2013年10月17日木曜日

台風一過

台風一過

赤き花黄の花もすべて散り落ちて風神はすでに去りゆきにけり

行き先は円の形に予想され不機嫌ならむ良くも悪くも

風呂の栓抜いてはしばし、台風の雲はいづれに広がりたるや

タイフーンと英語にすればなんとなくぜんまい髭の顔したる神

日常は破壊ののちも死ののちも、続いてお天気です、五十嵐さーん!

クリアウェザーアフタラタイフーンパスダウェイ、台風一過は少し明るし

巨大なるはだしで海を駆け抜けてそのぶん分解いそぎたる塊(かい)

天界を見下ろす視点、天気図を人間界で見守っている

やがて熱帯低気圧となり溶け込んでゆく神も現象

なぎ倒しくるべき秋のさみしさをおおかた耐えて夏物をしまう

2013年9月30日月曜日

アニバーサリー、メモリアル

アニバーサリー、メモリアル


非常食の美味しすぎない配慮など少し可笑しくのち、しん、となる

靴下を靴に押し込み海までの数メートルの裸足だけ夏

ホームランの数を競いて戦後とは明るくなりぬ、昭和の話

気持ちではなくて気分がわかるらし手櫛で髪を調(ととの)えおれば

大森林が石炭層になるように我が生もいつか少し役立て

クロスワードのアルファベットを並べたら「ミルマエニトベ」そんな無体な

CMソングを口ずさみつつ席を立つ分かられづらい怒り見せずに

槃特は文字がいかにも読めなくて悩みはするが過ぎれば笑(え)めり

救急車が増えてゆく街、サイレンに揺れいるごとし菊の花酒

カラーテレビ誕生までは世界には色なかりしと思わざれども

銅貨を落とす擬音で始まる外国の「公衆電話」という曲ありき

水門の湛える水のその中で始まり終わる生を思えり

法による世界平和を惟(おもんみ)るレイヤを渡る群れの車内で

人もまた外来にして群生の破壊の種なる、コスモスの揺(ゆ)る

ぎっしりと詰められて大阪寿司の帰途で食いつつ泣く、鼻腔(はな)痛く

海を恋う心地にも似て玄関で捨てるマッチを燃やしては消す

モノレール高架の下で雨を避(よ)けいつ止(や)むべきか分からぬ、生も

カイワレの栽培棚に長く立ち吾も辛き味の満員電車

苗字とか住所の話をせぬままに分かり合いしが思い出せずき

非悲劇的な乗り物なのでさよならも少し寂しくない深夜バス

我がかたちも記憶こぼれるまでという切なる願いもこぼれていくか

プライドのように輝く自動車の休日、終日洗う男の

ぬるま湯に万年筆のペン先を溶(と)けばただよう昔日(せきじつ)のあを

青春の清しき終わり六畳のアパート解体ののちの跡地は

主婦休みにすることもなく結局は片付けている無言なる午後

わが文字を活字にできる驚きもそのワープロも今はあらずや

世界中を観光に巡りめぐりはて近所のお堂の梁(はり)見上げ泣く

許可を得て父の書斎に友と入りゲームで遊びきパソコンサンデー

道の端の落ち葉踏みつつ洋菓子店を過ぎ、引き返してミルフイユ購(か)う

クレーンの指す方向に月ありて意義深き時を居る心地する

2013年9月11日水曜日

歌人論

歌人論

複雑な緻密繊細荘厳のタペストリーの端がくすぶる

 歌人とは世界の布の切れ端の糸をするりと抜く指を持ち

幾ペタのビットが文字を成す朝(あした)、恋のようなるものの文字化け

 歌人とは知識にあらず、辿り着かずいつも"調べ"ているとう冗句

気がつけば轟音のする世界にも慣れてキャベツをわしわし食す

 歌人とはその言霊を響かせて逆に喰われて手負いて啼(な)けり

鎌首を擡(もた)げて舌をチロチロと出して貴様の名前は希望

 歌人とはついに謡(うた)いをやめるとき心底深き闇にいるなり

辺獄か煉獄か悩むわたくしに距離置いて少しほほえむあなた

 歌人とは沼地の泡がぶくぶくと弾(はじ)けはじけて愛おしみおり

2013年8月31日土曜日

八月円環記

八月円環記

八月の息を大きく吸うわれに柑橘は色を増して身じろぐ

身じろぎもせぬ一瞬が承諾か拒絶か聞けぬ夏のはじまり

はじまりは我の意識の浮かぶ海の小暗(おぐら)き熱水噴出孔の

噴出孔の熱のけぶりに交ぜられて強く閉じれば目の生(あ)るるなり

生るる神は身罷る神を笑いつつ一新しおり敬意にも似て

相似なす自然の不思議マシュルームクラウドをかつてアメリカは植ゆ

植えるにはあらず広がるヨシ原の手を探り入れて楽し子供は

子供らも今駆け抜ける現在を老いて懐古の一景とせむ

一景に迷う、廃墟の東京の地震の秋か空襲の春か

春の芽のもうぐんぐんとどんどんと開くとは今を過去にすること

過去の過誤を繰り返すごと善意なお湧く生とうに苦笑いなる

苦笑いして聴いているシステムへの不満のようで要は不平に

不平怏怏(おうおう)水のシャワーで流しいてサーモグラフの青き生まで

生まれたる以上死なねばならぬのに生き方だけを述ぶる本閉ず

本閉じて人と狭さを分かち合う電車、混むのが止むまで戦後は

戦後には戦後の論理、真っ青な空に見入りし感慨なども

感慨はゲニウス・ロキの草むらのヘビの脱皮と風化してゆく

風化して形こぼれていく時に白亜の記憶刹那、脳裏に

脳裏には何度目の夏、上向きの蛇口の水の弧に口を寄す

口を寄すれば嘴が突くコザクラの戦略の枝ふるく懐(なつ)けり

懐かない子らを見守る公園の遊具のゾウは明るきブルー

ブルーなす夜にかがやく満月は理由になるので君に会わずき

会わず思えば星飛雄馬のほっぺたの猫ひげを持つ女と言えり

言いながら詮(せん)ないことと承知して矛先を天に向ける、白雨の

白雨過ぎ雲まだまだらなる空に大会決行の花火とどろく

とどろいて土砂降る雷雨、人間が追い出されるまでゲリラは続き

続きはまた今度と明るく手を振ってそういう風に終わるかたちだ

かたち確かにベントス(底生生物)らしく奇妙にて身を割けば白き肉美味ならん

美味も喉三寸にしてそののちは君の不在も在も苦しき

苦しい日の餌を求めるアリのごと甘味を嗅げり、少し怯えて

怯えては振り返りつつ前に行く背中を見ればいとし、八月

2013年8月8日木曜日

2013原爆対話編


2013原爆対話編



相似なす自然の不思議マシュルームクラウドをかつてアメリカは植ゆ


季語として句作いそいそ原爆忌


爆弾を落とした罪はさておいて反省しおり苦い顔して


そも比喩は不謹慎なりオクラ交(ま)ず


竹山広全歌集読み重たかり想像力も荷を背負うごと


積乱雲を遠景として蝉の死ぬ


無生物の同心円の中心の血走った目をブルと呼ぶかも


子孫からの糾弾愛(う)きや慰霊祭


爆弾は精神へ至るプロトコルの物理層にて確固とならむ


ひこうきもきのこも夢は美しき