この月の作品は、百人一首ならぬ都道府県一首みたいなテーマで、1県で1首を作るような意図であった。でもまだ全県できていなくて、継続中とはいえる。
しかし当然、ご当地ソングでもなければクイズでもないので、その県を示すような単語を入れたりするつもりは基本的にはなく、その県「を」詠う、というよりは、その県「で」詠ったような体裁になっていると思う。
とはいえ、多くの場所は観光として行くことになるので、やはり観光とか旅行詠っぽいといえばいえる。
翻って、短歌と土地の匂いとの関係について考える。
短歌とはかつて都、京都、つまり貴族社会への通行手形であった、という説があるが、鎌倉武士が和歌を学ぶとき、そこになにか、みやこっぽい、優雅だけどもねちねちしていやらしい、いまの関西人が東京の標準語を「きっしょー」と思うようなものを感じたのだろうし、ぎゃくに、身を焦がすほど憧れた人もいただろう。
現在でも、ひょっとしたら、土地と作風を合わせたデータを集計したら、わりあいしっかりとした相関関係が出てくるかもしれない。(個人の作風を超えて)
自選。
温泉街の売店の古きガラス戸に先代の作が飾られてあり
おそらくは天気と海の話ならむ訛りを聞けり、海は群青
東京についに来たれば車窓から街の緑とノザキの書体
工場のすえた匂いの下宿にてガチャリとテープはB面に行く
東京に憧れながらこの土地でそれなりにくすぶって彼女は
連峰の景色を愛しおそらくはここで死ぬことなけむふるさと
支払いは姉が済ませて血の赤き肉を食いおり、姉弟(きょうだい)は濃し
シュルレアリスム展を観たがる子を乗せて県越えて父は車を飛ばす
明るくてさびしい駅に会いにゆき蓋取れやすきCDを返す
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