2019年1月29日火曜日

ツイッター連句のフォーマット

歌仙

表六句(月を一つ入れる)
発句
脇句
第三
四句
五句
折端

裏十二句(恋二つ、月一つ、花一つ)
折立
二句
三句
四句
五句
六句
七句
八句
九句
十句
十一句
折端

名残の表十二句(恋二つ、月一つ)
折立
二句
三句
四句
五句
六句
七句
八句
九句
十句
十一句
折端

名残の裏六句(花一つ)
折立
二句
三句
四句
挙句

2019年1月26日土曜日

#あみもの1をゆるり読み 〜あみもの1号ヒトコトコメント。

あみもの13号発行おめでとうございます。お祝いの気持ちを込めて、
#あみもの1をゆるり読み として、あみもの1号をツイートしたのをアップしました。

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理科室の魚に餌をあげに行く 季節は順番通りに終わる
「理科室の魚」屋上エデン

 表題歌にふさわしい秀歌。実験のために生き延びさせられる魚とは、季節に慣れてしまったわれわれを比喩しているようだ。

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いちばんの性感帯は耳だから君の会話を盗み聴きする
「妄想宇宙」ミオナマジコ

 妄想が最もセクシャルだとわかるいい連作。この連作はテクニカルで、体言止めの歌がない。つまり、妄想なのに行為の作品となっている。上掲、部位でなく機能としての耳を性感帯と解釈させていて、光る。

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大小をおかみへわたし二階へと下城の鐘はまだ鳴りやまぬ
「早春譜」笛地静恵

100年ずつ遡る早春の情を描く。楽しい構成だ。上掲の、刀を渡して女と過ごすだろう時間。その前に、彼はおそらく謀反的な何かをしたのだろう、鐘が鳴る。江戸のハードボイルドを思わせて楽しい。

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少しでも心に残っていればいい 白く老いたる犬がいたこと
「老犬と甥二人」小澤ほのか

登場人物が多めなのと、親族呼称のみでドキュメンタリーを描くのは、けっこう難しいが、シーンが印象的に切り取られている。上掲、「記憶」でなく「心」に残るというのがいい。そして、「白く老いたる」という表現が、読む人に残る。

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冬空のたぶんあそこがZiの星また明日からも見守っててね
「惑星Ziより愛を込めて」あひるだんさー
そういうアニメ、みたいな締めだよね。最後の一首で「こいつ地球でリーガルエイリアン(by Sting)なのかよ! やべー」と思わせる。ゴリム控えろよ、とか思う(参加するな)
(追記)編集後記によると、実際のアニメらしい。

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食パンのふちを残して食べていたノルアドレナリンやっぱり食べる
「さよならごっこ」白川黴太

パン耳を残す/やっぱり食べる、という行為に神経伝達物質が挟み込まれることでうまれる、生そのものへの受動感。別れというのは、生の何かを凍らせるが、ぎりぎり意識がある。

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柔らかき茶色を地毛というためのこまめさ 君の文字の小ささ
「君を見てたい」伏屋なお

髪の色を連作にすると不思議に、登場人物が美しくなる。萩尾望都とコラボしてるような。上掲は文字を見て髪を思う逆の思考の流れがまとまりの良い韻律でうたわれている。

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吐く息の白さがやけに濃い朝に目にもまぶしいおはようの声
「雪まみれ」知己 凛

雪の風景をそれぞれスナップしたような連作。上掲、雪の朝の、晴れた、目が痛くなるようなあの感覚を想起させる。触覚視覚聴覚にうったえていて気持ち良い。

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排他的理系男子が理科室で白衣を脱いでするスイカ割り
「ざっとした期待」池田明日香

この連作は全体が完成度が高いと思う。この一首でも「する」の使い方は特異で、もうこれで詩になってると思う。白衣とスイカの色彩、排他性とホモ・ソーシャルの空気感。いい歌だ。

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MusicFMで聴く新曲は罪悪感があっていいよね
「聴かず嫌い」渡良瀬モモ

悪いことって、確かに、ちょっと快楽がある。ここをちゃんと掬えているところが、短詩のセンスだと思う。あと、新曲以外は罪悪感薄まるのも、繊細だ。

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から風が吹く外回り今日もまたどこかで桶屋が儲かっている
「五センチヒールのかかと」夏山栞

慣用句をアレンジして、うまく時代の気分を歌にしている。誰かがバズり、どこかが大金を手にしている日常の、自分の外回りに吹く風。乾いて、きつい。

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煙とバカは高いところが好きらしい神は煙じゃない方らしい
「煙とバカ」ただよう

表題作。”高さ””上”って、すでにある種の価値判断を含んでいる洞察がベースになっていて、その位階と頂点の存在を「バカ」といいきる潔さがいい。ひがみみたいなものもちょっとあってね(笑)

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淑女のブーツのつま先の雪の結晶間もなくとけていつか還る空
「ゆき」小川窓子

短歌韻律としては四句「間もなくとけて」しか合っていない。が内容において確かに短歌である。「の」の拡大からの空、白からの青。いのちそのものの比喩のようでもある。

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平仮名の書き方さえもわからない子どもの声はとても明るい
「仮」ガイトさん

「仮」の字を題詠的に重ねた連作。上掲、ことば、知識を増やすことで失われるかもしれないような明るさを、少し疲れて、まぶしく見ている。

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「朝なのにさよならなんてウケますね」面白がられる別れのかたち
「別れのかたち」小泉夜雨

教育の場を去る時の、送る側との温度差の歌だが、生徒の言葉が面白い。朝のさよならはさほどおかしくなかろうし、ウケますねっていうフランクな丁寧語。きっと生徒も感情が処理中なのだ。

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でもこれはわたしのオーガズムなので君の手柄にしないで欲しい
「でもこれはわたしのオーガズムなので君の手柄にしないで欲しい」ハナゾウ

性愛のgiveとtakeを切り分けてゆくと、見えてくる理不尽があるが、この摘出は、とても鋭利だ。この歌は、時代が下ると、多分、当たり前になってゆく、記録的な名歌になるのだろう。

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くるくるの天然パーマ大きな瞳(め)天使みたいな天使だろうね
「君の声 君の夢」大西ひとみ

下の句の、比喩として用いた言葉が、途中で、これ比喩じゃないわ、と思い直す心の動きをそのまま載せるのは、現代短歌的な技法だ。それがリフレインとなって、印象を深くする。

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ガラスごし名札たよりに吾子探すみどりごのみの異世界の中
「出会い」有希子

新生児室を異世界という表現も面白いが、名札たよりに探すという、絆みたいなものも実は後天的であることをさらっと伝えているところがいいと思う。

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ポケットの奥へ隠せりてのひらを見せれば負けてしまう気がして
「エトランゼ」天田銀河

完成度が高く、物語性、叙情性も見事な連作。上掲、てのひらには、文字通り、手の内を明かしてしまうような無防備さがあることを、それを隠して人は生きていることを、丁寧に歌っている

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迷いなくプルタブ上げる音がする元日昼の南風6号
「帰省」岡村和奈

プルタブは厳密にはもうないんだけど(いま別の言い方だよね)、要するにお酒を開けているのよね。それは南風は土佐を走る列車だから言わずもがななんだよね。土地感があって心地よい歌。

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蔦の這う古いアパート俺たちは不本意ながら同居している
「これは腐れ縁」薊

連作の一首目にしてテーマをうまく伝えている。蔦、という、付着と長い時間を示す植物の選び方がうまい。不本意だが、ちょっと、居心地がよいのだろう。

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90分で900キロ弱移動した神よ私をお許しください
「空の旅」くろだたけし

人間が、足を使わずに高速で移動することは、たしかに、罪なのかもしれない。900キロというとたとえば、東京から九州への距離を、何度も移動するなんて、現代人は罪深い(笑)。

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若さとはやはり暗くて行き場なく半裸が占める浜からの階段(きだ)
「はつ夏、海へ」松岡拓司

若さとは半裸の群れから去る暗さだ、という認識が面白い。あの明るい浜辺の半裸たちは、若さではない何かなのだ、という認識。

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滑らかな海岸線は記憶して旅立つことが正しいと思う
「遠い手紙」岡桃代

距離をうたう、気持ちが載っている連作。上掲、結句が切ない。旅立ったのは誰か。自分か、他の誰かか。正しさがわかっても、できるとはかぎらないのだ。

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寄せ書きに田中の書いた「磊落」を今も心の糧にしている
「パーラー田中」木蓮

人は、いくつのかの言葉を、シーンや人物をともなう”はっとした体験”として記憶していることがある。この「磊落」は、その一回性の、言葉が体験になっていることを見事に描写している。

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貝殻を拾つて海に投げるとき一瞬消える友の右腕
「貝殻」萩野聡

存在論的な連作。視覚によって保証された存在は、視野を外れれば、それは記憶された不在と区別がつかない。この歌の具体である貝殻もまた、不在を抱えた存在である。

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掃除機で空を飛びゆく魔女がゐて平成はもう終はつてゆくね
「ふしぎな物語」宮本背水

掃除機とは、一瞬昭和を思わせる語だが、ダイソンやルンバによって、平成は掃除機が流行った時代といえるかもしれない。そういえば、魔女の宅急便は平成元年だ。魔女が掃除好きかは不明。

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夕食にコロッケ揚げつつ明日朝のおかずのやりくり考えている
「それいけシュッフー!〜お買い物編〜」宮下 倖

あみものと、この連作の意義は計り知れないように思う。コミカルで、良質で、家族の食を常に考えている存在を、このように描ける場所を、短歌は持てただろうかしら。

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いつもより丁寧に引くアイライン誰とも目を見て話せないけど
「#メイク上手になる2018」九条しょーこ

なんというメイク上手な歌だろうと思う。確かにメイクって、見るためでなく、見せるためにあるんだけど、なんか天然も入っているようにみえるのはメイクのせいなのか?

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懐かしい痛み87hanageいたいのいたいのとんでかないで
「ハロー、神様」西淳子

87hanageは分からない。しかしながら、この歌の青春観は素敵だ。たしかに、青春の終わりって、痛みの終わりなのかもしれない。あ、このhanageって、むかし都市伝説になった、痛みの単位ってやつか?

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冬休みオリオンを探しに行こう白に染まった街に足跡
「あの日見た空は」龍也

カラフルな連作。この歌の美しさは、自分たちを街の外に向かわせた後の、それを見送る、動かない視点にある。そしてその視点は、オリオンの空を見ず、地面を見ている。

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吹き晒しの連絡通路にはたしかダサい名前がついていたはず
「母校雑景」典子

その名前はおそらく、一昔前の青春的な形容の、愛称されるべき真面目な名前なのだろう。そして実際の生徒は、それをダサく思っている。そのダサさも含めて、青春の記憶になっていく。

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それでも、ありがとうって言ってくれた 生きてるひとの手はあたたかい
「侵襲」満島せしん

タイトルもよいし、連作も力強い。手は、冷たくなってから、あたたかいことを知る。人は死ぬから、ありがとうの言葉が灯る。大切な一首だ。

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アスファルトにまだ水たまり 映りこむ予備校裏のラブホの灯り
「ホテル イット イン」雨虎俊寛

ゲニウス・ロキ(地霊)を感じるほどの、それがそれすべてな情景詠ではないか。水たまり、予備校、ラブホ。ここでは、何かが始まり続けている。エモいで済ましたくないエモさがある。

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文字を書く音しかしない生きている証明みたいに低く咳をする
「沈黙」ニキタ・フユ

書く、という行為は、本質的に、そこに存在しなくなることかもしれない。持っていかれかけた魂が、ここにあることを思い出して、咳をする。一時証明が済んで、また書くのだろう。

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月—金を通して働く体力も気力も不安で週休四日
「ドキドキ」諏訪灯

緊張、期待のドキドキでなく、動悸、息切れのドキドキ的なタイトル。一度体を壊したりすると、週五という人類がデフォルト扱いしているサイクルが、やけにハードルが高くなる。人類って、なんだかハードだよね。

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制服を着ているだけで風俗のキャッチは道をゆずってくれる
「ペインキラー」海老茶ちよ子

制服は性の場面で強い記号を持っている。ここでは、その強さに守られつつ、ほんの少し、自分が記号化されていることに、不満までいかない気持ちが表れている。

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暗いから電気をつける暗いから電気をつける街がかがやく
「みつめる」白井肌

リフレインでありながら、時間の経過のようでもあり、街の明るさと、夜の暗さがイメージされていく。とても美しい、詩の一首だ。

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悠々と果てなき空を北へ帰(き)す鳥たちの名は知らないけれど
「富山に嫁ぎ」なな

古風めなタイトルながら、土地に入るということの心情を丁寧にうたう連作。上揚、土地に生きるということは、どこか無名になることに似ている。でも無名になることは、自分を失くすことでなく、悠々として、みえる。

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近づいて暗闇のなか見えるもの月明かり照らす蒼白い心
「月夜のふたり」ことり

人が人に触れるときの、言葉が失われ、心だけになって、命になる、あの手探りの感じを記す連作。心が心をみつけるときの、見てはいけないものだが見てしまうような、心の蒼白さ。

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西風に貴方のなみだ混じる夜見えてませんか天満ちる梅
「せんか集 花のつぶやき」彩瞳子

天満ちる梅、とは、星のことだろうか、それとも梅の花を見上げているのだろうか。そこには見上げている顔があり、涙の混じった風に撫でられている。官能的な歌である。

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笑ってる人が一人もいないまま終点「お忘れ物のなきよう
「サファリパークへ」月丘ナイル

おそらくそこには、パークながらも、命が命を食うシーンがあったのだろう。色んな感情が湧くのだが、その感情もちゃんと持って帰るように、声が覆いかぶさる。

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玄関と廊下の照明スイッチを間違えちゃってたのしい帰省
「散歩っ」御殿山みなみ

かつては間違えることなどなかった勝手知ったる実家で、カチ、カチ? カチ! カチ。と、なんかやってる暗い場所の自分。なんか楽しくて、でも、流れてしまった時間がそこにある。

2019年1月13日日曜日

20首連作「成人の休日」2009年

  成人の休日   


昨日(さくじつ)は成人の日であったかと今さらの 休日のくらげ

そういえば華やかそうな着物らの和洋折衷なるワイン色

新成人は許可さるる、白き歯の裏も頭蓋の中も濁る権利を

てんぐさに酢と熱を入れてどろどろを冷やして天突(てんつ)きでぐいっと 二十歳(はたち)

  我がその日は徹夜明けの自治会室で輪転機を絶妙に操(あやつ)りき

  黒いソファに臭(にお)う毛布を掛けて寒し、式ではネクタイをくれたらし

  堅苦しい袴姿を褒めるほど闘争は易からずき 二十歳(はたち)

マナーモードし忘れの俺のグールドの第一変奏電車で響く

追悼会の合い間に電話くれし人が静かに問う「今、どこの辺りに?」

先に着けばおみやげをひとつ思い立つ、天井が板チョコのカフェの

行き先は風に訊きつつ、いやまさか! グーグルマップにわれの立ち位置

どの場所にいても宇宙の衛星が我を算出する、今はよし

ざくっざくっと少女クララは雪を踏む、ブロック舗装を行く我もまた

数十の中から選ぶチョコレート、命運は何も決まらざれども

遠方の人と会いたり、駅前でピカチュウ男を撮りそこねたる

「美人そばの店に行こう」と誘われて美人とそばの比重あやうし

あいにく、新成人の祝日に美人もそばも閉まりたるなり

画廊には男三人コップ酒、乱反射する言葉のにおい

うたびとと紹介されてわがこころふりさけみれど炎(かぎろい)見えず

ガード下の明るい店に消えてゆく五人その後は語るべからず

2019年1月5日土曜日

30首連作「あじさいのうた」2009年

「あじさいのうた」 

パスワード作成を今日に促され「AJISAI6」と決めて弾かる 

 コンピュータが我を認めてくれるまで世界と接続できぬ月曜 

今朝電車で群生の濃き紫陽花を窓に見る、あれは青であったか 

青ざめて、否、うっ血の頭部並(な)べて井の頭線を眺めていたり 

牡丹のように花は首から落花せず、亡き人のことを思う六月 

 六はさいわい、六は不吉の数にして葉の上(え)に涙のごとき雫(しずく) 

  庭すべて紫陽花が狂い咲く昼に俺は生まれた、雨に閉ざされ 

 幼きは毬(まり)の中身を知りたくて顔を近づければ恐ろしき 

 アジサイは毒もつゆえに幼きに注意せし祖母、祖母のまぼろし 

  晩年はあばら屋にみどり生い茂らせみずから植物となりし祖母おもう 

  20世紀の病室は白く四角くて清潔ゆえに冷たきラウム(空間) 

   病室に祖母の入れ歯を洗いたればまだ動物の眼(まなこ)にしずく 

    幼きは祖母を誇りて幼稚園の先生みなに紹介なしき 

     我の片目は君に与えて君はいま2009年を笑っているか 

  空ろなら君に身を寄せアジサイの花の数だけ接吻したし 

   君という球体の中に狭からぬ荒漠を見る、雨降り続く 

 幾万の打ち首の無念洗いつつアジサイは咲く、その翌年も 

  討つものと討たれるものが見る花のむらさきのその色のかなしさ 

紫陽花町のアジサイの花は汚くて町の花のアジサイもペンキ絵 

適当でダイナミックなあじさいの小学生の水彩画まぶし 

 この絵には判子のようにマイマイが描(えが)かれて我は深く沈めり 

詩人めいたポエットさんが思いつく「あじさいのうた」に酸性雨降れ 

 人生の秘密を一詩に書いてのち詩人は昨夜(きぞ)のカレーあたたむ 

街をゆく人の頭が紫陽花の現代アートの永き空梅雨 

 「カラツユって言葉は少しおかしくない? 降らなきゃツユじゃなくていいじゃん」 

   美術館を出て次は、前を歩く君は、女は、歩くとき腰を振る 

  人脳の80%は水にしてアオムラサキの容器ぞ我も 
    
   水の思念、いな思念とは水にしてちゃんと流れることが幸福 

パスワードは結局「a231No-Uta」とす、いいじゃないか人に教えるでなし 

枯れ始めた紫陽花に老いの美もなけん、接続を解除して水は来ず 

2019年1月2日水曜日

20首連作「ペットボトル風物詩」


ペットボトル風物詩

生物でも鉱物でもない悲しみかあっけらかんとペットボトルは
窓ガラスの通す光がギター弾く男のうつろをあたためている
ががんぼの絶妙なまでの足取りのわが訪問をゆるゆる許す
性欲は少し醜く鳴きあってブロック塀の向こうの孤独
美しいナイフで刺せば柔らかきペットボトルと人体の差は
少年は四季を通じて待っている勇敢な残酷な儀式を
照準がずれて苛立つサバイバルゲームの捕虜の救出作戦
少年も多摩川も多摩大橋も真っ赤に染めてしばし、夕陽が
君去りて部屋に立ちたるペットボトル、少し揺らして揺れゆくものを
どこからが男の視線、色彩のもとを辿れば君のくびすじ
アンモナイトの昔話をするうちに丸まってゆく君の眠りの
微笑をたたえていたか、お辞儀してわれを離れてゆく二三歩に
枕にはペットボトルはやややわく透明の夢へこみゆくなり
水田の真中で父は後ろ背の、水一面の青空に立つ
真昼間の家の玄関がらがらと開ければ土間の黴臭さ、甘さ
じりじりと蝉燃え尽きん夕方に初めて精を放つ草むら
ペットボトルぐびりぐびりと文明の曲がり角にて我は渇いて
考古学の提出論文「フロッピーディスクの出土と遺跡分布図」
ひたひたとめのうの巨石に手をあててその褐色の内面を聴く
缶珈琲カンカラカンと投げ捨てて地球に厳しい生き物ではある