2018年8月5日日曜日

2016年10月自選。



自選。

二人とも揺らめいているボクサーのどちらの負傷が報われざらん

ネットには上がっておらぬ古賀政男作曲の水俣工場歌

岩を洗い氷のような海水が白くなるのを見るだけの今日

1741の基礎自治体で成す国のどこまで浸されれば眠くなる

見たいけど見なくてもたぶんそれでよく見れば絶対いいよ流氷

パウルクレーの矢印なんか信じないきみをやっぱり天使とおもう

いま生きている動物の心臓がすべて動いている共通項

忍び寄る国粋の夢、マダガスカル島初ステンレス歌碑除幕

お前いまからあえて毒舌言うんだろ首下げて太田光っぽいし

人間の彼女ができて、設定を「時々」にされたAI彼女

落ち込んでここに来たのに落ち込みが足りぬと叱咤するような滝

寄せ書きに好きでしたなんて書かれててヒューヒュー言われてたが、過去形

悔恨から決意の不思議なプロセスを「復活(resurrection)」とたぶん呼んだのだろう

詩人とは気違いという、逆上を霊感(インスピレーション)という、漱石がだよ

休日の午後の連続殺人が解決してから買い物にゆく

蒼という言葉どおりの夕焼けだ火星でぼくははじめて泣いた

十生をほんとに愛しあったからあと六生は心底憎む

口腔内崩壊錠を舐めながら行ってきますと出る秋の晴れ

同意してもらえないけど納豆のうっすら苦いところが苦手

表現の端からついにずり落ちて切なし、あそこが端だったのだ

逆上が赤ならば何に逆上しわが眼前を燃やして秋よ

広場から子供が全部去ってゆき夜まであおく休む遊具も

筋少がソプラノ歌手を使うとき旋律のたしかに美しき

人類的正しさよついにさようならパステルを得て黒なきルドン

宇宙とは、さあスカスカに充ちている仲良きことは美(あさま)しきかな

ダイバダッタがブッダの怠惰を責めたてる光景がかつてこの星にあり

うゐうゐうーおゐおゐおーと風呂場からまたホーミーの練習してる

まだいつか歌人になれるかもしれぬからいま褒めくれる人に冷たきと

ゆっくりと腐(くた)れて甘き香をはなつ深夜仏間のパインアップル

優しさと冷たさを逆に受けとめる病なんだ、と冷たく言えり

否定して否定して反措定してポークソテーに珈琲が付く

きみといる余白の時間 全角と半角ふたつの差でずれてゆく

気持ち良き酔いに任せて万年筆をインクに付けて、書くことがない

言葉にはしづらいけれど生涯にきみのパルティータとしてあらん

ちゃん付けでなくなっている、CPUのコアひとつずっと100%

朝のひかり時間を止めるほど溢れこの部屋はいま彼岸のごとし

廃墟なのに窓がぴったりしまってるなに恥ずかしいことがあるかよ

流行が変わってもおれは変えられぬ目を潰しつつ睡蓮を描く

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