2016年1月2日土曜日

2015年12月うたの日作品の31首

「冬」
蒸し暑い電車の中で掌(て)にくれし白くすずしき冬をひと粒

「ブーツ」
少なくとも少しは頼られているか玄関にへたりこんでるブーツ

「コート」
本当は頼られてなどいないかもソファに折りかけたままのコート

「門」
裏門の駐輪場で冷えながら待っている重たいのは知りつ

「洗」
洗うたびお前は逃げて本棚の上の埃にまみれて怒る

「予定」
感情をここでスパッと打ち切ってそれでぼくらは変われる予定

「おまけ」
ウエハースに挟まれたチョコは美味しいがそのために買う人のあらなく

「定規」
こころとか残せないため全身の君に定規をくまなく当てる

「DNA」
二重らせんのとおくはるかな食卓の食われる側へお辞儀して食う

「住所」
電柱を気にして散歩する彼ににおいの濃淡である住所は

「キリン」
背の高い桐谷くんはなんとなく黄色が似合うそう呼ばないが

「俺」
少年は隠れ読みつつ育つべしたとえば俺の空、は古いか

「的」
師走なお休日なれば可及的ゆるやかに午後の湯舟のあくび

「ダンス」
入力の装置と思う、楽しそうな君のダンスの君の楽しさ

「後」
後ろにも目があるわけでないけれど君との距離はおよそ正確

「紅」
冷めている紅茶は渋し、しぶしぶと受けた用事がややややこしく

「編」
ビッグデータがおよそ未来を当てる日のぼくの死ぬ日は今日と出た編

「歯」
月に一度曲がって伸びるハムスターの歯を切る、褒美のゼリーのまえに

「温泉」
海岸の海獣の群れにわれもいて温泉保養センターの午後

「近くの公園でいちばん大きな樹」
鳥になった君を近くの公園でいちばん大きな樹の上で呼ぶ

「リモコン」
リモコンをわたしにむけて電源の赤いボタンを押せばさよなら

「遅刻」
ひざを組みあたまを両の掌(て)に載せて遅刻している雲を見ている

「吊」
つい冬は肩をまるめて歩くのでつむじあたりにフックが欲しい

「前」
メロディに乗る直前の低音を響かせてイケメン歌手っぽく

「おもちゃ」
おもちゃ屋があるのに子どもがおらぬ町、あるいは子どもが遊ばない町

「餌」
新製品のチョコレート菓子を餌にして話そうとしてくれたが逃げた

「名」
恐竜ハカセとかつて呼ばれていたのだがテレビのクイズで名を言えずなる

「バイオリン」
バイオリンの先輩に憧れて入りしがビオラを弾いていた三年間

「肉」
輪ゴムのような手首の線の幼な子よ肉というより水満(み)ついのち

「一番印象に残ってる先生」
涙ぐんで教科書を読む先生よ次の授業も泣くのだろうか

「大晦日」
寝転んで大つごもりのテレビ観る決意に声を与えないまま

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