2018年6月16日土曜日

2018年05月うたの日自選と雑感。

作者と作品の関係、作品と時代の関係は、それ自体、文学研究の対象となるくらい、複雑で、一様ではない。しかし、これらが、近年はぴったりとタグ付けされて、多くの場合、批判される。2つのたとえ話を思う。

ひとつ、高級なワインを、高級なグラスで飲むのと、尿瓶(しびん)で飲むのとで、人間は、はたして同じ味わいを持てるであろうか。まぁ、持てないよね。

もうひとつ。ある問題行動を起こす女児の描いた女の子の絵は、両の手を後ろに隠していたそうだ。児童心理学者は、それは問題を隠そうとしていると洞察したが、ある絵かきは、「手ってえがくの難しいんだよね」と言った。

上のたとえは、要するに、われわれは、ワインそのものではなくて、器でかなりの内容を決めている、ということだ。
下のたとえは、ある表現者の表現は、伝えたいことと、伝えうること、の公約数によって形になっているものであり、しかも、受け取り手は、やはり受け取りたいことと、受け取りうることの公約数しか受け取れなかったりする、ということだ。

だから、っていうわけじゃないけど、表現の自由は、それほど大事だった。たぶん、もう、かなり失われていると思う。政治のせいでなくて、われわれの正しさへの欲求のせいで。

  華やかにみえた時代の表現はすべて挽歌となる準備して  沙流堂

自選。

「名」
花の名も分からぬようになりたるにふたりで立ち止まって、眺めおり

「翡翠」
その白い首にひとつぶ光らせてずいぶん時が過ぎたよ翡翠

「戦後」
「5年だよ、戦後5年」と笑ってるお前の離婚、どうよ平和は

「自由詠」
夜空では星がまたたくはすかいのアパートでは親が子をまたたたく

「相」
ぼくだってつとめて明るい顔してる相談相手になれないからね

「舎」
日暮里で傘さしてバスを待つ夜ぞ横に立つのは舎人のトトロ

「漬」
あちゃら漬け甘く食いいて豊かさが砂糖でありし歴史の記憶

「濁」
かきまぜて濁ったままが少しずつ澄みながら落ち着いてやがては

「煙草」
ぷかぷかとのんびり煙草やってたら舌打ちされて小さくぷくり

「紐」
どの色で結ばれているオレたちか「赤だけじゃなく結構あるね」

「実家」
先輩の実家の部屋はなにもなくでも屈託の匂いがあった

「ポスト」
少年の将来の夢はポストマン、とても漢字が好きだったから

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