2017年8月17日木曜日

返歌球オールスターズ

この夏も入道雲だ、夏休みのわくわくが沸く巨(おお)きなる白  沙流堂

 返歌「この夏も」

自転車の背中おしてたあの風が我が子の背中おす夏休み  豆田✿麦

夏を描く大きな白いキャンパスは土や汗の手で汚してほしい  楓奏

女子ひとり見学してるほのあおいプールの底へひかりはぬけて  杜崎アオ

飛び込んだ(夏に、あなたに)跳ね上がる(水が、光が)雲を作った  楢原もか

おおきなる入道雲にせかされて麦わら帽子は海へと走る  寿々多実果

蝉の声、雑木林の木漏れ日もかき分けてゆく夏の影踏み  柊

もくもくと一口で食べちゃいたいねソフトクリーム 、ゆるみ、したたる  のつ ちえこ

 返歌「一口で」

白桃と夕張メロンの口づけをサービスエリアで見るひとり旅  沙流堂

したたったクリーム落ちてぽとぽとと傘の先端丸呑みにする  幸香

ゆっくりと味わいたい気もするけれど待ちきれないし夏は短い  寿々多実果

君がまだ舌ったらずのころに見たお化けだぞ大きくなったねえ  中本速

ほうらほら大きすぎるよひとりでは ぺろりと横からなめるふりする  めぐまる

レモン味一口どう?と差し出され縁側に溶けゆくイチゴ味  楓奏

禿入道甍の波を見下ろしてごろり一声空がしたたる  最寄ゑ≠

分け合ったただ一口のクリームを別れた夜も舌は忘れず  松岡拓司

いささかも分けぬつもりの君に告ぐワッフルコーンのふかさとたかさ  kazagurumMax

朝顔の蕾がゆるみほころんで台風一過の青空の下(もと)  大西ひとみ

覆水は盆に返らず溢れ出た涙をアスファルトが受け止める  ひの夕雅

ひとりでは食べ切れなかった思い出がしたたり落ちてつくられた染み  柊

ひと夏の恋にはしない温度差を顧みないで落ちたのだから  楢原もか

尖ってるコーンの先までクリームが詰まっていない でもゆるしてる  岡桃代

なめらかなわるくちをいう 桜桃のふたごの肉をじょうずに裂いて  杜崎アオ

べろ出して確かめあった溶けかけのブルーハワイの青色3号  伝右川伝右

 返歌「3号」

海のないこの県を今夜出て行こう君と手をとる妄想も置いて  沙流堂

何番目かも知らされず愛人は青空の下堂々と生く  幸香

早々に飽きてしまってジオラマはレールと木だけのデアゴスティーニ  寿々多実果

ニケツして海まで抜けるニケツとはサドル目線の言葉なりけり  楓奏

ほか弁が打ち捨てられし舗装路と少し交わる国道3号  のつ ちえこ

3号のキャンパス舐めるように青 あの日の赤をどこに乗せよう  御殿山みなみ

青い舌どうし重ねる砂浜に愛人ごっこのキスの痺れて  松岡拓司

こんにちは 夏のカレーはキーマだと聞いてきたのでご飯三合  大西ひとみ

読み上げた入浴剤の成分にだあれもいない海が混じって  楢原もか

 返歌「入浴剤」

ひとりくじら泳いでゆかむ悠々と羽ばたくように浴槽を出ず  のつ ちえこ

ウユニ湖に最初の雪が落ちる音を聞きとるように真面目な寝顔  沙流堂

注文の多い彼氏の風呂の湯がコンソメスープ、これってつまり  沙流堂

渋滞と日焼けは嫌いという君の故郷の海はコバルトブルー  寿々多実果

千年に一度の星が降るように螺鈿細工の風を飲み干せ  とうてつ

ふつふつと毒々しさを増す釜を魔女が混ぜれば夕陽より赤  幸香

渦を成す排水口にさよならを吸い込ませているか細い月夜  なぎさらさ

海のない海抜四千メートルで塩田がうつす青空の色  大西ひとみ

潮騒が時間を少し巻き戻すひとりぽっちで眺めた海に  柊

僕たちを構成してる成分に愛や君とは書いてないので  楓奏

サザンオールスターズ流れ湯あがりのようにきおくの耳がのぼせる  杜崎アオ

雨止めば濃いめにいれたカルピスに氷以外の影があること  kazaguruMax

雪のいろ灯したような湯となりて瞳とじれば遥かカルルス  松岡拓司

 返歌「北国の夏」

北半球は北が寒いとカルロスが書き込む手帳がかなり読みたい  沙流堂

腹這いにヒグマは伸びて背の上をヤンマの影の映りては過ぐ  松岡拓司

美しく染まった空の夕焼けがそのまま朝焼けになる白夜  寿々多実果

地獄なら別府にあるとつぶやいた君の上にもペンギンは飛び  幸香

マッチ売りが灯に見た夢の陰もなく明るいだけの街を彷徨う  楓奏

カルデラって温泉みたい差し出せばふやけた指に阿蘇の風切る  伝右川伝右

ホームへと降りれば風の舞うにおい今なら空が高くて青い  岡桃代

東京の星は見えなくないという歌もあったなどこも同じか  kazaguruMax

あの夏の旅の記憶は薄れゆき手吹きガラスのにごりの色と  大西ひとみ

眼裏に雪原を描き熊の子のようにひとりの夜を迎える  楢原もか

もうこない手紙のように立っている薄荷畑のなつかぜあおい  杜崎アオ

 返歌「手紙」

寒風を水に溶かして固めたる薄荷飴舐めて今夜さみしい  沙流堂

ただ風が僕らの合間をすり抜けて言えばよかった言葉を散らす  藤田美香

この手紙泣きたくなったとき用にミントのアロマ一滴も閉づ  松岡拓司

夏風に煽られ進む蝉時雨 君までの5cmが遠くて  楓奏

モヒートと手紙がわりのレコードはブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ  大西ひとみ

何を隠そうとしてるのガムに濾過された声しか聞こえてこない  楢原もか

届かない手紙のような歌を詠み知らない人にいいねをもらう  寿々多実果

万年筆あおのにじんだ絵葉書を形見のように抱いて眠る  岡桃代

盂蘭盆に螺旋階段うるおして片道切符のメンソレータム  kazaguruMax

ぬるい風にふわと手紙がひらくとき蝉のふたりがみる恋の夢  飯山 葵

ドロップの缶に白だけ閉じ込めて秘めたる思い言葉にはせず  幸香

 返歌「ドロップ」

黙ったままじゃ分からないって言うけれどにちゃにちゃの飴なんだよ今は  沙流堂

放たれしスローカーブが下りるまでだれかれも皆ひと夏を経る  松岡拓司

霧雨はまだ降り止まず夜は更けて月は雫を落としはじめる  寿々多実果

薄荷だけ残してしまいごめんねとカラカラ鳴らすドロップの缶  柊

「その缶によく水入れて飲んだよね」「どんな味なの?」「ただの水だよ」  沙流堂

帰り道ひょいと渡されたキャラメルをあと2時間は見つめてられる  楓奏

薄荷色の海にもぐって叫んでも通じないけど涼しい喉だ  御殿山みなみ

空き缶に薄荷のにおい染みついて形の消えた思い出が残る  岡桃代

かなしみがしみだすようにかみしめていたのは雨のしずくなのかも  杜崎アオ

はぶたえの虫取り網のおじさんは雑木林を上手にすくう  kazaguruMax

ラムネ瓶ふたを開けたらあふれだす夏の向こうの涼しい風が  大西ひとみ

飲み込んだ言葉を抱えた帰り道こんなに白い真夜中の月  木蓮

 返歌「白い月」

月の男が酔いつぶれ見る満地球(まんじきゅう)あんなに青白くて何が棲む  沙流堂

水田に月を配って、この道はその先でキスをもらったところ  沙流堂

ふたりして桶に満月つかまえて近くて白くぶよぶよしてる  松岡拓司

たなびいた雲に隠れた白い月みじめな僕を闇に葬れ  柊

照らされて巨(おお)きくなりつつある影も連れていこうか夏の端っこ  幸香

透けそうな三日月に嗤われていて思いはドアの中まで溢さず  寿々多実果

太陽の白が月より激しくてゆうべのあれはなんだっけ、鳩  御殿山みなみ

連れ立って歩くことすら許されぬ君の月白色のシュシュかな  楓奏

いま空に真白の月が出てるだろ きみに言いたいことがあるんだ  高木一由

天球の穴からこちらを覗く神 あいにく白目を剥いている模様  拝田啓祐

満月の錠剤しろいねむりからねむりへひとは死をととのえる  杜崎アオ

似合うねと言ったあなたの言葉ごと海に放った真珠のピアス  いなば・みゆき

 返歌「言葉」

わくわくが詰まったはずの夏だった青い海とか白い雲とか  幸香

真実が真珠のようであるかぎり遠くなっても君はきれいだ  沙流堂

投げ捨てた真珠も想いも磨かれて近鉄鳥羽で売られていたり  松岡拓司

6月の誕生石は真珠ってすぐに言ったら詮索されて  沙流堂

また会いたいけれどそうとは言いません真珠は貝に眠っています  沙流堂

ミルキーをそっと差し出す人が言う「お前に真珠はまだ似合わない。」  幸香

貝のなみだは上昇気流に乗っかってまもなく秋の真水降るでしょう  kazaguruMax

もう私「純潔・無垢」が似合わずに「健康・長寿」でいいかと思う  寿々多実果

思い出も言葉も抱き海しずか君に会いたいすぐに会いたい  木蓮

海風がページをめくりさいごには固有名詞となるこの夏も  杜崎アオ

秋がきて海原のような鱗雲 空一面が巨(おお)きなる白  大西ひとみ

なぐさめる言葉を知らぬ海鳴りは寄り添うように歌うばかりで  柊



以上、104首の豪華なる球宴でした。参加していただいたみなさまに、深く、感謝です。(照屋沙流堂)


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