2016年10月1日土曜日

2014年09月の70首

水底でほほ笑むような刑なりき或いはあれだ、ゼリーのプール

どこまでを何までをわれは書きつけてそのふところへほどけてゆくか

行為から存在へ至る老害のラオハイと不意に中国読みで

銀色のその髪に似て輝きぬスポーツカーに乗りはにかまぬ

ノスタルジーひと盛りいくら、昭和歌謡はこんな未来のためにか甘し

心象の年齢を同期する先にこの人を思う、師の字を思う

どの虫も生きようとして無数なる牙むき出せる、慈悲となるまで

意識低いどころかもはや無意識系中年の吐く正論こわし

レゴリスに覆われて君の惑星は息かからねば暗く遠のく

何か僕に出来ることなど「ないですよ」向こうも予期せぬ強い調子で

死ぬこわさが三(み)つほどあって日によって程度違いていずれもこわし

感情の確証はきっと得られなくその満面の微妙な笑みの

芋焼酎(いも)の甘さとデュフィの赤に卑屈なる心なぐさめられながら酔う

メタのないライフストーリーに動じつつ参考としてはひそかに外す

生命は進化というか無機物の慈悲のおこぼれみたく流れて

アーモンドを奥歯で噛みてきしきしとやがて悔しき敵(かたき)のように

寂しさの満喫といえグラウコンへのかの説得が心に入らず

謙虚さに気がほぐれつつ何周目のことであろうか訊きたくなりつ

ためのゆえの、ためのゆえのと両の手で水を掬うように心をさだむ

水しぶきの中から君が現れていつかどこかの記憶のごとし

クレヨンを途中で折りて引き抜いて包み紙ついている方をくれき

土の匂いを臭がる子にも驚いてアスファルト=プレパラートの家路

雨のなかのみずうみは白くうっすらと無音と思うまで雨を受く

性善説の悪人と性悪説の善人と表情のその苦さにて似つ

中秋の名月は雨、脳裏には前々のまだ成らぬ満月

トルストイをト翁と呼びし日本の文人のその親しみ遠し

言い切ったはずだが舌の違和感は虫歯のようにぐらぐらしおり

「夏休みが終わるのを嫌がりながら給食を僕はほっとしていた」

メロディは知らず母より教わりきつくし誰の子、雑草を抜く

いつの日か叶わなくてもいい夢に国際列車の寝台に寝る

復讐譚として読む『国家』、巻物の中でも嘲笑される師描く

書簡詩の節句を読みて韻律に宿りしものの痕跡かすか

穴という穴から子孫生まれ出て身を朽(く)ちて神となるのもたのし

経験を騙し取られて憤するも時間とは地面剥(は)がし行(ゆ)く球(たま)

もし鳥よ僕の不在に気づいたら小首をひとつかしげておくれ

汲めど尽きぬもののあふれる芸術のレイヤを見おり位置ゲーのごと

ジンゴイズムの主義の主軸は排外か愛国かしばし目が止まりいて

有名人でもないのに歩く東京のテレビと同じ店を見渡す

"い"の"ち"とはとうとかりけり、なぜ人を殺してならぬかなど付するほど

やる気さえネガティブな言で示すのでその目と声を聴かねばならぬ

霧に見えぬ不安もあわせ夢のように進みつつ名前叫んでいたり

文字だけが思いの先に行かぬよう詩になりたがる言葉を叩く

光熱費かからぬほうの青春を過ごしていたが大差なき生

生命進化の末裔についぞ遠からん擬人化の弛(ゆる)みなきコモノート

マジョリティへの欲求として独立はありけむ、やがて苦しくならむ

文化滅ぶ、川面の端に渦なして澱みたるもの流るるごとく

癒すのが意味か音かもあいまいに涙を出せば意外に泣けり

人生のよしあしをどこで決めようか過去でも今でも未来でもなく

斜め上から見下ろしている人生のひとつひとつのシーンが、嘘だ

木工玩具の球のストンと納得の因果があれば人生はよし

後になって切なく思い出されたる要領を得ぬ夜の電話は

夢の中も変わらぬわれの日常に懐かしい人が邪魔せずにいる

時が来ればすくりと伸びてその先が染まりてひらく群れまんずさげ

宇宙人いるわけないが人間は夜に小さい光を探す

なにかこう引きちぎられているような痛みのあとのような朝雲

過ぎ去ればまた一年は文字のみの、朽ち木の匂い、かぶとむし、夏

話終わりて「おわり」と付ける剽軽に一同の肩は少しほぐれて

過ぎたので遅かったのでその過去を意味を変容するべく勇む

case of you を聴く為にあと一杯をトクトクと注(つ)ぐ、秋の夜長に

性自認に悩みいしことを就職の決まりし姪にはじめて聞けり

大五郎サイズのウイスキーを購(か)い割って飲みおり、少し寂しき

巻き込みを逃れるためのレイヤ化と謂(い)う君の目のミサントローポス

親ひとり子ひとりの旅の心地して浮舟のような部屋にて抱けり

エンディングなきゲームほど明日にでも理由なく止む生に似てゆく

饒舌のあとにさびしき、テーブルの食べ散らかしたゴミ手に包み

本当はもう知っているデュシェンヌの微笑を与えられぬふたりは

久しぶりに強く酔いたる鏡にて見知らぬ顔よ、お前は誰だ?

腐った匂いの腐った街にいるゆえに腐った人になるすなおさよ

人ばかりなる新宿のホームにてあきつがひとつ低くさまよう

確信は不抜にいたりわが生のかたちみちゆきひとつと成せれ

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