2017年4月16日日曜日

『6月ヌークリア』

  6月1日「アルトリズム」 

アルトリズムの低音に耳を傾けて我が耳を少し疑っている 

低温やけどの「やけど」は「火傷」運動に身を投じたりしない身やけど 

地水火風に空を加えてそののちに一切は空と開ききるまで 

護岸工事は半ば完成、灯台は一分に二回闇を遮る 

岬とは愉悦の御先夏草を踏みしだきかき分けて手をひいて 

「ほんとうに希望がぜんぜんないわねえ」「ポテトをストローで刺すのやめなよ」 

改札をするりと拔ける改札機はカードを許したまいしかども 

脱線すれば助けを求める手の山の山手線で君とさよなら 

不整脈のようなアメ車の振動を背中に受けて青空も夏 

利他主義の主義とは何か右足を引きずって我に近づく少女 

トンチンカントンチンカンは頓珍漢私も仲間に入りたそうに 


  6月2日「形なせ絶望は」 
   
岩清水の苔をうるうる伝わって流れる水を見詰めておりぬ 

ゆたかなる飢渇かかえて下(くだ)りゆく坂道一足ごとに孤独 

いつぞやは炬燵の上の灰皿に煙草を圧(お)して説き伏せにけり 

命日のはっきりしない友人のミクシィにショートケーキアイコン 

生きていればこの誕生の記念日を襃めたりしたかも知れぬ六月 

絶望は絶望的に地味でありきわだった特長のない闇 

遺留品のノートに俳句、秋空に空想のヒバリ高く飛ばして 

悲しくて月が一つもない夜を遠まわりして女のもとへ 

犬の名は"ジャン"か"アレジ"かともかくも生きいそぐものを好んだ男 

差し入れのドーナツを甘く噛みながらポアンカレのロープは空に伸ぶ 

夷狄(いてき)さえ見えぬものには怯えねばまじまじと形なせ絶望は 


  6月3日「世界は要するに」 

嬉しかった気持ちも置いて寝る続き夢ではこうして会えるなどとは 

味噌汁の白菜のその半透明の膜なす肉を奥歯で潰す 

deadly sinsのデドリーの尋(ひろ)を測りかね目を落としつつ歩く駅前 

何時代から町を見下ろす石段か腰かけてタバコ吸いたき昼間 

想像も空想もついに妄想も垣根につながれた犬の跳躍 

「朝と夜の満員電車はタマシイが減った分だけ夜が軽いの」 

大病という夏休み、一日を耳いちまいと過ごすじゅうじつ 

雑草の一鋭(えい)もまた全身をおののきながら宇宙に靡く 

もしかしてきれいな死体というやつが冒涜のきわみなのではないか 

百年後も今より忙しい君と君の背を抱き声をかけたし 

泣く時は風呂か便所と思いしが世界は要するに風呂か便所 


  6月4日「独唱つづく」 

詠唱の終わりしのちの耳の奧にわたくしだけの独唱つづく 

律動がこの世のすべて、平泳ぎの手つきスイスイスーダラ、スートラ? 

底辺が天辺(てっぺん)に接続しゆく世界を図示しようとして止める 

緑白のアジサイの球この花の絢爛とその死とが六月 

ゆでがえるの茹であがらんとするきわの内臓のせり上がる哀しみ 

中世の機械時計の以前には死神も死の秒読みはせず 

「本を食べて生きてるシバンムシはまるで」「あーあの書籍害虫のこと?」 

死者と死者が折り重なって我もまた積まれるまでを土と呼ぶべし 

サマージャンボ終末間近昨年はこの売場からメシア出ました 

たこ燒きを奢れば君は平らげて「早送りのように美味しかった」 

燭台の灯りはLEDに換えおしいただいて形式を護る 


  6月5日「路地をながれき」 

「オートリバース? 自動で吐くの?」まぶしくて真顔で「そう、嘔吐だけにね」 

碇シンジもDATテープを繰り返し繰り返しては帰らぬシーン 

飽食と呼ばれし時代は受けいれがたき状況を「ゲロゲロ~」と茶化しき 

自分用のラジカセを鎮座ましませて畏みて聽く正しきロック 

はっきりと吐けた時代も霧がかり気分もやもやとなり「ムカツク」 

かつてトサカにのぼる「怒り」も表面の血管がキレてプッツンと赤 

感覚で感覚的に生きながら内臟はわりときれいなピンク 

かぎ針のように露悪のもの籠めて言葉を放つ、池の水面に 

自動改札を小学生が駆け抜ける、ジャンプタッチも手馴れてうまし 

古きよきゼロ年代の夕方もカレーの匂いは路地をながれき 

ここち良き真夜の自転車愛すべき世界であっておくれ、あなたに 


  6月6日「代わり身として」 

かきくけこ核のあなたのシナリオを朝が来るまで話してほしい 

本当の顏を一人もしなかったと一日テレビを観てはつぶやく 

放射能の平和利用を壇上で語る苦しきまどろみの今朝 

まるまるとテレビ受け入れそれでいて信じていない母子の食卓 

昨夜未明キノコ雲的爆発的事象に耳だけ向けて寝る猫 

薄力粉を混ぜる泡立つ罵って去りし女の記憶はつかに 

人間はワニを食うほど自由だし汚染地で残業をも頑張る 

ホットスポット血の点々とああこんなところまでいわば科学の呪い 

経典を護るため船にイエネコを乗せし僧侶の細きまなざし 

自由とはメシが食えなくなることか人間の消えた町のブタわれ 

商品のこけしは海がのみこんで代わり身として浮かべ、よかし 


  6月7日「今回はたまたま」 

狂人の町に生まれて育ちしが違和を隱して今に至れる 

蜘蛛の巣の横糸が母、愛情を指を広げて泣きそうになる 

狂人中の狂人がつまり正常と云うわけでなし飛行機過ぎる 

かけ違いのボタンのままでこの町は伽藍の如き御稜威匂へり 

二十九回ほどの手洗いなのですから私は異常じゃありませんよ 

川面ゆれてキャラメルのような満月が笑って私を誘う笑って 

俺のことを知るはずのない人なのに左右に瞬く癖を真似する 

植物の系統樹から派生してキリンは喬木に顏を寄せつ 

「食べやすい形に生まれますように」祈りは讓歩すれど七夕 

食う命と食われる命は等しくて今回はたまたま二百八十円 

天気の良い休日はふとん叩くべくその前日は整えて過ぐ 


  6月8日「だらしなさ育ちおり」 

クラウドに様々なデータ詰め込んで梅雨入りしているはずの青空 

永遠にこうではないと知りながら希う六月のこの朝の匂い 

平らなりしツツジの垣もこんもりと生きもののだらしなさ育ちおり 

ちくちくと雀が呼ばう朝の横を新聞バイクの若者が過ぐ 

今日の日を170回目くらいの青信号を女がわたる 

幾度か異性の思い方変わりホットフラッシュ暑き今やは 

新婚の同僚の指ういういしリングは異空の徴(しるし)ながら 

シャワー水で丸洗いして観葉の多肉植物妖しきみどり 

券を買いおばけ屋敷の列に並び「正しく怖がるために」を読みつ 

あさがおの鉢のまわりも濡れていて幼きのいる家かと仰ぐ 

自転車の速度を上げる、大声は出さぬが昨日の悔い振り落とし 


  6月9日「人間嫌いの男がじつに」 

堅固なる論理とは決して云えないがくたばりにくい考えがある 

狂気とは予感の予感、朝もやの商店街に目を凝らしおり 

この鳥は人間と共に生きることを選びしゆえか真黒き姿 

人間嫌いの男がじつに滔々と語るエネルギー私論とは何か 

列島は爆弾に膝を抱えたる選手のよう、え? 膝に爆弾? 

都市の夜にマフラー音が遠吠えてコップの冷酒甘きベランダ 

福の付く県のさびしさ、この神の打ち出の小槌に貼られし「☢」 

夜に青き臨界光を神として浜通りを渡れる蛍群 

千年後エレファントパークに憩いいる父娘、組成はかなり違えど 

ケンタウロスの複数形だからケンタウロイが線量高き地を好むとぞ 

右腕に巻かれたトリアージタグの色を調べれば「ただちに助けは要らぬ」 


  6月10日「佇みもする」 

恋バナを軽く訊きしが共感しにくい話がつづき表情も消ゆ 

意図的に遮られたるこの話のつづきは言語の下に潜みて 

差出人不明のメール本文が「巧詐(こうさ)は拙誠(せっせい)に如かず」一行 

<ないもの>は<あるもの>以上に在るというデモクリトスの笑顔も止みぬ 

夕闇の先進国ぞ漁船のない漁師町とおり過ぎるプリウス 

「頑張れてひとつになれる強い人を応援します、私たちは!」 

不快なる泣き声で人の気を引いて六人兄弟ご機嫌ななめ 

木曜のよき昼下がり久々の君に逢うイマジナリフレンド 

「恐れるというか結局考えて凹んだら意味がないしね」「死ね?」「しね」 

飛行機雲がもう一度空に溶けてゆく途中のような輪郭で笑う 

命日を持たざるゆえに我々は論じもするし佇みもする 


  6月11日「言霊の幸わう国で」 

さざえ堂の魚眼の中を巡りめぐり一段ごとに悲しき怒り 

生ぬるき児童公園に子はおらずガクアジサイが揺れているのみ 

着の身着のまま体育館に三ヶ月、夢でもトラス天井を眺む 

明けない夜がないくらい閉じぬ昼はなく、中天を過ぎて太陽を知る 

言霊の幸わう国で押し黙る、不幸またコトノハのまえうしろ 

人類の不調和と退化、さようならさようなら世界の国から 

反反反反反反反反反反反反反反反核らへん 

プルトニウムは千代に八千代にさざれ石の巌となりて苔のむすまで 

本当は反原発というよりは生命の値踏みこそ悔しけれ 

生命は高いとか安いとかでなく、プライスレスでもないと怒るも 

駄々をこねる子供のようにテレビ観て否を重ねるおっさんである 


  6月12日「暴力は思想か否か」 

思想にも十八禁の領域があるか暖簾(のれん)の向こうのような 

犯罪はなべて暖簾に腕押してその手首グッと強く引かれて 

暴力は思想か否か田舎から上京したまま迷子の老婆 

フクシマが吐き続けいる白煙と人を呑み込み続けるトーキョー 

ブラックホールは黒洞と訳す漢字語の"玄"を選ばぬ理由訊きたし 

暴力と性と金とで塗りつぶし21世紀も背景か 

十八禁の今世紀にて人の女にハイネの恋愛詩を語る馬鹿 

なんというワイセツ動画あの設備のえんえんとお漏らしの生ライブ 

アニメーションの十八禁は十八歳以上のいない子供の世界 

十八禁の領域で君に出会いしがその先の今は君はおらずき 

雨あがる雨の最後の一滴を手をついて鉢に顔よせて見し 


  6月13日「傾いでいく幻ぞ」 

翠雨また君の髪にも滴りて十六の夏はこの記憶のみ 

黒電話の「チン、ジリリリ」の一音目で受話器を取りき、二十二時ゆえ 

星を指す懐中電灯カゴに入れ堤防で待つ君へと急ぐ 

ケフェウスさえ見える闇夜にかまぼこのように真白き唇を吸う 

両側の田んぼのカエルの合唱が海嘯のように呑み込んでゆく 

時折の車のライトは確実に我らを特定して過ぎゆけり 

眠れぬ夜は朝まで波を見るつもりで砂浜に座り、すぐに飽きたり 

追憶はさらに過去へと遡り着物姿の母にも出逢う 

無人駅の改札の手すりつるつるの柱に立って汽車を探す子 

思春期は土地に閉じ込められたまま土地ごと傾(かし)いでいく幻ぞ 

避難区域が立ち入り禁止となる土地の追憶もまた汚染はげしき 


  6月14日「衣食住核」 

狭い日本のサマータイムブルースを口ずさみブルーにて君と繋がれざるも 

腥風(せいふう)というわけでなく梅雨どきの湿った風の組成を思う 

世界一不幸な国土とは言わず衣食住核足りてしぞある 

二十年に一度くらいは原発の不具合はあるが頻度は低い 

原発は勝者の論理、経済学が限りなく肯定して今ぞ 

外国で「福島県には行きたくねえあの子とキスが」と歌わルルルか 

しんしんと原発に雪降りゆくも、はや温かき汚染水に換う 

「北半球をダーツで無為に選びたる事故みたいだね」「そういうことか!」 

電気動物ピカチュウを産んだこの国で安全厨・危険厨が諍(いさか)う 

ピカチュウのピカはやっぱり、そういえば色合いも放射能標識のそれ 

危険厨・安全厨も自己中の結合エネルギーの放出 


  6月15日「切り替えるも勇気」 

俗物が俗物としてその生を全うせんとするこころざし 

ベータ線は「りてらし」の有無を選ぶなく等しく通過なせる優しさ 

ま湿れる節電車輛の女からカリンの香(か)ほの暗き昼前 

紫陽花のグラデーションを見つめおり血は一代で別物になる 

一流になり損ねたる君と僕偽十字星を見に行こういつか 

反原発デモ賛成派と反対派も諍うべし、我は純情派 

とうの以前に安全である場所なんてなかったという意味の安心 

二十五ヶ所六十五基のピルグリムツアー格安チケット求ム! 

ランナーズハイの男を休ませてライイングローの続く平和ぞ 

地縁社会に白亜輝く契約のゲゼルシャフトがいまも並びき 

山頂を目指すコースを閉じてからトレックに切り替えるも勇気 


  6月16日「清められたり」 

忽ちに死が訪れてその次に忽ちでない雨雪が降った 

夏草の銀の雫に収めたる世界はひときわ美しいのに 

大いなる夏至を過ぎ誰そ退化論を物するかダーウイン、シュペングラーよろしく 

大山鳴動して累々と横たわる驕りを集めて着火する夢 

休日は第三のビール傾けて第三の酔いに片目は塞ぐ 

胎生魚は殼を自力で破(や)らぬままなれなれしくも外へ生(あ)れたり 

腑に落ちる悲しみをいまだ持たぬのにトルコ桔梗を渡されて、笑(え)む 

「ガーベラとトルコ桔梗の花言葉は」「復興ですか?」「"希望"なんです」 

知立(ちりゅう)まつりのからくりが語る、駆け上がる鵯越(ひよどりごえ)のごとき線量 

反偽薬効果と云うやネットから鼻血止むまでデータ探すを 

プラセボもノセボも"効果"水道水で野菜は洗い清められたり 


  6月17日「というか明滅」 

チップチューン悲しい時もピコピコと悲しみを歌う世代ピコピコ 

ゲーム世代は電子のメッセージに親し感情も起伏というか明滅 

中世の西洋もなお光とは神、梯子(はしご)降るステンドグラス 

高速に規則正しく回転し放射の尽きぬ異界、パルサー(中性子星) 

電気の神はあるにはあるが近(ちか)つ代(よ)は節約されて足りなくなって 

個人でなく地域が飼うとう地域猫の人消えぬれば猫の地域ぞ 

モルタルの地面に神の数学の曲線ぞ愛(は)し、猫の足あと 

ゴートへの嘲(あざけ)り虚(むな)しゴシックの建築は天を求める技術 

無意識が発見される以前ゆえヴァルプルギスナハト攪拌(かくはん)激し 

重力と応力のむごい反抗は不信のごとし、積む腕に汗 

爆発後の汚染瓦礫をひとつ積みふたつ積みして罪深からむ 


  6月18日「言葉のゆくえ」 

「ツイッターが当時流行っていた為にガス拔きとして機能しました」 

いっせいにつぶやきというか嘴(くちばし)が人を突つけり放射のごとく 

浴槽でひとりごつような気軽さで世界に境涯をば示すなり 

反原発は原発と対消滅(ついしょうめつ)する覚悟を持った概念なりや? 

距離のある関係だから優しくてああ、ヤマアラシのジレンマの逆 

「放射線だけではなくて事故自体を正しく怖がるには?」でクリック! 

人のツイートを斬る辻斬りの今も昔もその罰は晒し首、引き回し 

言葉とは本来的に真向かいの視(み)ええぬものへ呼ばう熱意か 

俚諺(りげん)への回帰本能、鴬(うぐいす)のせりあうようにうまいこと云う 

当代の短詩型表現として名ツイートを子らの学びき 

キャッチボール、否ドッヂボールなお孤独な、ダンクシュートの言葉のゆくえ 


  6月19日「少し知ってた」 

停電の駅前の闇、一国の蹉跌は暗く静かに起こる 

今までの明るい夜が異常だと思わなかった、少し知ってた 

文字通り暗い現代、公園で黄昏ている彼だれだっけ? 

馬車に揺られて神童は見た暗黒の夜が森から生まれいづるを 

モーツァルトは十八世紀の暗闇のその不気味をば短調にせり 

あの設備にもかのレクイエムを聴かそうか未完の第八「涙の日」まで 

梅雨曇りの空に舌打ち、雨にならず晴れずついには不幸にもなれず 

あ、あ、と指さして子が気をひいて仰げばあれがツァイトガイスト(時代精神) 

「デキシーランドジャズに溺れて、いやもとい、ハリケーンとか駄洒落じゃなくて」 

ゴーストタウンにジャズの流れるわけもなく野犬の咆哮遠くたなびく 

暗闇の布団に二つ目が開けり日本に夜が来ること、うれし 


  6月20日「優しき者から」 

東芝の工場広き府中市は線量を測らぬとう噂あり 

気配りの豊けき国民性ゆえに優しき者から滅びてぞゆく 

建屋上部は東京タワー二本分の空たかく空かたく舞い散る 

五重の壁の奧で息する生き物の要求は人身御供(ひとみごくう)に及び 

正門の整備されたる植栽の片棒を担ぐごときパンジー 

「原子力明るい過去のエネルギー」標語の邪魔をせよ七五調 

過疎地域の延命裝置が毀(こぼ)たれて延命終わる惜しまれもせず 

遁路(とんろ)などはじめから無い我々が憮然を抱え背すじは伸ばす 

風邪ひいて鼻汁をすするうたびとが希望を語ろうとして声が出ぬ 

コールドゲーム目前にして諦めた奴から野球を楽しむに似て 

店先の琉球朝顏クリスタルブルーと書かれ見ればむらさき 


  6月21日「声のみぞ映る」 

勿来関(なこそのせき)を南下する風に髮なびかせ測定器かかげ立つすがるおとめ 

アニメーションの世界ではもう平凡な少女も自分の武器を選んで 

合理性の制御が断たれむくむくと荒ぶるぞ、神のかつてのように 

来春のライブカメラもほととぎすの「カエルニシカズ(不如帰)」の声のみぞ映る 

日が経つにつれて慘状、海図なく頑張って速度上げるこの船 

愚かさも連鎖するのに頑張って連なって辛くなって詰まらなくって 

「頑張る」と云う言葉が死語になる頃に僕らはいないし、多分いれない 

ディスプレイに次々ゾンビ現れて噴水と化す手さばき見事 

震災後物欲を満たす友人の「理屈に合わんよなあ」という嘘 

「安全な数値」じゃなくて数値しか安全を保証せぬ無力感 

放射線は大切なモノを汚染していきました、あなたの心です(キリッ 


  6月22日「影を読めば」 

ニコニコを見せたつもりがニヤニヤの男が俺と君の向こうに 

鏡像と気づく容量を持たぬ猫のすぐ飽きておのれ舐めはじめたり 

影を読めば内部被曝のキラキラと君の夜空を記念にいただく 

寝る間際の瀞(とろ)へと還る妄想にヘドロ含まぬ優しき弱さ 

「ドリアン・グレイの肖像で云うと地方とは醜い肖像画の方だよね」 

にらいかないも淡き汚染に囲繞(いにょう)され翁(おきな)の面がクヨクヨ泣けり 

いただきますの言葉の前に検査器で「らじお・まてり」をお手軽チェック 

薄墨の夏雲が君が飛ばしいる車のバックミラーを染める 

匿名の攻撃的な書き込みに地元訛り、お前どこ中出だよ? 

サモトラケのニケの勝利は胴体とつばさを標本のように留めて 

チャーチルはVサイン下ろし部屋に戻り二匹の犬を両脇に抱くも 


  6月23日「まくらことば」 

ぬばたまの夜の瓦礫に月光が異国のように降り注ぐなり 

凶悪な人工元素を捏(こ)ね上げてちはやぶる神も立ち退かせはや 

避難所にたらちねの母を置きしまま連絡の頻度減りゆく息子 

一時帰宅は線香の束をたづさえてしろたへの防護服で鎮めに 

くさまくら度々ホームページ見て線量を教えくれる同僚 

あをによし並んでガスを贖(あがな)いて脱出の準備して気が済めり 

原発の安全性はあまざかるド田舎の立地も理由の一つ 

あしひきの山の斜面の茶畑の新茶みづみづしく放射せり 

線量の閾値(しきいち)について説明し安全と言えばあかねさす君 

広島もその全容はほのぼのと明かし尽くされたるわけでなし 

ひさかたの光のどけき春の日にしづ心にて爆発を見ゆ 


  6月24日「荒療治さえ」 

猫にゴメン犬にもゴメン電力会社は人間にしか謝罪せぬゆえ 

人間の営みにメーター取り付けて集めた金で回すメーター 

やむを得ぬ犠牲の群れを流れゆく低き呻きは浸水のごと 

半減期あらかた過ぎてホットスポットは見当たりませんと言うかもしれず 

放射線の荒療治さえ日本文化の邪(よこしま)の転移の駆逐叶わず 

穏やかで滑舌のよいキャスターの言葉の要旨は「ゆっくりと死ね」 

「安らかにお眠りのところすみません過ちを繰り返してました」 

「ソレハ謝罪デスカ?」「イイエ、タダノ御辞儀デス」日本語会話の終章例文 

土下座にも風景として放射能付き桜吹雪が舞えばうつくし 

エリートが一列頭頂部を見せて会見すれば潮ひきはじむ 

被害者が幾ら死のうと加害者の自殺で収束する死生観 


  6月25日「ノーモア」 

野辺送りに音楽はなくだらだらと悲しみもまだかたちとならず 

ドクダミの白き四つ花が目に留まり美しいけれど声には乗せずき 

入道雲の白あたらしくわくわくと希望とは雨として届くなり 

もう人が住めない町にひまわりは徐々に頭を擡(もた)げているか 

柔らかき濾過の一翼サマショール(わがままな人)の表情は少し凛々しくぞ見ゆ 

とりあえず猪木の張り手二つ三つ食らうようなる希望か今は 

混雑の朝のホームの屋根にひとり「変えろ」と警告する大からす 

休日の高校を囲む公孫樹(いちょう)揺れノブレス・オブリージュと聞こえたり 

音楽は夜の畏れを麻痺させてかすかに希望に換(か)うノクターン 

野川沿いを下って自転車でゆけば二重真理でいい海に遭(あ)う 

言い過ぎて「ノーモアフクシマ」悔いつつも「ノーモア『ノーモア』」と弁解できず 


  6月26日「東廻りの航路にて」 

場当たりの人生もおよそ半ばまで来たけどそのまま隊列の一人 

日本国の海路は江戸へ通じたり河村瑞賢の善業以降 

やはり社会を利すれば善か電光表示のように定義のチラつきはあれ 

『泥の河』の安治川もまた淀川を安く治めし瑞賢の功 

偉人伝を読まずに育つ弊害の一つ、愚人に”理解を示す” 

黒潮の強き流れに逆らわず千葉から伊豆に廻るこそ知恵 

冷凍の生しらす丼うまうまとまんまと解禁日前に食(は)めり 

東北の米穀は船で運ばれて江戸を満たせり、東京は電気 

季節という苛烈な摂理も横文字のマーケティングの為の夏来たる 

お江戸のための東廻りの航路にてお釣りとともに元素運ばれ 

地方から養分を吸いなお渇く東京砂漠はワームか何かか 


  6月27日「不毛不幸の」 

ピアニッシモの如し、やがては大河なす源流のさらに元初のただよい 

戦中は英知湯川も国の為にF研究(原子爆弾開発研究)に身を捧げたり 

ナチスより早く作れと進言する署名うるわし天才科学者(アインシュタイン) 

古都京都への原爆投下を支持したるフォン・ノイマンの作りし現代 

パグウォッシュ会議も核の兵器のみ、平和利用は平時の思考 

地表から滲(にじ)みわくわく抑止論、足裏(あなうら)濡らし家路たどるも 

不毛不幸のネット議論に群がれるご覧、あれが言葉尻かじり虫だよ 

「夏はビキニ!」「かつてアトムと呼ばれたる露出度の高い水着ね」「お、おう」 

六十七回の核実験を記念して環礁を世界遺産とする知恵 

頭でっかち否むしろこの小利口の群れから出るか心でっかち 

意外に涼しい朝ベランダに朝露が、液化するまで漂っている 


  6月28日「不悉」 

"福島"は"blessed area"遠き世に手付かずの珍しい園として 

暴風雨で家族が揃えば下の子は雨打つ窓を眺めてうれし 

封鎖地域の町の時計が一つずつフェルマータの指示にて止まりゆく 

「核技術ではなくてたぶん人間の未来の方だよケチがついたのは」 

「【拡散希望】希望【不拡散希望】放射線」「分かりにくいし短歌じゃねえし」 

最初から何もなかった顔をして生きていくのもいい百日紅 

嫌なことは水に流すも三態を経て総量は変わらぬ世界 

レベルセブンも自己責任で乗り越えて復興の夢を抱け、国民 

合理化を進めればいつか不合理に至るウェーバーの予感そのまま 

「もう一度最後に書くがあなたには何一つ罪はないのです。不悉」 

窓を閉めても降りしきる放射線のもと助手席の君にキスをふたたび 


  拾遺「きぼうは」 

語り継げば希望は藍の重ねては色増す手染めに似るか真青に 

堰き止めた涙のように溢れ出す希望は人前では恥ずかしく 

逆位相の波にはあらで絶望をかき消す爆音もかも希望は 



 以上、大震災から3ヶ月近く経った6月を、11首連作と、拾遺の、計311首として留む。

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