2016年9月3日土曜日

2014年08月の93首

おおこんなさみしい赤ちょうちんにまでレリゴー流る、流されている

形までゆがんでからぞ人間の個性、すなわち幸と不幸の

悪人を滅ぼさずして宇宙とは善人を置く規則のごとく

弱りきってきたない猫が家に来てかわいそうだが助けてやれぬ

風呂の湯でシャンプーを流し頭ごと小動物の死を泣き流す

たい焼きの少し経ちたるやわらかくあたたかく絶大なるうまし

妄想は頑固なよごれ、十ごとにタイルを擦(こす)り落ちずまた十

生きているものごとのたぶん一部にて残酷は少しずつ変化する

音楽の波形のようにわが価値が揺れている、上下対称にして

脊索が新参だった長い春未来の謳歌の夢を見るなり

かわいいの価値たちまちに移譲されその時に君の近くにいたし

わくわくもどきどきもない義務的なコールドスリープのように明日へ

夥(おびただ)しい蚯蚓(みみず)歩道に畝(うね)り来て潰れて干(ひ)りて蟻の餌(え)となる

椅子の上に膝たてて座し汗ばんで団扇片手に休日を読む

眠れずに輾転反側する我の体内アルコールが過去を呼ぶ

さよならを言うこともないさよならのはじまらざれば終わることなし

想念は無形のくらげ、顔に着いて音声として口より出でる

ありふれた光あふれた明日へと器官は向かいたがると思(も)えり

妄想も年を経るれば何かこう偉大なものに化けたり、せぬか

貝葉に言葉を写し我の後も残さんとする人の手跡よ

ポテンシャルもおそらくわずか、毎日のぽてんしゃらざる課業をこなし

生まれきて居場所をずっと探したる野良猫今日は現れずなり

擬人化する地球が怒る汚染図のその奥の汚染が伝わる不快

文字のない希望と文字の絶望を闘わせいる、今日は希望が勝ちぬ

電気の頭脳に水のコンピュータの我がコマンドを打つ、答えは速し

現実はクサいセリフを吐くことでしのぐも後で二の腕を嗅ぐ

眠りつつ恢復しゆくたましいの確かに配るべき世にあれば

ポケットにひとにぎりほどの尊厳をもてあそびつつ生きてありたし

特急が通過する時吹く風の心地よき春や秋にはあらず

もう少し人間の形していんと思う夜なり鏡に映れば

先見を持たぬ男はもくもくと革命までの世界を積めり

直前の一縷の望みを思いいき閉じ込められて沈む巨船の

経験者募集の張り紙の下で我を見て猫が逃げようとせず

変則というまっすぐを孤独にも謳歌しているかうもりである

ふるさとをかなしく見ればふるさとは悲しい男をただ入れてゆく

もう二度と離れぬメタか「悲しすぎワロタ」と云いて哀しくおかし

「はらじゅくうー、はらじゅくうー」と明け方の自動放送が原宿に告ぐ

本心を隠すためなる英語とう日本的なる使用法にや

人生に目的があるようにないように悲惨な死者のニュースが流る

水割りを間違えて水を水で割り飲んで気付けり考えおれば

傘の先でコンクリートを響かせてそのドメイン(域)の返事を待てり

真夜中に母を思いて涕泣す、感傷的ということでいい

一億年われは爬虫に追われきてまだ恐ろしく共存しおり

ぼつぼつとさみしさの降る夕まぐれ傘差してそれを避けてもさみし

身の肉のうまきところを切り取って差し出せばそれを平然と食う

歩き煙草の馬鹿を追い越しその先にまた馬鹿がいるわれの中では

ブロッホはこんな孤独なキリストに天使を添えて、孤独極まる

キュレーターというよりいわばフィルターの小アイコンが端末に棲む

誰か死んだかしらぬ電車の遅延分足早に歩き流れる汗ぞ

壁がいつか道になるとはリングシュトラーセに祈りのような葉漏れ日

風にたつ髪をおさえて空港という港(みなと)にとって時化ている空

ディテールの針で掘る時ゆびさきの腹にかすかに悲の音(ね)を聞けり

原初から女はエロしクリムトがアーチに描くエジプト乙女

人格を問わずともよい今様の短歌であるが読む人はいる

部屋で見る線香花火の幻想の為に小さめのバケツを探す

先人は同じ苦悩を持ちながら言わずにゆける、歴史はいらぬ

イヤホンの僕のうしろに声がして振り向く、おお白(しろ)百日紅花(ばな)

シャクシャインの仇を討つ夢、日本人だがシャモではないとわれを決めつつ

意識淡い母の手を取りゆっくりとごくゆっくりと新宿をゆく

色彩というより光の量として金色多く描く世界は

古綿のようなる雲の下の町、記憶はいつも冬の駅前

風景画の風景を胸に押し入れて君に会いたし、役薄ければ

センチメントは弱々しさを隠すほど屹立なんて語を今使う

悔恨の涙は仰向けなるわれの耳へと流る、唇が開く

ブッテーをぐるっと回し休みたり川から見上ぐ人間の街

夏なのに駘蕩に近き心地して背を預けいる、思うこと多々

世が世なら省線電車に揺れている部屋によこたう空腹男

ポエジーでやりすごそうとする生の伐り過ぎた枝の目立つ心地の

一応の根拠はないがこの労を終えれば暦の下も秋かも

どうかしてこんなに酒を酔うのかを聞かれずなりきこの一人酔う

人間は燃料に似て山手線は駅ごとに人を入れ替え進む

音のない暴風の尺を飛び越えてヘリオテイルのふさふさと揺る

思いたり、花火が空を割る時の己が成否を問わぬ呵成を

溶解の実験で混ぜている時の、中年の目は濁るのならば

不在にも慣れる心ぞ、路地裏の涼しいというか消えきらぬ冷え

左衛門(さえもん)がゼイムとなりしこの家の彼を屋号で呼べばはにかむ

無人島の一枚として選び終え無人の島に立つまで聴かず

生き場所か死に場所にせよもう少し男は明るくならねばならん

この水はいつの雪どけ、伏流の闇をしずかに沁み流れきて

波の上の時に逆巻く渦としてその尊きを生とは呼べり

信念を投げてからではそののちに何万の言を積んでは載らず

遠景に四五本の高き塔ありて手前は水の曲がるこの丘

いやしくて卑怯に生きる人間も尊いという山中の鬼

ここからはわかればかりだわんわんとなきたきこころをポケットにいれ

極東の島国の若き制服の娘もムンクは近しきてあり

被虐なる輪廻輪廻を転がりて君に遇いたり、かたじけがない

この息はやっちゃいけないため息で強引に深呼吸へと替える

エドヴァルドムンクは病んでいたりけり彼の属する世界に沿いて

人と飲んで酔ってひとりの帰り道みじめへ踏み外さぬよう必死

遠日点は過ぎておろうに粛(さむ)くなれば思う星には距離が要ること

グレゴリオ聖歌を流す理由などぽつりぽつりと話すほど酔う

痛々しい年代などはないのだとはにかんですましてはにかんで

蛮勇も勇には見えて臆病も深慮に見えて谷を登りつ

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