2019年5月19日日曜日

2017年03月の自選と雑感。

宮柊二だったっけ、短歌は小市民の文学というふうに規定していたような。こういう規定は、定義があいまいな上に、どこか引け目を開き直った物言いになるので、反発を受けやすい。

そもそも小市民というのはマスクス主義の言葉で、その前に市民階級というのがフランスの階級にあって、フランスの階級社会では、市民階級とは貴族階級と労働階級の間にあるものであったが、マルクス主義によると経済生産性の目から貴族階級と市民階級は同じ資本家市民階級まとめられて労働者と対立する概念になり、資本家ではないが労働階級とも言えない存在を、プチブルジョワ、つまり小市民と呼ぶようになったわけで、まずこの階級感が日本とは違うので、小市民と言われても、日本人には、嘉門達夫の、マイホーム主義な尖った表現を好まない凡庸さの謂(いい)として使われている。小市民ということが。

つぎに、文学だ。ロックンロールイズデッドじゃないが、文学は、文学とは現代において何であろうか。現代において、文学は、表現をおこなうにさいして、絵や音や形でなく、文字を選んだというだけのエンターテイメントなのではないか。エンタメでなければ、自己表現、あるいは、新しい物語創作。

文学って、なんなんだっけ。目の構造が、「見える」ということを規定するように、文学は、なにを規定するんだっけ。

文学は、まだ、生きているか。青いゾンビの肌をして、いないだろうか。青い肌だったら、ちゃんと殺してあげなくちゃ。



自選
いつまでも当選番号さがすようにスマートフォンをきみは見ている

カルピスは何倍がいい? きみのくれる短歌の濃度くらいでもいい?

個性などなくてよかつた夕ぐれのユーグレナけふ(今日)すじりもじりし

この歌を3回声に出したあと、夜の0時に鏡を見るな

この歌を3回声に出したあと、夜の0時に鏡を見るな

この歌を3回声に出したあと、夜の0時に鏡を見たな

知の呪縛のように不可逆、玉手箱の白い煙のごとき認識

犯罪者が刑のかたちを決める夜人権はまだ生きてるつもり

月を取ろうとして海に入(い)り溺れたる猿を看取ってくれたる海月

合成の歌声じつに小気味よく火星探査車石蹴って往く

肩揉みが天才的にうまけれどロジックがない男を知れり

百年前は新宿だって牛飼いと牛がいたんだ都庁のあたり

キャッチーな詩を書くゆえかきみはあのまどみちおの絵が部屋にいちまい

のれんの絵を描いたのれんが飾られて向こうがなくてさみしいのれん

静脈がおれを認識しなくって、あれ、おれいつから甘んじて俺

食べ物を見る目をしてた、食べ物が権利を主張する間じゅう

称賛か失脚か風の吹き上がりやすい時代に目がすぐ乾く

電柱を描くか描かぬか写実的風景絵画の懐かしい嘘

春のころこの道を老婆ひとりゆきその道の果てにあり老梅樹

小学生を殺すほど認知あやしくてなお生き延びて人生ながし

洋服に洋画の陰影描き分けて夷酋列像(いしゅうれつぞう)赤き直立(すぐだ)ち

この国の混声合唱「死にたい」はスウェーデンとは異なるひびき

ビキニからの原爆マグロを眠らせて築地の朝はさっきまで夜

それゃあもうおれは「なかなか言いにくいことをおっしゃるご主人」だもの

自爆テロリストのVR映像を、終えて現実(リアル)がとても汚い

上等の日本酒舐めてきゅうと言うそういう男の列に連なる

美しい言葉と思う、運命を開くいのちを真剣と呼ぶ

エクレアのふわっとかなし人生のだれのせいにもせぬ指のチョコ

善人用優先席にみかけにはよらない人が足組んで座る

サンドボックスゲームをしつつ思い至る西洋のヒューマニズムの孤独

ジョルジュ・ビゼーは時代の何を飛び越えてぼくの意外な耳朶楽します

建物ごと虚空に上がる心地して窓全面を降るさくらばな

白目みたいな歌だよねってなんだようやっぱり短歌わかってんじゃん

星空を眺むるも科学なりし世に法則嗤うごとき極光(アウロラ)

この町の盛衰あるいは玄関が引き戸の率など知りたく歩く

ごきぶりや蚊が叩きつぶされるころダンプが野良を轢く日曜日

生命は波打ち際のなみがしら、吸ったぶんだけぶくぶくわらう

ガラス片敷かれた風呂に入るように過去のいじめを語る痛みは

一日休めば三日遅れる練習のエントロピーめエピメニデスめ

あまじょっぱい経口補水液のみてわが病身の内を濡らしつ

そうやって明るいきみに厳(かざ)られてゆくものをすこしうらやんでいる

アパートの庭にふたりは足浮かせにんげんのしあわせを語った

UFOは地球をながめ知的生命かつて有りきとして過ぎゆけり

二十代で国のかたちを先見し国成るまでに落ちたる椿

ぼくの部屋の階段をのぼる音がする音がしたまま部屋へ届かず

ビッグバン説まことしやかに否定する時代もありき、忘れられき

洗脳の装置とかいいながら観る、低レベルだと嗤いつつ観る

果敢だが彼は失敗するだろうその時のきみに届かぬ歌を

優しさはその後も優しくあるゆえに弱さとは似て非なる朝焼け

俳句
春菊の貼り付いて眠るまでの宵

半跏思惟像この春じゃないらしい

永遠の命をこばむほどに春

さっぷーけーおまへの部屋におまへと春

2019年5月18日土曜日

2017年03月の108首ほか、パロディ短歌、俳句川柳。

生を生き、死も生きるような大きさで朝決意して夕べに忘る

いつまでも当選番号さがすようにスマートフォンをきみは見ている

ダイハツのCMに残るかすかなる大阪文明(文明ちゃうわ!

ある胞子は夜の温度でまだ春でないことを知る、春待つ仕組み

考えていることすべてとろかして人間はゆくひとつところへ

カルピスは何倍がいい? きみのくれる短歌の濃度くらいでもいい?

才能もなくてお金も足りなくて人の子どもに変な顔する

個性などなくてよかつた夕ぐれのユーグレナけふすじりもじりし

ウルトラマンになりそこなった風邪引きがヘァッヘァッてもう帰んなよ

ひな壇の15人にもいるのかもカムアウトせずすまし顔して

この歌を3回声に出したあと、夜の0時に鏡を見るな

この歌を3回声に出したあと、夜の0時に鏡を見るな

この歌を3回声に出したあと、夜の0時に鏡を見たな

学生がちょっと小ばかにするけどね時々読み返したりフロムを

引き出しから未来のロボがやってきた! (打ち上げられた魚のような)

消え去らぬ老兵をいつか一掃しスカスカの街が見たそうなきみ

楽しさが幸福である現代の張りぼての裏を揶揄しておりぬ

知の呪縛のように不可逆、玉手箱の白い煙のごとき認識

犯罪者が刑のかたちを決める夜人権はまだ生きてるつもり

悲しさがこういうときはツインビーのBGMをずっとずっとずっと

勁草も泣くことだってありますと昔の会話を覚えてたのか

地図の上●●●に黒々と秋風の吹く、次は誰の死

バーナーで燃えてゆく窯、釉薬の垂れては生まれ変われるごとし

誇りなくファミマに変わるサンクスの今までサンクス、ふっくだらない

あさましくて父ちゃんなみだ出てくらい、人目気にして損得ずくで

伝統は乗り越えることが継ぐことでソニックブームを知るか知らぬか

モナリザを左に倒して飾りおれば観る人すべて顔倒すなり

あんなにも可愛がってた芝犬のデータはとても出たがっていて

紅白のしまうま常に怒りつつそれも目出度さ扱いされて

めためたにメタモルフォーゼ繰り返し再会したるふたり、きみかも

月を取ろうとして海に入(い)り溺れたる猿を看取ってくれたる海月

煙突のない家なので真っ黒なぼくをからかう彼女もいない

ほんとうに蓋を開けると終わることもあるんだもうすぐ春が来るんだ

合成の歌声じつに小気味よく火星探査車石蹴って往く

いざという時に役には立たぬためのことばをえらぶ、墓標を立てる

肩揉みが天才的にうまけれどロジックがない男を知れり

百年前は新宿だって牛飼いと牛がいたんだ都庁のあたり

キャッチーな詩を書くゆえかきみはあのまどみちおの絵が部屋にいちまい

それを話せば終わりが来るいうそれを早く見つけたいのか饒舌

生きることの意味問うときに深くふかく円(まる)いルールが一瞬まぶし

のれんの絵を描いたのれんが飾られて向こうがなくてさみしいのれん

我は白きみは赤なるくちなはのまがまがしくて見た目めでたし

充電の切れたる古い端末の電源は神の啓示のごとし

人間界はそれを隠して回るのだ◯肉◯食ランチでひとり

一枚の布だけ残る文明をおもう、彼らの生活が見える

静脈がおれを認識しなくって、あれ、おれいつから甘んじて俺

久々に座れた満員電車だがまるで立ってるのと同じじゃん

壮大な赤ちゃんプレイは待っている変態と言ってくれるひとりを

食べ物を見る目をしてた食べ物が権利を主張する間じゅう

死んでから愛するような愚はすまい夕べに死すともかなり悔ゆれば

称賛か失脚か風の吹き上がりやすい時代に目がすぐ乾く

八百年で絹はほどけてゆくというシルクロードも風に薄れつ

電柱を描くか描かぬか写実的風景絵画の懐かしい嘘

控え室で彼らは思う蛇の道を、まともな人間ほどの変人

何層のレイヤをかさね我がいてふつふつとよろこぶやつがいる

春のころこの道を老婆ひとりゆきその道の果てにあり老梅樹

終末は週末よりも頻繁で終電去れば朝まで廃墟

美男美女はなるべく顔をゆがませぬようにしてきた悲しき成果

小学歳を殺すほど認知あやしくてなお生き延びて人生ながし

洋服に洋画の陰影描き分けて夷酋列像赤き直立(すぐだ)ち

官邸デモを語る和歌山大学のドイツ人教授の信憑性

生まれ変わる生まれ変われる挨拶をドレミファソーのソーの高さで

右巻きの昼顔ぼくはスイカズラのきみを抱き取るつもりであった

基本無料の世界は基本下劣にていささか値上げすべきスマイル

この国の混声合唱「死にたい」はスウェーデンとは異なるひびき

生き物は水の記憶に頼りながら生き物として次世代にゆく

ビキニからの原爆マグロを眠らせて築地の朝はさっきまで夜

それゃあもうおれは「なかなか言いにくいことをおっしゃるご主人」だもの

週末にアニメを消化するだけの青春、きみはわりあいに好き

自爆テロリストのVR映像を、終えて現実(リアル)がとても汚い

上等の日本酒舐めてきゅうと言うそういう男の列に連なる

美しい言葉と思う、運命を開くいのちを真剣と呼ぶ

批判するわれわれもまた閉じていて悪人がポアされない世界

思い知ってないだろうこのおっさんはおっさんというzombieのことを

エクレアのふわっとかなし人生のだれのせいにもせぬ指のチョコ

善人用優先席にみかけにはよらない人が足組んで座る

何者であるのかなども不明瞭な己(おのれ)が朝の日を受けている

サンドボックスゲームをしつつ思い至る西洋のヒューマニズムの孤独

ジョルジュ・ビゼーは時代の何を飛び越えてぼくの意外な耳朶楽します

建物ごと虚空に上がる心地して窓全面を降るさくらばな

#ひとりで決める桜前線
家の前に弧を描くように横たわりひとりで決める桜前線

バスケットボール蹴ったら足痛しひとりで決める桜前線


配送業がパンク寸前中指を立てるか否か桜前線

「クアラルンプールはいまは9時頃か」「まだ8時だよ!」のやりとり5年

白目みたいな歌だよねってなんだようやっぱり短歌わかってんじゃん

星空を眺むるも科学なりし世に法則嗤うごとき極光(アウロラ)

この町の盛衰あるいは玄関が引き戸の率など知りたく歩く

ごきぶりや蚊が叩きつぶされるころダンプが野良を轢く日曜日

生命は波打ち際のなみがしら、吸ったぶんだけぶくぶくわらう

ガラス片敷かれた風呂に入るように過去のいじめを語る痛みは

どのようなふうにも生きると思わしめ内側にきみの目が見ておれば

どの家庭にもある洗脳装置にて洗脳じゃない気分もセット

ネットにも友情のなきたましいが目つむりまもなく眠らんとする

目を細め貫禄はかく作り出す久しき日本の横綱をみる

一日休めば三日遅れる練習のエントロピーめエピメニデスめ

あまじょっぱい経口補水液のみてわが病身の内を濡らしつ

そうやって明るいきみに厳(かざ)られてゆくものをすこしうらやんでいる

ツイッターで書けないことを書くためのなんとかったーを欲しがってったー

チックの謎スチロールの謎口に入れぶふふと笑うふたりしあわせ

アパートの庭にふたりは足浮かせにんげんのしあわせを語った

UFOは地球をながめ知的生命かつて有りきとして過ぎゆけり

二十代で国のかたちを先見し国成るまでに落ちたる椿

ぼくの部屋の階段をのぼる音がする音がしたまま部屋へ届かず

ビッグバン説まことしやかに否定する時代もありき、忘れられき

洗脳の装置とかいいながら観る、低レベルだと嗤いつつ観る

果敢だが彼は失敗するだろうその時のきみに届かぬ歌を

ふた回り下の奴から馬鹿にされ彼は仕事が出来ない男

優しさはその後も優しくあるゆえに弱さとは似て非なる朝焼け



#パロディ短歌
「嫁さんになれよ」だなんて缶チューハイ二本じゃだめか、焼酎にする?  

川柳、俳句
さんぐゎつの弱気な季語が見当たらぬ

スイートピー、パ行たしかに春のおと

花疲れ大の字分のさようなら

山笑うおれの真顔を責めもせず

春菊の貼り付いて眠るまでの宵

半跏思惟像この春じゃないらしい

永遠の命をこばむほどに春

さっぷーけーおまへの部屋におまへと春

二月なら春にときどき勝てもした

2019年5月4日土曜日

2017年02月の自選と雑感

令和っすね! 平成中はお世話になりました。いまこうしてこれを読んでくれている人と出会えたことは(ほとんど直接出会ってはないだろうけれど)、不思議で、ありがたいことです。

令和時代の表現がどこへ行くのかわからないし、自分の表現もどこへゆくのかといぶかしい日々です。
照屋沙流堂の作品も、あと1年ちょっと分を、はやくツイッターからここのブログに移動してしまわねばなりません。今回は98首を自選して33首だけれど、こういう作品って、どのように読まれるのかしら。時々評判が気になったりします。楽しく読んでもらえるとよいのだが。


自選。

底で闇で零で黒なるうたびとの負のちからプラスにいたれかし

胴体を草が貫きたる鳥がわれを慕ってくる夢かなし

正しさが試されている、にんまりと枇杷色の歯を見せる老婆に

忘れられる権利さておき千年前のテンションたかき恋歌を読む

身体から毒を出したらすっきりとするというおぞましき空想

歌が上手い歌手がだんだんビブラートがうわずってゆくあわれなりけり

冷めているゴーヤチャンプルそぼそぼと見解がもう合わないにがみ

それは目に見えねば言葉を網にしてひっかかるまで投げるしかない

釜玉に続いてぶっかけ小を食い寝る夢はついヤマタノオロチ

ウイルスかウィルスかビールスかヴァイラスかどれでもよいが具合が悪い

離反者も弟子の振りする、フリスクをかじりつつ途中まで言わせとく

ほんとうの歌をいくほど残すだろう体裁のよき歌の背後に

ぶよぶよの大地を生きる民としてステップは苦手手振りは得意

人間に生まれ変われるつもりかいメイクアメリカグレートアゲイン

透明なあやとりをつづけていたよ不在になったきみの番まで

深夜いっせい死者よみがえりくるごとく歌人のボットが並びはじめる

死ぬ日まで空を仰いで、弾圧のない現代詩にない空の青

振り返るきみに笑まざるわれなりき大事なことは一瞬なのに

ムーンリバーが流れてきみといたのです年をとったら泣くんだろうな

親父は喜び母は悲しむ一日(ひとひ)なり出家の決意述べてしまえば

王朝はつね永遠の夢を見る火種を赤き水で消しつつ

誰もみなたった特別になりたくて自分の名前は逆からも言える

ほとんどの人にはあまり意味のない点灯夫今日も灯りをともす

幼児用椅子に描かれたミッフィーのやぶけて黄色いスポンジが出る

稲荷橋のバス停できみはバスを待つさっきの涙はさっきで終わり

簡単に書いたものゆえ簡単に残らないのかもう消せらせら

短歌ってなんだったんか、きみと始めてきみいなき世にいななく一首

草の中もぞもぞ動きすっきりと風呂上がりみたいに汚れて犬よ

信念を貫くことにとても似て長生きは馬脚のはじまり

人間は未来になんて進めないくるくるぐるぐる生きているだけ

ひとり抜けふたり抜けいつかしづかなるタイムラインよ、夜ひらく梅

ここでいまテレビを流し向かい合い食事をしている、深い意味がある

往年の国民作家は笑むときに労働者めく吉川英治