2019年1月2日水曜日

20首連作「ペットボトル風物詩」


ペットボトル風物詩

生物でも鉱物でもない悲しみかあっけらかんとペットボトルは
窓ガラスの通す光がギター弾く男のうつろをあたためている
ががんぼの絶妙なまでの足取りのわが訪問をゆるゆる許す
性欲は少し醜く鳴きあってブロック塀の向こうの孤独
美しいナイフで刺せば柔らかきペットボトルと人体の差は
少年は四季を通じて待っている勇敢な残酷な儀式を
照準がずれて苛立つサバイバルゲームの捕虜の救出作戦
少年も多摩川も多摩大橋も真っ赤に染めてしばし、夕陽が
君去りて部屋に立ちたるペットボトル、少し揺らして揺れゆくものを
どこからが男の視線、色彩のもとを辿れば君のくびすじ
アンモナイトの昔話をするうちに丸まってゆく君の眠りの
微笑をたたえていたか、お辞儀してわれを離れてゆく二三歩に
枕にはペットボトルはやややわく透明の夢へこみゆくなり
水田の真中で父は後ろ背の、水一面の青空に立つ
真昼間の家の玄関がらがらと開ければ土間の黴臭さ、甘さ
じりじりと蝉燃え尽きん夕方に初めて精を放つ草むら
ペットボトルぐびりぐびりと文明の曲がり角にて我は渇いて
考古学の提出論文「フロッピーディスクの出土と遺跡分布図」
ひたひたとめのうの巨石に手をあててその褐色の内面を聴く
缶珈琲カンカラカンと投げ捨てて地球に厳しい生き物ではある

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