2019年2月17日日曜日

二十首連作「猫のヒロヒト」1998年

「猫のヒロヒト」

愛までの経過痛まし紙粘土の固まるまでのべたべたの白

人といてはじめて孤独、寂しがりやのお前と猫の話を始む

みどりの日に美しく過去は変色し変わりゆく僕は子猫を貰う

鼻髭の模様をつけたこの猫をヒロヒトと呼ぶ僕の底辺

久々に女を泣かす、泣く女慰める猫見ている男

白黒の解け合わぬ心あらわしてヒロヒトはついに吠ええぬ獣

俺とお前はやり直せるか擦っても擦ってもとれぬシミ付きの愛で

梅雨明けの空の青さに目が笑うもう殴らぬと決めていたのに

考えすぎは体に毒? どきどきと女に触れて痛み遠のく

猫のようなお前のしぐさ、荒々しい僕に無条件降伏の時も

裏返しの四角い部屋であついほどお前を捨てる事を思いき

ヒロヒトの写真を撮ろうあの時の跳躍をもう一度してくれ

眠るときのその無防備を率直に愛情と受け止めていいよな

逃走も行為と思うまっしぐら俺が捨てたきヒロヒトの霊

絞殺をとどまったのが愛じゃなく臆病なんて頑張れよ、俺

日常の短歌を捨てて弱く抱くヒロヒトは常に行為を求む

愛の巣を飛び出して行け何処へ行け? もう渋滞の車の列に

お前捨つる未来まちかき駅前は祭りのように女うつくし

逃走を選ばぬお前ヒロヒトを胸板に乗せて目を強く閉づ

ヒロヒトに噛み殺される夢を見て茶碗にミルクをなみなみとやる

2019年2月9日土曜日

2017年02月の98首ほか、返歌、付け句、俳句、川柳など。

ほんとうは終わって欲しくないのかも生死の葛藤というわが青

出会いって基本は誤解のことだから左官みたいな笑顔すんなよ

世の中の秘密を秘密のままにしてまた来るような終わりむつかし

うたうのだみんなシャラララみなウォウオ、最終電車でわれら殿(しんがり)

底で闇で零で黒なるうたびとの負のちからプラスにいたれかし

胴体を草が貫きたる鳥がわれを慕ってくる夢かなし

正しさが試されている、にんまりと枇杷色の歯を見せる老婆に

忘れられる権利さておき千年前のテンションたかき恋歌を読む

身体から毒を出したらすっきりとするというおぞましき空想

東京は圧倒的で若き日に東京に負けた悔しさが、へっ

ビジネス支援モードをOFFにし忘れてきみとのバランスシートが浮かぶ

いつになれば変わりたくなるその時に変わりたくない自分を措いて

歌が上手い歌手がだんだんビブラートがうわずってゆくあわれなりけり

冷めているゴーヤチャンプルそぼそぼと見解がもう合わないにがみ

球体では妄想しにくいことだけど裏の地球にきみはいるかな

人間(じんかん)が人間(にんげん)になりぼくたちは愛を0だと勘違いする

人の命を預かるときにおぼろげに偉大さという地平がみえて

それは目に見えねば言葉を網にしてひっかかるまで投げるしかない

釜玉に続いてぶっかけ小を食い寝る夢はついヤマタノオロチ

貧すればどんどん鈍してわが指も一本くらい食べて困らぬ

ウイルスかウィルスかビールかヴァイラスかどれでもよいが具合が悪い

離反者も弟子の振りする、フリスクをかじりつつ途中まで言わせとく

テトリスの埋め損ないの顔をしてゲームオーバーまで消えられぬ

ほんとうの歌をいくほど残すだろう体裁のよき歌の背後に

寝る前にこれ今生の別れとぞ涙ながしてすっきりと寝る

ぶよぶよの大地を生きる民としてステップは苦手手振りは得意

おでこから搔き上げてかぶる水泳帽、25メートル泳げた自信

1tと書かれたハンマー振りおろすようなしぐさに驚いている

スライムを倒すだけなら魔王の世は終わらぬし経験値もしょぼい

人間に生まれ変われるつもりかいメイクアメリカグレートアゲイン

この店の料理がとてもうまいのよ隣の駐車場におうけど

生き物は最後は耳になるらしき声をきければゆけるとおもう

透明なあやとりをつづけていたよ不在になったきみの番まで

深夜いっせい死者よみがえりくるごとく歌人のボットが並びはじめる

報いへの期待のせいで識らずしらず堕ちてゆく木にかかる風船

美人あつかいされた自慢は(わかったよ//知ってるよ)あときみまろのCD返せ

死ぬ日まで空を仰いで、弾圧のない現代詩にない空の青

振り返るきみに笑まざるわれなりき大事なことは一瞬なのに

空の青うみのあお海の中のブルー青鮫の青ざめざる一世(ひとよ)

さびしいと深夜ツイートするきみのオレじゃないので笑みつつスルー

舞台裏から声は電波のごとくきてどの声を聞く受信器われは

ムーンリバーが流れてきみといたのです年をとったら泣くんだろうな

親父は喜び母は悲しむ一日(ひとひ)なり出家の決意述べてしまえば

近づけば差異は広がる、1ミリの思想の崖にとまどうわれは

踏み込めば極楽になる一歩とはあのあたりかな、会社へむかう

チョコレート以前以後にて人類は強くなったしズルくもなった

バタフライエフェクトとして今きみの微笑みが遠い吾をがんばらす

ありがとうもう梅が咲いてくれている枝ばかりなるけさのわたしに

王朝はつね永遠の夢を見る火種を赤き水で消しつつ

誰もみなたった特別になりたくて自分の名前は逆からも言える

ほとんどの人にはあまり意味のない点灯夫今日も灯りをともす

今回はぼくが短歌をすり抜けるはずだったのに奴がうなぎだ

わがうちに白野弁十郎がいてそろそろ記憶が薄らぐところ

武満徹と山下達郎の音楽が好きっていうのは音楽だけか

人類のいない野原で猫も鳥も一瞬かれらの夢をみるなり

十代の呼び方でふたり会っていて弱音にならぬ言葉すくなし

幼児用椅子に描かれたミッフィーのやぶけて黄色いスポンジが出る

甲子園がきらいな彼は短歌甲子園をいやがりながら気になる

ブルーナの陶器のような鳥の絵があなたの部屋にあるとうれしい

稲荷橋のバス停できみはバスを待つさつきの涙はさっきで終わり

偉大なる私利なき権力者のためにかわいいナイトキャップあるべし

北へ向かう魂やよし、問題は魂を運ぶ乗り物がない

知らざればググりてお助けおじさんの好意と善意は敗(ま)けゆくことを

あの川はどこだったっけ舗道にて亀が楽観的だが急ぐ

簡単に書いたものゆえ簡単に残らないのかもう消せらせら

どちらかが足りなかったということじゃないんだ、別れのあとのメールに

ニアレストデュティ(手近な義務)がつまり人生でその他はだれかの夢のまぼろ

正確な正方形で鋭すぎずなめらか過ぎぬむらのない色

短歌ってなんだったんか、きみと始めてきみいなき世にいななく一首

戦争はたとへば愛の行き詰まゐゐぢやなくてゑゑうまく言へないんだらう

20世紀ドイツメルヘン読んでいるメンヘルの妙に似合うゴスロリ

草の中もぞもぞ動きすっきりと風呂上がりみたいに汚れて犬よ

固まって構えてわれを見つめたる野良猫よ、そう、われらは敵だ

腹見せて浮かぶ魚が捨てられた「花壇」にただよう生臭き香は

色黒の手首に白いGショックして色恋のくだらぬ少女

短歌とはメフィストフェレス=むく犬のマルガレーテが引き上げるまでの

宇宙人と仲良くしよう地球には狂った奴らばっかりだから

火力発電ですら皇居に作るかよ塚本さんも時々イタい

夜のドライブ真っ黒な田舎に灯(とも)る二階都会に出たくて学んでいるか

プレミアムフライやで〜ってもうすでにほくそ笑んでるオカンが見える

一応は乗るねんけども値が下がる一日ずれた頃にオカンは

歌をうたい雲をながめて町を渡る来訪神に迎えびとなく

信念を貫くことにとても似て長生きは馬脚のはじまり

死をえらぶ日の案の定美しい世界だけども騙されないよ

地上から黒きごつごつ割り出でてその末端につつましき白

インド煮とオランダ煮あと肉じゃがのどれが食べたい? 笑顔で彼女

人間は未来になんて進めないくるくるぐるぐる生きているだけ

脳内に惑星がある、しばらくはランデブーする軌跡がうれし

ひとり抜けふたり抜けいつかしづかなるタイムラインよ、夜ひらく梅

魔王にはヒューマニズムが一滴の毒となり角を漏るるワイン

背景にゴジラを重ねおくだけで街がセットになってしまえり

徒手空拳ではなく素振り、そのようなチョップがいつか胸まで届く

森内と東浩紀のモーフィングの途中のようなおっす、石橋

ここでいまテレビを流し向かい合い食事をしている、深い意味がある

往年の国民作家は笑むときに労働者めく吉川英治

この星は5国の力に営まれ平和主義とは下位の概念

人間を信じるという冒険を空あおき今朝またはじめるか

良し悪しはじゃあ投票で決めましょう一票よりも二票のが良し


#都々逸
 人の評価は気にするなって書き込んだあと「イイね」待ち

#川柳
えほー巻き
心の準備が
パピプペポ

#パロディ短歌
人間よおれはいわゆる動物のうんこだ話しかけんでくれよ

この味がいいねときみが言ったから2月14日もサラダ記念日

絶唱にちかき一首を書きとめつ階下突然カレーのにほひ

#かしくらゆうがやらかしそうだ
あやかしというにはどうもセクシーでかしくらゆうがやらかしそうだ

#ちょこたん
チョコフォンデュの海に飛びこみ甘酸っぱいきみとほろ苦いぼく、やな夢だ

新宿駅を歩く人らよ格差とは胃の腑でいまだ溶けざるチョコだ

社内便でこういうものを送るなよわざわざ「義理」に訂正印押して

23:59までこばむなよ濃い愛に負けてもたれたれども

#ぼくらは絶えず苦悩に生きてる
下の句は二足歩行の足みたいぼくらは絶えず苦悩に生きてる

#ラーメンについて西村曜さんと
麺類は人類が好き、掛けられて昇華してゆくときの恍惚

シルクロードを隊商(キャラバン)がゆく、足跡のように小麦を伸ばし延ばして 

高次元の存在にわれはすすられて加速してゆく、どこへでもゆけ

刺すか刺されるかもしくはすすらるか、カフカ書かれふか城は白いか

麺類史四千年をすすりいる人類のその腹のわたつみ

麺類の誘惑まさに巻きつかれ苦しむ夢を見たんだ昨夜

そのたうり、われらはいのる麺類をラーメン、右手を軽く掲げて

きみのからだマッサージして夢中にて人類を麺類にするとこだった

#ブラタンカ
野良ブラは生意気だけど選ぶのだ飼い主をそのちょうどの幸(さち)を

#乗っ取りLINEについてtoijimaさんと
ほんたうにそれは友達? もしかして恋人なのか(ポジティブ過ぎだ)

ポジティブもネガティヴも既読スルーしてあとから一枚モルディブの海

#つかまえられずただ見つめてる
つかまえたらもう君のこと見ないから
つかまえられずただ見つめてる

#俳句
茂吉忌に知己にもち吉持ち寄りき

#原理主義川柳
エキスパンダー曲げても戻る原理主義

原理主義のバージョンアップ追いつかず

原理主義に養成されて魔球投ぐ

現実を原理に曲げてストレート

ゲーデルも論破できるさ原理主義

原理主義は川柳でなく春の季語

2019年2月6日水曜日

”フクシマ”と表記した歌2〜2011年6月25日「ノーモア」

  6月25日「ノーモア」 

野辺送りに音楽はなくだらだらと悲しみもまだかたちとならず 

ドクダミの白き四つ花が目に留まり美しいけれど声には乗せずき 

入道雲の白あたらしくわくわくと希望とは雨として届くなり 

もう人が住めない町にひまわりは徐々に頭を擡(もた)げているか 

柔らかき濾過の一翼サマショール(わがままな人)の表情は少し凛々しくぞ見ゆ 

とりあえず猪木の張り手二つ三つ食らうようなる希望か今は 

混雑の朝のホームの屋根にひとり「変えろ」と警告する大からす 

休日の高校を囲む公孫樹(いちょう)揺れノブレス・オブリージュと聞こえたり 

音楽は夜の畏れを麻痺させてかすかに希望に換(か)うノクターン 

野川沿いを下って自転車でゆけば二重真理でいい海に遭(あ)う 

言い過ぎて「ノーモアフクシマ」悔いつつも「ノーモア『ノーモア』」と弁解できず 

”フクシマ”と表記した歌1〜2011年6月12日「暴力は思想か否か」

  6月12日「暴力は思想か否か」 

思想にも十八禁の領域があるか暖簾(のれん)の向こうのような 

犯罪はなべて暖簾に腕押してその手首グッと強く引かれて 

暴力は思想か否か田舎から上京したまま迷子の老婆 

フクシマが吐き続けいる白煙と人を呑み込み続けるトーキョー 

ブラックホールは黒洞と訳す漢字語の"玄"を選ばぬ理由訊きたし 

暴力と性と金とで塗りつぶし21世紀も背景か 

十八禁の今世紀にて人の女にハイネの恋愛詩を語る馬鹿 

なんというワイセツ動画あの設備のえんえんとお漏らしの生ライブ 

アニメーションの十八禁は十八歳以上のいない子供の世界 

十八禁の領域で君に出会いしがその先の今は君はおらずき 

雨あがる雨の最後の一滴を手をついて鉢に顔よせて見し 

2019年1月29日火曜日

ツイッター連句のフォーマット

歌仙

表六句(月を一つ入れる)
発句
脇句
第三
四句
五句
折端

裏十二句(恋二つ、月一つ、花一つ)
折立
二句
三句
四句
五句
六句
七句
八句
九句
十句
十一句
折端

名残の表十二句(恋二つ、月一つ)
折立
二句
三句
四句
五句
六句
七句
八句
九句
十句
十一句
折端

名残の裏六句(花一つ)
折立
二句
三句
四句
挙句

2019年1月26日土曜日

#あみもの1をゆるり読み 〜あみもの1号ヒトコトコメント。

あみもの13号発行おめでとうございます。お祝いの気持ちを込めて、
#あみもの1をゆるり読み として、あみもの1号をツイートしたのをアップしました。

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理科室の魚に餌をあげに行く 季節は順番通りに終わる
「理科室の魚」屋上エデン

 表題歌にふさわしい秀歌。実験のために生き延びさせられる魚とは、季節に慣れてしまったわれわれを比喩しているようだ。

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いちばんの性感帯は耳だから君の会話を盗み聴きする
「妄想宇宙」ミオナマジコ

 妄想が最もセクシャルだとわかるいい連作。この連作はテクニカルで、体言止めの歌がない。つまり、妄想なのに行為の作品となっている。上掲、部位でなく機能としての耳を性感帯と解釈させていて、光る。

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大小をおかみへわたし二階へと下城の鐘はまだ鳴りやまぬ
「早春譜」笛地静恵

100年ずつ遡る早春の情を描く。楽しい構成だ。上掲の、刀を渡して女と過ごすだろう時間。その前に、彼はおそらく謀反的な何かをしたのだろう、鐘が鳴る。江戸のハードボイルドを思わせて楽しい。

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少しでも心に残っていればいい 白く老いたる犬がいたこと
「老犬と甥二人」小澤ほのか

登場人物が多めなのと、親族呼称のみでドキュメンタリーを描くのは、けっこう難しいが、シーンが印象的に切り取られている。上掲、「記憶」でなく「心」に残るというのがいい。そして、「白く老いたる」という表現が、読む人に残る。

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冬空のたぶんあそこがZiの星また明日からも見守っててね
「惑星Ziより愛を込めて」あひるだんさー
そういうアニメ、みたいな締めだよね。最後の一首で「こいつ地球でリーガルエイリアン(by Sting)なのかよ! やべー」と思わせる。ゴリム控えろよ、とか思う(参加するな)
(追記)編集後記によると、実際のアニメらしい。

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食パンのふちを残して食べていたノルアドレナリンやっぱり食べる
「さよならごっこ」白川黴太

パン耳を残す/やっぱり食べる、という行為に神経伝達物質が挟み込まれることでうまれる、生そのものへの受動感。別れというのは、生の何かを凍らせるが、ぎりぎり意識がある。

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柔らかき茶色を地毛というためのこまめさ 君の文字の小ささ
「君を見てたい」伏屋なお

髪の色を連作にすると不思議に、登場人物が美しくなる。萩尾望都とコラボしてるような。上掲は文字を見て髪を思う逆の思考の流れがまとまりの良い韻律でうたわれている。

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吐く息の白さがやけに濃い朝に目にもまぶしいおはようの声
「雪まみれ」知己 凛

雪の風景をそれぞれスナップしたような連作。上掲、雪の朝の、晴れた、目が痛くなるようなあの感覚を想起させる。触覚視覚聴覚にうったえていて気持ち良い。

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排他的理系男子が理科室で白衣を脱いでするスイカ割り
「ざっとした期待」池田明日香

この連作は全体が完成度が高いと思う。この一首でも「する」の使い方は特異で、もうこれで詩になってると思う。白衣とスイカの色彩、排他性とホモ・ソーシャルの空気感。いい歌だ。

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MusicFMで聴く新曲は罪悪感があっていいよね
「聴かず嫌い」渡良瀬モモ

悪いことって、確かに、ちょっと快楽がある。ここをちゃんと掬えているところが、短詩のセンスだと思う。あと、新曲以外は罪悪感薄まるのも、繊細だ。

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から風が吹く外回り今日もまたどこかで桶屋が儲かっている
「五センチヒールのかかと」夏山栞

慣用句をアレンジして、うまく時代の気分を歌にしている。誰かがバズり、どこかが大金を手にしている日常の、自分の外回りに吹く風。乾いて、きつい。

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煙とバカは高いところが好きらしい神は煙じゃない方らしい
「煙とバカ」ただよう

表題作。”高さ””上”って、すでにある種の価値判断を含んでいる洞察がベースになっていて、その位階と頂点の存在を「バカ」といいきる潔さがいい。ひがみみたいなものもちょっとあってね(笑)

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淑女のブーツのつま先の雪の結晶間もなくとけていつか還る空
「ゆき」小川窓子

短歌韻律としては四句「間もなくとけて」しか合っていない。が内容において確かに短歌である。「の」の拡大からの空、白からの青。いのちそのものの比喩のようでもある。

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平仮名の書き方さえもわからない子どもの声はとても明るい
「仮」ガイトさん

「仮」の字を題詠的に重ねた連作。上掲、ことば、知識を増やすことで失われるかもしれないような明るさを、少し疲れて、まぶしく見ている。

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「朝なのにさよならなんてウケますね」面白がられる別れのかたち
「別れのかたち」小泉夜雨

教育の場を去る時の、送る側との温度差の歌だが、生徒の言葉が面白い。朝のさよならはさほどおかしくなかろうし、ウケますねっていうフランクな丁寧語。きっと生徒も感情が処理中なのだ。

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でもこれはわたしのオーガズムなので君の手柄にしないで欲しい
「でもこれはわたしのオーガズムなので君の手柄にしないで欲しい」ハナゾウ

性愛のgiveとtakeを切り分けてゆくと、見えてくる理不尽があるが、この摘出は、とても鋭利だ。この歌は、時代が下ると、多分、当たり前になってゆく、記録的な名歌になるのだろう。

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くるくるの天然パーマ大きな瞳(め)天使みたいな天使だろうね
「君の声 君の夢」大西ひとみ

下の句の、比喩として用いた言葉が、途中で、これ比喩じゃないわ、と思い直す心の動きをそのまま載せるのは、現代短歌的な技法だ。それがリフレインとなって、印象を深くする。

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ガラスごし名札たよりに吾子探すみどりごのみの異世界の中
「出会い」有希子

新生児室を異世界という表現も面白いが、名札たよりに探すという、絆みたいなものも実は後天的であることをさらっと伝えているところがいいと思う。

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ポケットの奥へ隠せりてのひらを見せれば負けてしまう気がして
「エトランゼ」天田銀河

完成度が高く、物語性、叙情性も見事な連作。上掲、てのひらには、文字通り、手の内を明かしてしまうような無防備さがあることを、それを隠して人は生きていることを、丁寧に歌っている

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迷いなくプルタブ上げる音がする元日昼の南風6号
「帰省」岡村和奈

プルタブは厳密にはもうないんだけど(いま別の言い方だよね)、要するにお酒を開けているのよね。それは南風は土佐を走る列車だから言わずもがななんだよね。土地感があって心地よい歌。

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蔦の這う古いアパート俺たちは不本意ながら同居している
「これは腐れ縁」薊

連作の一首目にしてテーマをうまく伝えている。蔦、という、付着と長い時間を示す植物の選び方がうまい。不本意だが、ちょっと、居心地がよいのだろう。

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90分で900キロ弱移動した神よ私をお許しください
「空の旅」くろだたけし

人間が、足を使わずに高速で移動することは、たしかに、罪なのかもしれない。900キロというとたとえば、東京から九州への距離を、何度も移動するなんて、現代人は罪深い(笑)。

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若さとはやはり暗くて行き場なく半裸が占める浜からの階段(きだ)
「はつ夏、海へ」松岡拓司

若さとは半裸の群れから去る暗さだ、という認識が面白い。あの明るい浜辺の半裸たちは、若さではない何かなのだ、という認識。

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滑らかな海岸線は記憶して旅立つことが正しいと思う
「遠い手紙」岡桃代

距離をうたう、気持ちが載っている連作。上掲、結句が切ない。旅立ったのは誰か。自分か、他の誰かか。正しさがわかっても、できるとはかぎらないのだ。

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寄せ書きに田中の書いた「磊落」を今も心の糧にしている
「パーラー田中」木蓮

人は、いくつのかの言葉を、シーンや人物をともなう”はっとした体験”として記憶していることがある。この「磊落」は、その一回性の、言葉が体験になっていることを見事に描写している。

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貝殻を拾つて海に投げるとき一瞬消える友の右腕
「貝殻」萩野聡

存在論的な連作。視覚によって保証された存在は、視野を外れれば、それは記憶された不在と区別がつかない。この歌の具体である貝殻もまた、不在を抱えた存在である。

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掃除機で空を飛びゆく魔女がゐて平成はもう終はつてゆくね
「ふしぎな物語」宮本背水

掃除機とは、一瞬昭和を思わせる語だが、ダイソンやルンバによって、平成は掃除機が流行った時代といえるかもしれない。そういえば、魔女の宅急便は平成元年だ。魔女が掃除好きかは不明。

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夕食にコロッケ揚げつつ明日朝のおかずのやりくり考えている
「それいけシュッフー!〜お買い物編〜」宮下 倖

あみものと、この連作の意義は計り知れないように思う。コミカルで、良質で、家族の食を常に考えている存在を、このように描ける場所を、短歌は持てただろうかしら。

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いつもより丁寧に引くアイライン誰とも目を見て話せないけど
「#メイク上手になる2018」九条しょーこ

なんというメイク上手な歌だろうと思う。確かにメイクって、見るためでなく、見せるためにあるんだけど、なんか天然も入っているようにみえるのはメイクのせいなのか?

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懐かしい痛み87hanageいたいのいたいのとんでかないで
「ハロー、神様」西淳子

87hanageは分からない。しかしながら、この歌の青春観は素敵だ。たしかに、青春の終わりって、痛みの終わりなのかもしれない。あ、このhanageって、むかし都市伝説になった、痛みの単位ってやつか?

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冬休みオリオンを探しに行こう白に染まった街に足跡
「あの日見た空は」龍也

カラフルな連作。この歌の美しさは、自分たちを街の外に向かわせた後の、それを見送る、動かない視点にある。そしてその視点は、オリオンの空を見ず、地面を見ている。

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吹き晒しの連絡通路にはたしかダサい名前がついていたはず
「母校雑景」典子

その名前はおそらく、一昔前の青春的な形容の、愛称されるべき真面目な名前なのだろう。そして実際の生徒は、それをダサく思っている。そのダサさも含めて、青春の記憶になっていく。

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それでも、ありがとうって言ってくれた 生きてるひとの手はあたたかい
「侵襲」満島せしん

タイトルもよいし、連作も力強い。手は、冷たくなってから、あたたかいことを知る。人は死ぬから、ありがとうの言葉が灯る。大切な一首だ。

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アスファルトにまだ水たまり 映りこむ予備校裏のラブホの灯り
「ホテル イット イン」雨虎俊寛

ゲニウス・ロキ(地霊)を感じるほどの、それがそれすべてな情景詠ではないか。水たまり、予備校、ラブホ。ここでは、何かが始まり続けている。エモいで済ましたくないエモさがある。

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文字を書く音しかしない生きている証明みたいに低く咳をする
「沈黙」ニキタ・フユ

書く、という行為は、本質的に、そこに存在しなくなることかもしれない。持っていかれかけた魂が、ここにあることを思い出して、咳をする。一時証明が済んで、また書くのだろう。

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月—金を通して働く体力も気力も不安で週休四日
「ドキドキ」諏訪灯

緊張、期待のドキドキでなく、動悸、息切れのドキドキ的なタイトル。一度体を壊したりすると、週五という人類がデフォルト扱いしているサイクルが、やけにハードルが高くなる。人類って、なんだかハードだよね。

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制服を着ているだけで風俗のキャッチは道をゆずってくれる
「ペインキラー」海老茶ちよ子

制服は性の場面で強い記号を持っている。ここでは、その強さに守られつつ、ほんの少し、自分が記号化されていることに、不満までいかない気持ちが表れている。

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暗いから電気をつける暗いから電気をつける街がかがやく
「みつめる」白井肌

リフレインでありながら、時間の経過のようでもあり、街の明るさと、夜の暗さがイメージされていく。とても美しい、詩の一首だ。

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悠々と果てなき空を北へ帰(き)す鳥たちの名は知らないけれど
「富山に嫁ぎ」なな

古風めなタイトルながら、土地に入るということの心情を丁寧にうたう連作。上揚、土地に生きるということは、どこか無名になることに似ている。でも無名になることは、自分を失くすことでなく、悠々として、みえる。

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近づいて暗闇のなか見えるもの月明かり照らす蒼白い心
「月夜のふたり」ことり

人が人に触れるときの、言葉が失われ、心だけになって、命になる、あの手探りの感じを記す連作。心が心をみつけるときの、見てはいけないものだが見てしまうような、心の蒼白さ。

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西風に貴方のなみだ混じる夜見えてませんか天満ちる梅
「せんか集 花のつぶやき」彩瞳子

天満ちる梅、とは、星のことだろうか、それとも梅の花を見上げているのだろうか。そこには見上げている顔があり、涙の混じった風に撫でられている。官能的な歌である。

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笑ってる人が一人もいないまま終点「お忘れ物のなきよう
「サファリパークへ」月丘ナイル

おそらくそこには、パークながらも、命が命を食うシーンがあったのだろう。色んな感情が湧くのだが、その感情もちゃんと持って帰るように、声が覆いかぶさる。

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玄関と廊下の照明スイッチを間違えちゃってたのしい帰省
「散歩っ」御殿山みなみ

かつては間違えることなどなかった勝手知ったる実家で、カチ、カチ? カチ! カチ。と、なんかやってる暗い場所の自分。なんか楽しくて、でも、流れてしまった時間がそこにある。

2019年1月13日日曜日

20首連作「成人の休日」2009年

  成人の休日   


昨日(さくじつ)は成人の日であったかと今さらの 休日のくらげ

そういえば華やかそうな着物らの和洋折衷なるワイン色

新成人は許可さるる、白き歯の裏も頭蓋の中も濁る権利を

てんぐさに酢と熱を入れてどろどろを冷やして天突(てんつ)きでぐいっと 二十歳(はたち)

  我がその日は徹夜明けの自治会室で輪転機を絶妙に操(あやつ)りき

  黒いソファに臭(にお)う毛布を掛けて寒し、式ではネクタイをくれたらし

  堅苦しい袴姿を褒めるほど闘争は易からずき 二十歳(はたち)

マナーモードし忘れの俺のグールドの第一変奏電車で響く

追悼会の合い間に電話くれし人が静かに問う「今、どこの辺りに?」

先に着けばおみやげをひとつ思い立つ、天井が板チョコのカフェの

行き先は風に訊きつつ、いやまさか! グーグルマップにわれの立ち位置

どの場所にいても宇宙の衛星が我を算出する、今はよし

ざくっざくっと少女クララは雪を踏む、ブロック舗装を行く我もまた

数十の中から選ぶチョコレート、命運は何も決まらざれども

遠方の人と会いたり、駅前でピカチュウ男を撮りそこねたる

「美人そばの店に行こう」と誘われて美人とそばの比重あやうし

あいにく、新成人の祝日に美人もそばも閉まりたるなり

画廊には男三人コップ酒、乱反射する言葉のにおい

うたびとと紹介されてわがこころふりさけみれど炎(かぎろい)見えず

ガード下の明るい店に消えてゆく五人その後は語るべからず