2019年1月26日土曜日

#あみもの1をゆるり読み 〜あみもの1号ヒトコトコメント。

あみもの13号発行おめでとうございます。お祝いの気持ちを込めて、
#あみもの1をゆるり読み として、あみもの1号をツイートしたのをアップしました。

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理科室の魚に餌をあげに行く 季節は順番通りに終わる
「理科室の魚」屋上エデン

 表題歌にふさわしい秀歌。実験のために生き延びさせられる魚とは、季節に慣れてしまったわれわれを比喩しているようだ。

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いちばんの性感帯は耳だから君の会話を盗み聴きする
「妄想宇宙」ミオナマジコ

 妄想が最もセクシャルだとわかるいい連作。この連作はテクニカルで、体言止めの歌がない。つまり、妄想なのに行為の作品となっている。上掲、部位でなく機能としての耳を性感帯と解釈させていて、光る。

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大小をおかみへわたし二階へと下城の鐘はまだ鳴りやまぬ
「早春譜」笛地静恵

100年ずつ遡る早春の情を描く。楽しい構成だ。上掲の、刀を渡して女と過ごすだろう時間。その前に、彼はおそらく謀反的な何かをしたのだろう、鐘が鳴る。江戸のハードボイルドを思わせて楽しい。

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少しでも心に残っていればいい 白く老いたる犬がいたこと
「老犬と甥二人」小澤ほのか

登場人物が多めなのと、親族呼称のみでドキュメンタリーを描くのは、けっこう難しいが、シーンが印象的に切り取られている。上掲、「記憶」でなく「心」に残るというのがいい。そして、「白く老いたる」という表現が、読む人に残る。

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冬空のたぶんあそこがZiの星また明日からも見守っててね
「惑星Ziより愛を込めて」あひるだんさー
そういうアニメ、みたいな締めだよね。最後の一首で「こいつ地球でリーガルエイリアン(by Sting)なのかよ! やべー」と思わせる。ゴリム控えろよ、とか思う(参加するな)
(追記)編集後記によると、実際のアニメらしい。

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食パンのふちを残して食べていたノルアドレナリンやっぱり食べる
「さよならごっこ」白川黴太

パン耳を残す/やっぱり食べる、という行為に神経伝達物質が挟み込まれることでうまれる、生そのものへの受動感。別れというのは、生の何かを凍らせるが、ぎりぎり意識がある。

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柔らかき茶色を地毛というためのこまめさ 君の文字の小ささ
「君を見てたい」伏屋なお

髪の色を連作にすると不思議に、登場人物が美しくなる。萩尾望都とコラボしてるような。上掲は文字を見て髪を思う逆の思考の流れがまとまりの良い韻律でうたわれている。

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吐く息の白さがやけに濃い朝に目にもまぶしいおはようの声
「雪まみれ」知己 凛

雪の風景をそれぞれスナップしたような連作。上掲、雪の朝の、晴れた、目が痛くなるようなあの感覚を想起させる。触覚視覚聴覚にうったえていて気持ち良い。

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排他的理系男子が理科室で白衣を脱いでするスイカ割り
「ざっとした期待」池田明日香

この連作は全体が完成度が高いと思う。この一首でも「する」の使い方は特異で、もうこれで詩になってると思う。白衣とスイカの色彩、排他性とホモ・ソーシャルの空気感。いい歌だ。

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MusicFMで聴く新曲は罪悪感があっていいよね
「聴かず嫌い」渡良瀬モモ

悪いことって、確かに、ちょっと快楽がある。ここをちゃんと掬えているところが、短詩のセンスだと思う。あと、新曲以外は罪悪感薄まるのも、繊細だ。

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から風が吹く外回り今日もまたどこかで桶屋が儲かっている
「五センチヒールのかかと」夏山栞

慣用句をアレンジして、うまく時代の気分を歌にしている。誰かがバズり、どこかが大金を手にしている日常の、自分の外回りに吹く風。乾いて、きつい。

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煙とバカは高いところが好きらしい神は煙じゃない方らしい
「煙とバカ」ただよう

表題作。”高さ””上”って、すでにある種の価値判断を含んでいる洞察がベースになっていて、その位階と頂点の存在を「バカ」といいきる潔さがいい。ひがみみたいなものもちょっとあってね(笑)

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淑女のブーツのつま先の雪の結晶間もなくとけていつか還る空
「ゆき」小川窓子

短歌韻律としては四句「間もなくとけて」しか合っていない。が内容において確かに短歌である。「の」の拡大からの空、白からの青。いのちそのものの比喩のようでもある。

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平仮名の書き方さえもわからない子どもの声はとても明るい
「仮」ガイトさん

「仮」の字を題詠的に重ねた連作。上掲、ことば、知識を増やすことで失われるかもしれないような明るさを、少し疲れて、まぶしく見ている。

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「朝なのにさよならなんてウケますね」面白がられる別れのかたち
「別れのかたち」小泉夜雨

教育の場を去る時の、送る側との温度差の歌だが、生徒の言葉が面白い。朝のさよならはさほどおかしくなかろうし、ウケますねっていうフランクな丁寧語。きっと生徒も感情が処理中なのだ。

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でもこれはわたしのオーガズムなので君の手柄にしないで欲しい
「でもこれはわたしのオーガズムなので君の手柄にしないで欲しい」ハナゾウ

性愛のgiveとtakeを切り分けてゆくと、見えてくる理不尽があるが、この摘出は、とても鋭利だ。この歌は、時代が下ると、多分、当たり前になってゆく、記録的な名歌になるのだろう。

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くるくるの天然パーマ大きな瞳(め)天使みたいな天使だろうね
「君の声 君の夢」大西ひとみ

下の句の、比喩として用いた言葉が、途中で、これ比喩じゃないわ、と思い直す心の動きをそのまま載せるのは、現代短歌的な技法だ。それがリフレインとなって、印象を深くする。

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ガラスごし名札たよりに吾子探すみどりごのみの異世界の中
「出会い」有希子

新生児室を異世界という表現も面白いが、名札たよりに探すという、絆みたいなものも実は後天的であることをさらっと伝えているところがいいと思う。

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ポケットの奥へ隠せりてのひらを見せれば負けてしまう気がして
「エトランゼ」天田銀河

完成度が高く、物語性、叙情性も見事な連作。上掲、てのひらには、文字通り、手の内を明かしてしまうような無防備さがあることを、それを隠して人は生きていることを、丁寧に歌っている

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迷いなくプルタブ上げる音がする元日昼の南風6号
「帰省」岡村和奈

プルタブは厳密にはもうないんだけど(いま別の言い方だよね)、要するにお酒を開けているのよね。それは南風は土佐を走る列車だから言わずもがななんだよね。土地感があって心地よい歌。

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蔦の這う古いアパート俺たちは不本意ながら同居している
「これは腐れ縁」薊

連作の一首目にしてテーマをうまく伝えている。蔦、という、付着と長い時間を示す植物の選び方がうまい。不本意だが、ちょっと、居心地がよいのだろう。

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90分で900キロ弱移動した神よ私をお許しください
「空の旅」くろだたけし

人間が、足を使わずに高速で移動することは、たしかに、罪なのかもしれない。900キロというとたとえば、東京から九州への距離を、何度も移動するなんて、現代人は罪深い(笑)。

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若さとはやはり暗くて行き場なく半裸が占める浜からの階段(きだ)
「はつ夏、海へ」松岡拓司

若さとは半裸の群れから去る暗さだ、という認識が面白い。あの明るい浜辺の半裸たちは、若さではない何かなのだ、という認識。

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滑らかな海岸線は記憶して旅立つことが正しいと思う
「遠い手紙」岡桃代

距離をうたう、気持ちが載っている連作。上掲、結句が切ない。旅立ったのは誰か。自分か、他の誰かか。正しさがわかっても、できるとはかぎらないのだ。

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寄せ書きに田中の書いた「磊落」を今も心の糧にしている
「パーラー田中」木蓮

人は、いくつのかの言葉を、シーンや人物をともなう”はっとした体験”として記憶していることがある。この「磊落」は、その一回性の、言葉が体験になっていることを見事に描写している。

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貝殻を拾つて海に投げるとき一瞬消える友の右腕
「貝殻」萩野聡

存在論的な連作。視覚によって保証された存在は、視野を外れれば、それは記憶された不在と区別がつかない。この歌の具体である貝殻もまた、不在を抱えた存在である。

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掃除機で空を飛びゆく魔女がゐて平成はもう終はつてゆくね
「ふしぎな物語」宮本背水

掃除機とは、一瞬昭和を思わせる語だが、ダイソンやルンバによって、平成は掃除機が流行った時代といえるかもしれない。そういえば、魔女の宅急便は平成元年だ。魔女が掃除好きかは不明。

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夕食にコロッケ揚げつつ明日朝のおかずのやりくり考えている
「それいけシュッフー!〜お買い物編〜」宮下 倖

あみものと、この連作の意義は計り知れないように思う。コミカルで、良質で、家族の食を常に考えている存在を、このように描ける場所を、短歌は持てただろうかしら。

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いつもより丁寧に引くアイライン誰とも目を見て話せないけど
「#メイク上手になる2018」九条しょーこ

なんというメイク上手な歌だろうと思う。確かにメイクって、見るためでなく、見せるためにあるんだけど、なんか天然も入っているようにみえるのはメイクのせいなのか?

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懐かしい痛み87hanageいたいのいたいのとんでかないで
「ハロー、神様」西淳子

87hanageは分からない。しかしながら、この歌の青春観は素敵だ。たしかに、青春の終わりって、痛みの終わりなのかもしれない。あ、このhanageって、むかし都市伝説になった、痛みの単位ってやつか?

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冬休みオリオンを探しに行こう白に染まった街に足跡
「あの日見た空は」龍也

カラフルな連作。この歌の美しさは、自分たちを街の外に向かわせた後の、それを見送る、動かない視点にある。そしてその視点は、オリオンの空を見ず、地面を見ている。

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吹き晒しの連絡通路にはたしかダサい名前がついていたはず
「母校雑景」典子

その名前はおそらく、一昔前の青春的な形容の、愛称されるべき真面目な名前なのだろう。そして実際の生徒は、それをダサく思っている。そのダサさも含めて、青春の記憶になっていく。

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それでも、ありがとうって言ってくれた 生きてるひとの手はあたたかい
「侵襲」満島せしん

タイトルもよいし、連作も力強い。手は、冷たくなってから、あたたかいことを知る。人は死ぬから、ありがとうの言葉が灯る。大切な一首だ。

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アスファルトにまだ水たまり 映りこむ予備校裏のラブホの灯り
「ホテル イット イン」雨虎俊寛

ゲニウス・ロキ(地霊)を感じるほどの、それがそれすべてな情景詠ではないか。水たまり、予備校、ラブホ。ここでは、何かが始まり続けている。エモいで済ましたくないエモさがある。

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文字を書く音しかしない生きている証明みたいに低く咳をする
「沈黙」ニキタ・フユ

書く、という行為は、本質的に、そこに存在しなくなることかもしれない。持っていかれかけた魂が、ここにあることを思い出して、咳をする。一時証明が済んで、また書くのだろう。

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月—金を通して働く体力も気力も不安で週休四日
「ドキドキ」諏訪灯

緊張、期待のドキドキでなく、動悸、息切れのドキドキ的なタイトル。一度体を壊したりすると、週五という人類がデフォルト扱いしているサイクルが、やけにハードルが高くなる。人類って、なんだかハードだよね。

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制服を着ているだけで風俗のキャッチは道をゆずってくれる
「ペインキラー」海老茶ちよ子

制服は性の場面で強い記号を持っている。ここでは、その強さに守られつつ、ほんの少し、自分が記号化されていることに、不満までいかない気持ちが表れている。

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暗いから電気をつける暗いから電気をつける街がかがやく
「みつめる」白井肌

リフレインでありながら、時間の経過のようでもあり、街の明るさと、夜の暗さがイメージされていく。とても美しい、詩の一首だ。

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悠々と果てなき空を北へ帰(き)す鳥たちの名は知らないけれど
「富山に嫁ぎ」なな

古風めなタイトルながら、土地に入るということの心情を丁寧にうたう連作。上揚、土地に生きるということは、どこか無名になることに似ている。でも無名になることは、自分を失くすことでなく、悠々として、みえる。

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近づいて暗闇のなか見えるもの月明かり照らす蒼白い心
「月夜のふたり」ことり

人が人に触れるときの、言葉が失われ、心だけになって、命になる、あの手探りの感じを記す連作。心が心をみつけるときの、見てはいけないものだが見てしまうような、心の蒼白さ。

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西風に貴方のなみだ混じる夜見えてませんか天満ちる梅
「せんか集 花のつぶやき」彩瞳子

天満ちる梅、とは、星のことだろうか、それとも梅の花を見上げているのだろうか。そこには見上げている顔があり、涙の混じった風に撫でられている。官能的な歌である。

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笑ってる人が一人もいないまま終点「お忘れ物のなきよう
「サファリパークへ」月丘ナイル

おそらくそこには、パークながらも、命が命を食うシーンがあったのだろう。色んな感情が湧くのだが、その感情もちゃんと持って帰るように、声が覆いかぶさる。

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玄関と廊下の照明スイッチを間違えちゃってたのしい帰省
「散歩っ」御殿山みなみ

かつては間違えることなどなかった勝手知ったる実家で、カチ、カチ? カチ! カチ。と、なんかやってる暗い場所の自分。なんか楽しくて、でも、流れてしまった時間がそこにある。

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