現世に薄桃色のエフェクトを無理くりかけたように桜は
見るたびに桜は歌になるという文化を深く知らぬ私に
春霞に桜があればなんというこの国はまだにっぽんである
上も桜下も桜の向こうから学生服が美しく来る
ライトアップ夜桜と夜の人の列その下に黒き水の流るる
かなしみは少しはあってかまわない飛花壮絶を眺めておりぬ
店内も花びらまみれ、かすかなる水気を帯びて終わりゆくよし
花びらを拾い集めて少女にはいつかうとましからん盛りの
自分から一歩もたった一歩でも逃げられざりき、散りいる桜
1年に一週間ほど、というドラマ性には敵いませんな。
自選。
かなしみは少しはあってかまわない飛花壮絶を眺めておりぬ
ひょっとして歴史をひとつ完全に更地にしたる跡地の重機
孤独とはいかなる罰か雀らのひとつ逃げればいっせいにゆく
自分から一歩もたった一歩でも逃げられざりき、散りいる桜
先輩は気付かなくても後輩はモールで頭を深々と下ぐ
前髪を何度もさわり片隅の承認欲に頬もゆるみつ
雨のため冷たく寒きこの夜を野良猫はおのが熱抱いて寝る
闌(たけなわ)は季節でなくて眼前をかく見るこころ、たとえば君の
馬車馬に生まれた馬は引くことと生きることとの区別なく引く
尊厳がひとりでに輝くように思っていたよ、錆びし鞦韆(ぶらんこ)
この花はたった自分の上だけをみつめる赤きチューリップかも
あまやかに侵食したる菌類の樹皮を覆ってやがては殺す
老いぼれた犬がゆっくり老いぼれた飼い主とときを超えたる散歩
エロがもつ救いと救いのなさなどをふと、まさか君に話したかりき
風のあといっせいに靡く見ておりぬ当然のように哀しいように
わがうちの差別意識をまざまざと否定肯定せずいわば、抱く
両手をねじりじゃんけんにここで勝つわれの未来を覗く、未来はひかり
0 件のコメント:
コメントを投稿