端末の電波の強度をタネにして知人と呑みつ、年古ればかく
檻を離(か)り森のけものとなる今も人間を見れば一声鳴けり
小書店に君の名前を見つけるも文体少し寒々しかり
兄の子を片手であやし失くすまで確かに持ちいし生の意味思う
紙魚跳ねて泳ぐ気配の古書店の正午を過ぎて思想かたよる
NIMBYのエゴを正義にすり替えて傷つきたくない行列が行く
マザーグースのことばのようによみかえてよみかえてなお不思議なあなた
国際化できえぬ宿痾、日本語が世界を日本語化して佇む
ゴータミーの悲しみが消えたわけでなく孤独が加わって罌粟の咲む
別れの日にこんな笑顔を見るなんて祭りのお面の中の汗顔
新世紀13年目の休日を浴槽で少し居眠りをする
十年を一日にして蝋燭の消えそうなまでうねって消えず
霊長のまなざしをもて森林とともに減りゆく生き物を観る
さわやかな初夏の電車の昼前の床にひとつの海月溶けおり
老兵というわけでなく、魂も肉体もすぐに君から去らむ
数日で消えると知りて洗面器にくらげを飼うことを許したる父
だんごむし死しては生まれ生まれして人間の終わる日を待ちにけり
今日の光を真白く受けて万華鏡の細片がぎこちなく落ちつづく
来世紀もクリックすると人類は思えず、遅い昼食に行く
あーあ、と嘆くほど土屋文明の歌面白く四十路のくるか
死者名簿を風通しして吹く風の去りしようにて居るここちする
板縁に腰かけて眺むあじさいの色決まる前のみどり若やか
「差別的」は差別か否か、「父親的」と牽制されて君に突っかかる
投影の技術のことを考えてプラネタリウムの時間終わりぬ
甘すぎるミルクティーなり、仕事から逃れて迷わず頼んだものは
花の降る午後に誰かが祝福を受けるにあらむ、泣くまいと思う
陽の光に部屋の埃の舞い上がるしばらく、ひとつの肯定ありぬ
気圧計で気圧の下降を確かめてこの失望を頭痛と知りぬ
枯れ枝の完全に枯れてしまうまで芯は青さに湿れるものか
生きている世界をうんと変えるべく夏断(げだ)ちをはじむ、世界とはわれ
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