かたつむりを知らねば恋えぬ紫陽花の発色のピーク過ぎし一角
えのころのいっせいに風に撫でられて自業自得の男沈めり
あと何度ぽっかりと胸に穴を開け前後左右にさみしさに圧(お)さる
製氷器に水を注ぎつ、満ち足りてあとは時間が崩していきぬ
メルカトル図法の北は限りなく引き伸ばされてそれゆえに冷ゆ
見た目にも心地良きこころざしもなく生きいる人と水平におり
君の目の太陽と月は今は少し月光が強く包んで白し
人類史に我とう偽史を挿し入れて撹拌されたホイップましろ
ようやくに夜を惜しまずなる生となるか、車を聴きつつ眠る
淡々と続きを生きていく日々のなお眈々とする時もあり
カロリーにて生くるにあらず、昼を抜いてケーキセットに至る心の
雨に濡れて吾を見よとぞ紫陽花のあざやかに濃きひとむらの黙
腐りたる叢(むら)より光る虫ひとつ天にのぼると見れどただよう
眷属は鏡のごとし、後輩の浅ましく上手い行為に沈む
複雑性悲嘆にも似て絶望は時に快楽(けらく)となることもある
懐かしい一角に来て木造のアパートと過去が無いことを知る
路地裏に夕餉の香りたなびいて、見えておらぬがたなびくでいい
燃焼の同義にて生、汗にじませ夏至近き日の全部肯定
夭逝するほど才をもたねば人生は長くて楽しくてわからない
雲なくばオレンジ色の月を背に帰るにあらん夏至の家路を
生活に"馴れて"思いしにわが声が李徴か虎か不意に迷えり
肯定のらり否定くらりと終わらない電話、予定を潰して聞けり
雨上がりの恐竜児童遊園に使用禁止の遊具くぐもる
何もせぬ男が抱く絶望も希望も幻肢の痛みと似たる
町よりも土ふたつ書く街に住み記憶の土はいつのぬかるみ
天道も是々非々にして現実を丸呑みにするクジラ泳がす
白樺の皮を削りて「奮迅」と手書きしただけのスーベニアあり
仏典に慈悲魔、魔仏のあらわれて魔とは反転、いな、鏡映か
六月の終わりの朝のあたたまる前の空気とコーンフレーク
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