2015年11月7日土曜日

2012年10月の35首

見えぬものに怯えて生きよ、自分だけ被害者として世を憎みはて

少しずつ季節が変わりゆくようなことであるよと言いそうになる

君の無力や不如意は全部陰謀が善意の弱者に変えてくれるね

教導権の届かぬ女のつぶやきを苦しんでいる、時間にまかす

太陽が沈む世界に夕方はそれ自体良き知らせのごとし

反神論と汎神論に苦しんで阪神も勝てぬ、君にも会えぬ

愉快だが少し陽気の度が過ぎる義弟の酒に言葉を入れる

待つことと育むことと何もせぬことの間で麦酒を注げり

常緑のさいわいはあれおおかたを失って幹のあらわになれば

コカ・コーラの体が君を抱くだろう、同世代のみの淋しさあれば

アーティストの善の迷走、翻って、罰せられない善行ありや?

仏教に帰依したのちも時々は柘榴を噛みていし母の神

坂の上で猫が横切る千年前もそうだったかもしれないところ

人の心は秋の空とか、湯豆腐の崩れぬものは奥に熱なく

醜悪な生であります、千のナイフのにっこりと肉に埋もれて抜けて

電脳に預けておいた思い出は失うだろう、悲しみもなく

悲しみの変容を知る夕方に木犀いっせいに我に香るぞ

雨風の神を見下ろす気象図の台風の目が次々にらむ

集中する君を見ている、君はいつかシンメトリーの形と化して

つなぎ目のない布まとい、つまりそははだかのことで、我を見おろす

花火止んで浮き足立っている町を走って過ぎる、うれしくなるか

抜け殻の僕はどこまで行くだろう橋本行きは橋本に行く

人生の時満つるとは何事かきたない町も輝くごとし

紙コップと電話の普及してのちに糸電話なるおもちゃ生まれる

宣教師は芋を渡して空っぽの胃袋に落ちる思想の甘き

夕方の家々に灯のともりゆく町を見ており、いとなみがある

ホーム、線路、電車を統べるなめらかなカーブの途中で立ちすくむなり

後悔はないはずである、おそろしく遠くまで凪いでいる場所に来て

表現は風にふかれて俺の顔にぺっと当たって消えゆくものを

輝かす為というより濁るのを少し遅めるべく歯を磨く

島とねりこの若芽を濡らし10月の雨は冷たし語るべからず

雨上がりの曇りの暗さジョニミチェルが強さについて歌う朝(あした)に

死後もなお役に服して魂の自由の無きをゾンビと呼べり

はっさくの皮膚のいろ目に優しくて伝えんとする言葉も染まる

悲しみが死滅せぬのでもう少し風に吹かれてから帰ります

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