あたたかいほのぼのねばねばした気持ちでスニッカーズのような電車で

助かったサギは田植えの機械から離れて蛙の浮かぶのを待つ

ピンペルル、ガウケルルには才能は関係なくて飼い主が好き

誰からも好かれたいからどうとでもとれる短歌ぞ、お互い無傷

走る女の胸を見るのはセックスをしたからだろう死ぬまでつづく

あやまちではあるのだけれど侮辱にもニコニコしててきみというやつ

右も見ず左も見ずに生きてればそれもけっこう羨ましいよ

B面にオートリバースする時の途切れも覚えてしまった脳よ

ほんとうだ死んだら足が要らないねえだけどなかなか進めないねえ

かなぶんの死骸を避けて境内でシャツを絞って、ふいのくちづけ

教えられた事が出来ない後輩が透明な笑顔している午前

水族館の魚のようにタイムラインのぼくは君には触れられず寄る

「愛情するより友情したい」という歌の意味を子供に訊いてきた母

#俳句
有終の美とはいやらし盛り藤

チューリップ自然のなんと作り物

春の月落下はとうにあきらめた

鈴蘭が渇く政局みぎひだり

藤終わり主(あるじ)ばかりの見ゆる棚

春月夜あしたはだしを見せましょう

どくだみにそれは言わないあっぷっぷ

春の窓に包丁かざす、しかも比喩

黒豆茶春の速度で二人きり

酩酊のごとき死、初夏の缶ビール

キスの日ぞジントニックは三杯目

2019年10月22日火曜日

2017年05月の107首と、その他もろもろ。

クオリティ・オブ・デスのこと考えてこの席を気をつかいて離る

BitchesBrewのような屁が出て人間はそんなに俗になっても平気

国際人は無国籍とは異なると学校新聞に書きし若さぞ

この人もミモザの花をうたうときレイヤがひとつうわずる人だ

秩父ってちちちちじゃんと思おえど鳥取の話みたいでやめる

元気そうでよかったなんてみなで言う皮肉はなくてわりと素直に

売れ残りの金箔入りの酒を舐めおめでたかった日々のきらきら

生きている意味って何だ、長い猫は今日も一日ゆっくり長い

和であれば貴(とうと)しと為せ、思想とはルール少なきほど強くして

自分にはもっと素敵な嘘をつけけっこう騙されやすいんだから

たんぽぽは根っこがとても深いので踏んでも踏んでも死なないのです

高速の渋滞にいる、映画なら危機から逃げて間に合わぬモブ

死に場所でオレの形は決まるから桜、いや海、いや君の膝

その気持ち百年経って気づいたら涙がつたり、誰も無き夜に

四本の丸太のような母象のどんな形にでも母はなる

それぞれの心に林立してるから何度も振り返らざる塔(あららぎ)

歌会詠草
食べ放題で別れ話になるなんて負け戦じゃん元が取れても

最新鋭だった天文機器で見る宇宙がとても、最新だった

次も負けてきょうぼくは生まれ変わりたいマトリョーシカの見下ろす部屋で

食べものの好き嫌い語るとき人は存在論的嫌な顔する

夕方にアイガタメール会いがたく御託を述べるノベルの如き

のり弁と第三のビール買い帰る道すがら五月つつじ茂(も)く開(さ)く

二時の男二時になりせば独り身の理由を述べてお開きにする

そのブースの売り子ニコニコ可愛くて帰ったらこんな毒売りやがる

そう鈴木蘭々のように君は言うくろせか、らんらんにもう決めたと

切り詰めた数文字も口語短歌ならすぐ使っちゃう現代短歌

ただ単なる善人は役にたたざると本間俊平信徒を語りき

強情に負けてよかった、山奥のダムの水面(みなも)に遅めの桜

同じことが繰り返されて繰り返しの終わるころ俺は生命だった

異文化の尊重を問うそう言えば左で手刀を切る朝青龍

マイノリティは世を怨むべしそしていつか向こうになってこちらを潰せ

縦書きの短歌を書けば気取ってると言われたリアルな歌会の帰り

リアル歌会は「対人歌会」の意味に代わりAI「定家」に歌を教わる

歴史上の歌人もボットでよみがえりみな横書きを強制されつ

ポンデリングわづかに勝てりおつさんが食べてもはつかかはいい感じ

もうすぐだオレが世界に現れて取り替えられてゴミ箱だでは!

あきらかに短歌の呪いに苦しんでいるならやめたら褒めるよ僕は

この犬が五月の昼のぬるま水で命をつなぐ愛の記憶と

ぬるま湯でこのまま溶けてしまいたくてでもぬるま湯にぬるく拒まる

公園で鳩に混じってパン屑を狙うスズメよ欲望は五分

粗製濫造されてきたかの思想あるポピュリズムとう言葉の裏に

ポエジーな気分のときにごーしちご、きみが欲しくてごーしちごーしち

はやく凡庸になりたいと叫ぶ妖怪の、凡庸の壁はボヨヨンとして

めんどくさそうな言い方だけなんだ私が君を許せないのは

呑舟の魚を呼ぶべく優遇せよ、それから厳罰化も考えて

この星の腐る匂いがわからない? そうかこの星生まれだもんね

こんなにも尊い人間存在が新宿ホームにうじゃうじゃといる

ビッグバン以前というも次元とか時間もない始まりはさびしそ

襲いたい襲われたいと気づかずに善意すぎない善意を話す

処理手順が異なるだけで変化する世界はきっと僕らのために

生きる意味が数名ほどに絞られてわりと普通と思う丑満

酔いよいと夜道をあるく僕たちのこの永遠も過ぎるのだろう

正しさの為に悪まで身を落とし君はもう考えたりしない

自分には価値なんてないと思う夜連絡をせぬ君の幸運

根がリリカルでないからおれはうたうのだリリカルなやつがうたえばそりゃあ

生き物はずっと脆弱、脆弱がぜいぜい言ってお前を守る

大木が宇宙にいっぽん叫びたいほどの孤独だこれがいのちか

現在に飽き飽きと初夏、もう少し賢くなれば不満も減らむ

めづらしい存在として生き延びよ韻律もちて意思疎通する

浅はかな修辞に飽きて朝飯の納豆がすごしざりりとうまい

神様もダーウィニズムを受け入れて人間の知恵に教えられいつ

パブリックを一日抜け出す名作をパブリックなき俺らが真似す

いきものがかりを二人がかりで歌はれて二人ともうまく神がかりをり

(こっそりと見知らぬ女の尻を触る)男はその場で殺せる法を

手塚治虫の漫画のように地震(なゐ)ふるれお前を叫ぶこの期に及び

エイプリルフールの日にも苦し紛れの醜い嘘を言ってた君よ

嘘泣きのゔぉえーの声が思うより深かったので悲しくなりぬ

#ランサム短歌
泣きたいのはおれの方だよWannaCry彼女が今夜飛行機に乗る

善意さえ人をたやすく追い込んで引っこ抜かれた田螺が乾く

触れた手を引っ込めるのもそのままにするのも意味が、ジェンダーめんど

生きてれば幾分眠いということでかの聖哲もあくびする夜

ヲカム読テイ書ラカラチド
   バレス択選ニ的想思
      レカワキシ悲

あたたかいほのぼのねばねばした気持ちでスニッカーズのような電車で

許されて金曜はありご褒美のごときドクぺを飲む君ののど

助かったサギは田植えの機械から離れて蛙の浮かぶのを待つ

ピンペルル、ガウケルルには才能は関係なくて飼い主が好き

生まれきたからには何を残そうか君の笑顔を見たかった顔を

たとうればパトリオティズム、共存が出来そうにしてやっぱりぼくは

オープニングで主人公われは水中を沈んで深さを暗示したくも

誰からも好かれたいからどうとでもとれる短歌ぞ、お互い無傷

スマホにはあぶらが付いて我々は汚れを憎む自責するまで

惚れるのは作品までだ、人間に惚れたら水のしたたる批評

雨の予報でないから窓を開けて寝る君が来るならそれでもいいし

最後にはモノクロームの道をゆくモノローグさえなきエピローグ

走る女の胸を見るのはセックスをしたからだろう死ぬまでつづく

苦の衆生、古き書物にかく呼ばれ女はいまは苦しまざるか

あやまちではあるのだけれど侮辱にもニコニコしててきみというやつ

姫ハブに注意とガイド、笑うおっさんの沖縄バスのツアーにひとり

くだらない〇〇〇とか〇〇はツイッターでやれ、(だからいいのだ)

俺だけが楽しみだった毎月の組み立て  雑誌途中で終わる

右も見ず左も見ずに生きてればそれもけっこう羨ましいよ

ショパンの綴りをChopinを受け入れる時に偏見の幅ひとつひろがる

B面にオートリバースする時の途切れも覚えてしまった脳よ

ほんとうだ死んだら足が要らないねえだけどなかなか進めないねえ

かなぶんの死骸を避けて境内でシャツを絞って、ふいのくちづけ

矛盾とはいわば忍耐、複数の錠剤飲み込むように祈りも

笠置シヅ子の東京ブギウギ明るくて不器用はいつも明るき武器ぞ

教えられた事が出来ない後輩が透明な笑顔している午前

和製英語より酷いのに慣れているアベノミクス、シロガネーゼ、タカラジェンヌ

人生の積分値きみと見せ合ってあっ僕たちは離れなければ

音楽がやがて思い出になることもさびし、時間が音楽である

水族館の魚のようにタイムラインのぼくは君には触れられず寄る

自画像を描く自画像を描く自画像描く像画自画く自く画像

「愛情するより友情したい」という歌の意味を子供に訊いてきた母

また別れがくるのでせうね、きみはもう正しい歌だけうたつてなさい

電波天文学者の彼は自己紹介で電波を外す、あやしいからだ

希望なき人たちが起こす革命の成功率も出るがっかりさ


#俳句
アチョーアチョー憲法記念日にぼくら

砕氷斧(さいひょうふ)のごとく犬歯であずきバー

あずきバー犯人はいまだ逃走中

有終の美とはいやらし盛り藤

春疲労春の枕もやる気なし

ツイッター春ばかりだがお前冬

たんぽぽの綿毛よいつまで付いてくる

オフィーリアのひたいに綿毛ともりたり

チューリップ自然のなんと作り物

春ゾンビ当社比ながらやや元気

春の月落下はとうにあきらめた

花水木チャンバラ童子の背(せな)に降る

腥風(せいふう)のぬっくりと都市のこの季節

鈴蘭が渇く政局みぎひだり

春満月(みつき)やらかす人をほの照らす

藤終わり主(あるじ)ばかりの見ゆる棚

春月夜あしたはだしを見せましょう

どくだみにそれは言わないあっぷっぷ

春の窓に包丁かざす、しかも比喩

スプーンで竹輪ざっくり春の幕

土星にも局地的には高い春

黒豆茶春の速度で二人きり

北海道のさくらのさいごのさいご、これ

春ミミズ地上に興味どう持てと

酩酊のごとき死、初夏の缶ビール

キスの日ぞジントニックは三杯目


#川柳
ドーピングきみが夫婦を超えてゆく

新宿に住めば世界がラビリンス

おにぎりの握られざれば孤児に似て


#パロディ短歌
短歌ではない短歌ではない短歌本歌取りではない本歌取り


#パロディ偶然短歌
学校のコンセントなどの焦げ跡はピンセットによるいたずらなどの

消火器は複数で使用することで鎮圧効果を増大させる


#結句を「ふいのくちづけ」にする
ひんがしの野にかぎろいのたつみえてかえりみすればふいのくちづけ


#不自由律短歌「8153」
別れが近づく日明るいな君は

2019年9月8日日曜日

「『降る雪』抄』10首。2009年

「降る雪」抄     2009.1.4


2009年に降る雪に我も降られつつ額(ひたい)の熱は水を垂らすも

故郷(ふるさと)に降る雪これが染みとおり流れる頃に男はおらず

日本海に降る雪はまさに次々と消えてゆく、かく夢は厳しき

杉に降る雪の斜めに積もりゆく春の噴射の養分として

水田に降る雪しんと美しかり、菱形群の向こうにお前

子と犬に降る雪、犬は驚いて子は喜んで我は寂しくて

女に降る雪の明かりのほの白く瞳(ひとみ)と言葉が違う顔なり

雪に降る雪の真白は閉ざされてそのような君の本音ではある

町に降る雪? ああ、蕪村の楼台図その一軒の資格は遠し

空に降る雪は私を持ち上げて宇宙すなわち此処へと運ぶ

2019年6月29日土曜日

2017年04月の自選。


自選。
またひとつ場所奪われて生き物は死ぬか逃げるか隠れるかする

現地人も神を信じるのだろうか蝋燭の火に揺れるラス・カサス

文字なんか残すものかとアンデスの文明は謎がニヤリとひかる

どの道も棲み分け論にいたる朝、公園の鳩がおこぼれを待つ

さかづきに桜と雪が落ちてきて、あれからやはり余生であった

手を汚したくないだけの反戦と好戦の二人気まずくなりぬ

茂吉翁の丸い背中の半纏(はんてん)に問う短歌また国家に資すや

排泄と喜怒哀楽がある限り人間平和の希望は捨てぬ

明るいが感情の起伏大きくてアン・シャーリーがこだわる綴(つづ)り

23時も新宿駅はうじゃうじゃでふたつめのじゃのあたりにわたし

内心の自由それから外心の不自由はとても笑顔がやさし

職場では「はい喜んで」「喜んで!」仕事終わったもう喜ばぬ

スワンボート人の少ないそれゆえに桜の少ない方へ切る舵

思い出にご笑納下さいってか上着を脱げばひとつ花びら

野良猫のような心を抱(いだ)こうとする野良猫のように逃げらる

桜より華やいで君ら若者が外側にあるもの愛でやすき

満員電車をエンジョイしてる白人の「ゴメンナサーイ」がほんといい顔

等身よりすこし大きい化け物と戦うときの人は舞うなり

天国の暮らしもここと変わらんよファミマもあるし金持ちもいる

AIに君のデータを流し込み人権が付与される日を待つ

テロリストもその被害者も運ばれてテロリストを先に助けてよいか

終わりまで楽しむことが知性だと生を叱られ泣いている夢

演歌だと君は心地もよさそうに「あなたについて行くわ」と唄う

強烈な破壊のあとに、ゆっくりとあなたを見つめる時間が出来た

争闘性を引けと鑑三記せるも流されざれば日蓮成るや

ほんとうにこの詰め将棋の詰まるのかわからぬままにそれではあばよ

人間がもっとけものになるまでを象は待ちおり鼻長くして

クレヨンに貼り付いた紙の内側でコクっと折れるような失恋

わたくしの知らない世界を調べよう、知らない単語で検索するだけ

産屋での座位分娩でひりだされおんならに見下ろされて命は

舌鋒の甘い男でいいじゃないか意見を求められるなき世に

夜のライトに我が目がぎらり、いつまでも平和にならぬ世界睨(ね)めつけ

人生が眠いと君が言っているつらいとき僕もそう言い換えた

君がいるのを待っていたような夕方のやっぱりカレーの匂いする路地
#中本速生誕祭

青空が爽やかだから寝転がりたんぽぽ指ではじく失踪

食べ物に霊位を与え食べる世にあらぬ、すなわちすべて食べ物

ああどうも八重桜さん昨年は醜い修羅場を見せちゃいました

原水協、核禁会議、原水禁、10年で分裂した願い

感動的な紋切り型でぼくたちはけっこう寒い海をみている

いい女が通りゆくまで道路工事のおっさんら目で見送る時間

馬の目のうるうるうると透明の涙の膜ぞ今から走る

社会学がかたっぱしから名付けゆく現象に名前ついてないのか?

石なげて人を追いやる思い出をこの村は忘れ春の夜昏し

狭いせまい空間で子と暮らしてるきみを連れ出す花一匁

大きくも小さくもなるが男とはやっぱりどこか丸大ハムだ

一行のよくわからないテキストをいつも書いてる人だ、あれなに?

僕の中に永遠をひとつ飼っていて僕が逝くとき笑ってみてる

異国語でわが感情を抱くことの月があり犬がいてわれいずこ

強い風をつよい気持ちで進みゆく目はモザイクを見るときにして

生きる気力のないのに生きるロジックはよ、国が生かしておくロジックはよ

なんとでも短歌にするよ悲しみも裏返したりやや逸らしたり

キジバトが窓の外では鳴いている彼らには人間をも自然

#自由律
花の盛りをほったらかして仕事

#無季を強引に季語化する
味噌汁が落ち着いてゆき春宇宙

#尻子玉俳句
第二ボタンください、それと尻子玉

おじいちゃんと二度目の別れ尻子玉

火にかけると一応あばれる尻子玉

#言うべきことはほかにあるのに
僕の方があなたのことを好きだった言うべきことはほかにあるのに

#今日もすてきな一日でした
ゴミ、たから、ゴミ、ゴミ、たから、たから、たから、今日もすてきな一日でした

生贄の美女に今年も選ばれず今日もすてきな一日でした

2019年6月23日日曜日

2017年04月の114首と、その他もろもろ。

この土偶の性別であるが胸か尻か腹が大きくあるなら女

永遠の命がなんと八千円激安過ぎてちょっと心配

塩胡椒かけつつあどけない話、東京には節操が無いという

前髪がちょろんの赤子、人類のカイロス(機会)となるか我の亡き世に

ふた回り上の奴らに馬鹿にされ彼女は仕事の出来ない女

その「脳」は人類の道を示したり人類はそれを紐解いて生く

続ければ優れた歌人になるだろうけれども恋を選ぶのだろう

またひとつ場所奪われて生き物は死ぬか逃げるか隠れるかする

現地人も神を信じるのだろうか蝋燭の火に揺れるラス・カサス

文字なんか残すものかとアンデスの文明は謎がニヤリとひかる

戦いの前線にいて役に立つ気持ちはなんとうれしくかなし

どの道も棲み分け論にいたる朝、公園の鳩がおこぼれを待つ

種の掟にて引き裂かれたる動物のオーナメントで次に進めず

さかづきに桜と雪が落ちてきて、あれからやはり余生であった

手を汚したくないだけの反戦と好戦の二人気まずくなりぬ

ダッカにはダッカの秩序、ナインボールの一打目のごときリキシャのわれも

茂吉翁の丸い背中の半纏(はんてん)に問う短歌また国家に資すや

カレー食べてる時に謝らないでくれ謝れば見立てられゆくカレー

排泄と喜怒哀楽がある限り人間平和の希望は捨てぬ

ティファールの湯の沸く音に包まれて週末は40度あったよ

救いなどない、教室の午後もまた僕無しで進むのを見る時間

明るいが感情の起伏大きくてアン・シャーリーがこだわる綴(つづ)り

23時も新宿駅はうじゃうじゃでふたつめのじゃのあたりにわたし

夢だった、ツイッターなんてまだ無くてすべてが妄想だったのだという

むすぶのかちぎるのかどちらでもよくてこの糸の先にまた、あなたか

春だから男もスカートどうだろう、剃る剃らないに迷うなオレよ

内心の自由それから外心の不自由はとても笑顔がやさし

職場では「はい喜んで」「喜んで!」仕事終わったもう喜ばぬ

可能性を残すのは気持ちいいけれど天才はただ量産をする

マシュマロというより白子あの日からもう膨らまぬメンタルの絵は

スワンボート人の少ないそれゆえに桜の少ない方へ切る舵

スワンボートで前線へ行け、もっと漕げ、形勢不利の革命のため

思い出にご笑納下さいってか上着を脱げばひとつ花びら

人間の浅ければかくも浅からんレイヤを超えんとする決意さて

野良猫のような心を抱(いだ)こうとする野良猫のように逃げらる

落研の合宿のあの殺伐と過酷と悲壮が生む面白さ

桜より華やいで君ら若者が外側にあるもの愛でやすき

タイムラインズの向こうで君がいるけれど君もこちらを気にするうわさ

シャットアウト機能で避けたほんとうは強く見つめた方が正解

人間は目に見えぬものに死にもする両の手をびしょびしょに濡らしつ

満員電車をエンジョイしてる白人の「ゴメンナサーイ」がほんといい顔

等身よりすこし大きい化け物と戦うときの人は舞うなり

下の句が午後にはけっこう降っていてビニール傘でしのぐ定型

無条件に尊いために必要な思想とその他、その他はあるか

天国の暮らしもここと変わらんよファミマもあるし金持ちもいる

人道も正義も措いて人間がこの地上にて描く地獄絵図

まだ食べてないなら少し遅いけど行こうよぼくもおなかすいたい

沈黙の多い電話が切れたんだ電波を見たら圏外のわれ

AIに君のデータを流し込み人権が付与される日を待つ

テロリストもその被害者も運ばれてテロリストを先に助けてよいか

終わりまで楽しむことが知性だと生を叱られ泣いている夢

演歌だと君は心地もよさそうに「あなたについて行くわ」と唄う

マストドンに君も行くのかミクシィのような廃墟でボットとわれは

強烈な破壊のあとに、ゆっくりとあなたを見つめる時間が出来た

争闘性を引けと鑑三記せるも流されざれば日蓮成るや

ほんとうにこの詰め将棋の詰まるのかわからぬままにそれではあばよ

新宿のビルの小さい一室に空想の象が定員を超ゆ

人間がもっとけものになるまでを象は待ちおり鼻長くして

クレヨンに貼り付いた紙の内側でコクっと折れるような失恋

きみに注ぐ愛もわずかに回しおり粉コーヒーに湯を注ぐごと

表現に上限おけばこの一首でほんとによいか迷ういちにち

わたくしの知らない世界を調べよう、知らない単語で検索するだけ

われのその後同じうするべき山阿などあるであろうか五柳先生

一万首めがその人の初段とかそういう時代の歌人の歌会

産屋での座位分娩でひりだされおんならに見下ろされて命は

舌鋒の甘い男でいいじゃないか意見を求められるなき世に

宇宙から現れたのに端末から「地球外から失礼します」って

縄文の遺伝子ふいに発芽して一万年をやり直そうか

このカバに「カバスケ」と名を付けている動物園よ次はどうする 「バスケ」

夜のライトに我が目がぎらり、いつまでも平和にならぬ世界睨(ね)めつけ

人生が眠いと君が言っているつらいとき僕もそう言い換えた

君がいるのを待っていたような夕方のやっぱりカレーの匂いする路地
#中本速生誕祭

青空が爽やかだから寝転がりたんぽぽ指ではじく失踪

食べ物に霊位を与え食べる世にあらぬ、すなわちすべて食べ物

ああどうも八重桜さん昨年は醜い修羅場を見せちゃいました

ポラロイドにはピースが似合うと言ったのにピースしないのかよ、これ欲しい

ルビはおまえルビなんだから並走はしてもいいけどこっちに来んな

縦書きと横書きの本が攻めてきて真ん中あたりにピラフ(猫)の居場所

原水協、核禁会議、原水禁、10年で分裂した願い

人間は縦になれなくなったならもう覚悟しておこうじゃないか

天才は無差別に殺人しつつオレだって頑張ってると言う

音楽を今でも耳に転送しでもこのメディアはそう長くない

渡鬼にキムタクが出る夢だけどキムタク全然ゆずらなかった

感動的な紋切り型でぼくたちはけっこう寒い海をみている

いい女が通りゆくまで道路工事のおっさんら目で見送る時間

お湯割の梅干しは箸の一本でつつき破れて政治の喩え

うふふあはは海辺でゾンビに追われたるこの絵は何か間違っている

馬の目のうるうるうると透明の涙の膜ぞ今から走る

サイモンとガーファンクルのサイモンは俺がやるからガーは任せた

社会学がかたっぱしから名付けゆく現象に名前ついてないのか?

方向音痴なんかじゃなくて大山が西にない東京がおかしい

石なげて人を追いやる思い出をこの村は忘れ春の夜昏し

狭いせまい空間で子と暮らしてるきみを連れ出す花一匁

大きくも小さくもなるが男とはやっぱりどこか丸大ハムだ

シャウティーなベイビーがいる車両にて生のかなしみ行き渡りゆく

道端に名札が一つ落ちていて伊藤をやめた彼はいずこへ

ジュテームモアノンプリュを二人で聴いている興奮しても笑っても負け

一行のよくわからないテキストをいつも書いてる人だ、あれなに?

僕の中に永遠をひとつ飼っていて僕が逝くとき笑ってみてる

異国語でわが感情を抱くことの月があり犬がいてわれいずこ

強い風をつよい気持ちで進みゆく目はモザイクを見るときにして

生クリームとブロッコリーはやめたから! 彼女は普通に目覚めたという

シトロニーナにするべきだよと思いつつレモンジーナで割るトリス呑む

生きる気力のないのに生きるロジックはよ、国が生かしておくロジックはよ

引っ越しの食器のダンボールが鳴って満員電車のようにかちゃかちゃ

ルマンドを連れて行こうか関西へルマンドが逢いたがっているのだ

春菊と生姜の香り混ぜながらブリ大根はじゅるじゅる美味し

公園のサクラのとなりで咲いている桜でない木の桜でない花

宝くじの使い道など悩むように俺ならどんながんがいいかな

なんとでも短歌にするよ悲しみも裏返したりやや逸らしたり

チャイナ風のメロディはわりと春の曲、日本の歌はいつの季節か

平和とはその象徴の鳩たちに常にパン屑落ちてる世界

キジバトが窓の外では鳴いている彼らには人間をも自然


#爪楊枝短歌
びっしりと容器に詰めて爪楊枝、出撃の覚悟あるが出にくい
爪楊枝みたいに箸がびっしりと詰められエコノミークラス吉野家
びっしりと箸、びっしりと爪楊枝、お前らも俺を拒むつもりか
あの中に父さんがいる、爪楊枝が箸を見るけどプラスチックだ


#自由律
指折りかぞえて自由律

自由律であらねばならぬ不自由

自己表出してるから自由律

花の盛りをほったらかして仕事

歌を作らなくていい花見

タイムラインがまずい海嘯


#パロディ短歌
日本脱出オーケー! 全肯定ペンギンも全肯定ペンギン飼育係も

ひむがしの野にかぎろいの立つはずで返りみたけど、どっちがひがし?

吸ひさしの煙草で北を指すときの北違ければどこよ望郷

馬鈴薯が小さいくせに店先でえっへんおっほん値上がりしてる

長ぐつにカブで大根運びきたる老後、ないか、今は新橋


#パロディ自由律
すごい咳をしても一人

咳をすると? 二人!

優勝しても一人


#パロディ詩句
自分の短歌観くらい
自分でつくれ
和歌者よ


#川柳
来世には君に会えないパピプペポ

パピプペポそこまで僕は言ってない

パピプペポ今日は納豆三個目だ

君のことパピプ好きペポ 救急車

パピ今日の君はステキだ是非プペポ

すぐきみはエッチにはしるパピプペポ

柿ピーの
禁止用語の
パピプペポ

パピプペポ? 
パピプペポ、いや、
パピプペポぅ

失礼です。
自粛ムード。の
パピプペポ


#無季を強引に季語化する
まだ少しはやいひんやり春便座

蛍光の母子ともに春クロックス

からんだら友達面(づら)の春リプライ

天気予報の通りに寒し春我慢

記号論で季語がめちゃくちゃ夏の春

なんとなくいい人みたい春変態

キジバトの昼にもなって春ホッホー

味噌汁が落ち着いてゆき春宇宙

あずきバー春の夜には硬いまま


#尻子玉俳句
春痴漢ダメここで出すべき尻子玉

透明な夏の霊そして尻子玉

299回腕立て――尻子玉。

第二ボタンください、それと尻子玉

ああ、だめだ、もう怒られる尻子玉

わたしきみの尻子玉まで愛してる

シリコダマ、ああ間違えたシリカゲル

とてたての春の最初の尻子玉

ゆうくんの方がきれいな尻子玉

抱きしめてもきみはあかるい尻子玉

おじいちゃんと二度目の別れ尻子玉

火にかけると一応あばれる尻子玉

尻子玉飛び交ってやや美しき

もしかして「「入れ替わってるー!!」」尻子玉



#言うべきことはほかにあるのに
僕の方があなたのことを好きだった言うべきことはほかにあるのに

さくらばな集めて掬(すく)って食べている言うべきことはほかにあるのに

二階の子に気兼ねしながらキュウリ食う言うべきことはほかにあるのに

育毛剤もドーピングにひっかか! る⋯⋯、って⋯⋯。(言うべきことはほかにあるのに

たぶんもう会えそうにないキスのあと言うべきことはほかにあるのに


#季重ね
ひと眠りふた眠りして春春眠(はるしゅんみん)

春のポピーポピポピ少し浮いている


#今日もすてきな一日でした
ぼくも死後もう三年は経ったかな今日もすてきな一日でした

ゴミ、たから、ゴミ、ゴミ、たから、たから、たから、今日もすてきな一日でした

プリンプールの底でカラメル啜る夢今日もすてきな一日でした

フリスクとコーヒーやはり合わぬなあ今日もすてきな一日でした

生贄の美女に今年も選ばれず今日もすてきな一日でした

マルクス=エンゲルス全集が安くない今日もすてきな一日でした

2019年5月19日日曜日

2017年03月の自選と雑感。

宮柊二だったっけ、短歌は小市民の文学というふうに規定していたような。こういう規定は、定義があいまいな上に、どこか引け目を開き直った物言いになるので、反発を受けやすい。

そもそも小市民というのはマスクス主義の言葉で、その前に市民階級というのがフランスの階級にあって、フランスの階級社会では、市民階級とは貴族階級と労働階級の間にあるものであったが、マルクス主義によると経済生産性の目から貴族階級と市民階級は同じ資本家市民階級まとめられて労働者と対立する概念になり、資本家ではないが労働階級とも言えない存在を、プチブルジョワ、つまり小市民と呼ぶようになったわけで、まずこの階級感が日本とは違うので、小市民と言われても、日本人には、嘉門達夫の、マイホーム主義な尖った表現を好まない凡庸さの謂(いい)として使われている。小市民ということが。

つぎに、文学だ。ロックンロールイズデッドじゃないが、文学は、文学とは現代において何であろうか。現代において、文学は、表現をおこなうにさいして、絵や音や形でなく、文字を選んだというだけのエンターテイメントなのではないか。エンタメでなければ、自己表現、あるいは、新しい物語創作。

文学って、なんなんだっけ。目の構造が、「見える」ということを規定するように、文学は、なにを規定するんだっけ。

文学は、まだ、生きているか。青いゾンビの肌をして、いないだろうか。青い肌だったら、ちゃんと殺してあげなくちゃ。



自選
いつまでも当選番号さがすようにスマートフォンをきみは見ている

カルピスは何倍がいい? きみのくれる短歌の濃度くらいでもいい?

個性などなくてよかつた夕ぐれのユーグレナけふ(今日)すじりもじりし

この歌を3回声に出したあと、夜の0時に鏡を見るな

この歌を3回声に出したあと、夜の0時に鏡を見るな

この歌を3回声に出したあと、夜の0時に鏡を見たな

知の呪縛のように不可逆、玉手箱の白い煙のごとき認識

犯罪者が刑のかたちを決める夜人権はまだ生きてるつもり

月を取ろうとして海に入(い)り溺れたる猿を看取ってくれたる海月

合成の歌声じつに小気味よく火星探査車石蹴って往く

肩揉みが天才的にうまけれどロジックがない男を知れり

百年前は新宿だって牛飼いと牛がいたんだ都庁のあたり

キャッチーな詩を書くゆえかきみはあのまどみちおの絵が部屋にいちまい

のれんの絵を描いたのれんが飾られて向こうがなくてさみしいのれん

静脈がおれを認識しなくって、あれ、おれいつから甘んじて俺

食べ物を見る目をしてた、食べ物が権利を主張する間じゅう

称賛か失脚か風の吹き上がりやすい時代に目がすぐ乾く

電柱を描くか描かぬか写実的風景絵画の懐かしい嘘

春のころこの道を老婆ひとりゆきその道の果てにあり老梅樹

小学生を殺すほど認知あやしくてなお生き延びて人生ながし

洋服に洋画の陰影描き分けて夷酋列像(いしゅうれつぞう)赤き直立(すぐだ)ち

この国の混声合唱「死にたい」はスウェーデンとは異なるひびき

ビキニからの原爆マグロを眠らせて築地の朝はさっきまで夜

それゃあもうおれは「なかなか言いにくいことをおっしゃるご主人」だもの

自爆テロリストのVR映像を、終えて現実(リアル)がとても汚い

上等の日本酒舐めてきゅうと言うそういう男の列に連なる

美しい言葉と思う、運命を開くいのちを真剣と呼ぶ

エクレアのふわっとかなし人生のだれのせいにもせぬ指のチョコ

善人用優先席にみかけにはよらない人が足組んで座る

サンドボックスゲームをしつつ思い至る西洋のヒューマニズムの孤独

ジョルジュ・ビゼーは時代の何を飛び越えてぼくの意外な耳朶楽します

建物ごと虚空に上がる心地して窓全面を降るさくらばな

白目みたいな歌だよねってなんだようやっぱり短歌わかってんじゃん

星空を眺むるも科学なりし世に法則嗤うごとき極光(アウロラ)

この町の盛衰あるいは玄関が引き戸の率など知りたく歩く

ごきぶりや蚊が叩きつぶされるころダンプが野良を轢く日曜日

生命は波打ち際のなみがしら、吸ったぶんだけぶくぶくわらう

ガラス片敷かれた風呂に入るように過去のいじめを語る痛みは

一日休めば三日遅れる練習のエントロピーめエピメニデスめ

あまじょっぱい経口補水液のみてわが病身の内を濡らしつ

そうやって明るいきみに厳(かざ)られてゆくものをすこしうらやんでいる

アパートの庭にふたりは足浮かせにんげんのしあわせを語った

UFOは地球をながめ知的生命かつて有りきとして過ぎゆけり

二十代で国のかたちを先見し国成るまでに落ちたる椿

ぼくの部屋の階段をのぼる音がする音がしたまま部屋へ届かず

ビッグバン説まことしやかに否定する時代もありき、忘れられき

洗脳の装置とかいいながら観る、低レベルだと嗤いつつ観る

果敢だが彼は失敗するだろうその時のきみに届かぬ歌を

優しさはその後も優しくあるゆえに弱さとは似て非なる朝焼け

俳句
春菊の貼り付いて眠るまでの宵

半跏思惟像この春じゃないらしい

永遠の命をこばむほどに春

さっぷーけーおまへの部屋におまへと春

2019年5月18日土曜日

2017年03月の108首ほか、パロディ短歌、俳句川柳。

生を生き、死も生きるような大きさで朝決意して夕べに忘る

いつまでも当選番号さがすようにスマートフォンをきみは見ている

ダイハツのCMに残るかすかなる大阪文明(文明ちゃうわ!

ある胞子は夜の温度でまだ春でないことを知る、春待つ仕組み

考えていることすべてとろかして人間はゆくひとつところへ

カルピスは何倍がいい? きみのくれる短歌の濃度くらいでもいい?

才能もなくてお金も足りなくて人の子どもに変な顔する

個性などなくてよかつた夕ぐれのユーグレナけふすじりもじりし

ウルトラマンになりそこなった風邪引きがヘァッヘァッてもう帰んなよ

ひな壇の15人にもいるのかもカムアウトせずすまし顔して

この歌を3回声に出したあと、夜の0時に鏡を見るな

この歌を3回声に出したあと、夜の0時に鏡を見るな

この歌を3回声に出したあと、夜の0時に鏡を見たな

学生がちょっと小ばかにするけどね時々読み返したりフロムを

引き出しから未来のロボがやってきた! (打ち上げられた魚のような)

消え去らぬ老兵をいつか一掃しスカスカの街が見たそうなきみ

楽しさが幸福である現代の張りぼての裏を揶揄しておりぬ

知の呪縛のように不可逆、玉手箱の白い煙のごとき認識

犯罪者が刑のかたちを決める夜人権はまだ生きてるつもり

悲しさがこういうときはツインビーのBGMをずっとずっとずっと

勁草も泣くことだってありますと昔の会話を覚えてたのか

地図の上●●●に黒々と秋風の吹く、次は誰の死

バーナーで燃えてゆく窯、釉薬の垂れては生まれ変われるごとし

誇りなくファミマに変わるサンクスの今までサンクス、ふっくだらない

あさましくて父ちゃんなみだ出てくらい、人目気にして損得ずくで

伝統は乗り越えることが継ぐことでソニックブームを知るか知らぬか

モナリザを左に倒して飾りおれば観る人すべて顔倒すなり

あんなにも可愛がってた芝犬のデータはとても出たがっていて

紅白のしまうま常に怒りつつそれも目出度さ扱いされて

めためたにメタモルフォーゼ繰り返し再会したるふたり、きみかも

月を取ろうとして海に入(い)り溺れたる猿を看取ってくれたる海月

煙突のない家なので真っ黒なぼくをからかう彼女もいない

ほんとうに蓋を開けると終わることもあるんだもうすぐ春が来るんだ

合成の歌声じつに小気味よく火星探査車石蹴って往く

いざという時に役には立たぬためのことばをえらぶ、墓標を立てる

肩揉みが天才的にうまけれどロジックがない男を知れり

百年前は新宿だって牛飼いと牛がいたんだ都庁のあたり

キャッチーな詩を書くゆえかきみはあのまどみちおの絵が部屋にいちまい

それを話せば終わりが来るいうそれを早く見つけたいのか饒舌

生きることの意味問うときに深くふかく円(まる)いルールが一瞬まぶし

のれんの絵を描いたのれんが飾られて向こうがなくてさみしいのれん

我は白きみは赤なるくちなはのまがまがしくて見た目めでたし

充電の切れたる古い端末の電源は神の啓示のごとし

人間界はそれを隠して回るのだ◯肉◯食ランチでひとり

一枚の布だけ残る文明をおもう、彼らの生活が見える

静脈がおれを認識しなくって、あれ、おれいつから甘んじて俺

久々に座れた満員電車だがまるで立ってるのと同じじゃん

壮大な赤ちゃんプレイは待っている変態と言ってくれるひとりを

食べ物を見る目をしてた食べ物が権利を主張する間じゅう

死んでから愛するような愚はすまい夕べに死すともかなり悔ゆれば

称賛か失脚か風の吹き上がりやすい時代に目がすぐ乾く

八百年で絹はほどけてゆくというシルクロードも風に薄れつ

電柱を描くか描かぬか写実的風景絵画の懐かしい嘘

控え室で彼らは思う蛇の道を、まともな人間ほどの変人

何層のレイヤをかさね我がいてふつふつとよろこぶやつがいる

春のころこの道を老婆ひとりゆきその道の果てにあり老梅樹

終末は週末よりも頻繁で終電去れば朝まで廃墟

美男美女はなるべく顔をゆがませぬようにしてきた悲しき成果

小学歳を殺すほど認知あやしくてなお生き延びて人生ながし

洋服に洋画の陰影描き分けて夷酋列像赤き直立(すぐだ)ち

官邸デモを語る和歌山大学のドイツ人教授の信憑性

生まれ変わる生まれ変われる挨拶をドレミファソーのソーの高さで

右巻きの昼顔ぼくはスイカズラのきみを抱き取るつもりであった

基本無料の世界は基本下劣にていささか値上げすべきスマイル

この国の混声合唱「死にたい」はスウェーデンとは異なるひびき

生き物は水の記憶に頼りながら生き物として次世代にゆく

ビキニからの原爆マグロを眠らせて築地の朝はさっきまで夜

それゃあもうおれは「なかなか言いにくいことをおっしゃるご主人」だもの

週末にアニメを消化するだけの青春、きみはわりあいに好き

自爆テロリストのVR映像を、終えて現実(リアル)がとても汚い

上等の日本酒舐めてきゅうと言うそういう男の列に連なる

美しい言葉と思う、運命を開くいのちを真剣と呼ぶ

批判するわれわれもまた閉じていて悪人がポアされない世界

思い知ってないだろうこのおっさんはおっさんというzombieのことを

エクレアのふわっとかなし人生のだれのせいにもせぬ指のチョコ

善人用優先席にみかけにはよらない人が足組んで座る

何者であるのかなども不明瞭な己(おのれ)が朝の日を受けている

サンドボックスゲームをしつつ思い至る西洋のヒューマニズムの孤独

ジョルジュ・ビゼーは時代の何を飛び越えてぼくの意外な耳朶楽します

建物ごと虚空に上がる心地して窓全面を降るさくらばな

#ひとりで決める桜前線
家の前に弧を描くように横たわりひとりで決める桜前線

バスケットボール蹴ったら足痛しひとりで決める桜前線


配送業がパンク寸前中指を立てるか否か桜前線

「クアラルンプールはいまは9時頃か」「まだ8時だよ!」のやりとり5年

白目みたいな歌だよねってなんだようやっぱり短歌わかってんじゃん

星空を眺むるも科学なりし世に法則嗤うごとき極光(アウロラ)

この町の盛衰あるいは玄関が引き戸の率など知りたく歩く

ごきぶりや蚊が叩きつぶされるころダンプが野良を轢く日曜日

生命は波打ち際のなみがしら、吸ったぶんだけぶくぶくわらう

ガラス片敷かれた風呂に入るように過去のいじめを語る痛みは

どのようなふうにも生きると思わしめ内側にきみの目が見ておれば

どの家庭にもある洗脳装置にて洗脳じゃない気分もセット

ネットにも友情のなきたましいが目つむりまもなく眠らんとする

目を細め貫禄はかく作り出す久しき日本の横綱をみる

一日休めば三日遅れる練習のエントロピーめエピメニデスめ

あまじょっぱい経口補水液のみてわが病身の内を濡らしつ

そうやって明るいきみに厳(かざ)られてゆくものをすこしうらやんでいる

ツイッターで書けないことを書くためのなんとかったーを欲しがってったー

チックの謎スチロールの謎口に入れぶふふと笑うふたりしあわせ

アパートの庭にふたりは足浮かせにんげんのしあわせを語った

UFOは地球をながめ知的生命かつて有りきとして過ぎゆけり

二十代で国のかたちを先見し国成るまでに落ちたる椿

ぼくの部屋の階段をのぼる音がする音がしたまま部屋へ届かず

ビッグバン説まことしやかに否定する時代もありき、忘れられき

洗脳の装置とかいいながら観る、低レベルだと嗤いつつ観る

果敢だが彼は失敗するだろうその時のきみに届かぬ歌を

ふた回り下の奴から馬鹿にされ彼は仕事が出来ない男

優しさはその後も優しくあるゆえに弱さとは似て非なる朝焼け



#パロディ短歌
「嫁さんになれよ」だなんて缶チューハイ二本じゃだめか、焼酎にする?  

川柳、俳句
さんぐゎつの弱気な季語が見当たらぬ

スイートピー、パ行たしかに春のおと

花疲れ大の字分のさようなら

山笑うおれの真顔を責めもせず

春菊の貼り付いて眠るまでの宵

半跏思惟像この春じゃないらしい

永遠の命をこばむほどに春

さっぷーけーおまへの部屋におまへと春

二月なら春にときどき勝てもした

2019年5月4日土曜日

2017年02月の自選と雑感

令和っすね! 平成中はお世話になりました。いまこうしてこれを読んでくれている人と出会えたことは(ほとんど直接出会ってはないだろうけれど)、不思議で、ありがたいことです。

令和時代の表現がどこへ行くのかわからないし、自分の表現もどこへゆくのかといぶかしい日々です。
照屋沙流堂の作品も、あと1年ちょっと分を、はやくツイッターからここのブログに移動してしまわねばなりません。今回は98首を自選して33首だけれど、こういう作品って、どのように読まれるのかしら。時々評判が気になったりします。楽しく読んでもらえるとよいのだが。


自選。

底で闇で零で黒なるうたびとの負のちからプラスにいたれかし

胴体を草が貫きたる鳥がわれを慕ってくる夢かなし

正しさが試されている、にんまりと枇杷色の歯を見せる老婆に

忘れられる権利さておき千年前のテンションたかき恋歌を読む

身体から毒を出したらすっきりとするというおぞましき空想

歌が上手い歌手がだんだんビブラートがうわずってゆくあわれなりけり

冷めているゴーヤチャンプルそぼそぼと見解がもう合わないにがみ

それは目に見えねば言葉を網にしてひっかかるまで投げるしかない

釜玉に続いてぶっかけ小を食い寝る夢はついヤマタノオロチ

ウイルスかウィルスかビールスかヴァイラスかどれでもよいが具合が悪い

離反者も弟子の振りする、フリスクをかじりつつ途中まで言わせとく

ほんとうの歌をいくほど残すだろう体裁のよき歌の背後に

ぶよぶよの大地を生きる民としてステップは苦手手振りは得意

人間に生まれ変われるつもりかいメイクアメリカグレートアゲイン

透明なあやとりをつづけていたよ不在になったきみの番まで

深夜いっせい死者よみがえりくるごとく歌人のボットが並びはじめる

死ぬ日まで空を仰いで、弾圧のない現代詩にない空の青

振り返るきみに笑まざるわれなりき大事なことは一瞬なのに

ムーンリバーが流れてきみといたのです年をとったら泣くんだろうな

親父は喜び母は悲しむ一日(ひとひ)なり出家の決意述べてしまえば

王朝はつね永遠の夢を見る火種を赤き水で消しつつ

誰もみなたった特別になりたくて自分の名前は逆からも言える

ほとんどの人にはあまり意味のない点灯夫今日も灯りをともす

幼児用椅子に描かれたミッフィーのやぶけて黄色いスポンジが出る

稲荷橋のバス停できみはバスを待つさっきの涙はさっきで終わり

簡単に書いたものゆえ簡単に残らないのかもう消せらせら

短歌ってなんだったんか、きみと始めてきみいなき世にいななく一首

草の中もぞもぞ動きすっきりと風呂上がりみたいに汚れて犬よ

信念を貫くことにとても似て長生きは馬脚のはじまり

人間は未来になんて進めないくるくるぐるぐる生きているだけ

ひとり抜けふたり抜けいつかしづかなるタイムラインよ、夜ひらく梅

ここでいまテレビを流し向かい合い食事をしている、深い意味がある

往年の国民作家は笑むときに労働者めく吉川英治

2019年3月3日日曜日

20首連作「マラソン」199?年

  マラソン

僕は今ランニングシャツと短パンで鎮めつつ何を待っているのか

乳酸の残る身体(からだ)をほぐすため伸び縮む男ゴムの匂いす

参加者七百二十二名、参加費三千二百円、七百五番のゼッケンを負う

スタートラインに一般男子蠢(うごめ)いて肉体は比較され比較する

銃声にいっせいに逃げまどう人、目に刺さる呑気な空の青

ランナーは走るのみにて結実し観衆の手は叩かれっぱなし

筋肉が喜んでいる、狭い視野への逃亡と言えぬでもなき走りに

後方にうっちゃってゆくと思いしが言葉が僕を追いかけてくる

坂の上の二月の風がたむろする目前で追い抜かれ目で追う

筋肉が苦しんでいる、折リ返シマダ引キ返スマダ遅クナイ

耐える為の最終兵器を用いる事をためらうも過去の霊呼びはじむ

けち臭くカーブの最短距離を行く 意識の前に変節は成る

醜いランナーの周りはもやに包まれてひとり時間を逸脱しおり

苦痛と汗のまだら模様の全身はあらわに恋える俺の挫折を

俺という酸っぱい肉の塊を舐め癒(いや)す女を信ず、つかのま

日常まで残り何キロ? その先は? 浮標(ブイ)のようなる生はこりごりだ

走りつつ意味だけを更新しゆき亡霊に手を振る現在地

二瞬前、一瞬前の俺が消えてゆく背後を思う腹を押さえて

観衆が両脇にある道に出る、自分が老犬のようで羞(やさ)し

走らされねば走らぬ僕が走りいる右足の痛み大いに庇い

2019年2月17日日曜日

二十首連作「猫のヒロヒト」1998年

「猫のヒロヒト」

愛までの経過痛まし紙粘土の固まるまでのべたべたの白

人といてはじめて孤独、寂しがりやのお前と猫の話を始む

みどりの日に美しく過去は変色し変わりゆく僕は子猫を貰う

鼻髭の模様をつけたこの猫をヒロヒトと呼ぶ僕の底辺

久々に女を泣かす、泣く女慰める猫見ている男

白黒の解け合わぬ心あらわしてヒロヒトはついに吠ええぬ獣

俺とお前はやり直せるか擦っても擦ってもとれぬシミ付きの愛で

梅雨明けの空の青さに目が笑うもう殴らぬと決めていたのに

考えすぎは体に毒? どきどきと女に触れて痛み遠のく

猫のようなお前のしぐさ、荒々しい僕に無条件降伏の時も

裏返しの四角い部屋であついほどお前を捨てる事を思いき

ヒロヒトの写真を撮ろうあの時の跳躍をもう一度してくれ

眠るときのその無防備を率直に愛情と受け止めていいよな

逃走も行為と思うまっしぐら俺が捨てたきヒロヒトの霊

絞殺をとどまったのが愛じゃなく臆病なんて頑張れよ、俺

日常の短歌を捨てて弱く抱くヒロヒトは常に行為を求む

愛の巣を飛び出して行け何処へ行け? もう渋滞の車の列に

お前捨つる未来まちかき駅前は祭りのように女うつくし

逃走を選ばぬお前ヒロヒトを胸板に乗せて目を強く閉づ

ヒロヒトに噛み殺される夢を見て茶碗にミルクをなみなみとやる

2019年2月9日土曜日

2017年02月の98首ほか、返歌、付け句、俳句、川柳など。

ほんとうは終わって欲しくないのかも生死の葛藤というわが青

出会いって基本は誤解のことだから左官みたいな笑顔すんなよ

世の中の秘密を秘密のままにしてまた来るような終わりむつかし

うたうのだみんなシャラララみなウォウオ、最終電車でわれら殿(しんがり)

底で闇で零で黒なるうたびとの負のちからプラスにいたれかし

胴体を草が貫きたる鳥がわれを慕ってくる夢かなし

正しさが試されている、にんまりと枇杷色の歯を見せる老婆に

忘れられる権利さておき千年前のテンションたかき恋歌を読む

身体から毒を出したらすっきりとするというおぞましき空想

東京は圧倒的で若き日に東京に負けた悔しさが、へっ

ビジネス支援モードをOFFにし忘れてきみとのバランスシートが浮かぶ

いつになれば変わりたくなるその時に変わりたくない自分を措いて

歌が上手い歌手がだんだんビブラートがうわずってゆくあわれなりけり

冷めているゴーヤチャンプルそぼそぼと見解がもう合わないにがみ

球体では妄想しにくいことだけど裏の地球にきみはいるかな

人間(じんかん)が人間(にんげん)になりぼくたちは愛を0だと勘違いする

人の命を預かるときにおぼろげに偉大さという地平がみえて

それは目に見えねば言葉を網にしてひっかかるまで投げるしかない

釜玉に続いてぶっかけ小を食い寝る夢はついヤマタノオロチ

貧すればどんどん鈍してわが指も一本くらい食べて困らぬ

ウイルスかウィルスかビールかヴァイラスかどれでもよいが具合が悪い

離反者も弟子の振りする、フリスクをかじりつつ途中まで言わせとく

テトリスの埋め損ないの顔をしてゲームオーバーまで消えられぬ

ほんとうの歌をいくほど残すだろう体裁のよき歌の背後に

寝る前にこれ今生の別れとぞ涙ながしてすっきりと寝る

ぶよぶよの大地を生きる民としてステップは苦手手振りは得意

おでこから搔き上げてかぶる水泳帽、25メートル泳げた自信

1tと書かれたハンマー振りおろすようなしぐさに驚いている

スライムを倒すだけなら魔王の世は終わらぬし経験値もしょぼい

人間に生まれ変われるつもりかいメイクアメリカグレートアゲイン

この店の料理がとてもうまいのよ隣の駐車場におうけど

生き物は最後は耳になるらしき声をきければゆけるとおもう

透明なあやとりをつづけていたよ不在になったきみの番まで

深夜いっせい死者よみがえりくるごとく歌人のボットが並びはじめる

報いへの期待のせいで識らずしらず堕ちてゆく木にかかる風船

美人あつかいされた自慢は(わかったよ//知ってるよ)あときみまろのCD返せ

死ぬ日まで空を仰いで、弾圧のない現代詩にない空の青

振り返るきみに笑まざるわれなりき大事なことは一瞬なのに

空の青うみのあお海の中のブルー青鮫の青ざめざる一世(ひとよ)

さびしいと深夜ツイートするきみのオレじゃないので笑みつつスルー

舞台裏から声は電波のごとくきてどの声を聞く受信器われは

ムーンリバーが流れてきみといたのです年をとったら泣くんだろうな

親父は喜び母は悲しむ一日(ひとひ)なり出家の決意述べてしまえば

近づけば差異は広がる、1ミリの思想の崖にとまどうわれは

踏み込めば極楽になる一歩とはあのあたりかな、会社へむかう

チョコレート以前以後にて人類は強くなったしズルくもなった

バタフライエフェクトとして今きみの微笑みが遠い吾をがんばらす

ありがとうもう梅が咲いてくれている枝ばかりなるけさのわたしに

王朝はつね永遠の夢を見る火種を赤き水で消しつつ

誰もみなたった特別になりたくて自分の名前は逆からも言える

ほとんどの人にはあまり意味のない点灯夫今日も灯りをともす

今回はぼくが短歌をすり抜けるはずだったのに奴がうなぎだ

わがうちに白野弁十郎がいてそろそろ記憶が薄らぐところ

武満徹と山下達郎の音楽が好きっていうのは音楽だけか

人類のいない野原で猫も鳥も一瞬かれらの夢をみるなり

十代の呼び方でふたり会っていて弱音にならぬ言葉すくなし

幼児用椅子に描かれたミッフィーのやぶけて黄色いスポンジが出る

甲子園がきらいな彼は短歌甲子園をいやがりながら気になる

ブルーナの陶器のような鳥の絵があなたの部屋にあるとうれしい

稲荷橋のバス停できみはバスを待つさつきの涙はさっきで終わり

偉大なる私利なき権力者のためにかわいいナイトキャップあるべし

北へ向かう魂やよし、問題は魂を運ぶ乗り物がない

知らざればググりてお助けおじさんの好意と善意は敗(ま)けゆくことを

あの川はどこだったっけ舗道にて亀が楽観的だが急ぐ

簡単に書いたものゆえ簡単に残らないのかもう消せらせら

どちらかが足りなかったということじゃないんだ、別れのあとのメールに

ニアレストデュティ(手近な義務)がつまり人生でその他はだれかの夢のまぼろ

正確な正方形で鋭すぎずなめらか過ぎぬむらのない色

短歌ってなんだったんか、きみと始めてきみいなき世にいななく一首

戦争はたとへば愛の行き詰まゐゐぢやなくてゑゑうまく言へないんだらう

20世紀ドイツメルヘン読んでいるメンヘルの妙に似合うゴスロリ

草の中もぞもぞ動きすっきりと風呂上がりみたいに汚れて犬よ

固まって構えてわれを見つめたる野良猫よ、そう、われらは敵だ

腹見せて浮かぶ魚が捨てられた「花壇」にただよう生臭き香は

色黒の手首に白いGショックして色恋のくだらぬ少女

短歌とはメフィストフェレス=むく犬のマルガレーテが引き上げるまでの

宇宙人と仲良くしよう地球には狂った奴らばっかりだから

火力発電ですら皇居に作るかよ塚本さんも時々イタい

夜のドライブ真っ黒な田舎に灯(とも)る二階都会に出たくて学んでいるか

プレミアムフライやで〜ってもうすでにほくそ笑んでるオカンが見える

一応は乗るねんけども値が下がる一日ずれた頃にオカンは

歌をうたい雲をながめて町を渡る来訪神に迎えびとなく

信念を貫くことにとても似て長生きは馬脚のはじまり

死をえらぶ日の案の定美しい世界だけども騙されないよ

地上から黒きごつごつ割り出でてその末端につつましき白

インド煮とオランダ煮あと肉じゃがのどれが食べたい? 笑顔で彼女

人間は未来になんて進めないくるくるぐるぐる生きているだけ

脳内に惑星がある、しばらくはランデブーする軌跡がうれし

ひとり抜けふたり抜けいつかしづかなるタイムラインよ、夜ひらく梅

魔王にはヒューマニズムが一滴の毒となり角を漏るるワイン

背景にゴジラを重ねおくだけで街がセットになってしまえり

徒手空拳ではなく素振り、そのようなチョップがいつか胸まで届く

森内と東浩紀のモーフィングの途中のようなおっす、石橋

ここでいまテレビを流し向かい合い食事をしている、深い意味がある

往年の国民作家は笑むときに労働者めく吉川英治

この星は5国の力に営まれ平和主義とは下位の概念

人間を信じるという冒険を空あおき今朝またはじめるか

良し悪しはじゃあ投票で決めましょう一票よりも二票のが良し


#都々逸
 人の評価は気にするなって書き込んだあと「イイね」待ち

#川柳
えほー巻き
心の準備が
パピプペポ

#パロディ短歌
人間よおれはいわゆる動物のうんこだ話しかけんでくれよ

この味がいいねときみが言ったから2月14日もサラダ記念日

絶唱にちかき一首を書きとめつ階下突然カレーのにほひ

#かしくらゆうがやらかしそうだ
あやかしというにはどうもセクシーでかしくらゆうがやらかしそうだ

#ちょこたん
チョコフォンデュの海に飛びこみ甘酸っぱいきみとほろ苦いぼく、やな夢だ

新宿駅を歩く人らよ格差とは胃の腑でいまだ溶けざるチョコだ

社内便でこういうものを送るなよわざわざ「義理」に訂正印押して

23:59までこばむなよ濃い愛に負けてもたれたれども

#ぼくらは絶えず苦悩に生きてる
下の句は二足歩行の足みたいぼくらは絶えず苦悩に生きてる

#ラーメンについて西村曜さんと
麺類は人類が好き、掛けられて昇華してゆくときの恍惚

シルクロードを隊商(キャラバン)がゆく、足跡のように小麦を伸ばし延ばして 

高次元の存在にわれはすすられて加速してゆく、どこへでもゆけ

刺すか刺されるかもしくはすすらるか、カフカ書かれふか城は白いか

麺類史四千年をすすりいる人類のその腹のわたつみ

麺類の誘惑まさに巻きつかれ苦しむ夢を見たんだ昨夜

そのたうり、われらはいのる麺類をラーメン、右手を軽く掲げて

きみのからだマッサージして夢中にて人類を麺類にするとこだった

#ブラタンカ
野良ブラは生意気だけど選ぶのだ飼い主をそのちょうどの幸(さち)を

#乗っ取りLINEについてtoijimaさんと
ほんたうにそれは友達? もしかして恋人なのか(ポジティブ過ぎだ)

ポジティブもネガティヴも既読スルーしてあとから一枚モルディブの海

#つかまえられずただ見つめてる
つかまえたらもう君のこと見ないから
つかまえられずただ見つめてる

#俳句
茂吉忌に知己にもち吉持ち寄りき

#原理主義川柳
エキスパンダー曲げても戻る原理主義

原理主義のバージョンアップ追いつかず

原理主義に養成されて魔球投ぐ

現実を原理に曲げてストレート

ゲーデルも論破できるさ原理主義

原理主義は川柳でなく春の季語

2019年2月6日水曜日

”フクシマ”と表記した歌2〜2011年6月25日「ノーモア」

  6月25日「ノーモア」 

野辺送りに音楽はなくだらだらと悲しみもまだかたちとならず 

ドクダミの白き四つ花が目に留まり美しいけれど声には乗せずき 

入道雲の白あたらしくわくわくと希望とは雨として届くなり 

もう人が住めない町にひまわりは徐々に頭を擡(もた)げているか 

柔らかき濾過の一翼サマショール(わがままな人)の表情は少し凛々しくぞ見ゆ 

とりあえず猪木の張り手二つ三つ食らうようなる希望か今は 

混雑の朝のホームの屋根にひとり「変えろ」と警告する大からす 

休日の高校を囲む公孫樹(いちょう)揺れノブレス・オブリージュと聞こえたり 

音楽は夜の畏れを麻痺させてかすかに希望に換(か)うノクターン 

野川沿いを下って自転車でゆけば二重真理でいい海に遭(あ)う 

言い過ぎて「ノーモアフクシマ」悔いつつも「ノーモア『ノーモア』」と弁解できず 

”フクシマ”と表記した歌1〜2011年6月12日「暴力は思想か否か」

  6月12日「暴力は思想か否か」 

思想にも十八禁の領域があるか暖簾(のれん)の向こうのような 

犯罪はなべて暖簾に腕押してその手首グッと強く引かれて 

暴力は思想か否か田舎から上京したまま迷子の老婆 

フクシマが吐き続けいる白煙と人を呑み込み続けるトーキョー 

ブラックホールは黒洞と訳す漢字語の"玄"を選ばぬ理由訊きたし 

暴力と性と金とで塗りつぶし21世紀も背景か 

十八禁の今世紀にて人の女にハイネの恋愛詩を語る馬鹿 

なんというワイセツ動画あの設備のえんえんとお漏らしの生ライブ 

アニメーションの十八禁は十八歳以上のいない子供の世界 

十八禁の領域で君に出会いしがその先の今は君はおらずき 

雨あがる雨の最後の一滴を手をついて鉢に顔よせて見し 

2019年1月29日火曜日

ツイッター連句のフォーマット

歌仙

表六句(月を一つ入れる)
発句
脇句
第三
四句
五句
折端

裏十二句(恋二つ、月一つ、花一つ)
折立
二句
三句
四句
五句
六句
七句
八句
九句
十句
十一句
折端

名残の表十二句(恋二つ、月一つ)
折立
二句
三句
四句
五句
六句
七句
八句
九句
十句
十一句
折端

名残の裏六句(花一つ)
折立
二句
三句
四句
挙句

2019年1月26日土曜日

#あみもの1をゆるり読み 〜あみもの1号ヒトコトコメント。

あみもの13号発行おめでとうございます。お祝いの気持ちを込めて、
#あみもの1をゆるり読み として、あみもの1号をツイートしたのをアップしました。

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理科室の魚に餌をあげに行く 季節は順番通りに終わる
「理科室の魚」屋上エデン

 表題歌にふさわしい秀歌。実験のために生き延びさせられる魚とは、季節に慣れてしまったわれわれを比喩しているようだ。

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いちばんの性感帯は耳だから君の会話を盗み聴きする
「妄想宇宙」ミオナマジコ

 妄想が最もセクシャルだとわかるいい連作。この連作はテクニカルで、体言止めの歌がない。つまり、妄想なのに行為の作品となっている。上掲、部位でなく機能としての耳を性感帯と解釈させていて、光る。

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大小をおかみへわたし二階へと下城の鐘はまだ鳴りやまぬ
「早春譜」笛地静恵

100年ずつ遡る早春の情を描く。楽しい構成だ。上掲の、刀を渡して女と過ごすだろう時間。その前に、彼はおそらく謀反的な何かをしたのだろう、鐘が鳴る。江戸のハードボイルドを思わせて楽しい。

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少しでも心に残っていればいい 白く老いたる犬がいたこと
「老犬と甥二人」小澤ほのか

登場人物が多めなのと、親族呼称のみでドキュメンタリーを描くのは、けっこう難しいが、シーンが印象的に切り取られている。上掲、「記憶」でなく「心」に残るというのがいい。そして、「白く老いたる」という表現が、読む人に残る。

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冬空のたぶんあそこがZiの星また明日からも見守っててね
「惑星Ziより愛を込めて」あひるだんさー
そういうアニメ、みたいな締めだよね。最後の一首で「こいつ地球でリーガルエイリアン(by Sting)なのかよ! やべー」と思わせる。ゴリム控えろよ、とか思う(参加するな)
(追記)編集後記によると、実際のアニメらしい。

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食パンのふちを残して食べていたノルアドレナリンやっぱり食べる
「さよならごっこ」白川黴太

パン耳を残す/やっぱり食べる、という行為に神経伝達物質が挟み込まれることでうまれる、生そのものへの受動感。別れというのは、生の何かを凍らせるが、ぎりぎり意識がある。

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柔らかき茶色を地毛というためのこまめさ 君の文字の小ささ
「君を見てたい」伏屋なお

髪の色を連作にすると不思議に、登場人物が美しくなる。萩尾望都とコラボしてるような。上掲は文字を見て髪を思う逆の思考の流れがまとまりの良い韻律でうたわれている。

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吐く息の白さがやけに濃い朝に目にもまぶしいおはようの声
「雪まみれ」知己 凛

雪の風景をそれぞれスナップしたような連作。上掲、雪の朝の、晴れた、目が痛くなるようなあの感覚を想起させる。触覚視覚聴覚にうったえていて気持ち良い。

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排他的理系男子が理科室で白衣を脱いでするスイカ割り
「ざっとした期待」池田明日香

この連作は全体が完成度が高いと思う。この一首でも「する」の使い方は特異で、もうこれで詩になってると思う。白衣とスイカの色彩、排他性とホモ・ソーシャルの空気感。いい歌だ。

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MusicFMで聴く新曲は罪悪感があっていいよね
「聴かず嫌い」渡良瀬モモ

悪いことって、確かに、ちょっと快楽がある。ここをちゃんと掬えているところが、短詩のセンスだと思う。あと、新曲以外は罪悪感薄まるのも、繊細だ。

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から風が吹く外回り今日もまたどこかで桶屋が儲かっている
「五センチヒールのかかと」夏山栞

慣用句をアレンジして、うまく時代の気分を歌にしている。誰かがバズり、どこかが大金を手にしている日常の、自分の外回りに吹く風。乾いて、きつい。

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煙とバカは高いところが好きらしい神は煙じゃない方らしい
「煙とバカ」ただよう

表題作。”高さ””上”って、すでにある種の価値判断を含んでいる洞察がベースになっていて、その位階と頂点の存在を「バカ」といいきる潔さがいい。ひがみみたいなものもちょっとあってね(笑)

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淑女のブーツのつま先の雪の結晶間もなくとけていつか還る空
「ゆき」小川窓子

短歌韻律としては四句「間もなくとけて」しか合っていない。が内容において確かに短歌である。「の」の拡大からの空、白からの青。いのちそのものの比喩のようでもある。

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平仮名の書き方さえもわからない子どもの声はとても明るい
「仮」ガイトさん

「仮」の字を題詠的に重ねた連作。上掲、ことば、知識を増やすことで失われるかもしれないような明るさを、少し疲れて、まぶしく見ている。

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「朝なのにさよならなんてウケますね」面白がられる別れのかたち
「別れのかたち」小泉夜雨

教育の場を去る時の、送る側との温度差の歌だが、生徒の言葉が面白い。朝のさよならはさほどおかしくなかろうし、ウケますねっていうフランクな丁寧語。きっと生徒も感情が処理中なのだ。

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でもこれはわたしのオーガズムなので君の手柄にしないで欲しい
「でもこれはわたしのオーガズムなので君の手柄にしないで欲しい」ハナゾウ

性愛のgiveとtakeを切り分けてゆくと、見えてくる理不尽があるが、この摘出は、とても鋭利だ。この歌は、時代が下ると、多分、当たり前になってゆく、記録的な名歌になるのだろう。

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くるくるの天然パーマ大きな瞳(め)天使みたいな天使だろうね
「君の声 君の夢」大西ひとみ

下の句の、比喩として用いた言葉が、途中で、これ比喩じゃないわ、と思い直す心の動きをそのまま載せるのは、現代短歌的な技法だ。それがリフレインとなって、印象を深くする。

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ガラスごし名札たよりに吾子探すみどりごのみの異世界の中
「出会い」有希子

新生児室を異世界という表現も面白いが、名札たよりに探すという、絆みたいなものも実は後天的であることをさらっと伝えているところがいいと思う。

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ポケットの奥へ隠せりてのひらを見せれば負けてしまう気がして
「エトランゼ」天田銀河

完成度が高く、物語性、叙情性も見事な連作。上掲、てのひらには、文字通り、手の内を明かしてしまうような無防備さがあることを、それを隠して人は生きていることを、丁寧に歌っている

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迷いなくプルタブ上げる音がする元日昼の南風6号
「帰省」岡村和奈

プルタブは厳密にはもうないんだけど(いま別の言い方だよね)、要するにお酒を開けているのよね。それは南風は土佐を走る列車だから言わずもがななんだよね。土地感があって心地よい歌。

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蔦の這う古いアパート俺たちは不本意ながら同居している
「これは腐れ縁」薊

連作の一首目にしてテーマをうまく伝えている。蔦、という、付着と長い時間を示す植物の選び方がうまい。不本意だが、ちょっと、居心地がよいのだろう。

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90分で900キロ弱移動した神よ私をお許しください
「空の旅」くろだたけし

人間が、足を使わずに高速で移動することは、たしかに、罪なのかもしれない。900キロというとたとえば、東京から九州への距離を、何度も移動するなんて、現代人は罪深い(笑)。

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若さとはやはり暗くて行き場なく半裸が占める浜からの階段(きだ)
「はつ夏、海へ」松岡拓司

若さとは半裸の群れから去る暗さだ、という認識が面白い。あの明るい浜辺の半裸たちは、若さではない何かなのだ、という認識。

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滑らかな海岸線は記憶して旅立つことが正しいと思う
「遠い手紙」岡桃代

距離をうたう、気持ちが載っている連作。上掲、結句が切ない。旅立ったのは誰か。自分か、他の誰かか。正しさがわかっても、できるとはかぎらないのだ。

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寄せ書きに田中の書いた「磊落」を今も心の糧にしている
「パーラー田中」木蓮

人は、いくつのかの言葉を、シーンや人物をともなう”はっとした体験”として記憶していることがある。この「磊落」は、その一回性の、言葉が体験になっていることを見事に描写している。

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貝殻を拾つて海に投げるとき一瞬消える友の右腕
「貝殻」萩野聡

存在論的な連作。視覚によって保証された存在は、視野を外れれば、それは記憶された不在と区別がつかない。この歌の具体である貝殻もまた、不在を抱えた存在である。

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掃除機で空を飛びゆく魔女がゐて平成はもう終はつてゆくね
「ふしぎな物語」宮本背水

掃除機とは、一瞬昭和を思わせる語だが、ダイソンやルンバによって、平成は掃除機が流行った時代といえるかもしれない。そういえば、魔女の宅急便は平成元年だ。魔女が掃除好きかは不明。

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夕食にコロッケ揚げつつ明日朝のおかずのやりくり考えている
「それいけシュッフー!〜お買い物編〜」宮下 倖

あみものと、この連作の意義は計り知れないように思う。コミカルで、良質で、家族の食を常に考えている存在を、このように描ける場所を、短歌は持てただろうかしら。

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いつもより丁寧に引くアイライン誰とも目を見て話せないけど
「#メイク上手になる2018」九条しょーこ

なんというメイク上手な歌だろうと思う。確かにメイクって、見るためでなく、見せるためにあるんだけど、なんか天然も入っているようにみえるのはメイクのせいなのか?

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懐かしい痛み87hanageいたいのいたいのとんでかないで
「ハロー、神様」西淳子

87hanageは分からない。しかしながら、この歌の青春観は素敵だ。たしかに、青春の終わりって、痛みの終わりなのかもしれない。あ、このhanageって、むかし都市伝説になった、痛みの単位ってやつか?

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冬休みオリオンを探しに行こう白に染まった街に足跡
「あの日見た空は」龍也

カラフルな連作。この歌の美しさは、自分たちを街の外に向かわせた後の、それを見送る、動かない視点にある。そしてその視点は、オリオンの空を見ず、地面を見ている。

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吹き晒しの連絡通路にはたしかダサい名前がついていたはず
「母校雑景」典子

その名前はおそらく、一昔前の青春的な形容の、愛称されるべき真面目な名前なのだろう。そして実際の生徒は、それをダサく思っている。そのダサさも含めて、青春の記憶になっていく。

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それでも、ありがとうって言ってくれた 生きてるひとの手はあたたかい
「侵襲」満島せしん

タイトルもよいし、連作も力強い。手は、冷たくなってから、あたたかいことを知る。人は死ぬから、ありがとうの言葉が灯る。大切な一首だ。

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アスファルトにまだ水たまり 映りこむ予備校裏のラブホの灯り
「ホテル イット イン」雨虎俊寛

ゲニウス・ロキ(地霊)を感じるほどの、それがそれすべてな情景詠ではないか。水たまり、予備校、ラブホ。ここでは、何かが始まり続けている。エモいで済ましたくないエモさがある。

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文字を書く音しかしない生きている証明みたいに低く咳をする
「沈黙」ニキタ・フユ

書く、という行為は、本質的に、そこに存在しなくなることかもしれない。持っていかれかけた魂が、ここにあることを思い出して、咳をする。一時証明が済んで、また書くのだろう。

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月—金を通して働く体力も気力も不安で週休四日
「ドキドキ」諏訪灯

緊張、期待のドキドキでなく、動悸、息切れのドキドキ的なタイトル。一度体を壊したりすると、週五という人類がデフォルト扱いしているサイクルが、やけにハードルが高くなる。人類って、なんだかハードだよね。

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制服を着ているだけで風俗のキャッチは道をゆずってくれる
「ペインキラー」海老茶ちよ子

制服は性の場面で強い記号を持っている。ここでは、その強さに守られつつ、ほんの少し、自分が記号化されていることに、不満までいかない気持ちが表れている。

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暗いから電気をつける暗いから電気をつける街がかがやく
「みつめる」白井肌

リフレインでありながら、時間の経過のようでもあり、街の明るさと、夜の暗さがイメージされていく。とても美しい、詩の一首だ。

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悠々と果てなき空を北へ帰(き)す鳥たちの名は知らないけれど
「富山に嫁ぎ」なな

古風めなタイトルながら、土地に入るということの心情を丁寧にうたう連作。上揚、土地に生きるということは、どこか無名になることに似ている。でも無名になることは、自分を失くすことでなく、悠々として、みえる。

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近づいて暗闇のなか見えるもの月明かり照らす蒼白い心
「月夜のふたり」ことり

人が人に触れるときの、言葉が失われ、心だけになって、命になる、あの手探りの感じを記す連作。心が心をみつけるときの、見てはいけないものだが見てしまうような、心の蒼白さ。

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西風に貴方のなみだ混じる夜見えてませんか天満ちる梅
「せんか集 花のつぶやき」彩瞳子

天満ちる梅、とは、星のことだろうか、それとも梅の花を見上げているのだろうか。そこには見上げている顔があり、涙の混じった風に撫でられている。官能的な歌である。

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笑ってる人が一人もいないまま終点「お忘れ物のなきよう
「サファリパークへ」月丘ナイル

おそらくそこには、パークながらも、命が命を食うシーンがあったのだろう。色んな感情が湧くのだが、その感情もちゃんと持って帰るように、声が覆いかぶさる。

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玄関と廊下の照明スイッチを間違えちゃってたのしい帰省
「散歩っ」御殿山みなみ

かつては間違えることなどなかった勝手知ったる実家で、カチ、カチ? カチ! カチ。と、なんかやってる暗い場所の自分。なんか楽しくて、でも、流れてしまった時間がそこにある。

2019年1月13日日曜日

20首連作「成人の休日」2009年

  成人の休日   


昨日(さくじつ)は成人の日であったかと今さらの 休日のくらげ

そういえば華やかそうな着物らの和洋折衷なるワイン色

新成人は許可さるる、白き歯の裏も頭蓋の中も濁る権利を

てんぐさに酢と熱を入れてどろどろを冷やして天突(てんつ)きでぐいっと 二十歳(はたち)

  我がその日は徹夜明けの自治会室で輪転機を絶妙に操(あやつ)りき

  黒いソファに臭(にお)う毛布を掛けて寒し、式ではネクタイをくれたらし

  堅苦しい袴姿を褒めるほど闘争は易からずき 二十歳(はたち)

マナーモードし忘れの俺のグールドの第一変奏電車で響く

追悼会の合い間に電話くれし人が静かに問う「今、どこの辺りに?」

先に着けばおみやげをひとつ思い立つ、天井が板チョコのカフェの

行き先は風に訊きつつ、いやまさか! グーグルマップにわれの立ち位置

どの場所にいても宇宙の衛星が我を算出する、今はよし

ざくっざくっと少女クララは雪を踏む、ブロック舗装を行く我もまた

数十の中から選ぶチョコレート、命運は何も決まらざれども

遠方の人と会いたり、駅前でピカチュウ男を撮りそこねたる

「美人そばの店に行こう」と誘われて美人とそばの比重あやうし

あいにく、新成人の祝日に美人もそばも閉まりたるなり

画廊には男三人コップ酒、乱反射する言葉のにおい

うたびとと紹介されてわがこころふりさけみれど炎(かぎろい)見えず

ガード下の明るい店に消えてゆく五人その後は語るべからず

2019年1月5日土曜日

30首連作「あじさいのうた」2009年

「あじさいのうた」 

パスワード作成を今日に促され「AJISAI6」と決めて弾かる 

 コンピュータが我を認めてくれるまで世界と接続できぬ月曜 

今朝電車で群生の濃き紫陽花を窓に見る、あれは青であったか 

青ざめて、否、うっ血の頭部並(な)べて井の頭線を眺めていたり 

牡丹のように花は首から落花せず、亡き人のことを思う六月 

 六はさいわい、六は不吉の数にして葉の上(え)に涙のごとき雫(しずく) 

  庭すべて紫陽花が狂い咲く昼に俺は生まれた、雨に閉ざされ 

 幼きは毬(まり)の中身を知りたくて顔を近づければ恐ろしき 

 アジサイは毒もつゆえに幼きに注意せし祖母、祖母のまぼろし 

  晩年はあばら屋にみどり生い茂らせみずから植物となりし祖母おもう 

  20世紀の病室は白く四角くて清潔ゆえに冷たきラウム(空間) 

   病室に祖母の入れ歯を洗いたればまだ動物の眼(まなこ)にしずく 

    幼きは祖母を誇りて幼稚園の先生みなに紹介なしき 

     我の片目は君に与えて君はいま2009年を笑っているか 

  空ろなら君に身を寄せアジサイの花の数だけ接吻したし 

   君という球体の中に狭からぬ荒漠を見る、雨降り続く 

 幾万の打ち首の無念洗いつつアジサイは咲く、その翌年も 

  討つものと討たれるものが見る花のむらさきのその色のかなしさ 

紫陽花町のアジサイの花は汚くて町の花のアジサイもペンキ絵 

適当でダイナミックなあじさいの小学生の水彩画まぶし 

 この絵には判子のようにマイマイが描(えが)かれて我は深く沈めり 

詩人めいたポエットさんが思いつく「あじさいのうた」に酸性雨降れ 

 人生の秘密を一詩に書いてのち詩人は昨夜(きぞ)のカレーあたたむ 

街をゆく人の頭が紫陽花の現代アートの永き空梅雨 

 「カラツユって言葉は少しおかしくない? 降らなきゃツユじゃなくていいじゃん」 

   美術館を出て次は、前を歩く君は、女は、歩くとき腰を振る 

  人脳の80%は水にしてアオムラサキの容器ぞ我も 
    
   水の思念、いな思念とは水にしてちゃんと流れることが幸福 

パスワードは結局「a231No-Uta」とす、いいじゃないか人に教えるでなし 

枯れ始めた紫陽花に老いの美もなけん、接続を解除して水は来ず 

2019年1月2日水曜日

20首連作「ペットボトル風物詩」


ペットボトル風物詩

生物でも鉱物でもない悲しみかあっけらかんとペットボトルは
窓ガラスの通す光がギター弾く男のうつろをあたためている
ががんぼの絶妙なまでの足取りのわが訪問をゆるゆる許す
性欲は少し醜く鳴きあってブロック塀の向こうの孤独
美しいナイフで刺せば柔らかきペットボトルと人体の差は
少年は四季を通じて待っている勇敢な残酷な儀式を
照準がずれて苛立つサバイバルゲームの捕虜の救出作戦
少年も多摩川も多摩大橋も真っ赤に染めてしばし、夕陽が
君去りて部屋に立ちたるペットボトル、少し揺らして揺れゆくものを
どこからが男の視線、色彩のもとを辿れば君のくびすじ
アンモナイトの昔話をするうちに丸まってゆく君の眠りの
微笑をたたえていたか、お辞儀してわれを離れてゆく二三歩に
枕にはペットボトルはやややわく透明の夢へこみゆくなり
水田の真中で父は後ろ背の、水一面の青空に立つ
真昼間の家の玄関がらがらと開ければ土間の黴臭さ、甘さ
じりじりと蝉燃え尽きん夕方に初めて精を放つ草むら
ペットボトルぐびりぐびりと文明の曲がり角にて我は渇いて
考古学の提出論文「フロッピーディスクの出土と遺跡分布図」
ひたひたとめのうの巨石に手をあててその褐色の内面を聴く
缶珈琲カンカラカンと投げ捨てて地球に厳しい生き物ではある