非常食の美味しすぎない配慮など少し可笑しくのち、しん、となる
靴下を靴に押し込み海までの数メートルの裸足だけ夏
ホームランの数を競いて戦後とは明るくなりぬ、昭和の話
気持ちではなくて気分がわかるらし手櫛で髪を調(ととの)えおれば
大森林が石炭層になるように我が生もいつか少し役立て
クロスワードのアルファベットを並べたら「ミルマエニトベ」そんな無体な
CMソングを口ずさみつつ席を立つ分かられづらい怒り見せずに
槃特は文字がいかにも読めなくて悩みはするが過ぎれば笑(え)めり
救急車が増えてゆく街、サイレンに揺れいるごとし菊の花酒
カラーテレビ誕生までは世界には色なかりしと思わざれども
銅貨を落とす擬音で始まる外国の「公衆電話」という曲ありき
水門の湛える水のその中で始まり終わる生を思えり
法による世界平和を惟(おもんみ)るレイヤを渡る群れの車内で
人もまた外来にして群生の破壊の種なる、コスモスの揺(ゆ)る
ぎっしりと詰められて大阪寿司の帰途で食いつつ泣く、鼻腔(はな)痛く
海を恋う心地にも似て玄関で捨てるマッチを燃やしては消す
モノレール高架の下で雨を避(よ)けいつ止(や)むべきか分からぬ、生も
カイワレの栽培棚に長く立ち吾も辛き味の満員電車
苗字とか住所の話をせぬままに分かり合いしが思い出せずき
非悲劇的な乗り物なのでさよならも少し寂しくない深夜バス
我がかたちも記憶こぼれるまでという切なる願いもこぼれていくか
プライドのように輝く自動車の休日、終日洗う男の
ぬるま湯に万年筆のペン先を溶(と)けばただよう昔日(せきじつ)のあを
青春の清しき終わり六畳のアパート解体ののちの跡地は
主婦休みにすることもなく結局は片付けている無言なる午後
わが文字を活字にできる驚きもそのワープロも今はあらずや
世界中を観光に巡りめぐりはて近所のお堂の梁(はり)見上げ泣く
許可を得て父の書斎に友と入りゲームで遊びきパソコンサンデー
道の端の落ち葉踏みつつ洋菓子店を過ぎ、引き返してミルフイユ購(か)う
クレーンの指す方向に月ありて意義深き時を居る心地する
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