2015年12月6日日曜日

2013年06月の30首

桜の実の歩道の黒き染みとなりふつふつと歩く六月たのし

かたつむりを知らねば恋えぬ紫陽花の発色のピーク過ぎし一角

えのころのいっせいに風に撫でられて自業自得の男沈めり

あと何度ぽっかりと胸に穴を開け前後左右にさみしさに圧(お)さる

製氷器に水を注ぎつ、満ち足りてあとは時間が崩していきぬ

メルカトル図法の北は限りなく引き伸ばされてそれゆえに冷ゆ

見た目にも心地良きこころざしもなく生きいる人と水平におり

君の目の太陽と月は今は少し月光が強く包んで白し

人類史に我とう偽史を挿し入れて撹拌されたホイップましろ

ようやくに夜を惜しまずなる生となるか、車を聴きつつ眠る

淡々と続きを生きていく日々のなお眈々とする時もあり

カロリーにて生くるにあらず、昼を抜いてケーキセットに至る心の

雨に濡れて吾を見よとぞ紫陽花のあざやかに濃きひとむらの黙

腐りたる叢(むら)より光る虫ひとつ天にのぼると見れどただよう

眷属は鏡のごとし、後輩の浅ましく上手い行為に沈む

複雑性悲嘆にも似て絶望は時に快楽(けらく)となることもある

懐かしい一角に来て木造のアパートと過去が無いことを知る

路地裏に夕餉の香りたなびいて、見えておらぬがたなびくでいい

燃焼の同義にて生、汗にじませ夏至近き日の全部肯定

夭逝するほど才をもたねば人生は長くて楽しくてわからない

雲なくばオレンジ色の月を背に帰るにあらん夏至の家路を

生活に"馴れて"思いしにわが声が李徴か虎か不意に迷えり

肯定のらり否定くらりと終わらない電話、予定を潰して聞けり

雨上がりの恐竜児童遊園に使用禁止の遊具くぐもる

何もせぬ男が抱く絶望も希望も幻肢の痛みと似たる

町よりも土ふたつ書く街に住み記憶の土はいつのぬかるみ

天道も是々非々にして現実を丸呑みにするクジラ泳がす

白樺の皮を削りて「奮迅」と手書きしただけのスーベニアあり

仏典に慈悲魔、魔仏のあらわれて魔とは反転、いな、鏡映か

六月の終わりの朝のあたたまる前の空気とコーンフレーク

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