「あじさいのうた」
パスワード作成を今日に促され「AJISAI6」と決めて弾かる
コンピュータが我を認めてくれるまで世界と接続できぬ月曜
今朝電車で群生の濃き紫陽花を窓に見る、あれは青であったか
青ざめて、否、うっ血の頭部並(な)べて井の頭線を眺めていたり
牡丹のように花は首から落花せず、亡き人のことを思う六月
六はさいわい、六は不吉の数にして葉の上(え)に涙のごとき雫(しずく)
庭すべて紫陽花が狂い咲く昼に俺は生まれた、雨に閉ざされ
幼きは毬(まり)の中身を知りたくて顔を近づければ恐ろしき
アジサイは毒もつゆえに幼きに注意せし祖母、祖母のまぼろし
晩年はあばら屋にみどり生い茂らせみずから植物となりし祖母おもう
20世紀の病室は白く四角くて清潔ゆえに冷たきラウム(空間)
病室に祖母の入れ歯を洗いたればまだ動物の眼(まなこ)にしずく
幼きは祖母を誇りて幼稚園の先生みなに紹介なしき
我の片目は君に与えて君はいま2009年を笑っているか
空ろなら君に身を寄せアジサイの花の数だけ接吻したし
君という球体の中に狭からぬ荒漠を見る、雨降り続く
幾万の打ち首の無念洗いつつアジサイは咲く、その翌年も
討つものと討たれるものが見る花のむらさきのその色のかなしさ
紫陽花町のアジサイの花は汚くて町の花のアジサイもペンキ絵
適当でダイナミックなあじさいの小学生の水彩画まぶし
この絵には判子のようにマイマイが描(えが)かれて我は深く沈めり
詩人めいたポエットさんが思いつく「あじさいのうた」に酸性雨降れ
人生の秘密を一詩に書いてのち詩人は昨夜(きぞ)のカレーあたたむ
街をゆく人の頭が紫陽花の現代アートの永き空梅雨
「カラツユって言葉は少しおかしくない? 降らなきゃツユじゃなくていいじゃん」
美術館を出て次は、前を歩く君は、女は、歩くとき腰を振る
人脳の80%は水にしてアオムラサキの容器ぞ我も
水の思念、いな思念とは水にしてちゃんと流れることが幸福
パスワードは結局「a231No-Uta」とす、いいじゃないか人に教えるでなし
枯れ始めた紫陽花に老いの美もなけん、接続を解除して水は来ず
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