2016年11月13日日曜日

2016年10月うたの日自作品と雑感。

照屋沙流堂というアカウントは、ツイッターという、無料のミニブログサービスで短歌をつぶやくことでスタートした。そのうち、このブログで、つぶやいた短歌を月ごとに残すことをはじめた。
このアカウントで知り合った短歌クラスタの方から、「うたの日」という題詠歌会サイトを教わり、こちらも参加してみている。
短歌のことを勉強する必要を感じ、万葉集を読んで、ひとり読書会みたいなノリで、スパムみたいな長文を流したりしている。
それから、読めるかぎり、最近の歌集も読んで、感想を書いたりしている。
短歌の投稿サイトに「うたよみん」というのもあり、こちらも今月はじめてみた。
あ、あと、サブアカウントで、自選を流すボットを作ってみた。
なかの人の環境が変わりそうなので、いつまで続くかはわからない。
そういうサルです。ウキー。

自選など。

「あくび」
むずかしいことはぼくには眠たいよぼくねこきみの順にあくびは

「体」
始業前のラジオ体操、美しく変奏曲として聴く火曜

「蝶」
引き裂かれつむじとなってこれ以上風でいられぬところから蝶

「叫」
あの時はそう感じたが実際は唸って吼えていたようである

「自由詠」
未来における自由の量という比喩はどうだろう、浜辺に寄せる波

「裸」
服を脱ぐずっと前から普段からはだかだったと思うふたりは

「黒糖」
一族のすこし馴れ馴れしい問いに合う甘き香の黒糖焼酎

「足」
死にたいという語は試薬この語より離れる者が信頼に足る

「礼」
こぼれたるワイン一滴、身を切らぬ血に似て礼を欠きたるごとし

「埃」
きみと眠る夜よ、埃が降り積もり埃の上に文明は復(ま)た

「クッキー」
おばあちゃんちのクッキー缶に入ってたほとんどぼくが食う蕎麦ぼうろ

「探」
それぞれがばらばらの道を探すのが生き物なのさ、会えたらいいね

「あと」
なで肩の男は背負うのをやめてあとは素敵な夜にシャガール

「沈」
この先が沈むなら浮く逆は逆どうやらそういう約束らしい

2016年11月12日土曜日

2016年10月うたの日自作品の31首

「あくび」
むずかしいことはぼくには眠たいよぼくねこきみの順にあくびは

「おばちゃん」
幼き日に遊んでくれた「仮面ライダーのおばちゃん」のことを親も知らない

「減」
酔いたればわれも理不尽飲むほどに減りゆくボトルも生意気である

「体」
始業前のラジオ体操、美しく変奏曲として聴く火曜

「蝶」
引き裂かれつむじとなってこれ以上風でいられぬところから蝶

「叫」
あの時はそう感じたが実際は唸って吼えていたようである

「罠」
死後の世界がほんとはめっちゃ楽しくて死の悲しさはじつはドッキリ

「置」
こけし屋のシャッターおりて下の棚に置かれたのから落ち着きなくす

「振」
マナーモードの振動"音"の表記法で昨日はあんなに責めてごめんね

「自由詠」
未来における自由の量という比喩はどうだろう、浜辺に寄せる波

「裸」
服を脱ぐずっと前から普段からはだかだったと思うふたりは

「おでこ」
押しに弱いことを覚えて四つ足のおでこがぐいぐいぐいと甘える

「ぎりぎり」
ぎりぎりの俗っぽくなさ本堂の物置きの箱買いのフリスク

「太陽」
孤独とは孤独を思うからなのだ、もう恐れるな火を吐くほのお

「梨」
二百本の素振りを毎日欠かさない俺が三振なんて、有りの実

「黒糖」
一族のすこし馴れ馴れしい問いに合う甘き香の黒糖焼酎

「残」
きみとなら出来たかもしれない苦労、しなくて済んですこし残念

「足」
死にたいという語は試薬この語より離れる者が信頼に足る

「失」
きみの目をふたつの消失点として在るオレはいつか辿りつけない

「揉む」
供給と需要のグラフを描(えが)きみてもう揉めそうな曲線である

「鍵」
キッチンハイターを飲む時は鍵を開けとけよ、次は俺ではないかもだから

「前」
猫の次も猫な確率よ100万回の時代の算出はじめる前に

「礼」
こぼれたるワイン一滴、身を切らぬ血に似て礼を欠きたるごとし

「埃」
きみと眠る夜よ、埃が降り積もり埃の上に文明は復(ま)た

「クッキー」
おばあちゃんちのクッキー缶に入ってたほとんどぼくが食う蕎麦ぼうろ

「安」
安パイとみんな呼ぶけど女子部員に手を出すってよ安藤先輩

「探」
それぞれがばらばらの道を探すのが生き物なのさ、会えたらいいね

「あと」
なで肩の男は背負うのをやめてあとは素敵な夜にシャガール

「煙突」
煙突のない家なのに真っ黒なぼくはどこから落ちたのだろう

「沈」
この先が沈むなら浮く逆は逆どうやらそういう約束らしい

「わざわざ」
この駅は人が来るから不味いのをわざわざ直さない店の飯

2016年11月6日日曜日

2014年10月作品雑感。

たしか吉本隆明は『言語にとって美とはなにか』で、言葉というものを、おおきく、おーきく、「自己表出」の言葉と「指示表出」の言葉に分けていたと記憶している。

たしか(たしかばっかりだ)、一樹の樹の図があって、枝葉の部分が「指示表出」幹の部分が「自己表出」とあったと思う。手元にないのでわからない。テルヤは手元に何ももっていない。

要は、人とコミュニケーションを取る時に使うツールとしての言葉が「指示表出」、外界とコミュニケーションを取るものではない、ツールではない言葉を「自己表出」と呼んでいたと思う。

詩というものが、あれはたしかポール・ヴァレリーだっけが言うように、歩行に対してのダンスであるようなものであるとき、短歌というのもまた、一読してすぐにわかる支持表出でなく、自己表出の言葉として、しかし届く人を探して立ち続けるものなのだ。

(過去の作品は、自分でもよくわからないものがある。でももっと過去になると、それはわかるようになるかもしれません)

自選など。

運命の出会いに飽きて犬猫はガラスケースに背を向けて寝る

子と母のやさしさにみちたなぞなぞを時間の終わりのように聞く午後

音程の少し違える鼻歌のCMソングを聞きつつ足れり

近くまで来ている河野通勢を観たいと思い観ぬかもしれぬ

日常のぎゅっと縛った粗縄の死はちぎれるかほどけるかなる

いにしえの人が見ていたゆっくりと月を呑み込み吐き出す虫を

毎朝をマックで過ごす老婦人ふくらはぎ長く揉んでいるなり

男の腹と女の胸に挟まれて電車で、来世紀は涼しかれ

合宿の夜の洗面所の合わせ鏡に無数のわれがみどりにかすむ

明滅するデジタル時計の真ん中のコロン、脈拍に似て親しき

見つけたる君のブログを読みすすみだんだん地震に近づいていく

レイヤーをひとつ落とせばいのちとはいまだ生き死にと飢えばかりなる

感性をたいらげてぼくは不安げに森さやぐ意味がもうわからない

生き残ってしまったかれのウェブログにきづなの文字は現れずなり

死が近くないこと怖し、薄目にて慈しむべき世界のときに

手招いて揺るるすすきが沿道にそうして秋は呼ばれて去りぬ

年降れば愛しい人のくびすじにいぼ凝(こ)りておりいとしくふるる

宇宙船が壊れてやがて来(きた)る死の夢から覚めて長い放屁す

バカとして生まれただからそのままでさわやかに死ぬる手などありの実

2016年11月5日土曜日

2014年10月の62首

目を上げて月と間違う電灯のこれでもいいかいずれ届かぬ

運命の出会いに飽きて犬猫はガラスケースに背を向けて寝る

右肩から左肩へとついてくる飼い鳥にわれは柔き樹ならん

嫌味あびて匂えるごとく辞してのち思わず鼻を二の腕に寄す

子と母のやさしさにみちたなぞなぞを時間の終わりのように聞く午後

戦略的自己犠牲をえらぶ顔としてよく出来ておりメガザルロック

音程の少し違える鼻歌のCMソングを聞きつつ足れり

鉢の水を捨て、替え歌にアカシアの「このまま枯れてしまいたい」なんて

メキシコの走りつづける民のいるドキュメンタリー観つづけている

happyの語源にhappen、みなもとを辿れば水はたしかに光る

近くまで来ている河野通勢を観たいと思い観ぬかもしれぬ

幸いと辛いを決める一本が横棒であることを思いき

日常のぎゅっと縛った粗縄の死はちぎれるかほどけるかなる

従容とどこへ赴くばらばらとまばらにけぶる雨音のなか

夕方の木犀の香に包まれてそのまま星を去りせばたのし

茄子の茎色を重ねて赤となり青となりして黒色(こくしょく)に見ゆ

いにしえの人が見ていたゆっくりと月を呑み込み吐き出す虫を

桑の葉が真白き繭となる不思議、一心につむぐことの因果の

連絡通路の展覧会のポスターにその感動のあらかたを終う

植物はだいたい口に入れられてうまからざれば薬とて呑む

寒くなりはじめての冬を前にして暖かい家を思うごきぶり

一方的に知りたる人に会釈して大正ころの短編を憶う

毎朝をマックで過ごす老婦人ふくらはぎ長く揉んでいるなり

先にいてわれの来るのを待っているお前は未来の顔したる、過去

男の腹と女の胸に挟まれて電車で、来世紀は涼しかれ

秋冬のスボンはゆるくやせたということでは決してないがうれしき

青春の書として論理哲学の断言を微笑ましく読めり

公園のブランコだけに日が当たり人間不在の一日(ひとひ)はじまる

じゃれあってうるわしうるさき学生も将来にくらき孤独を知るか

合宿の夜の洗面所の合わせ鏡に無数のわれがみどりにかすむ

明滅するデジタル時計の真ん中のコロン、脈拍に似て親しき

初夏の髪はもうながながと床屋談義の代わりのデモは秋風冷える

見つけたる君のブログを読みすすみだんだん地震に近づいていく

照らされて消えゆく露の聞くたびに薄らぐようでたとえばきづな

レイヤーをひとつ落とせばいのちとはいまだ生き死にと飢えばかりなる

少しずつ気持ちを殺し死にたればどの子じゃわからんはないちもんめ

ふかいかなしみをしづかにうたふスタイルは読者作者も心地よかりき

感性をたいらげてぼくは不安げに森さやぐ意味がもうわからない

生き残ってしまったかれのウェブログにきづなの文字は現れずなり

現在はまったく遠く信号の意味より先はない世界まで

死が近くないこと怖し、薄目にて慈しむべき世界のときに

煩悩がわれをめくりつめくりつつ空気入(い)るりて笑みゆがむなり

おっさんの見る怖い夢は幼少のそれに演出増すくらいにて

現代も予言が欲しい生き物が中心を離れ経回(へめぐ)っている

手招いて揺るるすすきが沿道にそうして秋は呼ばれて去りぬ

中断のまま終わる物語のようにケーキナイフで押しちぎるパン

年降れば愛しい人のくびすじにいぼ凝(こ)りておりいとしくふるる

永遠を凝視している眼差しで君は真白き川を見ている

昼顔が豪華に壁を這う家のアコーディオンの流れいる路地

今世紀みんなみごとに隠れおり詩心はもう枯れながら鳴る

平日を少し遅れてベタベタと母に纏わり通う子のあり

明るきが隠れれば夜、毎日をかく黙々と夜明けへ進む

宇宙船が壊れてやがて来(きた)る死の夢から覚めて長い放屁す

バカとして生まれただからそのままでさわやかに死ぬる手などありの実

荒野切り開いて男はたのしかり三日伸びたる髭剃るときも

音楽の方のスピッツ流れきてもう感傷が音の邪魔する

朽ち果てた茄子を除いてあたらしく土をほぐせり世界のごとく

縁のない女性(にょしょう)にあれば賽銭を放るがごときさきわいたまえ

鎌首をもたげているのはゆらゆらとそれが希望であることはなく

こんな時に役に立たないむらさきはボロカスミソカスクロッカスだよ

春菊天の酸い苦味噛み蕎麦すする、味覚はわれを許可するごとき

北ほどに寒しと思う生き物のブラキストン線冬景色みゆ