2016年3月6日日曜日

2016年02月うたの日作品雑感。

うたはうったう、というのは折口の説ですが、これは逆にして説を成り立たせることはほんとうに出来ないのか若い時分に考えていた照屋です。(つまり、言葉にメロディを付けるという異常行為は、異世界に訴えるのに有効と思われたのではないか、という説です。)

春ですねえ。

21世紀になってまもなくは、未来を生きている実感はないなあと思われたものの、最近は、けっこう未来感が漂ってきていますよね。自動運転、二足歩行ロボット、人工知能。もうひと越えで、いろいろの文脈が大きく変わりそうなんだけどね、もうちょいかかるのかしら。

「剣」
剣先に覚悟決めたる人間の顔を見なくていい世のおとこ

ここで死んでも悔いなし、あるいは、絶対にお前を殺す、という覚悟を決めた顔は、普段なかなかお目にかかることはないでしょうね。また、それに対峙する顔を持たなくてもよい時代になっていることよ。(参考書の訳か)

「電話」
三時間も電話をつなぎ告白にいたる目隠し将棋のような

SNSの普及でこういうことは無くなってるような気もするけど、今でもあるのかしら。

「右」
トラックの右の右から書かれたる社名が満たす論理性はや

あれは多分縦書きという論理なんでしょうね。

「西」
この磁場を一生泳ぐぼくたちの西とはついにさよならの場所

西方に極楽浄土を設定したのは、やはりそこが一番悲しい場所だったからなのかな。

「紙」
めりはりのない四つ足の紙粘土、彩色だけでパンダをめざす

座ったポーズがとれるかどうかがポイントじゃないかな。パンダは。

「村」
残酷なアーキテクトにあらぬかも村人Aが憂う世界は

これはソシュールの言葉の定義をめぐるような話だ。世界がアーキテクトされている限り、人は村人Aになれる、という意味か。

「缶」
週末の金曜日には缶詰めのエサをあげてもいいご褒美に

ちょっといい缶詰なんでしょうね。で、それをあげていいというご褒美が金曜である、と。動物も人もうれしい。

「部屋」
液晶の窓に世界が映るからこの部屋はいわば世界の外だ

エッシャーか。

「あだ名」
マイケルじゃなくてあだ名がジャクソンの彼を見てああ言い得て妙だ

なんだろうね、顔がマイケルっぽくないけど、手足が長いとか? でもそれってジャクソンっぽいってことなのか?

「眼鏡」
見る用というより見られる用であるその黒縁は伊達ではないが

考えたら伊達眼鏡って眼鏡の見られる側面を強調している用語なんだよね。すごいな、メルロ=ポンティかよ。

「日本」
うたうときぼくらはまるで一本のいや日本の詩形のごとし

イッポンのいやニッポンの、って言いたいだけか。

「ちゃんと」
いろいろのニュース見ながら要するに人間だけがちゃんとしてない

ちゃんとするの「ちゃん」って何やろね。チャンとするっていうとタラちゃんみたいになるな。

「穏」
騒乱もテレビを消せば消えるほど遠ければ穏やかなる日々の

観測範囲の話だろうか。それとも穏やかさとは距離の問題なのだろうか。

「愛」
その言葉が生まれるまでの生き物の永遠ほどの時間苦しき

♪愛が生まれた日〜じゃねえよ。概念を獲得するまでの生き物の言葉にならない状態のことを歌ったものか。

「靴」
会いにゆく道にはきっとぬかるみがあるのだ靴は汚れるけれど

ここの「けれど」は逆説なんだけどこの逆説は省略を呼ぶんだよね。そうしないと意味がおかしくなる。

「藍」
その色に染まりし服に身を包みきみはしづかな植物になる

着る服によって内面が変わるなら、それは取り入れているのと同じことではないか、あ、だから内服というのか(ほんまかいな)。

「怪獣」
倒されて薄れゆくなか歓声かわが咆哮かわからぬ音よ

わかっているのは、忌まれているということだよな、「怪獣」なんだから。

「二度見」
よどみなく夜を帰ってゆく「今日」に白いしっぽが、今あったよな?

ちゃんと0時に帰ってくれないと、一日ってなかなか終わらなかったりするよね。

「薬」
なんとなく鮮度や湿度を保つため大事にくしゃくしゃビニールを詰む

あれは急須の先のゴムと同じく、むしろすぐ捨てた方がいいらしいぜ。

「エプロン」
先立たれたショックによると噂され昭和を生ききエプロンおじさん

子供のころ田舎で見たことがあった。女装して化粧で赤い顔をしたおっさんで、高校何年生みたいな雑誌の投稿コーナーにも載ったことがあるらしい。現在の女装とはやっぱり意味が違って、狂気とセットに語られていたよね。

「イジメ」
学校に来れなくなった鳥男をぼくは笑っていただけだから

イジメには3つの闇があるので、三者三様に光が必要だ。

「糸」
運命の赤いやつとは違うけどそんなに逃げると指がとれそう

全部で何色あんねん。

「綿」
種子ほどに分割されて綿毛にて広がってゆくきみのおもいで

そこに植わるものは少ないにしても。

「服」
権利とは生意気であるしたがってしたがってきてひとつの不服

権利を主張した時に生意気と思うか思わないかが共感の分水嶺なのかもしれない。ロボットとか、ごきぶりとか。

「豚」
生姜などという植物があるせいで旨そうにオレは焼かれたりにき

豚なんて生き物がいるせいで、と生姜も怒っているよ、たぶん。

「それぞれ」
夜の道をへんな生き物がよこぎってやがてそれぞれ言うのをやめる

夜の道を横切るべき生き物って、そんなに数多くないけどな。

「コップ」
この星の片方だけが塞がった筒の用途は諸説あります

なんだろうね、片思いを表す贈答オブジェとか? まあでも水を飲む用途は、ありかなしかで言うと、ないよなあ。(宇宙語で)

「鞭」
後輩に怒る時つい心底はお前のためのような口ぶり

鞭って、やっぱり棒から進化したんだろうね。

「うるう日」
言葉にはしないけれどもこの次のうるうの日には遠いぼくらよ

つぎのうるうの日にも会えるといいがなあ。
いや、好き勝手書きました。どうもすみません。


自選
「右」
トラックの右の右から書かれたる社名が満たす論理性はや

「靴」
会いにゆく道にはきっとぬかるみがあるのだ靴は汚れるけれど

「藍」
その色に染まりし服に身を包みきみはしづかな植物になる

「怪獣」
倒されて薄れゆくなか歓声かわが咆哮かわからぬ音よ

「イジメ」
学校に来れなくなった鳥男をぼくは笑っていただけだから

「豚」
生姜などという植物があるせいで旨そうにオレは焼かれたりにき

「コップ」
この星の片方だけが塞がった筒の用途は諸説あります



2016年02月うたの日作品の29首

「剣」
剣先に覚悟決めたる人間の顔を見なくていい世のおとこ

「電話」
三時間も電話をつなぎ告白にいたる目隠し将棋のような

「右」
トラックの右の右から書かれたる社名が満たす論理性はや

「西」
この磁場を一生泳ぐぼくたちの西とはついにさよならの場所

「紙」
めりはりのない四つ足の紙粘土、彩色だけでパンダをめざす

「村」
残酷なアーキテクトにあらぬかも村人Aが憂う世界は

「缶」
週末の金曜日には缶詰めのエサをあげてもいいご褒美に

「部屋」
液晶の窓に世界が映るからこの部屋はいわば世界の外だ

「あだ名」
マイケルじゃなくてあだ名がジャクソンの彼を見てああ言い得て妙だ

「眼鏡」
見る用というより見られる用であるその黒縁は伊達ではないが

「日本」
うたうときぼくらはまるで一本のいや日本の詩形のごとし

「ちゃんと」
いろいろのニュース見ながら要するに人間だけがちゃんとしてない

「穏」
騒乱もテレビを消せば消えるほど遠ければ穏やかなる日々の

「愛」
その言葉が生まれるまでの生き物の永遠ほどの時間苦しき

「靴」
会いにゆく道にはきっとぬかるみがあるのだ靴は汚れるけれど

「藍」
その色に染まりし服に身を包みきみはしづかな植物になる

「怪獣」
倒されて薄れゆくなか歓声かわが咆哮かわからぬ音よ

「二度見」
よどみなく夜を帰ってゆく「今日」に白いしっぽが、今あったよな?

「薬」
なんとなく鮮度や湿度を保つため大事にくしゃくしゃビニールを詰む

「エプロン」
先立たれたショックによると噂され昭和を生ききエプロンおじさん

「イジメ」
学校に来れなくなった鳥男をぼくは笑っていただけだから

「糸」
運命の赤いやつとは違うけどそんなに逃げると指がとれそう

「綿」
種子ほどに分割されて綿毛にて広がってゆくきみのおもいで

「服」
権利とは生意気であるしたがってしたがってきてひとつの不服

「豚」
生姜などという植物があるせいで旨そうにオレは焼かれたりにき

「それぞれ」
夜の道をへんな生き物がよこぎってやがてそれぞれ言うのをやめる

「コップ」
この星の片方だけが塞がった筒の用途は諸説あります

「鞭」
後輩に怒る時つい心底はお前のためのような口ぶり

「うるう日」
言葉にはしないけれどもこの次のうるうの日には遠いぼくらよ

2016年3月5日土曜日

2014年02月作品雑感。

3月になり、少しずつ暖かくなって、いや、寒さがほどけていくようです。「少しずつ」といえば、「づつ」に違和感を感じる方がいらっしゃったようで、照屋などは、むしろ「ずつ」に新しさ、というか、学校教育風な匂いを感じてしまいますね。

基本どっちでもいいです。ですが、短歌を作るときは、「ずつ」は嫌だなあと思うことがありますね。「づつ」にすることが多いです。いや、短歌では「ずつ」を使うことは無いかもしれない。

文語と口語、旧仮名と新かなの表記法については、かつては表記警察のように自分にも人にも厳しくしていた時期もありましたが、むしろ今は混在を楽しむようなところがあります。だって歌(うた)なんだもん、という気分があります。

途中まで新かな口語で、最後に「〜なりにけり」で終わるって、歌ってんなーって思うよね。

だから、まあ、その混在に違和感があれば、照屋の短歌は軒並みアウトですよね。

もちろん、文法や表記は一貫性があった方が正確に相手に伝えられるので、礼を失しているのはたしかだ。
でも、日常も非日常もない現在で、短歌がやはり非日常であるなら、それは、表記や文体のルールをトランスするところにもあるのではないかな、と苦しい弁明をするのである。

自選

何を焼く煙の商店街に満ち雲霧林ゆく男のごとし

苦しみはあらあら報い冷えた地をあたためる日はひとつしかなく

実朝は三十路を知らず壮(さかん)なる命の前に無常を詠みき

雪に閉じ込められた二人には食べあうまでを食べているなり

雪の畑にふくらすずめの木がありて灰褐色に咲いているなり

あたたかき茶の一杯が寒き身にたしかにうれし分福茶釜

オアシスの水量により栄枯する国家がありき遺跡ましろし

かつてここに洋鐘ありて遠くまで鳴りしと読めり、またひとつ鳴る

人間も悲しいなあと、かばは云うコンクリ池に穏やかに生き

この宇宙の元素が表になるという狂気を暗記しあう学生

日の昇る前の世界でこの声はまだらが黒に負けたのだろう

外周のふちの傷白き瓶コーラを二人で飲めり先を濡らして

湖のほとりを歩く王または患者と主治医の影みずに揺れ

指に載せて鳥は二度生まれるという人も何度か生きねばならぬ

電気記録の短歌はすべて消え失せてそのようなものを残す身となる

植物を選ぶほど愛を拒まれてアポロンの遠い恐怖を思う

人生は楽しいものという歌が離れゆく隊商(キャラバン)より聞こゆ

蔵書印まっすぐ押されたる古書のその所有者の背すじをも購(か)う

今夜君は青く美し月光を何リットルも浴びたるように

なんか多いな(笑)

2014年02月の56首

何を焼く煙の商店街に満ち雲霧林ゆく男のごとし

ひとり以上孤独未満の三時ごろミダフタヌーンとつぶやいてみる

東京のあまり見えない星のした身体を苦しめいきるランナー

報酬を下げるというか夕暮れの川の白さを不思議がりおる

岩笛の甲高い音(ね)の一閃に空割れて向こう側まで届く

放し飼いされたる庭のにわとりの頭十四五本が揺れる

帳尻を合わせる二月、ふとすれば星辰深遠なる線を見せ

人生は上り坂だし下り坂、勾配は首の角度が決める

朝の夢に句作しており式部の実は晩秋の語とあとで知りつつ

漱石も餌殻を吹いて飛ばしては鳥かごに戻り皿を置きたり

苦しみはあらあら報い冷えた地をあたためる日はひとつしかなく

安心を嗅ぎながら飛ぶ飼い鳥のチェイサー(口直し水)としてわれに戻り来

二十世紀の魔法を溶かしあらわなる肌のつかのま次の魔法は

政治的に妥当な君の表情を透明の飴を舐めて忘れる

実朝は三十路を知らず壮(さかん)なる命の前に無常を詠みき

夜の船はぬばたまの海に浮かび進む凪ぐかぎりセントエルモの火なし

二十年前に積もりし大雪のシーンのかけらがひとつだけあり

夜勤明けの目に溶けかけのきらきらの雪やかましくいたく去(い)にけり

思い通りにならぬ世界にまかがやく陰謀論の雪の降り積む

雪に閉じ込められた二人には食べあうまでを食べているなり

酸性の溶液に似たわが国の溶けながら未来きっとあかるし

善悪の判断難きうねりにてうねるがゆえにいい方へゆく

雪の畑にふくらすずめの木がありて灰褐色に咲いているなり

現実に持久しながら去ってゆく業をみるまでおらねばならぬ

あたたかき茶の一杯が寒き身にたしかにうれし分福茶釜

機械好きの男の帰結、のどぼとけ上下して声はフイゴのごとし

地の熱のはるか彼方に青白きほのおが浮かびシリウスとよぶ

オアシスの水量により栄枯する国家がありき遺跡ましろし

かつてここに洋鐘ありて遠くまで鳴りしと読めり、またひとつ鳴る

つまらない休みの理由聞きながら彼はこのまま許されてゆく

人間も悲しいなあと、かばは云うコンクリ池に穏やかに生き

この宇宙の元素が表になるという狂気を暗記しあう学生

大雪も二度目となれば河川敷に雪だるまなく明るく冷ゆる

日の昇る前の世界でこの声はまだらが黒に負けたのだろう

長命は望むにあらぬジョギングの健康を否定せぬ速度にて

外周のふちの傷白き瓶コーラを二人で飲めり先を濡らして

湖のほとりを歩く王または患者と主治医の影みずに揺れ

空のコップに昨日の空気溜まりいてそを流すべく水で濯げり

さびしくて鳴く鳥の声のさびしさが沁みるほどには年ふりにけり

主従心の従のみ知りて仕えしを笑わる、確かにいびつと思う

指に載せて鳥は二度生まれるという人も何度か生きねばならぬ

勝利者の顔真似をしてどことなく晴れがましかる面魂(つらだましい)は

甘美なる満員電車の圧縮に孤独の角は研がれては折れ

明け方か薄暮か知らぬガラス越しの景色のごとしわれの二階は

電気記録の短歌はすべて消え失せてそのようなものを残す身となる

毎日を繰り返しいて前方に等速に離れいる未来見つ

植物を選ぶほど愛を拒まれてアポロンの遠い恐怖を思う

人生は楽しいものという歌が離れゆく隊商(キャラバン)より聞こゆ

紅梅の塀よりこぼれ咲くを見る逆算してもまだ多し、春

蔵書印まっすぐ押されたる古書のその所有者の背すじをも購(か)う

未来永劫クー・デ・タは赤き血を吹いてその辻褄を擦り潰すなる

今夜君は青く美し月光を何リットルも浴びたるように

夜暗く静かであるがこの駅に古書店なきはつくづく寂し

絶望の気分は人に根深くてヨハネのくらき夢日記なども

つつがなくば30年後の春に咲く花の匂いを君と嗅ぐかも

山は峨峨(がが)海は濤濤(とうとう)ならねどもかく見ゆるべき生を疑わず