2017年2月4日土曜日

2015年01月の62首

にいちゃんが一日家にいてたのし放電はじめるほどの末っ子

寝静まる家に缶チューハイ開けて黙って飲めば少し新年

ぱっさぱさの雪のようでもよろしくてわれらのうえにいや重(し)け吉事(よごと)

雪を見る窓の内側濡れたればいつぞやの冬休みの景色

雪踏めばその跡に雪、やがてすべて覆うと言える晒すと言える

シンプルなメッセージほど伝わってこわし隠してせいぜいひとつ

崩れないジェンガがやっと立つような一行の詩か、崩れるべきか

その時に鳴らされるべき鐘の音(ね)のどの立ち位置で知るひびきなる

東京の駐車場には空が有るとややしんみりと冗談を言う

何事か成し遂げられる心地してこのまま去りていくのもありか

夢でなお脇役なんてなにごとか、次があるなら飛び込んでやる

しきい値があるのだろうかゴミ部屋とお前と分ける主客未分に

正月も三日過ぎればカウンターの牛丼多めに紅生姜積む

猫に遭うまえから揺れてねこじゃらし、待ち受けている未来へ向けて

全力で愛を表現するだけでよいのだ尻尾を振り続く犬

父の若き語りに母の現れてそこからはテクニカラーの景色

この景の解像度を思うドット絵のキャラが自分のドット見えぬがに

オールトの雲玉ひとつ眺めいる瞑想よりも早めに寝ろよ

短詩など二度読むように浴槽の栓をやさしく訊く音声は

闇もまたうつろにあらで密度濃きゆえ暗黒となりし星雲

生活をブログで消費するように立ち入り禁止柵つま先でまたぐ

君の目の星空という比喩にてもコールサック(石炭袋)を視認しており

幸福な人間はまるくありていにいえばデブへと文明は行く

蛍光灯を明るき昼に点けるとき影なき昏(くら)さ小さく爆ぜる

へべれけと二度言って酔いをたしかめるエ行音とは軽いたのしみ

かみさまが落としてくれたコーラ瓶と土手の斜面でへたばるわれと

ランドセルに迷う子どもの"らしさ"にも"だてら"にも寄らず選びたる黒

北海の青い水への懐かしいきもちは誰の記憶割り込む

黒い翼をクラゲのように広げ閉じカラスが朝のあおそら泳ぐ

ささくれを突つかれながら寝るまでを本読みながら鳥と居るなり

この山に近づく鳥は燃えていく身の焼けるとき金色(こんじき)に見え

幼名はカシアスクレイ、新しい名を名のるとき名が体を為す

鋭(するど)めのウォシュレットだが気がねなく居(い)れたのだからよしとするなる

さいわいをめざしてあゆむ生き物の時にオドントグリフス(歯のはえた謎)のかたち

4つめのプロムナードを行く彼のその悲しみと醒めたこころと

幸せのブルーバードと名付けおり青くはないし鳥でもないが

虚空よく物を容(い)るのでいくらでもわれに詰め込みいる君以外

紅涙が白紙を点じ書かれきし文字も電子化すれば意味のみ

悟りたる衆生のなくば須扇多(しゅせんだ)は法説かぬまま滅に入るなり

日常詠を軽んずなかれさんざんに嗤いしかつての罰にして詠む

過呼吸的速やかと君が間違える時のまさしく息吸い過ぎの

今朝のような寒い外より夏の朝の涼しい方が死骸は多し

シャベルカーが古い家屋を食べてゆく休日はその途中で止まる

バージェスの種の負け戦(いくさ)はらはらとページをめくる、かたちは愛(は)しき

接待のやさしさをすこし身につけて若者らしさの似合う若者

同義反復的根拠にておおかたはおらねばならぬと思いておりぬ

音楽はひどく悲しい現象になるのであるよ、もう次の曲

災害を引き起こし終えて吹く風の擬人化しても悪意などなく

15歳の机の奥に遺言が隠されているような明るさ

田舎ってひとつの理由になるからねいいんじゃないの(また消えていく)

消しゴムの甘い匂いを嗅ぐことで試験の前の緊張を消す

根菜を茹でる匂いが夕方にわれの座標をしめしただよう

焼き大根じゅわっというかさくさくと噛みてかつての於朋花(おほね)を思う

スランプの時代としたら、崖っぷちの町と我とはこつこつ繋げ

もう少し斜線散らせばよかったと悔いて抽象画の微調整

変わりせば仕事は記憶淡くして一つの長い夢に似ていて

未明起きて階段を暗く降りるときふとこのような孤独かもしれ

水曜に酔いたる酒で見る夢の居心地を少し変えたる世界

育ってきた環境が違う君と食うサキサキと今が旬のセロリー

くちびるの紅のみどりにひかるまで差したきものを女と思う

宇宙にて自分一人を感じおりこういう時は飲まねばならぬ

人間の社会を縫ってゆく母子のねこびえた、いやひねこびた野良

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