2019年2月17日日曜日

二十首連作「猫のヒロヒト」1998年

「猫のヒロヒト」

愛までの経過痛まし紙粘土の固まるまでのべたべたの白

人といてはじめて孤独、寂しがりやのお前と猫の話を始む

みどりの日に美しく過去は変色し変わりゆく僕は子猫を貰う

鼻髭の模様をつけたこの猫をヒロヒトと呼ぶ僕の底辺

久々に女を泣かす、泣く女慰める猫見ている男

白黒の解け合わぬ心あらわしてヒロヒトはついに吠ええぬ獣

俺とお前はやり直せるか擦っても擦ってもとれぬシミ付きの愛で

梅雨明けの空の青さに目が笑うもう殴らぬと決めていたのに

考えすぎは体に毒? どきどきと女に触れて痛み遠のく

猫のようなお前のしぐさ、荒々しい僕に無条件降伏の時も

裏返しの四角い部屋であついほどお前を捨てる事を思いき

ヒロヒトの写真を撮ろうあの時の跳躍をもう一度してくれ

眠るときのその無防備を率直に愛情と受け止めていいよな

逃走も行為と思うまっしぐら俺が捨てたきヒロヒトの霊

絞殺をとどまったのが愛じゃなく臆病なんて頑張れよ、俺

日常の短歌を捨てて弱く抱くヒロヒトは常に行為を求む

愛の巣を飛び出して行け何処へ行け? もう渋滞の車の列に

お前捨つる未来まちかき駅前は祭りのように女うつくし

逃走を選ばぬお前ヒロヒトを胸板に乗せて目を強く閉づ

ヒロヒトに噛み殺される夢を見て茶碗にミルクをなみなみとやる

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