2018年8月4日土曜日

2016年10月の119首。付句祭り含む

心だけが心をすくう拡散する情報に何が薄まってゆく

開きたるページにチャタテふたつ居てあわてて逃げる両方つぶす

二人とも揺らめいているボクサーのどちらの負傷が報われざらん

助けなどいらぬふうにて歩きいる衆より救(たす)けてくれの声在り

ネットには上がっておらぬ古賀政男作曲の水俣工場歌

岩を洗い氷のような海水が白くなるのを見るだけの今日

1741の基礎自治体で成す国のどこまで浸されれば眠くなる

分かりにくい戦いをせよとスイスから20世紀から届くけれども

見たいけど見なくてもたぶんそれでよく見れば絶対いいよ流氷

ともしびに使ってみれば灯油とはあたたまりそうな匂いとおもう

パウルクレーの矢印なんか信じないきみをやっぱり天使とおもう

ほんとうにタールの沼を足抜いてゆく未来? 頭上に不如帰(ほととぎす)

いま生きている動物の心臓がすべて動いている共通項

ぶったぎる根菜のようなおれの脛(すね)これ夢だよな、という夢を見る

  (添削について4首)
添削は裸足でやろううすべにのかわいいきみに伝わるように

100年後の短歌をわれと汝(な)はみずき、彼らは昔の歌を読まずき

この歌の異なる書写を見比べて誤記、添削の両面で捜査(み)る

忍び寄る国粋の夢、マダガスカル島初ステンレス歌碑除幕

 (変顔を詩的に4首)
変顔で寝ているきみをけっこうな時間見ていたいつかバラそう

生き物の進化を模して赤ちゃんに成るようにきみは変顔で寝る

変な顔見せたくないと手で隠しすやすや眠るきみの変顔

「あぁそうか! 眉がないから変なんだ。油性マジックで、あ、やべぇ…」


野菜にもポリティクスあれアメリカの大統領選地図の色分け

止まったらもう二度とです笑ったり泣いたり怒らないきみとぼく

きらいってだけではなくて存在がキモいよかつて好きで包んだ

お前いまからあえて毒舌言うんだろ首下げて太田光っぽいし

棒男のバランストイをあげる、卑下も驕りもしないように

散歩中のトイプードルに二度見されさっきの気分失われたり

大雪でバスも動かぬ日であった読み切りの恋のそのはじまりは

 #私なんかでほんとにいいの 10首
5メートル向こうにリンゴを載せたきみ私なんかでほんとにいいの

日常の会話もぜんぶ五七五 私なんかでほんとにいいの

おならにはおならで返事できるけど私なんかでほんとにいいの

わたしより若いとチャンネル変えるけど私なんかでほんとにいいの

うれしいと手品の音楽おどるけど私なんかでほんとにいいの

つぶやきシローみたいな寝言いうらしい私なんかでほんとにいいの

缶チューハイ2本でかよと思っちゃう私なんかでほんとにいいの

エロ広告は涼しい顔で見ています私なんかでほんとにいいの

カラオケの〆は欧陽菲菲の私なんかでほんとにいいの

休日は起きるまで寝るぞ同盟の私なんかでほんとにいいの


ここもまたゾンビに見つけられるだろう「息を潜めている=生きる」世に

人間の彼女ができて、設定を「時々」にされたAI彼女

落ち込んでここに来たのに落ち込みが足りぬと叱咤するような滝

寄せ書きに好きでしたなんて書かれててヒューヒュー言われてたが、過去形

悔恨から決意の不思議なプロセスを「復活(resurrection)」とたぶん呼んだのだろう

野鳥にも午後の午睡はあるらん、静寂の杜しばらくありぬ

詩人とは気違いという、逆上を霊感(インスピレーション)という、漱石がだよ

休日の午後の連続殺人が解決してから買い物にゆく

月曜はこまめなイェイを撒いている納豆もグレードふたつ上げ

蒼という言葉どおりの夕焼けだ火星でぼくははじめて泣いた

真夜に覚めてわが軽薄の愛情を悔いては永き輾転反側

十生をほんとに愛しあったからあと六生は心底憎む

口腔内崩壊錠を舐めながら行ってきますと出る秋の晴れ

あったよ、たぶんそうとう昔からインスタグラムみたいな短歌

同意してもらえないけど納豆のうっすら苦いところが苦手

後悔はしていないけど石畳の端をじゃりじゃり破壊して帰路

肉を食い植物を食い液体に溶いて飲み手を合わせておりぬ

命を食い心を食いて液体に溶いて飲み手を合わせておりぬ

表現の端からついにずり落ちて切なし、あそこが端だったのだ

中期までしか知らぬわたしにボブディランの新譜を貸してくれしおっさん

逆上が赤ならば何に逆上しわが眼前を燃やして秋よ

たぶんあえてきみに届かぬ言い方でそれはみっともないことである

分身を二人は用意したけれどぼくをひっぱたかれてありがとう

善人が見ている悪と悪人が見ている善の景色、いま秋

同じこと考えながら一応の反論が意見しだいに分ける

広場から子供が全部去ってゆき夜まであおく休む遊具も

浅瀬には浅瀬のたのしみあることを己れを突き放しつつ認めり

筋少がソプラノ歌手を使うとき旋律のたしかに美しき

移りゆく季節に遅れないような追い越さないような歩幅あたり

テオドールリップスは価値は快と謂う、たしかに裏なきコインはあらず

人類的正しさよついにさようならパステルを得て黒なきルドン

木の間から海がまぶしいこの墓地の子供は下で遊びたがって

宇宙とは、さあスカスカに充ちている仲良きことは美(あさま)しきかな

秋だとか思ってるうち空はもうルドンの目(まなこ)も上を見ている

空想のいわば未必の変態は現実的には変態でない

ヤンヴェレムとミケランジェロの共通の挿話を思う、他にもあらん

すする音そこここでする電車内の鼻息のなまぐさき秋なり

関西に嫁いで10年しないのにきみは大阪"トラ"ディッショナル

作者不詳のローレライいまいくつある詩の本懐はそこらあたりの

ダイバダッタがブッダの怠惰を責めたてる光景がかつてこの星にあり

人生をAIに支援受けている明日の自殺も収集データ

生きるとは死に物狂いと教えくれし母いまボケて死にたいと言う

うゐうゐうーおゐおゐおーと風呂場からまたホーミーの練習してる

働かない社会にはやはり一定数の奴隷が要るか、俺らがそれか

まだいつか歌人になれるかもしれぬからいま褒めくれる人に冷たきと

雪道を前をゆくきみを追わずゆく景そのものに祈りておりぬ

離職する彼に花束、二次会で仕事が根っこにみえたと語る

伸び縮みしながら生きておりますと書いた、近ごろ伸びていないや

ゆっくりと腐(くた)れて甘き香をはなつ深夜仏間のパインアップル

知らんがなお前のなかの秋ココアと冬ココアの配分の妙など

神さびてきたじゃんって言う2代目のマーチ付喪にならせぬように

優しさと冷たさを逆に受けとめる病なんだ、と冷たく言えり

飛蚊症の蚊を消してゆくARメガネ発売! 前売り100万!!

何かしら達成感のあるごとし課題を逃げて山を登れば

アペリティフグラスできみはヤクルトを飲みおり食後の方がいいのに

否定して否定して反措定してポークソテーに珈琲が付く

(埃について4首)
人の目をかいくぐりいつか床埃そらに浮く日をあっ見つかった

ひのもとにあらざればわれらガンマンの決闘の前のタンブルウィード

ボロ切れからネズミは湧くと信じられた中世、現代は電車の床に

鉄オタの来世あるいは過去からのねがいのように床埃ゆく


数え方がひとりふたりとなるときに権利と嫌悪が生ず、晩秋

俺のゆく道の向こうの真ん中にジレンマひとつ待っている見ゆ

年降れば正義の為に激怒したきいのちが泡のように湧くかも

きみといる余白の時間 全角と半角ふたつの差でずれてゆく

気持ち良き酔いに任せて万年筆をインクに付けて、書くことがない

あの家にどういう風が吹いてるかその挨拶で見えた気がする

飼い鳥のあたまカリカリ掻きやればコナコナ吹いて目を閉じている

飲み会で蘊蓄はやさしく滅ぶピカソは苗字であることなども

言葉にはしづらいけれど生涯にきみのパルティータとしてあらん

二歳五歳あるいは十二歳のまま生きられるほど文明である

ちゃん付けでなくなっている、CPUのコアひとつずっと100%

芸術は民主主義にはあらざれば崩れる石を踏んでこちらへ

朝のひかり時間を止めるほど溢れこの部屋はいま彼岸のごとし

崩れたる白壁土蔵、あの路地の水路にいくつクロトンボいて

廃墟なのに窓がぴったりしまってるなに恥ずかしいことがあるかよ

存在をもっと大事にしなさいと手のひらの鳥が身体を預(あず)く

電柱の支持ワイヤーのシマシマのカバー投げ上げ遊び、もうなし

死んだように寝る死ぬときにそれはもう眠るようなる死顔のために

流行が変わってもおれは変えられぬ目を潰しつつ睡蓮を描く

反対はしないけれども2週間でカラマーゾフを5巻も借りて

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