2015年11月23日月曜日

2013年03月の31首

演劇批評に植民地の語あらわれて細き定義のかげろうをみる

腓の細い女の何に憤りデパートの床の反射を睨む

一生二生を君と別れてその後は彗星のカーブ過ぎたるごとし

水車小屋は冥府の口に佇んで午睡のような声響くなり

彗星の軌跡のついに違(たが)えれば星のまたたく意味ひとつ知る

いにしえは洞窟に知を匿いて巨人となりて天球に触(ふ)る

地を割って濫喩の馬が湧き上がり鼻を鳴らして探すは我か

杉玉のくたびれている居酒屋に人を待ちいて何ぞ朽ちいる

昼間から酒飲むオヤジの軽口に笑う店員の日本語訛り

愛想笑いで異国の夜を起きながら部屋では抑えがたきこころざし

死者もまた生きたるものの身を案じ繋がっている一日(ひとひ)となりぬ

翌日はただの日常、忘れられぬ人々を置いて記念日過ぎる

海を走る春風の足が水を蹴り白くめくれて舞い上がりたり

「社会からしばらく席を外します」付箋を貼って明るき午後へ

パスワードを記した付箋を失ってもう二十代にログインできぬ

花びらのひとつコップに浮かぶのを見ていし春よ、あれより独り

せんだって胃瘻の報を聞きたりしが今日訃のメールが来たる知人の

選びくれし菓子のいつでも美味しくてその才能の訃報を聞けり

脳という記憶の森が生まれては消えてゆくのだ心配いらぬ

瞳から君が湛えてきた夜の森林を見つ、木陰の蒼し

君のいう天国(heaven)はどこか避難所(haven)の匂いを帯びているが触れずき

桜並木を抜ければ車ごとの春、春の男の顔をするべし

二十年の旧友に会う、鰹節の表面のような会話でもよし

春なので夜の道路を横切って二匹の猫が揉みあって消ゆ

見る前に跳ぶか否かを迫りいし昭和、レミングの自殺も虚妄

成し遂げねば死ねぬ理想に取り置かれ残滓は残滓として節しおり

持続可能な未来の為に人類は節制すべし、まずは数から

見上げては春が来たよと呼びかけつ、つぼみのままの夜の枝先

人なきあとネットのアスレチックには女と猫が愉しんでおり

明け方のまだ明けきっていない夜オリオン傾きいる臭い街

ゲーテ論の終わりまできて乙女座の性格とされて論ごと消せり

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