2020年4月20日月曜日

ふらくた連句#5

ふらくた連句「今宵は雨に」の巻

照屋沙流堂・・・沙流
野原豆・・・豆
袴田朱夏・・・朱夏
くらげただよう・・・洋
寿々多実果・・・多実果
小澤ほのか・・・ほのか
石川聡・・・聡
おふうちゃん・・・ふう
珈琲と俳句・・・珈俳

1 おぼろなり今宵は雨に散るさくら
沙流

2 涙を拭い踏み出す一歩

3 帽子は忘れたけどくれてやる
沙流

4 しゃらしゃらと葉を揺らす雨嫋やかに

5 また来年も春に逢いたい

6 狼は丘に立ちて、のち去る
沙流

7 蝙蝠の群れて一家は夕焼けに
朱夏

8 シチューのような窓の明るさ
沙流

9 回さずにじっと眺める月球儀

10 あなたの見ているほうが裏です
朱夏

11 着るときに表にしろと畳む服
多実果

12 雨ふるまえの部屋のしずけさ
沙流

13 夏燕飛びゆく空に雲はなく
ほのか

14 アスファルトより黒々と影

15 すりむいたひざの分だけ少年は
朱夏

16 濤乱刃なる小刀かくす

17 「おいそこの顔を見せない配送員!」
沙流

18 「これが素顔」とのっぺらぼうは

19 ペッパー君が甲高い声であやまって
沙流

20 繰り返されるオンライン飲み

21 白いマスクにU字への字の口を書き
多実果

22 同僚の死を占っている
朱夏

23 77度の焼酎売りだされ春暖

24 チューリップらは首を失う

25 拾うのは薔薇の援軍赤母衣衆

26 足りぬ足りぬと九尾の狐

27 心臓がいくつあっても死は一度
沙流

28 銀の弾丸込めてかまえる

29 座禅する師匠の背中壁のごとく
沙流

30 崩されるのは無実の豆腐

31 祖母山も切羽も詰まる頃なれど

32 実家暮らしの姫の退屈
沙流

33 手すさびにレースなんかを編んでみる
ほのか

34 終焉までの橙の日々
朱夏

35 もうリンゴ食べ飽きたなとアダム、エヴァ

36 あばら骨から矢じりをつくる

37 マンモスの倒れた時の地の響き
沙流

38 かき消してゆくヒトの雄叫び

39 本日も正義の感染者が増えて
沙流

40 日が沈んでくインカ帝国

41 ものうげなアルパカの耳が笛を聞き
沙流

42 長いまつげが微かに揺れる
多実果

43 五月雨の檻に囲まれ夜が来る

44 置き時計には横顔の月
沙流

45 豆苗の二度萌え激し月眠る

46 白南風の尾を掴めぬままで

47 狐には化かされまくりのお爺さん
ほのか

48 宇宙に向かってひとりにこにこ
沙流

49 素麺が流れ続ける天の川

50 誰にも見えぬむらさきの糸
朱夏

51 ひっぱってくれたらついていきたいよ
沙流

52 くじ引き引いて残念賞を

53 虚しさは仕舞い忘れた夜に降る

54 ひきだしの奥にわずかな希望
沙流

55 ドラえもん色につま先染めて

56 サンダル買いにスキップでいく
多実果

57 ひとめぼれこれはおそらく両想い
沙流

58 米を買うならコシヒカリだな

59 握り飯なかへひとつぶ愛をうめ

60 交わす言葉に花がほころぶ

61 あちこちで蛙合戦
ふう
🐸始まりぬ
62 つはものどもが水掻きの跡

63 空っぽになったカレー皿をどけ

64 福神様がお出ましになる
ふう

65 珍客を喫茶店主は能くいなし
珈俳

66 河岸につきたる宝船から

67 焼肉かカレーか迷う餅あわい
ふう

68 体重計がお乗りなさいと

69 罪悪感洗い流してくれ珈琲
珈俳

70 そう言うわりにフレッシュ入れる
朱夏

71 ミディアムのレアーを切れば薔薇色の

72 花咲くことのエロティシズムは
沙流

73 はつ夏の珈琲店のささめごと
珈俳

74 座敷童も見て見ぬふりで
朱夏

75 物置でこそこそ話し声がする
沙流

76 雛の包みは開けられぬまま
ふう

77 床の間で埃かぶったお目出度さ
沙流

78 この掛け軸の裏から逃げて
沙流

79 雪舟の山水の河くだる漁夫

80 お日さま浴びて鼻唄混じり
ほのか

81 パラソルだ、ほんとに白いパラソルだ
沙流

82 太陽に怒られている夏
朱夏

83 朝顔としょんぼり顔でご挨拶

84 おねしょのこども、二日酔いのパパ
多実果

85 水難の相があるよと占い師

86 私もですと付け加えおり
朱夏

87 大型のキャットフィッシュが生あくび
沙流

88 やがて鳴門の大渦になり
朱夏

89 泉には鯰のごとき我が顔が

90 怒りを選べとささやいてくる
沙流

91 革命は天変地異の赤い花
沙流

92 花粉のせいで自転が止まる
朱夏

93 骨董の壺から飛び出す大魔王

94 マスクはとてもとても小さい
朱夏

95 君の目と眉が本音のかたちして
沙流

96 弁舌よりも爽やかであり
ほのか

97 てのひらでフタを開けたり梅酒瓶
沙流

98 ハンドパワーが流行らなくなり
朱夏

99 手を洗うなぜか反省する心地
沙流

100 湯気を立ててる白飯うまし

2020年4月10日金曜日

ふらくた連句#4

ふらくた連句「今宵は雨に」の巻

照屋沙流堂・・・沙流
くらげただよう・・・洋
袴田朱夏・・・朱夏
小澤ほのか・・・ほのか

1 おぼろなり今宵は雨に散るさくら
沙流

2 液晶からは笑みがこぼれる

3 ドローンを無事に野生に帰す日よ
沙流

4 風の谷には姫君おらず

5 廃墟とは王制だった頃ばかり
沙流

6 農耕の血溜まりを吸い上げ
朱夏

7 鍬たてて空はミレーの薄い赤
沙流

8 からすの寝床崩れ落ち行く

9 南口の再開発の大移動
沙流

10 TSUTAYAを墓標にせぬと爆借りす
朱夏

11 いつか見る、けど今日じゃないものばかり
沙流

12 未読の増えるLINEを閉じて

13 全方位カメラで記録した冬の
朱夏

14 立ちのぼる息みんな白くて

15 明け方に歩ける者は戻り来て
沙流

16 また去っていくひとりひとりと
ほのか

17 ひらかねば三面鏡のなかにきみ
沙流

18 耳を澄まして聞く笑い声

19 乾燥後はがすタイプの青春が
朱夏

20 日に日に膝小僧を覆って

21 ループしているかもしれぬ予感して
沙流

22 魔法少女はラベンダー嗅ぐ

23 いいねしたツイート全て消える夢
朱夏

24 オレに惚れるとヤケドをするぜ
沙流

25 勇敢で命知らずの消防士
沙流

26 花を受け取るときにかがめり
朱夏

27 言葉以上に大いに語り

28 幼子がつかまえてきたはじめての海
朱夏

29 クレヨンの、ぐりぐりの、でもいきいきと
沙流

30 胃袋を描くお医者さんごっこ
朱夏

31 クレジットカードのおもちゃでお支払い

32 枯葉で詰まっている貯金箱
沙流

33 三人でたぬきうどんをすする昼

34 ソーシャルディスタンスをしぶきがまたぐ
朱夏

35 非常時局の逢瀬ひとしお
沙流

36 伝説の松の木で待つ夕映えに

37 間違って来たウイリアムテル
朱夏

38 ニュートンの頭にりんご落ちてきて

39 そうか俺にも引力はある
朱夏

40 磁力もあるよと砂場に入れる棒磁石

41 距離の二乗に比例する恋
朱夏

42 太陽系のようにつり合う
沙流

43 裏口も消毒してとかの医大
朱夏

44 リノリウム床でこけそうな母
沙流

45 ポケットの財布が薄い父と行く

46 乗らず眺める回転木馬
ほのか

47 来る度に変な顔する恋人を
沙流

48 心の中のアルバムに貼る

49 新星と自分で言って俺たちは
朱夏

50 椅子をまたいで座るほど暇
沙流

51 事件などない村落の駐在所
沙流

52 十円拾って得意顔する
ほのか

53 うたた寝がうたたたたた寝になるくらい
朱夏

54 苦労をさけて生きてきたのに
沙流

55 突風にぶつかるように恋がきて
沙流

56 大友克洋風のめり込み
沙流

57 IOCもアキラを読んでいたのだろう
沙流

58 月夜を行くは盗んだバイク

59 夜の校舎の消防設備の赤い光
沙流

60 から火が吹いてしまう可能性
朱夏

61 バケツにはザリガニもろ手あげており
沙流

62 負けず嫌いは拳をにぎる

63 消し方のわからぬ電子ペーパーを
朱夏

64 電池切れまで放置して秋

65 オクトーバーフェストで唄う赤ら顔
沙流

66 動画の声が響く教室
沙流

67 ざく切りのポトフの野菜切り足りぬ
沙流

68 かかってきな! と叩くまな板
沙流

69 すっぱりとご縁が切れる包丁を

70 プレゼントされて早速つかう
沙流

71 非常食グルメランキングの企画
沙流

72 賞味期限切れの乾パンは

73 一列のはてしない蟻の行列の
沙流

74 先でガンジーが殴られている
朱夏

75 足跡はいまも未来に行きたがる
沙流

76 決戦の朝にみるへんな夢
沙流

77 炭酸の破裂動画を巻き戻し
朱夏

78 誰かになってゆくユーチューバー
沙流

79 そのうちに何かで謝罪する流れ
沙流

80 昼には水になる雪だるま
沙流

81 戦いの意味も解らず子が振るう
朱夏

82 勇者の剣をもつから勇者
沙流

83 知らんけど貴方の盾になりましょう
朱夏

84 苦労がいやな天才タイプ
沙流

85 人知れず飛花落葉に涙して
沙流

86 錠剤はもう水なしで飲む
沙流

87 つながった思考回路の電圧が
朱夏

88 水に浸かってショートをおこす
ほのか

89 竹落葉そうマイペースマイペース
沙流

90 入口の札がCLOSEDのまま
沙流

91 店長は窓から街をながめては
沙流

92 いつOPENにするか占う
ほのか

93 カランコロンいつも口ずさんでいる
朱夏

94 七の段だけ暗記できずに

95 笑うときポストモダニズムの顔で
沙流

96 あなたの胸に幽閉される
朱夏

97 古典には過去世の二人記されて
沙流

98 クライマックスのシーン、散逸
沙流

99 一足先にクイとやられたさかずきを
朱夏

100 酔った拍子にいろいろのぽろり
沙流

2020年4月5日日曜日

「キャラメライゼーション」2008.11.24

  キャラメライゼーション

一粒で300メートル走りきてもろ手を挙げる川面の男

待ち合わせは橋の真ん中、不健康な逢引きなのにグリコのネオン

ご当地の菓子売る店で本当のご当地は問わず楽しむルール

食物の形に君は信じるか、ブロック状のこのプロダクト

made from かmade of かを訊きながら君の素材の変容を思う

幼子の初の快楽(けらく)はその小さき口にふふませられし立方

水平に沈む夕日を万力で押せばお前が湯気たててゆく

複雑な化学変化であるべきを欲望と君は簡単に言う

キャラメ汝のライ悲しみはゼー溶けて変容しゆく歓ション喜まで

褐色の俺が小さく固まって薄い包装をいそいそと着る

モスクワを目指さぬ我にジンギスカン風味の粒は美味ならずなり

2020年4月4日土曜日

ふらくた連句#3

ふらくた連句「今宵は雨に」の巻

照屋沙流堂・・・沙流
くらげただよう・・・洋
袴田朱夏・・・朱夏
小澤ほのか・・・ほのか
寿々多実果・・・多実果
珈琲と俳句・・・珈俳

1 おぼろなり今宵は雨に散るさくら
沙流

2 液晶からは笑みがこぼれる

3 ドローンを無事に野生に帰す日よ
沙流

4 鉄のにおいの種火はいずこ
朱夏

5 北風を追い越してゆく三輪車

6 ひとりカーネルおじさんに泣く
朱夏

7 極東の醤油の匂いする街に
沙流

8 まだ慣れなくてハナミズキ咲く
朱夏

9 君色に染める便箋買いに行き

10 売り切れていて雑草を踏む
朱夏

11 シュガーレスの平和はくせのある甘さ
沙流

12 ユニットバスですすむ宿題
沙流

13 いつまでも続かなかった夏休み

14 きみがログインしてこない町
沙流

15 コンビニの中だけまぶしき都会かな
沙流

16 誘蛾灯から遠く離れて

17 選べるのなら味覚だな死ぬときの
朱夏

18 ショートケーキを君に捧げる
ほのか

19 われの分もあるでしょうねと犬が待ち
沙流

20 なんだなんだとキリンがのぞく

21 春風にたべっ子どうぶつのくずが
朱夏

22 幼稚園児に追い抜かされる

23 幾人か裾ひるがえり春の風
沙流

24 叱るならくるぶしの下まで
朱夏

25 見て見ないふりする小鳥集まって

26 有言不実行のかしまし
沙流

27 ウグイスの声のテクニック以上の
朱夏

28 バットさばきで本塁打打つ

29 ほら俺の言ったとおりにすりゃ勝てる
沙流

30 気持ちの良さは別のはなしだ
多実果

31 朝九時に言い訳をするネクタイが
朱夏

32 空いた電車でやたらと重い

33 ついてきたウリ坊二匹まる抱え
沙流

34 恋仲だったようでひくひく
朱夏

35 モルモットのとがめるような黒い目が
沙流

36 もう死神のそれに近いし
朱夏

37 降伏の証しにならぬ赤い旗

38 洗っておけば明日は啓蟄
朱夏

39 降り止まぬ雨を眺めるヒヤシンス

40 嫉妬は愛か悩むゼピュロス
沙流

41 怒ってる顔してくれてありがとう
沙流

42 への字の口にポッキー差して
沙流

43 おっさんはだれか一人でいいだろと
朱夏

44 誰も取らないドラフト会議

45 式場の知人のいない丸テーブル
沙流

46 くしゃみをしてもひとりのままで

47 ペットボトルに詰めた草花息をして
朱夏

48 あなたのいない日々を数える

49 きみ思うゆえにわれあり夕まつり
沙流

50 塩だけで焼きとうもろこしを
朱夏

51 裏道へへっぴり腰で肝試し

52 蝋燭の火は絶やさずに居れ
ほのか

53 言葉なくも胸はたしかにあたたかき
沙流

54 オランウータンの毛を風が引く
沙流

55 ふるさとのにおいを忘れ食うバナナ

56 星の並びは自分で決めろ
朱夏

57 ビリヤード終わっても帰りたがらない
沙流

58 魔女だったけど今は猫です
朱夏

59 つぶれないように立ち寄る古本屋
朱夏

60 犯人の名を目次に書かれ

61 ポートピアの風評被害いまいずこ
沙流

62 ヤスと気安く呼んでくれるな

63 友達のゲームをついに借りたまま
沙流

64 引越し作業は進んでいった
ほのか

65 誰もいないはずの居間からカタコトと
朱夏

66 おもちゃのチャチャチャおばけのケケケ
沙流

67 猫たちが迷子になってニャンニャンニャ

68 ドラゴンレーダーに多すぎる数
沙流

69 空からはギャルのパンティ降り止まぬ

70 触って融けたけどこれは何
朱夏

71 てのひらの温もり欲しい画面越し

72 デスクトップは指紋だらけで
ほのか

73 スクロールのジェスチャー上じゃなくて下
沙流

74 遠隔操作でわれも、神も
沙流

75 混線で俺がお前で俺は俺

76 ラジオのダイヤル位置落ち着かず
沙流

77 司会者がスマホをカンペ代わりにして
朱夏

78 大々的に遠隔離婚

79 ファックスであえて手書きのご報告
沙流

80 読まずに食べる黒山羊を飼う

81 ポストペットでメールしてるのオレだけか
沙流

82 拡張子から危険な香り
沙流

83 寄越すならzipにしろと急かされて

84 Macでずれるアスキーアート
沙流

85 ギコ猫がオマエモナーと煽り出す

86 さっきほんとにД(ダー)の口した
沙流

87 ご立派な顎を持つプロレスラーが

88 車椅子でも元気ですかと
多実果

89 ぬか床に吸い込まれて立った地には
朱夏

90 すべてが生きているからめまい
沙流

91 東京の夜景が見えるレストラン
沙流

92 歯医者の待合室の雑誌に
沙流

93 一ヶ月着回しおしゃれ特集が

94 見るだけで満腹で珈琲
珈俳

95 横文字というかあくまでカタカナ化
沙流

96 うちはカフェじゃあねえよと店主
珈俳

97 古民家にパラボラアンテナ取り付けて
沙流

98 縄文の別れ話を受信す
朱夏

99 ひまわりがひっきりなしに首捻る

100 ひと足お先に迷路脱出
沙流

ふらくた連句#2

ふらくた連句「今宵は雨に」の巻

照屋沙流堂・・・沙流
くらげただよう・・・洋
袴田朱夏・・・朱夏
野添まゆ子・・・まゆ子
小澤ほのか・・・ほのか
寿々多実果・・・多実果

1 おぼろなり今宵は雨に散るさくら
沙流

2 液晶からは笑みがこぼれる

3 ドローンを無事に野生に帰す日よ
沙流

4 鉄のにおいの種火はいずこ
朱夏

5 北風を追い越してゆく三輪車

6 ひとりカーネルおじさんに泣く
朱夏

7 極東の醤油の匂いする街に
沙流

8 まだ慣れなくてハナミズキ咲く
朱夏

9 君色に染める便箋買いに行き

10 風の囁き春の色して
まゆ子

11 人生の荷物がうまくかたよって
朱夏

12 二人で担う重みなくなる
ほのか

13 次々と虹が飛び出る植木鉢

14 ゴンドワナ大陸のものまね
沙流

15 見つめられてわれは知識が知恵になる
沙流

16 逃げず食われるうさぎのりんご

17 試合なき観戦席のひるさがり
沙流

18 疲労亀裂も戸惑っている
朱夏

19 冬が春、それが嫌でも冬が春
沙流

20 カレンダーさえ困惑してる
ほのか

21 アレクサにデートはいつか尋ねてる

22 「皇帝ペンギン飼育係と?」
沙流

23 前衛は前衛として過去となり
沙流

24 文学理論は不燃物です
沙流

25 学問の自由を桜の下で説き
ほのか

26 君は指から学ばれている
朱夏

27 触れるから知った互いの体温を

28 上げていくのも互いの体温
朱夏

29 音も無く氷山崩れ落ちる海

30 ミジンコ属のぷちぷち放屁
沙流

31 宿題を前に飲み干すソーダ水

32 漢字ドリルは指の運動
沙流

33 鉛筆を回せなかった図書室で
朱夏

34 カーテンが風にふくらみかける
沙流

35 緞帳が上がればいくさと恋と美形
沙流

36 軽くステップして帰り道
沙流

37 白亜紀の音を逆解析で聴く
朱夏

38 からすはビルの群れを見下ろし

39 夜が生む生き物は黒が美しい
沙流

40 茶髪をやめて黒髪にせよ
ほのか

41 その子はたち髪にかざったレンゲソウ

42 賛美歌にあくびして美しき
沙流

43 屋根裏に天使をひとりかくまえば
朱夏

44 スパークリングワイン奮発
沙流

45 非対面授業がうまくいきすぎて
朱夏

46 うなずく生徒はみんなAI

47 人間の正しい育てかた講座
沙流

48 テレビの前に子守ロボット

49 バッテリーが切れたらきみとお別れだ
沙流

50 ロッヂのストーブのやかん震える
沙流

51 カップ麺ウルトラマンが湯を注ぎ

52 やがてその地は池となりたり
朱夏

53 釣り針を落とすやいなや食らいつく
沙流

54 リヴァイアサンもここまで堕ちた
朱夏

55 王権神授のことごとく王のせいにして
沙流

56 一般人はご飯を食べる
ほのか

57 小市民として生きると決めた画家
朱夏

58 サウナに入るそしてすぐ出る
沙流

59 大浴場のすべてを満喫するために
沙流

60 従業員に手紙を渡す
朱夏

61 知らぬ町のホテルで聖書めくる夜
沙流

62 心がよわい文明ひとつ
沙流

63 デパ地下のどうせ全部が美味かろう
沙流

64 オオアリクイがそこ通りますよ
沙流

65 料亭が出品して失うものは
朱夏

66 スマホアプリの邪魔な広告
沙流

67 蓑虫が葉に紛れつつ夏を待ち
沙流

68 起きたときから遅刻確定
沙流

69 告白をしたかもしれぬ三次会
沙流

70 先手必勝とは叫んだか
朱夏

71 敵陣へ加速してゆく選挙カー
沙流

72 その人だけの正義を積んで
朱夏

73 親と子の世代格差は広がって
ほのか

74 細いタイヤで自転車通勤
沙流

75 一面のひまわり畑明るくて
沙流

76 油の量を見積もっている
朱夏

77 あがりがまちで風呂敷広げる商人の
沙流

78 その口上は叙事詩のように
沙流

79 薬屋の売り歩くのに連れ添って
朱夏

80 とても自然な笑顔の子役
沙流

81 沙悟浄は解脱をとうにあきらめて
沙流

82 五目あんかけ今日も大盛り
沙流

83 不採用通知よこしてヒグラシは
朱夏

84 かなかな世間は世知辛いかな
沙流

85 シューティングゲームの敵弾(たま)がえげつない
沙流

86 そこであたしの隠しコマンド
朱夏

87 ほおを引っぱたくシーンが削除され
朱夏

88 子供のままでいさせて欲しい

89 くけ台とかけ針はもう忘れられ
多実果

90 母にふかぶかお辞儀をされる
沙流

91 美食家に育てたはずの子らはまだ
朱夏

92 コンビニ前でパピコ分けあう

93 新米が見張りをやけに楽しんで
沙流

94 パンまつりシールがもう五百点
朱夏

95 いつまでも皿を数える幽霊が

96 素数のときだけしゃっくりをする
朱夏

97 アホになる時は10の倍数で

98 末尾のゼロを非常口とす
朱夏

99 逃げ道はいつも緑で示されて
ほのか

100 光る未来につながっている
朱夏

ふらくた連句#1

ふらくた連句「今宵は雨に」の巻

照屋沙流堂・・・沙流
くらげただよう・・・洋
小澤ほのか・・・ほのか
袴田朱夏・・・朱夏
寿々多実果・・・多実果

1 おぼろなり今宵は雨に散るさくら
沙流

2 液晶からは笑みがこぼれる

3 ドローンを無事に野生に帰す日よ
沙流

4 個人情報回収はして
ほのか

5 コレクションルームに横たえるパスタ
朱夏

6 ソムリエールは月光浴す

7 脱ぐごとにかたちは不定形となり
沙流

8 洗濯ものにアイロンかける
ほのか

9 ひまわりと背比べする園児達

10 かざした腕は雲をかくして
朱夏

11 ドーナツの輪っかを風は吹き抜ける

12 輪っかでないところも吹き抜ける
朱夏

13 北風が南風へと移りゆく
ほのか

14 知らない国の地図を広げる

15 赤えんぴつを耳に挟んだ先生は
沙流

16 ぼくの未来に印をつける
朱夏

17 耳たぶに小鳥のピアス羽ばたいて

18 とても桜が、さくら色です
沙流

19 ちゃんと読むつもりで開くマニュアルに
朱夏

20 生き急がねば使わぬ機能
沙流

21 高い木の人に届かぬ柑橘の
沙流

22 月に届かぬさみしさばかり

23 初雪のガラス細工が終わらずに
朱夏

24 ショーケースには林檎を並べ
多実果

25 引力からは逃れぬふたり

26 連星となって回れば宇宙の輪舞
朱夏

27 踊りつつソーシャルディスタンスは保つ
多実果

28 水平線に届くため息

29 いつまでも壊れたままの幽霊船
沙流

30 霧のむこうは16世紀
沙流

31 一粒を眉間で受けて雨と知り
朱夏

32 あなたのいない場所へと向かう

33 フルートの音色が未来から聞こえ
沙流

34 児らは空き地に並んで座る
ほのか

35 缶蹴りの缶だけ残る午後六時
多実果

36 秋刀魚を焼いたにおいを辿る

37 絵巻物の雲に隠れて盗み食い
沙流

38 遠くにヤコブのエスカレーター
沙流

39 堕天使は輪っかを外し羽根を脱ぎ
多実果

40 悪魔は拾い集めて回り

41 洗濯物外には干せず部屋干しで
ほのか

42 手縫いのマスクぶら下げている
多実果

43 沈黙は金か銀かと将棋盤

44 と金ははしゃいでも捨て駒だ
朱夏

45 一円をみなから集めて元気玉
沙流

46 返礼品は2枚のマスク
朱夏

47 笛吹きが笛を鳴らせず一人去る

48 蛇は壺からなぞって逃げる
沙流

49 カレーにも味噌汁なんてと思うだろ?
沙流

50 「スープスープ!」と叫ぶインド人
ほのか

51 スマイルで首を左右に揺らし来て
沙流

52 線香のけむり迷いつつ消ゆ
沙流

53 校庭のイチョウのそばに埋めました
沙流

54 連休にどう緩んだかのメモ
朱夏

55 青ばかり減る絵日記をよしとして
沙流

56 工作の指の棘がとれない
沙流

57 友達は異性の話で盛りあがり
沙流

58 そのあとわたしにキスなどする
朱夏

59 一切はじゃんけんだ、なんてうそぶいて
沙流

60 鋏じゃなくて鉄砲のチョキ
多実果

61 ひび割れたきみのスマホはなおせない
沙流

62 繰り返してる留守番電話
ほのか

63 失踪の部屋の壁に画鋲だけで
朱夏

64 失意に至るあこがれの跡
沙流

65 展示中の旧ソ連圏のデザイン画
沙流

66 「空か海かで揉めろ」と題は
朱夏

67 ペンギンよ飛ぶのも泳ぐのも同じ
沙流

68 笑うのも泣くのも同じこと
沙流

69 厄災をにげて岬のいきどまり
沙流

70 追いつめられたことに気づかず
多実果

71 壁を背にしたら何かにくすぐられ
朱夏

72 どん兵衛一年分の崩壊
沙流

73 五百年夢見続けた座礁船
朱夏

74 甲板でけさもラジオ体操
沙流

75 蟹といっしょに泣き戯れて

76 蠍とはあまり話をしないけど
ほのか

77 隠し持ってるのりピー語録

78 証拠を前にただ黙秘権
沙流

79 タピオカが吸えぬ細さのストローで
沙流

80 品定めする姫の目ぢから
沙流

81 マスカラ落とすパンダの母に

82 閉口をするもしないもあたたかなりき
朱夏

83 真実の口にひとつぶチョコを置き
沙流

84 舌が出るのを朝まで待って
多実果

85 金網のひるがおゆっくりとひらく
沙流

86 仕事無き日はアラーム鳴らぬ

87 眠そうな顔でいつまでいれるやら
沙流

88 ニャンとも言えず顔あらう猫

89 無伴奏チェロ組曲がループして
沙流

90 船こぐような昼の明るさ
沙流

91 真っ白と思った壁が象牙色
多実果

92 ユトリロも来たことのない街
沙流

93 旅行ならオンラインより地図帳で
多実果

94 早馬のようにページ繰りつつ
沙流

95 電子書籍の画面に触れたまま眠り
沙流

96 そのまま起きることはなかった
朱夏

97 きみをつかむ時間が徐々に手を離し
沙流

98 風のぬるさがまとわりついて

99 春光があたためている二重窓
朱夏

100 季節移れど汝が顔映る
ほのか