2014年1月5日日曜日

2013一人自由連句365

  2013一人自由連句365

     2013年1月1日から12月31日まで一日一句を綴る   


1 ここからは目出度きものを酌みにけり
2 はじまりの寒き国の結露も
3 一閃してボイジャー太陽圏を去り
4 レンズに映らざるリアリズム
5 満月の待ち受け画面の月小(ち)さく
6 スマホをかざす格之進はや
7 失ってのち古き良きものとなり
8 売れ残りたる七草パック
9 摘むことのない指が選ぶ現在の
10 流行のネイル愉しむ母娘
11 氷壁の下のワカサギ光るころ
12 南半球の山ひとつ燃ゆ
13 ゴンドワナの海岸で虫は泡立ちて
14 あああずましい風が吹くのみ
15 富む国に生まれて清貧の微笑とか
16 流行りのステロ版に取り替え
17 雪嶺は遠くいくほど暗くなり
18 懐かしい曲を口笛に載す
19 インスタントコーヒー匙で回しつつ
20 沼矛(ぬほこ)のごとく滴る雫
21 猫ばかりの島を国家と認むべし
22 旗の模様はすぐに決まりつ
23 出立の決断に人は要らぬもの
24 青色の町に一日(いちにち)は来る
25 シャガールは魚(うお)のごとくに人を描き
26 高橋由一は鮭を下げたり
27 藁を編む民の記憶を受け継がず
28 ストローマンの詭弁はさびし
29 狡さから知能は萌(きざ)す寒烏
30 一声鳴いて去ってゆくなり
31 懐かしい湿った路地に目が光り
32 スカラベは天の川を眺める
33 公正世界信念の外にはみ出して
34 この岩を運ぶ体罰続く
35 勾玉は曲がったままの美しさ
36 カワセミ号のブレーキ響く
37 ドーピングで君の固まる報を聞き
38 返信メールを二度書き、無難
39 手紙、電話、ファクス、メールと近づいて
40 逢ってしまわぬうちが相聞
41 第一歌の解釈あやうき万葉の
42 この丘を去る一対の蛇
43 グーグルアースにゲニウス・ロキも映されて
44 コラージュされた故郷の無人
45 よく言うとコンプレックスハーモニー
46 いろいろ食べに来るだけのくせに
47 この席は窓の向こうに梅が見え
48 一枝にともる籠抜けの鳥
49 侵略的外来種として憎むべき
50 陰謀論の浮き出るメガネ
51 映画らしい演出が過去を塗り込めて
52 ポップコーンの味に飽きたり
53 攻撃の言葉を爆ぜているだけの
54 バルで飲み干す一杯、二杯
55 水瓶座のぼりて乾季終わりけり
56 慈雨に染まっていく土の色
57 打たれつつ思想は下より匂うもの
58 「維新」と聞いて亡霊が動く
59 百年を鎮まりかえる海はなく
60 若ければ火の身に燃えやすし
61 腓の細い女の何に憤り
62 一生二生を君と別れき
63 彗星の軌跡のついに違(たが)えれば
64 星のまたたく意味ひとつ知る
65 いにしえは洞窟に知を匿(かくま)いて
66 濫喩の馬は入り口で塞(せ)く
67 杉玉のくたびれている居酒屋に
68 留学生の店員の声
69 愛想笑いで異国の夜を起きており
70 死者も生者の身を案じつつ
71 当事者に特番のカタルシス遠く
72 春風が白く走るこの海
73 「社会からしばらく席を外します」
74 貼った付箋がぺらりと落ちる
75 花びらのひとつコップに浮かぶ頃
76 老婦人の訃がメールで届く
77 選びくれし菓子がいつでもおいしくて
78 その才能が地上より消ゆ
79 脳という森林を携えて人は
80 避難所(haven)として思う天国(heaven)
81 桜並木を抜ければ車ごとの春
82 春の男の顔をするべし
83 珂雪(かせつ)なる肌酔いたれば染まりけり
84 二杯目からはホッピーがよし
85 節制の知識にむしろ肥えている
86 キラキラネームの如き、余生
87 紙飛行機の飛翔は滑空へと至り
88 光線を避(よ)けてすぐ見失う
89 神学的光輪を持たぬ君なれど
90 セキレイが道を導いて待つ
91 外套のごとき自惚れ脱ぐ門出
92 背中に汗の垂るる返答
93 大宇宙に締切のあるこの不思議
94 時知らぬまま生きる愚かさ
95 数分の遅延に気分を害しつつ
96 車両の外は人のない春
97 町おこしにアニメと少女とミリタリー
98 若手の意見はいつまでも我
99 公民館の板間に子らがいさかって
100 鼻血で終わる喧嘩やすがし
101 ロジックも負けたるごとし両成敗
102 抹茶おはぎで調停を図る
103 毛氈のない床几にはタオル敷き
104 風は強くて空は遠くて
105 練習曲のピアノ聞こえる路地細し
106 ジャヴェール警部は追いかけてこず
107 セーヌ川に頭を突っ込む日本人
108 「ラ・セーヌの星」のマスクを落とす
109 厳格な家庭のゆえに嘘をつき
110 なんじゃもんじゃの木陰で休む
111 吹奏楽部の練習の音が風に乗り
112 ホルンが救いし人を思えり
113 コンビニのポスターで知る定演の
114 煙草を吸いきるまでの決断
115 目の前に分岐コマンド現れて
116 人類を凌ぐ手堅き一手
117 シリコンの系統樹の葉はやさやぎ
118 これが魂実装のヤマ
119 虫眼鏡の焦点を過ぎて広がれば
120 円錐形にぼやける未来
121 海の名を冠した山の酒に酔い
122 電波の届くところで眠る
123 檻を離(か)り森のけものとなる今も
124 書籍の匂いをかいでは歩く
125 紙魚跳ねて泳ぐ気配の古書店の
126 選民思想の章のあたりに
127 NIMBYのエゴを正義にすり替える
128 誰が実現したクックロビン
129 外国に行けども日本語化が止まず
130 カタカナのハロ/ハワユ訳せず
131 別れの日にこんな笑顔を見るなんて
132 葉桜の下のバス停までの
133 十年を一日のごとく歩みこし
134 年相応の決意あさまし
135 イメージの可動域まで狭くなり
136 まっすぐ育つのは遠回り
137 洗面器の水になりゆくくらげ見て
138 庭に水まく子を見る男
139 草水晶と書かれた筒を片付けて
140 万華鏡より迷いしこころ
141 泣いているわけではなくて霧雨の
142 あぢさゐの色を決めて土濃し
143 リテラシー高き人ほど口を閉じ
144 ラジオで未来をうらなう卜者
145 真夜中にプラネタリウムみるごとく
146 CGに吹く草原の風
147 この小川の海に着くのは百年後
148 いくさを知らぬまま流れたき
149 風雲に耳を貸さずに二度寝する
150 天守閣より高きビルにて
151 階段室の踊り場で休む現在地
152 かまぼこ板には「昇る」と「降りる」
153 見た目には苦しそうなるランナーの
154 エノコログサひとつ選り抜いており
155 あと何回ぽっかりと胸に穴を開け
156 動物が街へ逃げこんでいく
157 メルカトルの南北は引き伸ばされて
158 互いの顔を指さして笑う
159 年月がすべてを変えてゆくのなら
160 架空の書史を語るボルヘス
161 ミー散乱の果(はた)てに君を見るように
162 我がサードマンはどこへ導く
163 昼を抜いてケーキセットにいく男
164 甘さを控えるという甘さの
165 腐りたる叢(むら)より光る虫ひとつ
166 近寄りそうで離れていくか
167 天気図に星座の低気圧が生まれ
168 川面逆立ち白くかがやく
169 悠久は大げさなれど多摩川の
170 乙女を恋うる言葉千年
171 青銅の青年に白き雨のあと
172 シュヴァルツヴァルトは黒く戻るも
173 引き止める友なきを今は寂しみて
174 李徴をやめた虎の満腹
175 少(わか)き白は老いたる白と通じたり
176 甘いと知りて分け与えつつ
177 孤食するわれに一匹近づきぬ
178 何食えば人は優しくなるか
179 要領よき人間に冷めたゆたなる
180 鏡の馬手が弓を掴んで
181 機械いじりの夏のつごもりひきこもり
182 ラジオではボーカロイドが歌う
183 今世紀も人は汗して働いて
184 獄舎の横にユリ低く咲く
185 動くときに普段は見えぬ壁を知る
186 音立てて海にぶつかる勇者
187 旅行会社のパンフスタンドの夏は青
188 冷房のあたるはずれの座席
189 縫合の跡はけだるい痛み持ち
190 見られたくない季節は過ぎぬ
191 歩き方を試行錯誤の通勤路
192 ブーストかかる身体たのしき
193 過供給ぎみのジュースの差し入れに
194 毎年楽屋でこの話になる
195 防音のピアノ練習室で逢い
196 若き興味はバッハにしかなく
197 カンタータの水面(みなも)に滴(てき)の落つるごと
198 終わらぬ波紋の中にいるなり
199 猶予ならさるすべりの花消えるまで
200 聞いているふりの生徒の無言
201 畢竟はムードとやらが決めている
202 最初の誤差は小さきものを
203 朝ぼらけ二通り目の露と消ゆ
204 未来は開けつつ、閉じていく
205 言うなれば振替輸送のドアの前
206 月が青くもないまわり道
207 雨上がりのあちこちにいきれ溜まりおり
208 最期の夏虫の息も含みて
209 有象無象のランド(土地)をなして君を呼ぶ
210 音ではなくて色でもなくて
211 近づけばわっと離れる生き物の
212 我とは周りが決めいる範囲
213 切り取った紙片は捨てるデクパージュ
214 廃材のオブジェ、もしや辺獄
215 不器用さを現代思想で隠しつつ
216 サインは完成している詩人
217 言霊もコンパイルできぬ誤字脱字
218 シンタクスエラー止まぬ報道
219 オールドマシンは処理をしながら逸れてゆく
220 消え去らないと老兵ならず
221 生者だけが死者を迎える魂祭
222 醤油の匂い土に染み込む
223 煮魚の身の取れやすき口約束
224 悪意はないが懶惰に滅ぶ
225 人徳のなきを嘆かず西瓜食う
226 拭っただけの唇の照る
227 呼ばわれて行くがかすかな悲しみを
228 夕方にたのしげなるこうもり
229 ドメインもレイヤも少しずれていて
230 暦の上の秋風の吹く
231 上向きの蛇口の水の弧は乱れ
232 乾いた砂の濡れていく色
233 なんとなく泣いてるような夢で起き
234 満月の日は会わずにいたり
235 星読みの透き文体に当てられて
236 ローカスに沿って行きたき誘惑
237 廃線の線路はすでに遊歩道
238 枕木を跳んだ友もまぼろし
239 カルピス瓶は包み紙ごと冷蔵庫
240 飲む回数を守れざりけり
241 甘さにはどこか許しが含まれて
242 道端の缶に列をなすアリ
243 賢しらな知性を笑うこともなく
244 ホルモンを長く噛んで聴きいつ
245 菜食と偏食の差はあやうくて
246 理屈のようなサプリと思う
247 理想かつ標準的な生のため
248 SNSの写真は笑顔
249 情報の紐付けをうまくほどきつつ
250 一人で先に帰る週末
251 七年後君が心にいるとして
252 見上げるばかりの世界なりけり
253 愛でられぬまま長居する要もなく
254 ドリンクバーを一杯で去る
255 台無しの心をここに置いておき
256 現代人も狩りに行くなり
257 生ぬるき甘き果実に手を濡らし
258 首あげて描くミケランジェロの
259 礼拝の頭上に罪のある世界
260 つばくろ去ればまた巣を壊す
261 秋のサインは火ともるように増えてゆき
262 フロアの電気消せば、名月
263 一区切りつかないままの帰り際
264 スーパーの冷気が気にさわる
265 無機質なBGMも一周し
266 梨のようなる日がおちてゆく
267 旅先の小さき酒屋で飲む地酒の
268 潮風をアテに飲むのんべえら
269 若き日は逃(のが)れたかりし故郷の
270 土地が私を覚えておりぬ
271 菩薩らはこのstorageを"空"と呼び
272 スプーンを通さぬミルフイユ
273 百日を切れば紅茶も冷めやすく
274 砂時計おき耳をすますも
275 孤絶して自意識満つる監視室
276 眠さは枯淡の境地にも似て
277 昼食後のコピペ作業は果てしなく
278 事故報告も事後の報告
279 バーチャルの炎に焼かれたる火宅
280 寝不足かとも思うよそれは
281 朝水の楽しからざる冷たさの
282 洗面所の渦、24号
283 僕を成す法則は僕を連れてゆく
284 返報性のもう一つ奥へ
285 シンプルなグラスのかたちをこころとし
286 部屋の入り日に影の長引く
287 上書きする前の歴史が懐かしく
288 死者に優しきページ爪繰(つまぐ)る
289 花の香も雨は地面に叩きつけ
290 順番でいうと最後の秋晴れ
291 師匠とのラジオ体操懐かしく
292 グラウンドからは連峰あおし
293 過疎地域に若き教師が赴任して
294 風土にそぐわぬ明るさに見ゆ
295 膝を曲げ踊る菩薩も摩訶薩も
296 激しくあらば静謐も来む
297 油絵の具の盛り具合いまで審美して
298 ピカソが産声をあげし火曜日
299 電話帳の上からつながるまでかけて
300 銀杏並木に入り日がまぶし
301 サンの付く林檎は袋をかけずとう
302 箱一杯の丹精である
303 勤勉が馬鹿を見るような職場にて
304 セキュリティ的にOBは来れず
305 逃げ出したペットの集う楽園は
306 野生のバランス崩れて、やさし
307 自販機のお釣り忘れて文化の日
308 口笛も吹かぬ休日さびし
309 陽気なる顔の少ない生き物の
310 希望は人にするもんぢゃない
311 ジュニア世代が死の意味を変えていかむ冬
312 ホットミルクに浮かぶ三日月
313 毒抜いて食べるもまずしシクラメン
314 見ているだけの柵緩(ゆる)きゆえ
315 手を伸ばしその頬にしばし触れてたし
316 機能的なる生のさなかに
317 四季という異常気象を愛づる民の
318 ビッグデータは鍋を選べり
319 洗面は湯になる前の水で済む
320 スロースタートなれど霜月
321 自論述べほそく悔いいること増えて
322 くたびれている天丼のエビ
323 シューカツで自分を高く評価して
324 動くときのみ透明を解く
325 アルカイックスマイルにアルコホール充ち
326 木枯らしに手をひかれ家路へ
327 この会話の逆CEROシールに気がついて
328 冷めてしまった鯛焼きを噛む
329 今年の漢字の話題の前に憂国忌
330 目覚ましは平然と鳴らざり
331 国中の時計いっせいに同期して
332 歩くペースは合わずなりけり
333 イマジナリーフレンドに君は気をとられ
334 階段に座り待つなく待てり
335 身を削れば風雪となり五葉松
336 壮年のこれは青きにあらず
337 ドストエフスキー読む地方勤務にて
338 弱者へ向かう不満のゆくえ
339 モンストロデモクラートは意気盛ん
340 四文字言葉もエスペラントで
341 齢(よわい)とは分別養成ギプスとか
342 余剰のごとく赤き葉の散る
343 守る時間と守られる時間を比べいし
344 カラスの灸(やいと)がまた開きたる
345 検索の仕方で世界は変化して
346 液晶画面も鏡よ鏡
347 ハッピーエンドなき現代の昔話
348 「暮らしましたとさ」ののちを生き
349 人間のいぬ世界にも本はあり
350 地図の上から雪の降るなる
351 天上の網語り継ぐ鱈場蟹
352 忘年会の安酒に迷う
353 師走には師走のような街になり
354 死ぬ気はないが死にたくはなる
355 現在を否(いな)み諾(うべ)ないして希望
356 ここで飲むからうまし湧き水
357 星に帰る王子はヘビを待ちながら
358 雛鳥が起きてメーメーと鳴く
359 言い古した駄洒落は云わず降誕祭
360 風来坊の日課さびしき
361 去るものの追わず追われず消えてゆく
362 未練は残したままで結構
363 湯洗いの造花の梻(しきみ)濃きみどり
364 静謐が降り来る年の暮
365 内面の若駒をわが抱くべし


本年もよろしくお願いいたします。
          照屋沙流堂

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