2018年12月13日木曜日

一人百韻「道なかば」の巻

 「道なかば」の巻

中秋を過ぎてたしかに道なかば 
   みそ汁の茄子は舌にほどけつ 
同僚は上司の愚痴に距離をとり 
   「ちょっと煙草に行ってきます」 
ベランダの別棟の向こう俺がいる 
   飼い犬の上、トンビの真下 
トラクターの藁に隠れて逃避行 
   触れたままなる手はそのままの 
緑青色の瓶の中身はニ、三錠 
   数式がついに思い出せない 
元カノの結婚式で飲み過ぎて 
   歯を見せたままの笑顔で帰る 
一回戦敗退チームの助っ人が 
   絵に描いたようなガムの風船 
CGの分子構造図を指せば 
   一斉に見る瞳の青し 
段ボールの海に溺れる人形を 
   思い出として君に渡しき 
始発まで本当のことを言わぬまま 
   物事に順あると諭しつ 
かじかんだ子供の足を掌(て)に包み 
   親孝行の数を数える 
湿原に降り続く雨は夜半を過ぎ 
   亜寒帯にも春は来るなり 
つい立てのケヤキはニスに包まれて 
   柔らかく割る羊羹の闇 
知能犯が完全犯罪成し終えて 
   ソーニャの如き少女に出会う 
「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」 
   「字余りの生の続く間は」 
チェ・ゲバラのTシャツで寝る内弁慶 
   水止められて立ち上がる昼 
蟹工船も途中で飽きるていたらく 
   そりゃあ昭和も遠くなるべさ 
ゆうきまさみが同人臭を無くすごと 
   ボクヲ離レテユクヲ見テ井ル 
一艘の小さき孤独、希望丸 
   リヴァイアサンに既に呑まれて 
ビアホールでサラリーマンが大笑い 
   守りたるものあれば美し 
街中の神社の猫は子を連れて    
   楽園までのドロローサ行く 
ホコ天のセンターラインほの白く 
   15ポンドに替えてもガター 
珠磨く、革命いまだ起こらざれば 
   机に隠したるブロマイド 
睡蓮の池の濁りの僕にして 
   鮮血を拭きし寝室を訪う 
花よりもガレの花瓶はうるさくて 
   笑い疲れたあとの口づけ 
軍人の夜のカレーは金曜日 
   潮の匂いのする繁華街 
手も振らず島を出てから5年経ち 
   同郷に舐めるように見られつ 
名産をいつもの調子で皮肉れば 
   湯舟でぶくぶく悔いているなり 
1点差の明暗厳し油蝉 
   見物人も声をひそめて 
鬼退治の鬼の素顔は匿すべし 
   ノアの言葉を聞きし息子も 
洪水の雨恐ろしく少し楽し 
   長靴の中の水もL型 
温暖な君は両手に傘を持つも 
   少女ならずば一つは要らぬ 
恋か愛かハッキリしない恋愛の 
   入り江の先に灯台が立つ 
神さまと二人っきりの夜を終え 
   また河馬として今日の双六 
水浴びのビニールプールは人の庭 
   お前が笑っていればいいのだ 
デパートの炭酸水はミドリなり 
   窓辺の席にハッピーバード 
小物好きの男、大物なりがたし 
   横顔が龍馬似なのはわかる 
幕末に生まれてもたぶん一庶民 
   UFOで時を超えても庶民 
メロドラマ脳内再生装置で涙 
   有楽町の次でサヨナラ 
トランプの扇から何を抜こうとも 
   600光年先の赤き火 
欲望は繋がりあって星座なす 
   死海に映る正円の月 
おーいおーい、このまま眠ってはダメだ! 
   ウガンブスクネ、ンダスゲマイネ 
モルワイデは北も南も垂れ下がり 
   りんごの皮を埋めている姉 
無条件と思い込みいし愛終わり 
   ヴァンダル族の略奪哀し 
カツ丼を食いつつ自白の心涌きぬ 
   斥力として友を遠ざけ 
太陽に吼えろ! 吠えいるチャリダッシュ 
   人のみぞ人を救う世界の 
優しさの才能の差に凹みつつ 
   本積み上げて眠る明け方 
「頑張れ」と言われて嬉し病み上がり 
   再生中の海鼠動かず 
洗濯機が脱水中に暴れ出し 
   ヒビ響きいる日々を生きいる 
花束に勝るとも劣る笑顔だが 
   道なかばむしろ無きゆえの舞い

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