2016年1月2日土曜日

2013年12月の31首

鈍色のうみそらを橋に巻きながら海峡の風は声に変われり

訛りたる老父の話をこたつにて聞くとき末っ子の顔がある

晴れたれば島がかすかに見えるとう島端にきて眺めては去る

喜ばしたき顔をいくつ浮かばせて花屋の赤と緑の人は

シネイドの少し甘えた声をして喪失を歌う、歌うほど憂し

アートとは刺激物にて名品に慣れた眼(まなこ)を知で初期化する

蔵のようなくらきところで泣いている怠惰不遜と人恋うこころ

人心も自然の比喩であるならば明けない夜があったりもする

好もしい人間はそう易くなし愚直にソ音で挨拶をすれど

小麦粉を水に溶きおりかつて人は錬金という救いに燃えつ

辿るならつらつらつらき時期なるを思い出はほんの数シーンのみ

軽妙に気持ちは沈む年ふれば季節天気が身に及びゆき

無害また老害に似てさびしげな笑みなどはつゆ浮かべてならぬ

来世にもこんな喧嘩をするのだろうテーブルに冷めた食事のような

衰滅(すいめつ)の正体を深く辿りいて思い当たりしひとつの不信

律儀なる生のかなしや、決めたことを迷いまよいて、まよいて守る

飲むような飲まないような夕方になんとかディンガーの猫が横切る

花笠の娘の踊り明るくて過去世の業を断ちゆくごとし

卑しき身を労働は救うかにみえて疲れて少し軽かるものを

至高なる落語に眠る、人間の業はサゲにて救われざるも

タクラマカンの語を検索す数刻前稚拙なる人のたくらみに遭い

寒く冷たく風また傘を押し引いて日本の今日の雨は悲しき

モノレールものもの進み鐵道よりのちの技術で遅きがたのし

いちねんも十日を切れば醤油の香ふとただよえり新宿駅に

磔刑のアイコンは祝を吸い続く咆哮の夜の絶えぬ種族に

おっさんもおおむね孤独、風来坊の顔して定食屋にくぐり入る

本質に届かなくてもいい夕べ、小動物を撫でて酒飲む

始まりは終わりの比推、なるゆえに今年の詩句は今年のうちに

テレビ欄の区切りが消えてだらだらの堕落の深き果てに決意は

並びいる土鈴かわゆし、めでたくて清しきものを魔は除けるらし

鬼どもを集めて語る来年の大法螺を仕込み楽しき真顔ぞ

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