2016年8月6日土曜日

2014年07月の83首

思春期と晩年は本を読みながら異なるものぞ読むことの意味

7月の価値観生(あ)れよ中年の大地震裂しても咎(とが)なし

緑白のトマトほのぼの赤むころひとつの想い終わらんとする

スポーツカーが渋滞にいてそのような幸と不幸が通り過ぎ、ない

朝痛む頭蓋を会社に運ぶまで人のかたちが時々あやし

やがて差別失いし世に蛇使いの娘のごとき祝福なけん

ぼんやりと広野に立てばわれをめぐる記憶の急流胸までせまる

賛否とはおよそ離れて動きゆく世界がよくなるのを待つばかり

ベニツルがこれからも赤くいれるよう葦附(あしつき)揺れる水面(みなも)にも付す

春頃のなまぬるみたる風はまた許すであろう、許されるだろう

震災詠の詩の部分こそうつくしく成れば記憶の瓦礫が増える

態度価値と人格価値も奪いゆく老いの病いに遠出す母は

美しい老醜といえばいうべきか響かぬことも愛しきディラン

若き日の失意は水面(みなも)に映るのみ後世オールドマスターだとて

今回も熱きツールの裏側の冷凍庫にて血の凍るかも

こんな日をあと一万も繰り返し百日ほども覚えるならぬ

日が落ちて会いたがる君、皮膚炎のゆえに純度の低き友情

寝物語あらば語らんことなども縁なくばわが脳(なづき)にて消す

人間のだんだんクサくなりゆけば選臭思想はやたちのぼる

負けるときは王者の技も貫禄も雪崩れてあまりにもアマリリス

風が葉の裏まで舐めて一盛りの林を全部ゆらしてゆけり

明るさの満ちる駅前パイプテントの風船の影も赤い色して

四十男のきわまる孤独の正体はその類似せぬ来し方に因る

飴玉を途中で噛んでその後に噛まずに済んだ生をしも思う

重大な宣旨を受けに行くようにむら雲ゆっくり音なく北へ

骨を撒く場所を探すも非所有の土地などなくてゴミに如(し)くなり

この先もこの幸福を疑わず目を閉じて首を揉まれたる鳥

千体は並んだ浜か今も弱く進まんとして戻さるる波

アレンジにアレンジ重ねUKの霧のようなるジャミロクワイも

真面目なものに向き合わざるをえぬ生の笑う筋肉は人まで持たず

叱られた遺恨は死後も零(こぼ)れ落ち算盤坊主(そろばんぼうず)の指なぞる音

誰からも応援されぬ苦闘よしジンジャーエールでくしゃみする夏

懐かしい彼の正しさを聴きながら無敵状態の音楽流る

初めてのCDの虹をていねいに収めて聴きしマゼールの五番

淋しさを埋めてはならぬ、夏の夜は芽吹きも早く生長しるき

男って現象として孤独だなあとひとしきりなる思索の結語

月額の忠誠心が言動に出る後輩をやさしく見おり

爪ほどの脳(なづき)の鳥に突つかれて声荒げれば口少し開(あ)く

人の群れが去りても場所はややひずみグラデーションの羽根落ちている

要求から供与とならんデモまでは見れぬと思う、国道を抜ける

少しくは明瞭となる二回目の読書のような寂しさならむ

完全な円にはなれず回りゆく惑星の花結びの軌道跡

飛天のような美しさではなかったと星々を知る、科学のせいで

時間とは一本の綱、引く時にゆるみまざまざ見ゆるも閣(お)けり

オパールの中で屈折すさまじきシリカの痛み美しくある

焼米を噛み西洋の書を読めど鼻腔のあたり上代香る

思い立たねば吉日ならぬ日が続き未活動時の脳は休まず

野良猫の間一髪に拾われてその生その後平穏ならむ

いやいやに生きてあげてる顔もまた人間だけが可能の知性

人間が自由であるとの流行に痩せ我慢して死にゆく自由

バイパス沿いのパチンコ店も荒れ果ててタンブルウィード(回転草)のまぼろしも見ゆ

人に云われてやる戦いにあらざれど遠浅(とおあさ)の海を泳ぐ気安さ

いい事か否かは知らずこの人のながく孤独に耐えてきし顔

若い人とは競えないだって世界とはその若いのが好きであるから

革命は伸ばしたる手を斬り落とし挿したる花の美しき、まで

攻撃的な子の感情のあるがままアマルガムなる凝(こご)りざらつく

こうもりの変則的に飛ぶ夕べ生きていることの喜びに似て

剥ぎ取った世界一枚左見右見(とみこうみ)して人間は科学で進む

希望とはおおむね時間がかかるもの線香の灰のかたちそのまま

夕方に赤紫が浮き上がるあの一隅の花の名知らず

今夜少し長めの夜に遭遇し全曲集のCDにする

爆撃の終わらぬ世界に痛みつつ而(しこう)していまを諾(うべ)なうこころ

アイスモナカ食べながら暑い午後の影の花壇に掛けてばあちゃんがいる

ディアスポラは時間の言葉、移動する思想の種子は粉を撒きいつ

夏季休暇の予定を話すようにして希望をすらすら滑らかに聞く

復興は忘れることに少し似て思い出すがに満たされずなる

着ることのもうない衣装が過ごしいる樟脳の溶け込みたる時間

古書店でkabaleの訳の違いたるタイトルに長く悩みきかつて

だしぬけの邂逅であるトンネルを抜けて真白が落ち着けば海

緘黙症の双子の姉妹が分かち合う優しさとその些細なる欲

それなりに夏の途中のはじまりの桜並木を響くノイズは

魂は決して孤独、グレゴリアンチャントをネットで聴きつつ眠る

夜というひとつの影に入りこみ影出るころに港に着けり

純粋な目になりたいという言(げん)のいろいろ隠していたる明るさ

人体に絵を描きいし若者の絵を洗うとき表情も落つ

プラネタリウムみたいな夜空の下にいてカップルみたいにならぬわれわれ

両手で包むことのやさしさ、小さき手の結果に過ぎぬ行為とはいえ

とねりこのぐんぐん伸びた枝を切りなんとなく遠い歌口ずさむ

浴室の窓から見える公園のかつて事件のありしと聞けり

川沿いに並ぶ柳に雨垂れて途中まで雨に靡いて楽し

沓脱石に塩ビ怪獣戦って負けたる者は落ちてゆくなり

差し伸べた手を振り切ってハムスターは一人で死地に赴きたりき

マルシンのハンバーグ焼く匂いして彼を生活に容れゆく女

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