2016年3月6日日曜日

2016年02月うたの日作品の29首

「剣」
剣先に覚悟決めたる人間の顔を見なくていい世のおとこ

「電話」
三時間も電話をつなぎ告白にいたる目隠し将棋のような

「右」
トラックの右の右から書かれたる社名が満たす論理性はや

「西」
この磁場を一生泳ぐぼくたちの西とはついにさよならの場所

「紙」
めりはりのない四つ足の紙粘土、彩色だけでパンダをめざす

「村」
残酷なアーキテクトにあらぬかも村人Aが憂う世界は

「缶」
週末の金曜日には缶詰めのエサをあげてもいいご褒美に

「部屋」
液晶の窓に世界が映るからこの部屋はいわば世界の外だ

「あだ名」
マイケルじゃなくてあだ名がジャクソンの彼を見てああ言い得て妙だ

「眼鏡」
見る用というより見られる用であるその黒縁は伊達ではないが

「日本」
うたうときぼくらはまるで一本のいや日本の詩形のごとし

「ちゃんと」
いろいろのニュース見ながら要するに人間だけがちゃんとしてない

「穏」
騒乱もテレビを消せば消えるほど遠ければ穏やかなる日々の

「愛」
その言葉が生まれるまでの生き物の永遠ほどの時間苦しき

「靴」
会いにゆく道にはきっとぬかるみがあるのだ靴は汚れるけれど

「藍」
その色に染まりし服に身を包みきみはしづかな植物になる

「怪獣」
倒されて薄れゆくなか歓声かわが咆哮かわからぬ音よ

「二度見」
よどみなく夜を帰ってゆく「今日」に白いしっぽが、今あったよな?

「薬」
なんとなく鮮度や湿度を保つため大事にくしゃくしゃビニールを詰む

「エプロン」
先立たれたショックによると噂され昭和を生ききエプロンおじさん

「イジメ」
学校に来れなくなった鳥男をぼくは笑っていただけだから

「糸」
運命の赤いやつとは違うけどそんなに逃げると指がとれそう

「綿」
種子ほどに分割されて綿毛にて広がってゆくきみのおもいで

「服」
権利とは生意気であるしたがってしたがってきてひとつの不服

「豚」
生姜などという植物があるせいで旨そうにオレは焼かれたりにき

「それぞれ」
夜の道をへんな生き物がよこぎってやがてそれぞれ言うのをやめる

「コップ」
この星の片方だけが塞がった筒の用途は諸説あります

「鞭」
後輩に怒る時つい心底はお前のためのような口ぶり

「うるう日」
言葉にはしないけれどもこの次のうるうの日には遠いぼくらよ

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