2017年3月4日土曜日

2015年02月の56首

人間のごみを集めてあたたかきミノムシの蓑をずっと見ている

青空の奥にたしかにある闇の遠のくべきか近寄るべきか

オリオンと2時間歩く彼の狙う弓の向こうに敵はおらねど

歩くとき詩は涌きやすく足裏(あなうら)にそういうつぼがあるのだヒトは

冷蔵庫にシールの台紙留められてこの家に春の祭りはきたる

高価なるもの身につけてレイヤーを変えてもきみの手にとまる鳥

忘れられていくほど眠り深からんその群青で死を拭いつつ

笹紅をあげたき人であったよと言ってからそんな気をもっていた

海を行くわが身にあらねプレヤデス星団の数を、目を確認す

「紛争はトップ同士がゼスチャーで争うとする」有志連合

法悦とうことばを知らず語りいて知らぬゆえ時にひどくかがやく

知名度は危険の保証、無名なる詩に目留(と)めるは地の見えぬ叢(むら)

死にさうな野良猫が昨日丁字路にうづくまりをり、旧(ふる)き仮名にて

僕のなかの誰がが僕を救う日を祈っていたが救われている

人界の苦労を忘れ工場の裏の畑で花を笑む母

ぐでんぐでんぐでんぐでんと歌いつつ五七のいずれに置こうと思う

時間では心は年をとらざれば心ならざるものばかり老(ふ)く

新しいもの建つために壊れゆき壊されていく側から見おり

ストーブのヤカンは色を変えぬまま内部で水を拒みはじめる

小さき子を立ち食いそばにつれてゆき立ち食うことへの憧れを植える

人間の入れぬデッドスペースで足突き出して猫がくつろぐ

ネットでの床屋談義は矩(のり)を踰(こ)え罪深くないがこころ毛深き

人間一匹食っていけないことなんてないのだ闇は一寸の先

あまりにも悲しい夢は思い出せずやさしき脳が隠しておりぬ

あのように目を当ていれば男とは一年くらい狂うていたる

アルコールの舌の上なる幸福の揮発性なることひるがえる

どのように生きてもいいと言われたらつらいな、水から遠いスイセン

酔いたればトイレが近くこの国にひろく立小便せしか忠敬

突堤に一つの兆しのごとくして落下する鳥のたちまち上がる

ウィスキーの香りはなぜか楽しさが含まれていてにやにや舐める

ぎこちないフォームでえいっ遠投す、目的観の低さが不幸

風強き道の遠くは霞みおり不透明とはひとつの終わり

通勤の狭き電車のイヤホンにボブマーレー流れ読み進む『国家』

背を反って首かたむけて見つめたる君の景色を時々おもう

おそろしく顔の小さな若者と大きな初老が同じバス待つ

せっかくの壺焼きなのにしょっぱさをコーラがぶ飲みして舌洗う

忘れればゆえにいくつか手にとられやがて再発見へのローテ

かたちなどでこぼこでよいたたなづく山のようなる苺をがぶる

エスカレータの一人だけ右に立つ男ついに左にしずかに並ぶ

啄木の再発見もそのうちにあるらむ、百年遠き泣きぬれ

全生命とか言いながら生命のたとえば60兆の宇宙で

マイケルというかなしみは人類の昔話になるまで消えぬ

子のあらば外から帰りくるたびにかお包みたし耳珠(じじゅ)に触れつつ

悔しいがげんこつを目に当てて泣くそんなしぐさをするわけにいかず

若さというチキンレースをすぐ降りて余力は若鶏の悪魔焼き噛む

じゃがいもが湯でほどけゆくそれまでにいやその後で大事な話

生きるとはかたちが変わることなので裸体の傷の君たしかなる

コーヒーにコーヒーゼリー食べながら先に笑って負けたる三時

この場所をリーフィーアイランドと呼ぼう観葉の鉢数個だけれど

早朝の宇宙と交信するように公園のわがラジオ体操

公園の低いベンチは流れゆく時間から少し離れて在らん

きはちすが君の背丈を残しつつ君を失う夢をみていた

とこしなえに名の残ることなきわれに今年の梅が咲きそめている

変わりゆく普通と知りてわたくしは君とかわらずふつうでいたい

つぶやきのサービス止んでライフログのライフの部分こっそり消える

ありがとうそしてさよならなんていう台詞をまさかじじつ吐くとは

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