2019年1月13日日曜日

20首連作「成人の休日」2009年

  成人の休日   


昨日(さくじつ)は成人の日であったかと今さらの 休日のくらげ

そういえば華やかそうな着物らの和洋折衷なるワイン色

新成人は許可さるる、白き歯の裏も頭蓋の中も濁る権利を

てんぐさに酢と熱を入れてどろどろを冷やして天突(てんつ)きでぐいっと 二十歳(はたち)

  我がその日は徹夜明けの自治会室で輪転機を絶妙に操(あやつ)りき

  黒いソファに臭(にお)う毛布を掛けて寒し、式ではネクタイをくれたらし

  堅苦しい袴姿を褒めるほど闘争は易からずき 二十歳(はたち)

マナーモードし忘れの俺のグールドの第一変奏電車で響く

追悼会の合い間に電話くれし人が静かに問う「今、どこの辺りに?」

先に着けばおみやげをひとつ思い立つ、天井が板チョコのカフェの

行き先は風に訊きつつ、いやまさか! グーグルマップにわれの立ち位置

どの場所にいても宇宙の衛星が我を算出する、今はよし

ざくっざくっと少女クララは雪を踏む、ブロック舗装を行く我もまた

数十の中から選ぶチョコレート、命運は何も決まらざれども

遠方の人と会いたり、駅前でピカチュウ男を撮りそこねたる

「美人そばの店に行こう」と誘われて美人とそばの比重あやうし

あいにく、新成人の祝日に美人もそばも閉まりたるなり

画廊には男三人コップ酒、乱反射する言葉のにおい

うたびとと紹介されてわがこころふりさけみれど炎(かぎろい)見えず

ガード下の明るい店に消えてゆく五人その後は語るべからず

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