2016年7月10日日曜日

2016年06月うたの日作品の30首

「理由」
それできみは行くのか夏が来る前の早めの蝉のような理由で

「記憶」
またここだドミノの列はどうしてもきみの記憶が倒れてくれぬ

「蛙」
ぼくはもう旅客機の窓に付くカエル、あえなく青い空へ落ちゆく

「列」
後列で自分の番を待つことの不安のことねきみの「未来」は

「進」
進化などしたくなかった顔をして水に飛び込む、でもうつくしい

「ドラゴン」
友達のたとえによると休日の彼はドラゴンらしい、なるほど

「舞」
人の生を座標固定で眺めれば舞(まい)にはあらず、舞(まい)とはおもう

「嘘八百を並べてください」
真実より言葉を選んだ罰として八百万首の短歌刑受く

「SEX」
セックスはできないだろう、この先にきみとSEXをする日があれど

「自由詠」
健診のあとは激辛ラーメンでいそいで取り戻す不摂生

「17時」
17時の少年がふと立ち止まる、食卓に別の僕がいる家

「蜜」
蜂蜜の飴ばかり食べているきみがまた効能を語るのを見る

「都会」
なんかもう都会の人になったねえ、やんわり撥(は)ねてゆく旧(ふる)き友

「かたつむり」
移動への欲は四肢にも翼にもならで遠くは見たいかたちの

「顔」
顔などで好き嫌いなど決めさせぬ決意の絵かもジョルジョ・デ・キリコ

「虹」
車から身をかがめつつ見る虹のロマンチックがやや近すぎる

「液」
たましいを溶液にしたときみがわらう雷の夜に言うからリアル

「今度」
この界も数字に支配されたので見捨てていこう、ではまた今度

「罪」
『罪と罰』を(ばち)って読むと身から出た錆びっぽいよね江戸時代だし

「従兄弟」
祭日に一族で食う従兄弟煮(いとこに)の子らはおいおい部屋へ籠りて

「ただいま」
いきものの居並ぶ場所でおかえりと言われたいわれは言葉をさがす

「堀」
乗り越える者も迎えて討つ者もなく水鳥になめらかな堀

「人名」
この歌書によると古代の日本には黒人もいて赤人もいる

「にんじん」
しりしりを頬張って噛む、友人をにんじんで刺され亡くしたていで

「利」
かけがえのない権利だがオークションの〆切りまぎわもつかぬ買い手は

「熱」
猫加減はいかがですかと尋ねられ向こうが熱くなけりゃこのまま

「塾」
塾生のためと言うけど新婚の塾長の差し入れ料理は甘し

「吸」
吐いてから吸い込むような人だった、はじめの頃はそれもよかった

「院」
退院祝いの食事なんだが激辛のラーメンを選ぶお前を許す

「総」
観せるんじゃなかったここに来るまでの過程を飛ばした総集編は

0 件のコメント:

コメントを投稿