2017年5月13日土曜日

2015年04月の60首と、ある人とのやりとり6首

現世に薄桃色のエフェクトを無理くりかけたように桜は

老人の背骨はたぶん耐えてきた孤独にじめりと曲がり縮みつ

見るたびに桜は歌になるという文化を深く知らぬ私に

春霞に桜があればなんというこの国はまだにっぽんである

上も桜下も桜の向こうから学生服が美しく来る

ライトアップ夜桜と夜の人の列その下に黒き水の流るる

かなしみは少しはあってかまわない飛花壮絶を眺めておりぬ 

店内も花びらまみれ、かすかなる水気を帯びて終わりゆくよし

ホールケーキをぶつけるような人類の破滅、そのとき白甘(しろあま)き顔

ひょっとして歴史をひとつ完全に更地にしたる跡地の重機

前や後ろに子供を載せて女らは男のおらぬ往来をゆく

孤独とはいかなる罰か雀らのひとつ逃げればいっせいにゆく

花びらを拾い集めて少女にはいつかうとましからん盛りの

自分から一歩もたった一歩でも逃げられざりき、散りいる桜

8ビットサウンドでわが仏をば慰撫したてまつりて日を終える

たばこ酒あまいものコーヒーよりも依存の強い妄想のあり

先輩は気付かなくても後輩はモールで頭を深々と下ぐ

ビン詰めの幸福論を聴いているそのビンのフタをまわさぬわれに

朝明けて街灯がまだ点いていしが今消えてひとつ忘れてゆくか

話したいことどもすべて腐(くた)れゆき手に付いている甘酸きにおい

寝不足でからだが少しぬくいので君の手ひとつに熱放ちたし

前髪を何度もさわり片隅の承認欲に頬もゆるみつ

ああつまり余生なのだと思いいたり口角をふたつみつあげてみる

枝先がすべてみどりに透きとおりこの木の春はかくおびえたる

雨のため冷たく寒きこの夜を野良猫はおのが熱抱いて寝る

絶海の孤島のゆえに光るほど思念は研がれここまで届く

先進国のワンクリックで生かされる命の名前いかなるならん

闌(たけなわ)は季節でなくて眼前をかく見るこころ、たとえば君の

日々懺悔滅罪として生くことのそれは喜ばないことでなく

馬車馬に生まれた馬は引くことと生きることとの区別なく引く

歌の起源に母子のことば、しあわせねあったかくっておいしくって

涙など流れることもないけれど寂しさで処理したりかなしみ

尊厳がひとりでに輝くように思っていたよ、錆びし鞦韆(ぶらんこ)

この花はたった自分の上だけをみつめる赤きチューリップかも

奇妙なる比喩で隠していることの水底(みなそこ)の貝は待つことが生

いつのまに「にへら」と笑う人間になるのであろう、遠くもあらぬ

あまやかに侵食したる菌類の樹皮を覆ってやがては殺す

掌(て)の中の飼鳥のいのち軽くして真にわれよりかるき重みか

今朝の夢の違う悩みを生きている俺のその後が知りたいが、無い

自転車の練習をする父と娘(こ)のしろあかしろの花水木まで

ぶどう畑の夕日の、懐かしいような変わらぬような顔でお前は

まがまがしい花が咲くかと思いきやするするぽんと野生のポピー

遠く離れて語る親への愛などはよどむべきにはあらぬと思えど

仁丹が多めに口に入りたる顔のようなる好感度にて

老いぼれた犬がゆっくり老いぼれた飼い主とときを超えたる散歩

カラマーゾフをちびちび読んでとぼけつつわが一族の血をば思えり

スローなる爆発破裂ことに春その植物のあいだを歩く

もう酒をやめたいオレにこの夜が飲ませたいのは何色の水

印象は黒鍵ひとつずれるならたちまち瓦解したる音楽

感情の水面揺らさないための水抜き、むしろそこは足そうか

生活と瓦礫が同じ材料であることを見て娘あかるき

エロがもつ救いと救いのなさなどをふと、まさか君に話したかりき

石楠花は誤用であるがなめらかな石のようなる光沢と思う

風のあといっせいに靡く見ておりぬ当然のように哀しいように

目立つゆえ孤立し攻撃にさらされる白いカラスは赦免のしるし

ふてくされながらも母の手を握り少年はぬるき現実に戻る

君は一人じゃないなんてことないじゃないこんなところで出会っておいて

(上の歌をめぐるある人とのからくり人形と恋の勝ち負けについてのやりとり)
  孤独とは何のからくり、山肌を流れる水に沿うて片栗

  もう一度パタパタぼくに来るためにそっと、つよく、息を吹きこむ

  右腕を巻いて抱く癖、キツいハグ、逃げるが勝ちの残れば負けの

  泣きっつらに恋の敗北、かつ孤独、からくり人形つついて倒す
 
  理不尽とは何処(いずこ)の婦人、奥の手の胸ポケットにいつから穴が

  孤独宇宙はかく淡々と進むべし倒れたままで歩く人形

わがうちの差別意識をまざまざと否定肯定せずいわば、抱く

言うけれどアンダーカレントまで行けば本心があるわけでもないし

両手をねじりじゃんけんにここで勝つわれの未来を覗く、未来はひかり

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